ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 149】 妹よ

ティアたちが旅に出る日の朝。

 

旅に同行する奴らが誰1人として魔法を使えず、途中でケガしたり毒を受けたときに

回復手段がないことを思い出したおれは、城を飛び出して道具屋に駆け込んだ。

 

 

道具屋の主人に頼んで、ありったけの薬草と毒消し草を詰めた袋を3つ作ってもらい

正門前に集合してきたクリフト、ティメラウス、リオスの3人に袋を手渡した。

 

 

約束の時間は過ぎたが、まだまだ待たされるであろう3人に同情していたおれだが

そこでふと、ティアが親父や王妃に謁見する約束をしていたことを思い出した。

 

こいつらを待たせるのもマズいが、親父や王妃まで待たせるのはもっとやべえだろ。

 

おれは急いで城内に戻った。

 

 

謁見の間へ行き入り口で立っていた門兵に尋ねると、やはりティアはまだ来ておらず

親父と王妃が中で待っているという。

 

おれは急いでティアの部屋へ行き、部屋の扉を力いっぱいドンドンと叩いた。

 

 

「だあれぇ?」

 

部屋からはのんきな声が聞こえてくる。

 

 

「だあれぇじゃねえよ! 早く出て来い!」

 

おれは力まかせに扉を叩き続けた。

 

 

「もうっ! うるさいわね」

 

しばらくしてようやく扉が開いた。

 

 

「いい加減にしろよな。もう他の奴らはとっくに準備して正門前で待ってんだぞ!

 この旅の主役はクリフトであって、てめえじゃねえんだ。あまりにも待たせるなら

 おまえのことなんて置いてあいつらに出発させるからな! それにおまえ、出発前に

 親父と王妃に挨拶する約束だろうが! ったく、両親まで待たせる気かよ!」

 

おれはティアを怒鳴りつける。

 

 

ティアはハッとなって後ろを振り返り、壁の時計で今の時間を確認すると

 

「いっけない。もうこんな時間じゃないの!」

 

おれを押しのけて部屋を飛び出して行った。

 

 

おれはティアがなにも持たずに慌てて飛び出して行った部屋の中を見まわした。

 

ティアがどこかへ出かけるときにいつも持っている大きめのバスケットが目に入る。

 

他にめぼしい荷物は見当たらない。

このバスケットがあれば大丈夫だろ。

 

 

おれはティアの部屋に入るとバスケットを手に持ち、再び正門へと向かった。

正門前では相変わらず3人が手持ち無沙汰な様子でぼんやりと待っていた。

 

リオスは立って待つのも嫌になったのか、荷物の上にドカッと座り込んでいる。

 

 

「ティアは今、親父たちに出発の挨拶をしてる。終わったらここに来るだろうから

 もうしばらく待っていてやってくれ。これはティアのバスケットだ。預けておくぜ」

 

おれはクリフトにティアの荷物を預けた。

 

こいつらにはもう言うべきことは言ったからな。これ以上、長居する必要もねえ。

 

 

「渡すものは渡したし、言いたいこともすべて言ったからよ。見送りは特にしねえぞ。

 まぁ、おまえらも気をつけていってこいや。ティアのことよろしく頼んだぞ」

 

おれは3人に手を振って城に戻った。

 

 

勇者の泉に行ってくるだけの旅とはいえ、家族以外の奴らと初めて長旅に出るんだ。

旅立つ前にさすがにひと言ぐらい激励の言葉をかけてやってもイイだろう。

 

 

謁見の間と正門をつなぐ廊下でおれは壁にもたれながらティアが来るのを待った。

 

 

しばらくすると、謁見の間からティアが目をこすりながら出て来るのが見えた。

泣いているのか、ティアは歩きながらほおのあたりをしきりにぬぐっている。

 

 

遅刻して親父に怒られたか?

