痴話げんかを目撃したことで、くだらない噂話が蔓延していたムーンペタの群衆を
おれ様のこの上なく素晴らしい演説で、ムーンブルク再興に向けて一致団結させた。
見事に騒ぎを鎮めたおれとティアは、ルーラでサマルトリアへと戻って来た。
城内に入ったおれたちは、まず親父に帰国のあいさつに行った。
親父は機嫌良くおれたちを出迎えると、これまでの労をねぎらってくれた。
「ナナ姫とリーナの見送り、ご苦労であった。2人とも、ゆっくり休むといい」
あいさつを終えるとティアは退出したが、おれは残って親父に今後の話をした。
デルコンダルから猛者を集めて、ムーンブルク復興のために働いてもらうこと
猛者を取りまとめる統率者として、ティメラウスにも協力してもらいたいこと
ティメラウス本人の了承は得ているので、あとは親父が認めてくれればいいこと
おれの話を聞くと、親父は口元に笑みを浮かべて満足そうに大きくうなずいた。
「よし、わかった。では望みどおり、ティメラウスを派遣することを認めよう。
ムーンブルク城の迅速な復興は、われらロト3国にとって最も重要な案件だ。
おまえが言い出したことなんだから、責任を持ってしっかりやり遂げるようにな」
「ははっ、かしこまりました。父上」
おれは親父に一礼して謁見室を出た。
親父の承認を得て、少しずつだが着実に動き出していることに心は弾んでいた。
おれの策は親父にも受け入れられ、ティメラウスを派遣することも認めてもらえた。
ロト3国にとって最も重要なムーンブルク復興を、他でもないサマルトリア王から
「おまえが責任を持ってやり遂げろ」と直々に言われたのだ。失敗は許されない。
ムーンブルクの復興は、おれの責任で絶対に成功させなければならないのだ。
身体の中からエネルギーが湧いてきて、おれはやる気に満ちあふれて燃えていた。
「おれがムーンブルクを再興してナナを笑顔にしてやる!」気合は充分だった。
謁見室を出たおれは、今後の予定を考えながら城内を歩いていた。
まずはデルコンダルに行って王様に会い、次はテパの村へ行ってレオンに会うか。
いや、レオンとはいつでも会えるから先にガルダーを探し回った方がいいだろうか。
う~ん、まてよ。レオンに会ったらやりてえことがあるんだよな.... となると......
あれこれ思いを巡らせていると、背後から突然ガシッと腕をつかまれた。
振り向く暇もなく、そのままズルズルと裏門へと引きずられる。
外に出ると、おれの腕をつかんだ人物はようやくおれを解放した。王妃だった。
「ちょっと! ティアから話を聞いたよ。ムーンペタにまで行ってる間にナナのこと
モノに出来ただろうと期待してたのに、ナナを怒らせて引っ叩かれたんだって?
女に引っ叩かれるなんて、なっさけない男だねえ。もっとシャキッとしなよ。
王子はもう結婚するっていうじゃないのさ。あんた、負けてらんないわよ!」
「うっせえな。いきなりなんなんだよ!
帰ってくるなりこんなとこ引っ張って来て、ギャアギャアわめくんじゃねえよ。
ったく、相変わらずうるせえババアだな。おれのこと情けないとか言うけどよ
そもそも、おれがナナに引っ叩かれたのは、てめえの娘のせいなんだぜ」
「えっ? あたしの娘? ... あんた、それってティアのことを言ってんのかい?
まさかあんた、自分がふがいないのを棚に上げて、可愛い妹のせいにする気?
そりゃ、あんまりだわ。あたしはあんたをそんな男に育てた覚えはないよ!」
「実際にティアのせいなんだから、しょうがねえだろ。ティアはうるせえんだよ。
口を開けば余計なことばっかり言うし、いっつもイイところで邪魔しやがるし。
あいつさえいなければ、今ごろは...」
「えっ、なになに? そんな言い方するってことは、ナナとイイコトあったのかい?
