ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 162】 勘のいい男

親父たちが旅行に行ってからサマルトリア緑の騎士団の訓練が初めて休みになった日、

おれは事前に入念な策を練っておいて、ナナをサマルトリア城に呼び寄せた。

 

 

ナナの到着が思ったより遅くて多少ヤキモキさせられたが、おれは予定通り謁見の間で

玉座に座った状態でナナを出迎えた。

 

 

玉座に座るおれを見たナナの反応はおれの想像した通りでちょっといい気分になったが

ナナに玉座に座るおれってどうだ?」と尋ねると、ナナはおれの全身を眺めまわして

「体格が立派じゃないと玉座は似合わないわね」と半笑いで言うじゃねえか!

 

貧弱で力がないみたいに言われて腹が立ったおれは、力が強いことを証明するため

ナナをひょいっと抱え上げてみせた。

 

 

..….. そこまでは良かったんだよな

 

おれに抱きかかえられたナナは「早く下ろして」と言って足をバタつかせて暴れ出し

いきなりの不意打ちを食らったおれは、ナナを床に落っことしそうになった。

 


ナナの頭を床に打ちつけるのだけはなんとか避けたいと必死に腕を伸ばして守った結果

ナナを守ることは出来たものの、おれは体勢を崩してナナの上に倒れ込んじまった。

 

 

それで.... その... なんだ

倒れ込んだことで、おれとナナの口と口がちょっと... ぶつかっちまったってわけだ。

 

 

も、もちろん事故だからよ。

気にすることなんてねえんだ。

 

ナナは別に怪我もなかったみてえだし、何事もなかったように振る舞えばいい。

 

 

頭ではそう思っていても、ついついナナの顔を見ると視線が唇に向いてしまう。

 

視線が相手の口に向いてしまうのはナナも同じのようで、おれの顔を見るナナの瞳が

口のあたりをさまよって恥ずかしそうに慌てて逸らされるのを目の端で感じる。

 

 

くそっ、気まずいぜ。

こんなとき、どうすりゃいいんだ?

 

 

重苦しい沈黙が続く中、おれはふとあることを思い出して謁見の間を飛び出した。

 

 

「お嬢さんのことを気に入ったというのに2人ですごすのが恥ずかしかった旦那様は

 坊ちゃまを交えて3人ですごすようにしたんだよ。坊ちゃまはいいダシだよね」

 

ばあさんの話が頭の中によみがえる。

 

 

そうだ。

2人ですごすのが恥ずかしいなら、もう1人加えて3人ですごせばいいんだよな。

 

あの野郎が果たしていいダシになるかは微妙だけど、まぁ居ないよりはマシだろう。

 

 

おれは急ぎ足でサマルトリア緑の騎士団の軍医待機所へと向かった。

 

 

今日は訓練が休みだから軍医も休みだ。

 

もしかしたらあいつは出かけてて留守かもしれねえと心配になったが、サンチョは

待機所のソファで腹を出して寝ていた。

 

 

 お腹丸出しで、いびきをかいて寝ているサンチョさん ( *´艸`)



おれはホッとして部屋に入ると、サンチョの丸々とした腹をぺチンと叩いてやった。

 

 

「ふわぁ! 誰だ?!」

 

サンチョは飛び起きておれを見ると「なんだぁ、坊ちゃんか」と安堵の声をもらした。

 

 

「どうしたんです? たしか今日は、ナナ様がサマルトリアに来る日でしたよね?」

 

「ふあぁぁ~」と大きなあくびをしながらサンチョがおれに尋ねてくる。

 

 

「ああ、もうこっちに来てるぜ。それでよ、おまえにちょっと頼みがあってきたんだ。

 飯、つくってくれねえか?」

 

おれが聞くとサンチョは素直にうなずいた。

 

 

「イイですよ。もう夕方ですもんね。美味しい夕食をつくってさし上げましょう」

 

サンチョは力こぶをつくり、もう一方の手で自分の腕をポンポンとたたいた。

 

 

「ああ、頼む。3人分な」

 

おれはサンチョにウインクした。

 

 

「… え? さ、3... 人...?」

 

サンチョは首をかしげる

 

 

「ああ、おまえも一緒に食えよ」

 

おれの言葉を聞くと、サンチョは目を見開き勢いよく立ち上がった。

 

 

「な、なに言ってんですか、坊ちゃん! 今日はせっかくナナ様と

 2人きりですごせるというのに! こんな大切な日に私なんかと一緒にご飯なんて

 食べてる場合じゃないでしょうが!」

 

さっきまで寝ぼけてたくせに、サンチョは興奮状態で説教してくる。

 

 

「まぁまぁ、そんなに興奮するなよ。おまえには ダシ になってもらいてえんだ」

 

おれの言葉を聞くと、サンチョはなにを思ったかギョッとした顔になり、自分の身体を

抱き締めるように腕を回した。

 

 

「ダ、ダシ?! 坊ちゃん、まさか私を食べようとしてるんですか? 『飯をつくれ』

 言いながら、私に具材になれとでも? わ、私なんて食べても美味しくないですよ!」

 

サンチョはブンブンと首を振った。

 

 

「ばーか。誰がおまえなんて食うか! ダシって言ったのはこういう意味だよ」

 

とんでもねえ勘違いをしたサンチョのおでこを指でピンと弾いてやると、おれは

ばあさんから聞いた親父と王妃の馴れ初めをざっくりとサンチョに話した。

 

 