いや、違うな。

 

 

「へんっ! どうしたんだよ、そんな顔して? パパとママと離れるのが淋しくなって

 やっぱり行かないとでも言うつもりか?」

 

おそらく挨拶したら王妃に泣かれたりして、離れるのが寂しくなったに違いない。

おれはからかい口調で言ってやった。

 

 

もし、ここでティアが「行きたくない」と言い出したら、おれはまた正門に戻って

あいつらに事情を説明して、ティアの荷物を回収しに行かねえとな。

 

そうなった場合、おれ様が用意した薬草や毒消し草は、しょうがねえから餞別として

あいつらにくれてやるとするか。

 

 

「違うわよ。出発前に両親の顔を見て、ちょっとセンチメートルになっただけよ!」

 

ティアは頭を大きく振って反論してきた。

口調は強気だが、ティアの瞳には今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まって潤んでいる。

 

へんっ、強がりやがって!

 

 

「あのな、それを言うならセンチメンタルだろ。勉強をがんばるとか言ってたのに

 このお姫さまは、今までいったいなにを学んできたんだよ?」

 

おれはティアの頭をぐしゃぐしゃと乱暴にかき回しながらなでてやった。

 

 

「勉強をがんばる」と言っててこのザマだ。

 

いくら「素質がある」とティメラウスに言われたからって、大して修行もしてねえのに

本当に腕試しなんて行って大丈夫なのかよ。

 

 

このまま旅立たせるのに心配な気持ちはもちろんあったが、だからといっておれには

「行くのやめろ」と言う気はなかった。

 

 

ティアがおれをライバル視して張り合ってきているのは常々感じていた。

 

特におれたちがハーゴンを倒して帰国し、『勇者』として崇められてからは

ティアの中で「おれに負けたくない」という気持ちがさらに強くなったように感じた。

 

 

おれにはティアの気持ちが痛いほどわかる。

おれも王子に対して、同じような思いを長年にわたってずっと抱いていたからな。

 


おれと王子は同じ皇太子という立場で年齢も同じ。幼い頃からよく比べられてきた。

 


あいつは由緒正しき直系のロトの子孫で、体格にも恵まれて身体も丈夫だった。

もともと力が強くてたくましく、さらに剣の腕を磨いてますます強くなった。

 

おれはなに1つ、王子に勝てなかった。

まともに張り合っても絶対に勝てねえ。

 

 

でも負けたくねえ!

 

それで、おれは魔戦士を目指したんだ。

 

ただの戦士でもなく

ただの魔法使いでもない。

 

 

おれにしか出来ない唯一無二の存在になろうとしたんだ!

 

そんなことを考えながら、おれはティアの頭をわしゃわしゃとなでていた。

 

 

ティアはされるがままの状態でしばらく唇を噛みながら涙をこらえていたが

 

「大丈夫よ、おにいちゃん。あたし、行くわ!」

 

精いっぱい強がって言ってきた。

 

 

ティアが「おれに負けたくない」と努力するなら、おれはそのがんばりを認めてやる。

 

本来はサマルトリアの姫なんだから、城で大事に守られながら暮らしていけばいい。

お姫様が武闘家になる必要はないし、つらい稽古なんてしなくてもいいんだ。

そして、腕試しのためにわざわざ旅に出て、危険な目に遭う必要もないんだ。

 

 

だが、ティアが「がんばりたい」と言うのであれば、おれは絶対に応援してやる。

 

 

「負けたくない」という気持ちが人をどれだけ大きく成長させるかを、他の誰よりも

おれが知っているからな!

