ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 150】 新たなる旅立ち

ティアたちが旅に出る日の朝。

おれはティアが出発前に親父や王妃に謁見する予定になっていたことを思い出した。

 

おれはティアの部屋の扉を激しくたたき、謁見の約束をしたことなんてすっかり忘れて

部屋で遊んでいたティアを怒鳴りつけ、すぐさま謁見の間に向かわせた。

 

 

謁見の間から出た先の廊下で様子を見ていると、ティアが目をこすりながら出て来た。

おそらく、話しているうちに親父や王妃と離れるのが寂しくなって泣いてるんだろう。

 

このまま「行くのやめる」と言い出すんじゃねえかと心配したが、ティアはきっぱりと

「あたし、行ってくるわ」と宣言してきた。

 

 

行くというのなら止めはしない。

 

おれは「つらかったらいつでも帰ってくればいいんだから、気負わず行ってこい」

ティアの背中を押して送り出してやった。

 

 

ティアは城を出て行き、クリフトたちと合流した正門前でもひと悶着あったようだが

さすがにそこまでは構ってられねえ。

 

ガキたちの保護者としてティメラウスやリオスもいるんだから、出発した後のことは

あいつらにまかせれば何とかなるだろ。

 

 

おれはようやく肩の荷が下りた気分で、ひと寝しようと自室に向かった。

 


おれの部屋の前に人影が見えた。

どうやら部屋におれが不在なのを知り、部屋の前で戻ってくるのを待っているようだ。

 

 

ちっ!

 

おれは思わず舌打ちした。

面倒なこと言われなきゃいいんだが......

 

 


「あら、遅かったじゃない。ふふふっ、見送りなんて必要ねえぜとか言ってたくせに

 可愛い妹の旅立ちを見送ってきたのね」

 

戻ってきたおれの姿を見つけた王妃は、おれを見てからかうように笑った。

 


「ちっ、うるせーな。おれは眠てえんだ。たいした用じゃねえなら帰れよ」

 

おれはシッシッと王妃を追い払おうとした。

 


「まぁ、酷い言い草ね。王様が『カインにはわしから話そう』と言っていたところを

 王様の手を煩わすことないからあたしが話してきますって言ってあげたんだからね。

 文句を言われる筋合いはないわ。むしろあたしに感謝して欲しいぐらいよ」

 

王妃はふんっとおれの手を払いのけた。

 


「親父が話す? いったいなんのことだ?」

 

親父がわざわざおれのもとに出向いて話をするだなんて、よっぽどのことなんだが?

 

 

「聞かせてほしかったら部屋に入れてお茶の1杯ぐらい出しなさいよ。か弱い女の子に

 立ち話させるなんて失礼よ!」

 

王妃はおれの部屋の前で仁王立ちになり、早く扉を開けろと要求してきた。

 

 

「けっ、女の子って歳じゃねえだろうが。ババアのくせに図々しいんだよ。あ、違うな

 ババアだから図々しいのか」

 

おれは自室の鍵を開け、ババアの背中をドンと押して部屋の中に押し込んでやった。

 

 

「相変わらず口も悪いし乱暴ね。だからナナともいつまで経っても進展しないのよ」

 

王妃はぶつぶつ文句を言いながらも、真っ直ぐテーブルに向かい茶の準備を始めた。

 

 

「うるせえ! 関係ない奴の話はやめて、さっさと話の続きをしろよな!」

 

おれは文句を言ったが、王妃は気にするそぶりもなく鼻歌まじりで茶を淹れている。

 

 

「うふふっ。カインにね、サマルトリアをおまかせしようと思うのよ!」

 

茶が入ったカップをおれの前に置きながら、王妃は弾んだ声で言った。

 

 

おれにサマルトリアをまかせる?

どういう意味だ?

王位を譲るってことか?

 

いや、親父はまだまだ若い。

それに「まだおまえに王位を譲る気はないからな!」と言われたこともあるんだぜ...?

 

まさか、親父が病気に?!

