ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 159】 プロポーズはまさかの...

親父との見合いの席を「おれとの泥遊び」を優先してすっぽかした女(今の王妃)

 

すっぽかされてすっかり立腹していた親父は最初、女を追い返すつもりだったが

おれと女が一緒に遊んだことで心を通わせて幸せそうに微笑みあっているのを見て

「息子の遊び相手として」女が自由に城に出入りできるよう許可した。

 

 

野良着に身を包んだ女は毎日ご機嫌で城に通ってくると、おれと楽しそうに遊び

使用人たちともすっかり打ち解けた。

 

 

…… そういえば王妃は「新王妃のお披露目の場で、民衆の前まで歩いてきたあんたは

お父様じゃなくあたしに抱きついてきた」と旅行に行く前、おれに話していたな。

 

おれが親父じゃなくて王妃を選んだことで、親父の再婚になんとなく反対していた

住民たちにも「あたしは新しい王妃として好意的に受け入れられたんだ」... と。

 

 

王妃から最初にこの聞いたときは、人見知りする時期のガキがなんで父親ではなく

知らない女に抱きついたのかと疑問だったが、あの話も今となってはうなずけるな。

 

親父たちが結婚する時点でおれと王妃はすっかり気心の知れた仲良しで、おれはただ

いつも遊んでくれる馴染みの女のところに向かって行っただけってことか。

 

 

へっ、良かったぜ。

この話を知らなかったら、おれはガキの頃からただの女好きみてえだからな。

 

 

 

前王妃の逝去後、長く重苦しい空気に包まれていたサマルトリア城は、女の登場で

一気に明るさを取り戻し、使用人たちは「この女が王妃になってくれれば最高だ」

心から願うようになっていた。

 

 

だが当初、親父は女には無関心だった。

 

女の姿を見ても別に声をかけることもなく、おれと女がキャッキャとはしゃぐ声が

親父のいる場所に響いてきても、聞こえていないかのように反応は示さなかった。

 

 

「ただ、母のいない皇太子の遊び相手として一時的に招いただけなのだろうか?」

「王様は次の王妃として見ていないのだろうか?」と使用人たちが不安に感じる中、

徐々に親父の態度に変化が出てきた。

 

 

おれに出すおやつを「2人分にしろ」と言ったり「献上品を分けてやれ」と言ったり

表向きは「息子に贈る」ふりを装いながら、親父は女に贈り物をするようになった。

 

女が親父に礼を言いに来て、どんなものが好きか話すようになってからはあきらかに

「おれへ」ではなく「女へ」の贈り物がどんどん増えてくるようになった。

 

使用人たちは女への贈り物ということに気づかないふりをして、おれと女が遊ぶ場に

毎日せっせと贈り物を運んできた。

 

 

親父は礼を言いに来る女と次第に打ち解けた会話を交わすようになり、3人一緒だと

おれが喜ぶからと言って3人で食事をしたり出かけたりするようになっていった。

 

 

「王妃は生涯ただ1人で良い!」「新しい王妃を娶る気はない」とこれまでさんざん

大臣に言ってきたこともあって、親父が女を気に入っても誘いづらかったのだろう。

 

おれの存在は親父には好都合だった。

親父はおれを言い訳に使いながら、女との交流を深めていった。

 

ばあさんの言葉を借りれば、親父はおれをダシにして女と仲良くなったってわけだ。

 

 

2人の親密さが増すにつれて、使用人たちも「次期王妃」を期待するようになったが

変に騒ぎ立てて親父の怒りを買ったり、2人の関係が壊れるのは避けたかったので

静かに見守っていたらしい。

 

ばあさんたちは、相変わらず間におれを挟んだ交流ばかりで一向に進展しない親父と

女の関係にヤキモキしながら静観していたが、いよいよ「そのとき」が来たという。

 

 

 

「そのときってなんだ?」

 

おれはすっかり酔って機嫌よく「ふふふふ」と笑い続けるっているばあさんに尋ねた。

 

 

「ある日ね、私は旦那様に呼ばれたんだよ。今まで坊ちゃまがお昼寝している間は

 お嬢さんは旦那様のところに来ておしゃべりしたり、坊ちゃまと一緒にお昼寝したり

 自由時間としてゆったりくつろいですごしていたんだけどね、明日からは坊ちゃまが

 お昼寝する時間帯にはお嬢さんに『教育』を受けさせろって旦那様が言ったのよ」

 

 

「教育? なんの教育だ?」

 

おれは首をかしげた。

 

 

「うふふ。あらあら坊ちゃまは鈍いわねえ。私は教育って言われてすぐわかったわよ。

 あぁ『お妃さまの教育だ』って」

 