 

 

 

「つらかったら我慢しないで帰って来ればいいからよ。いつでも帰って来れるように

 キメラの翼も渡したんだからな。おれはここで待ってるから、おまえは気負わずに

 楽な気持ちで行ってこい」

 

おれはティアの頭をポンポンとたたき、くるっと反転させて背中を押してやった。

 

 

「あたし、修行して強くなって帰って来るわ! まかせといて! 行ってきます」

 

 

やっぱり行くのやめた

おにいちゃんも一緒に行こう

 

そんな反応が返って来るのも想定していたが、ティアは振り返らずに力強く宣言すると

そのまま正門へと走って行った。

 

 

見送りなんて必要ねえと思っていたが、小さくなっていくティアの背中を見ていると

妙に気になって放っておけなかった。

 

おれは少し距離を置いてから、ティアの後をこっそりついて行った。

 


正門が近づくにつれて、誰かがキャンキャン騒いでいる声が聞こえてきた。

 

どうやらティアがわめいているようだ。

 

 

さっきまで泣いてた奴がもう怒ってるぜ。

 

心配する必要もなかったかと思いながら正門に向かうと、ティアがぷりぷりしながら

1人で城下町を歩いていくのが見えた。

 

 

その後クリフトがティアを追いかけて声をかけ、ティアが怒った声でなにか言い返し

クリフトがその場でがっくりと立ち尽くしているのが見える。

 

リオスとティメラウスがクリフトのそばに行き、ポンポンと肩をたたいて慰めているが

ティアはそんな3人には目もくれず、怒ったまま1人でどんどん城下町を歩いていく。

 


「おいっ、なにがあった?」

 

おれは、再びティアを追いかけようとしているクリフトを捕まえて尋ねた。

 


「ティメラウス様とリオス様が、姫さまは草なんて持つのを嫌がるだろうという

 カイン殿下の想定はそのとおりだったと笑ったら、姫さまが馬鹿にされたと感じて

 怒ってしまわれたんです。早く追いかけないと! お1人で外に出られては危険です」

 

クリフトは焦っていたがおれは笑った。

 

 

「へへん、あいつが町の外まで1人で先に行くわけねえだろ? どうせ城下町の出口で

 ビビッて立ちすくんでるだろうよ」

 

おれが鼻で笑うと、ティメラウスとリオスも一緒になってフフッと鼻を鳴らした。

 


「でも... やはり心配です。私は姫さまを追いかけます。殿下、失礼します!」

 

そわそわと落ち着かないクリフトはおれにぺこりと頭を下げると、バスケットを手に

ティアを追って走って行った。

 

 

「じゃあ、あっしらも行きますわ」

「殿下、行ってまいりますね」

 

焦って走って行ったクリフトとは対照的にリオスとティメラウスはのんびりした様子で

おれに手を振ると、2人でゆるゆると雑談しながら城下町を歩いていった。

 


「ちっ! 世話の焼ける奴らだぜ」

 

おれは今朝から何度つぶやいたかわからない言葉を繰り返し、三たび城内に戻った。

 

 

城に入るとドッと疲れが出た。

 

そりゃ、当たり前だ。
ゆうべはよく眠れてねえんだからな。


あいつらが出発してようやくゆっくり出来るとおれは自室に向かって歩いていた。

 

 

だが......

部屋に入ってひと寝しようと思っていたおれの前に、とんだ邪魔者が現れた。

 

 

 

 

ティアが旅に出るとき、カインが「気負わずに行ってこい」と優しく背中を押したのは

ティアの姿に「かつての自分を投影していたから」なんですね (*´ω`*)

 

幼い頃から常に王子と比べられ「負けたくない!」とガンバってきたカインにとっては

「おにいちゃんには負けたくない!」と努力するティアは応援してあげたい存在☆

 

カインとティアは幼い頃から身近な誰かと比べられて悔しい思いをしてきた同志☆

だからこそ、カインは「がんばって行ってこいよ」と送り出したんでしょうね (*´ω`*)

 

(余談ですが)私も兄がいる妹で、幼い頃から何かと優秀な兄と比べられてきたので

ティアを応援したい気持ちはあります(今回の話はつい熱くなっちゃいました (;'∀'))

 


さて、朝からドタバタと大騒ぎしつつようやく出発したティアたち一行 (;´∀`)


見送ったカインはホッとひと息ついて部屋で休もうとしますが、どうやら簡単には

休ませてもらえないみたいです ( *´艸`)

 

休もうとするカインの前に現れた「とんだ邪魔者」とは、いったい誰でしょうか?!

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