いや。もしそうだとしたら、王妃がこんなに明るくヘラヘラしてるなんてありえねえ…

 

 

茶を飲みながら考えをめぐらせてみたが、王妃の言ってる意味がまだわからねえな。

 

 

 

「あのね、ティアが旅に出ちゃうんだってなって、あたし寂しくて泣いちゃったの。

 そしたら王様が涙ぐんでいるあたしを見て『気晴らしに2人で出かけるか?』って

 誘ってくださったのよ~!」

 

王妃は初恋を知ったばかりの少女のように、頬をバラ色に染めてはにかんでいる。

 

 

その後も王妃はウキウキして話し続けた。

 

まず、親父が「ちょうどカインもここにいるんだから、あいつに城をまかせれば良い。

城主代理を務めるのはあいつにもいい経験になるし、子どもたち抜きで出かけるのは

わしらにとっても初めてのことで、いい気分転換になるだろう」と言ったそうだ。

 

王妃が喜んで出かけることに了承すると、親父はおれに「留守の間、城を頼むぞ」

言いに来ようとしたらしい。

 

王妃は親父を止め「あたしが話しますわ」と言って、謁見の間を出て来たのだという。

 

 

話している間、王妃は気持ち悪いぐらい上機嫌ではしゃいだ声をあげていた。

 

 

「城に残れっていうのは別に構わねえけどよ。なぁ、そんなにはしゃぐことか?」

 

おれは不気味に笑い続ける王妃に言った。

 

 

「なに言ってんのよ。もう、あんたって女心がわかんない困った子ねえ。2人きりで

 お出かけするだなんて本当に初めてのことなのよ。嬉しいに決まってるじゃない! 

 あんただってナナと2人だけで旅行に行こうってことになったら嬉しいでしょ?」

 

王妃はため息をつき「ホント、あんたは女心に疎いんだから」とあきれた声を出した。

 

 

ナナと2人で旅行か......

 

「カイーン! こっちよ~!」 振り返り、満面の笑みでおれを手招きするナナ。

「ほら、カイン! 早く行きましょうよ!」 おれの手を取って引っ張ってくるナナ。

「ねえ、見てよ! なんて綺麗なのかしら」おれの腕をつかんでうっとりするナナ。

 

…... うん、確かに悪くねえな

 

 

「...... 鼻の下伸ばしてデレデレ笑っていやらしい顔で妄想するのは勝手だけどさ。

 ということであんた、留守番お願いね。王様にもOKだって言ってくるわよ」

 

王妃は、イイ気分でナナとの旅を想像していたおれの頬をぺチペチ叩いてきた。

 

 

「ちっ! 痛てえな。そんなに叩くんじゃねえよ。あぁ、わかったぜ。しょうがねえから

 あんたらが出掛けている間は城で留守番しといてやるよ。あらためて言われてみれば

 あんたが王宮に来たとき、城にはもうガキのおれがいたんだもんな。親父と2人で

 出かけるなんてなかったわけだ」

 

ナナと2人で旅行することを想像してニヤケていたおれは、王妃に少しだけ同情した。

親父と出かけるってだけで王妃がこんなにはしゃいでいるのもわかるような気がした。

 

 

「王宮に来てから、あんたがいることを嫌だと思ったことは1度もないけどね。なんせ

 幼い頃のあんたは天使のように可愛かったし、あたしがサマルトリアの人たちに

 すんなり受け入れられたのも、あんたがいてくれたおかげなんだもの」

 

王妃はおれを見て微笑んだ。

 

 

「へんっ。おれは今だって昔と変わらず天使のように素晴らしい人物だろうが! で、

 後半の話はどういうことだ? おれがいたからあんたは受け入れられたって?」

 

おれが首をかしげると、王妃は茶を飲みながらゆっくりうなずいて話し始めた。

 

 

 

おふくろがおれを産んですぐに亡くなり、サマルトリアは深い哀しみに包まれた。

 

おふくろの喪が明けると、重臣たちの中では「新しい王妃を迎えること」について

さかんに議論が起き始めた。

 

まだ若い親父と生まれて間もないおれのことを考えれば、後妻を迎えるという話には

大きな反対は出なかったものの、やはり不満を口にする者も少なからずいたらしい。

 

 

王宮内に留まらず、サマルトリア住民の中でも「新しい王妃を迎えるべきか、否か」

激しい意見のやり取りがあったそうだ。

 

 

「やはり新しい王妃は必要だ」という意見が大多数派で、お妃候補が選定されて

ほどなくして、今の王妃が新しい王妃として王宮に迎えられることが決まった。

 

王妃は周囲の人々の心情も考慮して、王宮入りするときも派手な式典は望まなかった。

そこで略式の婚礼の儀が行われた後、城の前にある広場で民衆に向けて新しい王妃を

お披露目する場が設けられたらしい。

 

 

親父と王妃が並んで広場の真ん中に立ち民衆に向けてにこやかに手を振る中、おれは

ティメラウスたち重臣と一緒に少し離れたところで控えていたそうだ。

 

 