ばあさんは満足そうに笑っている。

 

 

女は良家の令嬢なので基本的な学問や礼儀作法は身につけていたが、王妃になるには

もっと細かい礼儀や、サマルトリアについてのより深い知識が求められる。

 

親父はその教育を「女に受けさせろ」とばあさんに言ってきたのだという。

 

 

ばあさんが「お決めになったんですね」と言うと、親父は照れ臭そうにうなずいた。

 

 

「初めは、見合いをすっぽかしてカインと遊んでいると聞いて『計算高い女か?』と

 警戒する気持ちもあった。普通にわしに会っても相手にされないからと、少し

 変わったことをして気を引こうとする女なんじゃないかってな。それか、カインを

 味方につけることで、わしに交際を迫ってくるようなあくどい女かもしれんとな」

 

親父は腕を組みながらゆっくりそこまで言うと、ふふんっと鼻で笑った。

 

 

「だが、どうやらあの女には計算高さもあくどさも皆無のようだ。あの女は単純に

 カインのことが好きで、カインと遊ぶのが楽しくて、それだけで城に来ている。

 もらう物はすべて大喜びで、食うことと遊ぶことをとにかく全力で楽しんでいる。

 ... 純粋でおもしろい女だ」

 

親父は目尻を下げて微笑んだ。

 

 

「あのときの旦那様の顔、みんなに見せてやりたかったわ。坊ちゃまのお母様である

 前の王妃様と一緒にいるとき、旦那様はいつも穏やかで優しい顔をしてたんだよ。

 でも、前の王妃様が亡くなられてからはいつも険しい表情で笑わなくなったの。

 唯一、坊ちゃまといるときは穏やかな顔をしてたけどね。前王妃様に見せたような

 旦那様の幸せそうな顔は、もうこの先ずっと見れないんじゃないかと思ってたんだ。

 それがこのとき見れたんだよ!」

 

ばあさんは当時の親父の顔を思い浮かべながら嬉しそうに微笑んだ。

 

 

数年前、おれのおふくろである前王妃が王宮入りした際に教育した一流の教育者たちが

まだサマルトリアには残っていた。

 

 

「旦那様の命令を聞いてすぐ、私はすっかり嬉しくなっちゃって教育者のみなさんに

 声をかけまくったわよ」

 

ばあさんの話を聞いたそいつらも、近い未来に新しい王妃様が誕生するのを喜んで

わらわら集まってきたという。

 

 

さっそく翌日から女の教育は始まった。

 

教育内容は立ち方や歩き方のような細かい礼儀作法に加え、サマルトリアの歴史や経済

文化や法律に至るまで多岐に渡った。

 

女は真剣な顔で熱心に教育を受け、めきめきと知識を増やし上達していった。

 

 

ばあさんは時おり親父に呼ばれ、勉強中の女の様子や学習の進捗具合を聞かれた。

 

 

「お嬢さんは毎日とても熱心にお勉強されて、教育は順調に進んでいますよ」

 

ばあさんが笑顔で答えると、親父も口元をゆるませて満足そうにうなずいた。

 

 

すべてが順調に思えたが、なんとここで 驚くべき事実 がわかった!

 

 

あるとき、女の勉強時間が終わってもおれはまだ昼寝から目覚めなかった。

 

女は疲れた様子で座っている。

 

 

ばあさんは「よくがんばったわね」と言って、沈んだ表情の女に茶を淹れてやった。

 

女は微笑んで茶を受け取りひと口だけ飲むと、意を決したように話しかけてきた。

 

 

「ねえ、おばあさん。正直に教えて欲しいの。王様はあたしのこと、礼儀知らずで

 愚か者だと思っているのかしら?」

 

女は思いつめたような顔をしている。

 

 

ばあさんが「なんだい急に。そんな怖い顔して。どうしてそう思うの?」と尋ねると

「だって、いきなりいろんな種類の猛勉強が始まったから...」と女は答えた。

 

 

「ふふふ、なに言ってんのよ。全部、お妃さまになるために必要なことだよ。そんな

 悩ましい顔することないじゃない」

 

ばあさんはあきれて笑った。

 

 

「え?!」

 

女は心底ビックリした声を出した。

 

 

「え? なんでそんなに驚くのさ」

 

女が驚いたことにばあさんも驚いた。

 

 

「... ねえ.... おばあさん。もう1度言って。あたしが今... やっている勉強って...何?」

 

女は微かに震える声で聞いてくる。

 

 

「何って.... お妃さまになるための勉強だよ。私が旦那様に命じられて一流の教育者を

 集めたんだから間違いないよ。え? ま、まさか... 知らなかったの?」

 

ばあさんも驚いて尋ねた。

 

