ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 160】 侍女の事情

おれは昔の親父と王妃をよく知るばあさんを自室に招き、2人の馴れ初めを聞いた。

 

 

当初「母を亡くした幼いおれの遊び相手」として城に招いた女を気に入った親父は、

ろくに口も聞けないおれをダシにして「カインが喜ぶから」と3人での時間をつくり

女との交流を徐々に深めていった。

 

親父は天真爛漫で明るい女をすっかり気に入ったようで、女を次期王妃にすると決め

ばあさんに「一流の教育者を集めて、妃になるための教育を受けさせろ」と命じた。

 

ばあさんは早速、おれのおふくろの教育係を務めた奴らを再び城に呼び戻した。

 

教育者たちは熱心に指導し、女も真剣に学び、教育は順調に進んでいたが、ばあさんは

途中で驚くべき事実を知ることになる。

 

 

親父の野郎、女に詳しいことは何も言わないままで教育を受けさせていたのだ。

 

女は自分が王妃になることも知らないまま、毎日勉強させられてたってわけだ。

 

 

ばあさんは何も伝えていない親父に憤慨したが、自分が王妃に選ばれたと知って

女は嬉しそうにデレデレと笑った。

 

 

親父が自分を「次の妃にしようと思っている」とばあさんに聞いた女は、すぐさま

親父に会い、自分が受けている教育は『お妃教育』で間違いないことを確かめた。

 

 

女は喜びに震えながら「あたし、立派な王妃さまになるためにがんばります!」

高らかな声で親父に宣言した。

 

そのとき親父はとても穏やかな優しい笑顔でうなずき、親父の最高の笑顔を見た女は

嬉しくて泣いたんだという。

 

 

 

「旦那様が幸せな笑顔を見せて、坊ちゃまのお母様も天国で喜んでいるだろうねぇ...」

 

さっきまで酔っぱらってヘラヘラ笑っていたばあさんは、おれのおふくろの話を始めて

今度はおいおいと泣きだした。

 

おれはばあさんが泣き止むのを待ちながら、残ったワインをぐいっと飲んだ。

 

 

おれがワインを飲み終わってもばあさんがなかなか泣き止まないので、テーブルにある

食器をワゴンに乗せて片づけた。

 

 

「あらあら、だめねぇ。私ったらこんなに取り乱しちゃって。坊ちゃまが優しいから

 すっかり甘えちゃったわよ。こんなばあさんが遅い時間まで長居して悪かったねぇ」

 

泣き止んだばあさんは「よっこらせ」と立ち上がってその場でフラフラとよろめいた。

 

 

「大丈夫かよ、危なっかしいな。1人じゃ危ねえから部屋まで送っていくぜ」

 

おれはばあさんに手を差し出したが、ばあさんは「そんなのいいよ」と手を振った。

 

 

「私も侍女の端くれだもの。王家のみなさんのお手を煩わすわけにはいかないよ」

 

ばあさんは左右にふらつきながらワゴンを押して部屋を出て行こうとする。

 

 

「なに言ってんだ。おれとばあさんの仲じゃねえか、遠慮なんてするなよ」

 

おれは手を貸そうとしたが、ばあさんは「いいんだよ」と頑なに拒否してきた。

 

 

いくら拒絶されたからって、こんなに酔っぱらって足元がおぼつかないばあさんを

1人で歩かせるわけにはいかねえ。

 

 

「わかった。おれは食いすぎて飲みすぎたから、ちょっと動いて腹ごなししたいんだ。

 おれの腹ごなしに付き合って一緒に歩こうぜ? それなら構わないだろ?」

 

おれがウインクすると、ばあさんはため息をつきながら軽く笑ってうなずいた。

 

 

ばあさんと連れ立って部屋を出る。

 

足元がふらつくばあさんの代わりにワゴンを押そうとすると、ばあさんに拒否された。

代わりにばあさんを支えようとすると「私は平気だよ」と拒否してくる。

 

 

ちっ! ババアは頑固で困るぜ。

 

おれは歩調を合わせ、つかず離れずの距離でばあさんの隣をゆっくり歩いた。

 

 

「坊ちゃま、今夜はとっても楽しかったよ。こーんなに楽しい食事は久しぶりだね」

 

ばあさんは「こーんなに」のところで円を描くように腕を大きく回した。

そのまま体勢を崩し、ばあさんはよろめいてワゴンに激しくぶつかる。

 

 

ガシャーン!