幼い頃から好奇心旺盛でとても賢くてたいそう可愛かったおれは、ティメラウスたちが

うっかり目を離した隙に大臣たちのそばをすり抜け、よちよちとおぼつかない足取りで

広場の真ん中に向けてたった1人で歩いて行ってしまったらしい。

 

大臣たちは慌てておれを引き戻そうとしたが、それより先に民衆がおれの姿に気づき

あまりの愛くるしさに歓声があがった。

 

 

可愛い皇太子様の登場を喜ぶ民衆の声に応じ、親父はおれを止めにくる衛兵を制した。

 

そして、にっこり微笑みながらその場でしゃがみこみ、よちよち近づいてくるおれを

抱き留めようとしたらしい。

 

 

だが、賢くて笑いを理解する天才のおれ様は、両手を広げて待つ親父の傍を素通りして

王妃のドレスに顔をうずめたそうだ。

 

 

親父はその場で大げさにズッコケてみせ、群衆からはどっと笑い声があがった。

 

そして王妃が微笑んでおれを抱き上げると、おれはキャッキャと嬉しそうに笑い

おれの天使のような可愛らしさに、民衆からは拍手と大歓声が起きたんだという。

 

 

「ねえ、ちゃんと聞いてる? あんたの都合のいいように脚色してるんじゃない?」

 

ニヤニヤ笑いながら話を聞いているおれの顔を、王妃が不審そうにのぞきこんでくる。

 

 

「なんだよ、ちゃんと聞いてるぜ。おれが親父じゃなくあんたの方に行ったことで

 結婚に反対してた奴らは、大っぴらに声を上げられなくなったってことだろ?」

 

おれが尋ねると王妃はうなずいた。

 

 

「反対派の意見の多くは『あんな王妃が継母じゃ、坊ちゃんが可哀想』だったからね。

 大勢の民衆の前であんたがあたしを気に入ってることが証明されちゃったもんだから

 言うことがなくなっちゃったのよ」

 

王妃はふふんと得意気に笑っている。

 

 

「だからね、本当にあんたを邪魔だと思ったことは1度もないわ。つかの間の休暇に

 あんたと一緒に3人で出かけるのもすごく楽しかったし、そのうちティアが生まれて

 4人で出かけるのも最高に楽しかったわよ。でも、あんたたち2人とも大きくなって

 1人でどこでも行けるようになって、これからあたしには王様と2人ですごす時間も

 増えてくるんだな~と思ったら、それはそれですごく幸せだなって感じているのよ」

 

王妃は頬杖をつき幸せそうに微笑んだ。

 

 

王妃の言葉に嘘はなさそうだ。

 

 

「で、親父と2人でどこに行くんだ?」

 

おれは話題を変えて王妃に尋ねた。

 

 

結婚して初めてのせっかくの2人旅だ。

めいっぱい楽しんでくるといい。

 

 

おれが尋ねると、王妃は「よくぞ聞いてくれた」とばかりに身を乗り出して言った。

 

 

「あのね、あたしたち テパの村 に行こうと思っているの!」

 

王妃の言葉におれは思わずのけぞった。

 

 

テ、テパの村だと?!

 

 

 

 

カインの部屋の前にいた「とんだ邪魔者」の正体は 王妃 でした~ ( *´艸`)

(前回のコメントでバッチリ言い当てられたときは変な声が出ちゃいましたよ (;'∀'))

 

 

ティアが旅に出てしまい、寂しくなっちゃった王妃を慰めるため、夫婦2人だけでの

旅行を提案したカインパパ (*´ω`*)

 

急に「夫婦2人だけで旅行に行こう!」と言い出したカインパパの思惑としては

「カインに王様代行を務めさせるイイ機会」という思いもあったんですね (^_-)-☆

 

 

王と王妃が旅行に行ってカインは留守番するという話だけだと短すぎるので (;'∀')

話の後半は「母と息子のホッコリする話」でまとめてみました~ (*´ω`*)

 

カインと王妃が(血のつながり関係なく)仲良くしているのが個人的に大好きなので

王妃が王宮に招かれたときからずっと母と息子は最高に仲良しだったという話に♡

(ただの自己満足です ( *´艸`))

 

 

さて、王と王妃は「2人での旅行先」としてテパの村を希望していますが

カインは驚いているようですね (;´∀`)

 

そりゃあ、変な刺青の村人がウロウロしている言葉も通じない村ですから... (;´∀`)

2人で初めて出かけるのに「ロマンチックな旅行先」とは言えないですよね ( *´艸`)

 

 

これは... またひと悶着ありそう ( *´艸`)

 

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