 

女は無言でこくりとうなずいた。

 

 

 

「ひどいだろ? 旦那様は何も言わずに奥様に『お妃さまの教育』を受けさせてたんだ。

 私はてっきり、旦那様から『わしの妃になってくれ』みたいな言葉があって、奥様は

 喜んで教育を受けているもんだと思ってたよ。まさか旦那様から何も聞かされずに

 やらされていたなんてねぇ...」

 

ばあさんはやれやれと肩をすくめた。

 

 

今までの経緯についてばあさんが女に話を聞くと、いつもどおり贈り物の礼を言うため

親父に会いに行くと、親父に「明日からカインの昼寝中には教育を受けるように」

いきなり言われたらしい。

 

女はよくわからないまま「はい、かしこまりました」と返事したんだそうだ。

 

 

女から話を聞いたばあさんは「まぁ、旦那様ったら何も言わないなんて酷いわ」

思わず怒りの声をあげたが、女は顔を赤らめてニヤニヤと幸せそうに笑っていた。

 

なんで笑っているのかと聞くと「王様があたしを王妃に選んでくれたから」と言う。

 

 

『結婚して欲しい』とか『わしの妃になってくれ』とか、ひとことも言わないまま

 勝手にお妃教育を受けさせたっていうのにね、奥様ったらデレデレ笑ってるのよ。

 本人がそれで幸せなら良いんだけど、ちょっと男として情けないわよねぇ...」

 

ばあさんは「男ならビシッと言わなきゃねえ~」とつぶやきながらため息をつく。

 

 

ばあさんが文句を言ってる相手は親父なのに、おれはなぜか自分に言われているような

窮屈さと肩身の狭さを感じた。

 

 

 

ばあさんから話を聞いた後、昼寝中のおれがまだ起きそうにないのを確かめて、女は

すぐに親父のところへ向かった。

 

 

「おばあさんに聞いたんですけど、今あたしが受けている教育はお妃さまになるための

 教育だって本当ですか?」

 

女は怖々と親父に尋ねた。

 

 

「王妃になるのが嫌なのか?」

 

親父はひとことだけ返してきた。

 

 

「いえ、全然。まったく嫌じゃないです! あたし、がんばります! もっとがんばって

 立派な王妃様になります!」

 

女は舞い上がって天にも昇るような気持ちになりながら、大きな声で宣言した。

 

 

「うむ」

 

親父は満足そうにうなずいた。

 

 

そのときの親父の顔が本当に穏やかで優しくて、女は幸せすぎて涙ぐんだそうだ。

 

 

「この期に及んでまだプロポーズもせず『王妃になるのは嫌なのか?』で済ませた

 旦那様はどうかと思うけどね、私も奥様から話を聞いたときは涙ぐんじゃったわ。

 そのとき旦那様がどれほど幸せそうな顔を見せたのか、私にはハッキリわかるもの!

 いつも厳しい顔して笑うことを忘れた旦那様が幸せになって最高の笑顔を見せて、

 前の王妃様もお空の上で喜んでくださってるだろうと思うと嬉しくってねぇ...」

 

酔っぱらってデレデレ笑っていたばあさんは、今度はおいおい泣き出した。

 

 

けっ!

笑い上戸で泣き上戸なのかよ。

忙しいばあさんだぜ。

 

 

ばあさんがおいおい泣いて流す幸せの涙を見ながら、おれはグラスに残っていた

ワインをぐいっと飲み干した。

 

 

 

 

今回のタイトル

「プロポーズはまさかの…」の続きは「ないんか〜い!」でした ( *´艸`)

 

私自身がプロポーズの言葉とかシチュエーションとかどうでもいいタイプで… (;´∀`)

 

 

「王妃になるのは嫌か?」

    ↓

「嫌じゃないです」(即答)

    ↓

パパ、とびっきりの笑顔

    ↓

パパの最高の笑顔に嬉し泣き

 

 

これで充分だと思うんですよ (*´ω`*)

 

 

ちなみに余談ですが、パパが王妃を評した「純粋でおもしろい女」

個人的には最高の褒め言葉 (≧∇≦)♪

 

(私は関西人ではないですが)「一緒にいて面白い」と言われると1番嬉しいです♪

だからパパに言わせてみました ( *´艸`)

 

 

サマルトリアにナナが来るまでのつなぎとして急きょ書いた「パパと王妃の馴れ初め」

楽しんでいただけましたでしょうか?(私は書いていてとっても楽しかったです♪)

 

 

さて、時間稼ぎもいい感じで終わったので、次からはいよいよ「カイン&ナナ」の話♡

 

 

 

次回もお楽しみに〜 ヾ(*´∀`*)ノ