 

ワゴンからワイングラスが床に落ち、大きな音を立てて割れた。

 

 

よろけてワゴンにぶつかったばあさんは、そのまま床に尻もちをつく。

 

 

「おい、大丈夫かよ」

 

ばあさんに声をかけたが、ばあさんはなにが起こったのかわからないといった顔で

座ったまま「ふふふふ」と笑っている。

 

 

「... くそっ、弱ったな…」

 

おれは小さくため息をついた。

 

 

話に夢中でばあさんに飲ませすぎた。

まさかこんなに酔ってるとはな。

 

 

とにかく床に座り込んだばあさんを立たせて部屋まで送り、ワゴンを厨房まで運び、

割れたグラスを片づけねえと。

 

 

ばあさんは尻もちをついただけで怪我はなさそうだが、なんせ年寄りだからな。

 

後で「ここが痛い」とか言い出しても困る。

おれはとりあえずホイミを唱えた。

 

 

おれが癒しの呪文を唱えるのが面白かったのか、ばあさんはケタケタ笑っていたが

しばらくするとウトウトし出した。

 

 

「おいっ、こんなところで寝るなよ!」

 

おれはばあさんの肩をつかんで揺さぶったが、ばあさんは今にも寝ちまいそうだ。

 

 

くそっ、ただでさえやることが山積みなのに、ここでばあさんに寝られては困るぞ!

 

 

 

「どうなさいましたかー?」

 

奥の廊下から3人の女中が走ってくる。

 

 

ほっ、助かったぜ。

 

1人ではどうにもならねえ状況だからな。助けが来てくれるのはありがてえ。

 

 

「ばあさんと一緒に飯食ったんだけどよ、ばあさんが酔っ払っちまったんだ」

 

おれは駆け寄ってきた3人に事情を話した。

 

 

「わかりました。ばあや様は私たちがちゃんとお部屋までお連れします。このワゴンも

 私たちで厨房に運びますし、割れたグラスも片づけておきますのでご安心を」

 

真ん中の1番背の高い女が言ってきた。

両隣の女もにっこりと微笑む。

 

 

「ん? 3人とも見慣れねえ顔だな」

 

おれは3人を見てつぶやいた。

 

 

3人の若い女中たちは、王宮にも馴染んでいるし仕事にも慣れているように見えるし

新入りというわけでもなさそうだが、それにしてはあまり見たことがない気がする。

 

おれのつぶやきを聞いた3人は顔を見合わせ、ばあさんを見て微笑んだ。

 

 

「私たち、いつもは後宮にいてばあや様と一緒に王妃様のお世話をしているんです」

 

3人はばあさんと親しげな笑みを交わした。

 

 

「この子たちは私の娘みたいなもんだよ」

 

ばあさんは床に座り込んだまま素っ頓狂な声をあげ、3人の女中たちは微笑みながら

ばあさんに手を貸して立ち上がらせた。

 

 

「へぇ? なるほどな。王妃が旅行に行ったからって、今はこっちで働いてるのか?」

 

おれが尋ねると3人はうなずいた。

 

 

女中たちの話によると、今はおれ以外の王族がすべて出かけているので、この機会に

使用人にも休暇が与えられているらしい。

 

 

「私たちも本当は休んでも良いんですけど、働いて少しでもお給金が欲しくって」

 

「休んでいる人の分も働けば少し上乗せして多くお給金がもらえるって聞いて、今は

 王宮の方で働いているんです」

 

はしゃぐように2人が言ってくる。

 

 

「ちょっと! あなたたち。殿下にそんな話をしたら、普段のお給金が少ないんだって

 文句言ってるみたいじゃない」

 

リーダー格の女が2人をたしなめた。

 

2人はテヘッと肩をすくめる。

 

 

おれは笑いながら首を横に振った。

 

 

「へっ、安心しろよ! おまえたちの話は明かさずに、使用人の給金をもっと増やすよう

 おれが大臣に掛け合ってやるよ」

 

2日間、執務室で国家予算に目を通した。

今の経済状況なら、少しぐらい使用人たちの給金を増やしたってどうってことない。

 

 

3人は「わぁ!」と歓声をあげた。

話がわかってるのかわかってねえのか、ばあさんも一緒になって「わぁ~!」と言い

パチパチと手をたたいている。

 

 

サマルトリアは貧乏国ローレシアと違って裕福だからよ。まかせときな」

 

おれは女中たちにウインクした。

 

 

話も終わり、おれはあらためてばあさんの世話とワゴンの片づけを3人に託した。

 

もともとこの女中たちは王妃のそばで一緒に働いていて、気心の知れた仲みてえだから

ばあさんを預けても安心だぜ。

 


「大丈夫です! ばあや様のお世話も、食事の後片づけも、私たちにおまかせください」

 

給金の値上げ話がよほど嬉しかったのか、小柄でふくよかな女中は弾んだ声で答えた。

 