ちょっとあんた、いったい何があったのさ。隠してないで早く教えなさいよ」
ついさっきまで、おれのことを「情けない子だね」とさげすんだ目で見てたくせに
おれの言葉を聞いたとたん、王妃は好奇心に満ちた目を見開きギラギラと輝かせて
おれにぐいっと詰め寄ってくると、服の袖をつかんで引っ張った。
「なんもねーよ。息子の私生活にいちいち干渉してくんなよな。おれは忙しいんだ。
ババアに付き合ってる暇はねえんだよ」
おれは王妃の手を振り払った。
「なによ。自分に用事があるときは、勝手に来て朝っぱらから叩き起こすくせに。
あんたって、ホントいくつになっても自分勝手なワガママ坊ちゃんなんだから。
あたしは、あんたとナナがうまくいきますように♡ っていつも祈ってるんだよ。
こんな息子想いの優しい母親が『教えて欲しい』ってお願いしてるんだからさ
ナナと何があったのか教えてくれたっていいじゃないのよ~」
ったく! ティアは「兄想い」だって言うし、王妃は「息子想い」だって言うし...。
ホントによく似たうるせえ母娘だぜ。
「ああ、わかったわかった。今度たーっぷり教えてやるから、楽しみに待ってろよ。
今日のところは親父に見つかる前にとっとと後宮に戻れよな。じゃあな」
前に会ったときの仕返しだ。
おれは王妃に背を向けて、手だけをひらひらさせながらその場を立ち去ってやった。
王妃を裏門に置き去りにして再び城内に戻ると、急にどっと疲れが出た。
思い起こせば今朝は二日酔いのところを起こされて、騒動の鎮圧に駆り出された。
騒動を静めてようやく城に帰ってきたが、城に戻ったら戻ったで休む暇もない。
親父に会ってムーンブルク復興を任されるまではすごくイイ感じで進んでいた。
ったく! せっかくやる気になってたのに、とんでもない邪魔が入ったもんだ。
城に帰って来て、ようやくうるさいティアの面倒から解放されたと喜んでいたら
もっと口うるさい奴が待ち構えてるんだからよ。たまったもんじゃねえよな。
とにかく、もう今日は疲れた。
予定は山積みだが、ここでがんばりすぎてまたぶっ倒れたりしたら元も子もない。
焦る気持ちもあるが、今日は無理をせずにこのまま休むことにしよう。
自室に行くため城内を歩いていると、ティアが部屋を出て後宮へ向かうのが見えた。
『息子想い』と『兄想い』とで、おれのことをあーだこーだ言い合うのだろう。
好き勝手に言われるのは癪に触るが、邪魔されずにゆっくり休めるのはありがてえ。
おれは自室に入ると、そのまま崩れるようにベッドの上に倒れ込んだ。
物語としては、再興に向けて動き出す前の小休止の回になりました (*´ω`*)
『第2章の幕明け』と謳っておきながら、相変わらず話は進みませんね... (;´∀`)
今回は、カイン殿下に対する父母の期待の表れを書いてみましたよ~ ( *´艸`)
・サマルトリア皇太子として、ムーンブルク復興のために尽力せよ(By. 父)
・ナナのこと、さっさとモノにしなさい。そしてすべて報告しなさい(By. 母)
カインは「王妃と話してどっと疲れた」と言っていますが、実際のところは
肩に力が入りすぎていたカインを、王妃が程良く脱力させてくれた感じかな (*´ω`*)
動き出す前には休むのも大事!
王妃は帰国した息子がリラックスできるように、いつも変わらぬ態度で接してくれる
明るく優しいお母さんなんですよ (*´ω`*)
王妃を「いつも明るくて優しいお母さん」とやたら持ち上げすぎ・高評価しすぎな点
私の王妃好きが大きく影響しているというのはたぶん気のせいです (;´∀`)
そして、今回は物語の進行なんて実はどうでもよくて、単に私がお気に入りキャラの
王妃を登場させたかっただけの回というのは内緒です (^_-)-☆
無事にサマルトリア城へ戻り、ぐっすり休んで明日からの英気も養ったカイン。
次回はデルコンダル城です! タヌキ親父とのセカンドバトルですねヾ(*´∀`*)ノ
では、続きもお楽しみに~ (≧▽≦)