 

「坊ちゃま、またね~」

 

女中たちに支えられながらおれを見て陽気に手を振ってくるばあさんに手を振り返して

おれは自室に戻った。

 

 

 

次の日もおれは朝から執務室に向かった。

 

モルディウスが寄越してきた見張りの兵士は去り、今朝もいつも通りの若い訓練兵が

ぼんやりと眠そうな顔で立っているだけだったが、念のためのダメ押しってやつだ。

 

おれは3日目も夕方まで執務室にこもり、日が暮れると寄り道もせず自室に戻った。

 

 


そして、とうとう親父たちが出かけてから4日目の朝がやってきた。

 

 

おれは正門に向かい、門番に「来客が来たら謁見の間に通してくれ」と伝えた。

 

 

せっかくの機会だ。

玉座に座ってナナを出迎えたいからな。

 

 

おれが手紙を託した若い兵士は、朝早いうちにムーンペタに向かったはずだ。

手紙を読んだナナは、遅くても昼すぎにはこっちに来るに違いない。

 

 

おれは先に謁見の間に入ってナナを待つ。

執務室ですごした3日間以上に、時間が経つのがずいぶんと遅く感じる。

 

 

... もう昼だというのに、城内は静かだ。

誰かが来る気配もない。

 

ソワソワと気持ちが落ち着かず、じっとしていられなくなったおれは謁見の間を出て

サマルトリア緑の騎士団の兵士たちのために設けられた娯楽室へ向かった。

 

 

この部屋はティメラウスが「若い兵士には娯楽も必要だ」と言ってつくらせた部屋だ。

 

中には若者が好きそうな本やカードゲームなどが用意されており、若い兵士たちは

各々の食い物や飲み物を持ち込んで、自由にくつろげる場所になっている。

 

休日に出かける用もない訓練兵たちは、この部屋をたまり場にしているのだ。

 

 

娯楽室を覗くと、若い兵士たちが夢中でカードゲームをしながら遊んでいた。

 

…… たくさん集っているが、おれが手紙を託した奴の姿はどこにも見えない。

 

 

入口で覗いているおれに気づいて近づいてきた兵士に、奴の名前を伝えて尋ねると

「朝から見ていない」と返事が返ってきた。

 

おれたちの会話を聞いた他の連中からも「朝、キメラの翼を手に城から出て行った」

「朝っぱらから大事な用があって出かけてくると言っていた」と返事が来る。

 

こいつらの話からも、奴が朝イチでムーンペタに向かったのは間違いないだろう。

 

 

では、なぜナナは来ない?

あの手紙を読んだらナナは飛んで来ると思ったおれの想定が間違っているのか?

サンチョが言ったように手紙を読んでも「ふ~ん」で終わらせて来ないつもりか?

 

 

あいつがムーンペタに行ったのは確実なのに、まだナナがこっちに来ないという事実に

心がざわついて苦しくなってきた。

 

おれは娯楽室で遊ぶ兵士たちに別れを告げ、重い足取りで謁見の間に戻った。

 

 

「ナナが来ないっていうのに、この部屋で待っていても意味がねえんだけどな...」

 

独り言をつぶやきながら玉座に向かう。

 

 

おれが玉座に腰を下ろしたその瞬間、正門から大きな声が城内に響いてきた。

 

 

ムーンペタからナナ姫さまがいらっしゃいました~!」

 

 

 

 

前回の終わりに「次はカインとナナの話になります」と言いながら、すみません... (;'∀')

 

 

可愛い酔っぱらいのばあさんと、酔っぱらいの相手に手こずる孫のようなカインの

ほのぼのした話を書きたくなっちゃって、ついつい脱線しちゃいました (;´∀`)

 

書き始めたときの想定以上に脱線部分がかなり長くなったので、今回のタイトルも

「侍女の事情」というなんだか下手なダジャレみたいなものに... (;´∀`)

 

 

ちなみに当初のタイトルは「来る? 来ない?... 来るっ!」でした (・∀・)ノ

(後半はタイトルらしい話になったかな?)

 

 

ナナに手紙を渡す当日、朝からずっとソワソワと落ち着きのないカイン ( *´艸`)

玉座にどっしり座って優雅にナナを出迎えたいのに、じっとしていられません (;´∀`)

 

手紙を託した兵士が朝から出かけたことを確かめると、ますます心はザワザワ ( *´艸`)

「なぜ、ナナは来ないのか?」と焦り、謁見の間に戻ったときは半ば諦めモード....

 

 

でも、軽く落ち込んでいるカインのもとにようやく吉報が届きましたヾ(*´∀`*)ノ

(次回こそは)カイン&ナナの話♡

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