「ふむふむ。王様が知り合って間もない頃、王妃様と2人ですごすのが恥ずかしくて

 坊ちゃんも交えて3人ですごそうとしたという話はよくわかりますよ。でも、

 坊ちゃんとナナ様は長い付き合いじゃないですか。一緒にずっと旅もして来たし

 今さら、なにが恥ずかしいんです?」

 

サンチョはきょとんとして聞いてくる。

 

 

なんと返事しようかと考えていると、サンチョはとんでもねえことを言い出した。

 

 

「もしかして、キスでもしちゃいましたか? まさかね… ハハハ」

 

サンチョの野郎、普段はとぼけたことばかり言うくせに、ときどき妙に鋭い。

 

 

おれは驚いて思わず息を飲んだ。

一気に息を飲みこんだせいで、おれの喉から「ぐげへぇ~...」と変な音が漏れた。

 

 

「えっ? ま、まさかホントに? 坊ちゃん、ナナ様とキスしちゃったんですか?」

 

サンチョは興奮した様子で目を輝かせながらおれに詰め寄ってくる。

 

 

「ち、ちょっと転んでぶつかっただけだ。ただの事故だ。そんな気持ち悪りい顔で

 見てくるんじゃねえ!」

 

おれはサンチョの顔を押しのけた。

 

 

「なるほどなるほど。初めてキスしちゃったときはドキドキして気恥ずかしくて

 相手の顔もまともに見れませんよね〜。うんうん、わかりますわかります」

 

サンチョは大きくうなずいてみせた。

 

 

「けっ、知ったような物言いしやがって」

 

おれは苦々しい思いで毒づいた。

 

 

「そりゃあ、わかりますよ。私は坊ちゃんより経験豊富な大人なんですからね」

 

サンチョは得意げにふふんと鼻を鳴らす。

 

 

「じゃあ、言ってみろよ! 初めて… したときはいくつでどんな感じだったんだ?」

 

 

くそっ、おれ様としたことが!

キス… と言葉にするのも恥ずかしいとは。

 

 

おれがドギマギしてるのを見ながら、サンチョは余裕の笑みを浮かべた。

 

「えっと、あれは16… だったかな?」

 

 

「じゅ、16だと?!」

 

おれは思わずサンチョの肩をつかんだ。

 

 

「ええ、そうですそうです。あのとき私は16歳で、相手の女の子は3つ年上の

 19歳でした。間違いありません」

 

 

 

なんだと!?

あ、相手は年上の女だと?!

 

この時点で、サンチョの話はおれの想像の範疇をはるかに超えていた。

 

 

とんでもねえ話を前に身体の力が抜ける。

おれはサンチョの肩から手を離し、ソファにぐったりともたれかかった。

 

 

「近くに住む憧れのおねえさんという感じの人でした。あるとき、そのおねえさんが

 変な男たちに絡まれていたんですよ。助けなきゃと思って私は突進したんです」

 

 

いかにもガラの悪い3人の男たちが女の腕を引っ張って連れて行こうとしている。

 

サンチョはつかんだ手を引きはがそうと、男たちの腕めがけて突進した。

 

変な輩たちは、いきなり突っ走ってきて女との間に割り込んできたサンチョを見て

殴りかかってきたんだという。

 

 

「体力には自信がありますからね。殴られても殴られても何度も立ち上がりました。

 3人は代わる代わる私を殴ってきたんですが、私が何度も何度も起き上がるので

 男たちはそのうち殴るのにも疲れたみたいで、私たちを解放してくれたんです」

 

 

自分から攻撃はしないけど、殴られても殴られても何度も立ち上がるというのは

いかにもサンチョらしいな。

 

 

「男たちが去ってホッとしてその場にへたり込んだ私のそばにおねえさんがきました。

 おねえさんは『助けてくれたお礼になにが欲しい?』と私に聞いてきたんですよ。

 私は肉がいいかな、それともお菓子がいいかなとアレコレ考えていたんですけどね。

 そしたら、おねえさんがいきなりチュッとしてきて『こんなのはどう?』って」

 

サンチョはデレデレして頭をかいた。

 

 

けっ、なんだそれ。

おれは小さく舌打ちした。

 

 

「私はビックリして『一瞬だったからよくわからなかった』と返事したんですよ。

 おねえさんは『じゃあ、次はわかるように』と少し長めのキスをしてくれました。

 ドキドキして頭が真っ白で、おねえさんが離れてからもドキドキはずっと続いて

 終わってからおねえさんは余裕の表情で私を見ていたんですが、私は恥ずかしくて

 おねえさんの顔を見れませんでした」

 

 

ちっ、胸糞悪りい話だぜ!

おれはなんでこんな話、聞かされてんだ?

 

サンチョの話は聞けば聞くほど気分が悪く、どんどんイライラしてムカついてくる。

 

 

「それで、その女とはどうなったんだ?」

 

おれは思い出に浸り虚空を見上げてニヤニヤしているサンチョに問いかけた。

 

 

「あぁ、あっさりフラれちゃいましたよ。彼女は『強い男が好き』と言ってましてね、

 私が殴られても殴られても何度も立ち上がるところを気に入ってくれてたんですが

 そもそも殴られる前に相手を倒しちゃうような武術に優れた勇敢な男が現れたら... ね

 … もう、私に勝ち目はないですよ」

 

さっきまでとは打って変わって、サンチョはしょんぼりと肩を落とした。

 

 

「まぁ、そりゃしょうがねえな」

 

さっきからけったくそ悪りいノロケ話を延々と聞かされて、ずっと気分が悪かったが

フラれたと聞いて溜飲が下がった。

 

おれはさっきまでとは一転、スッキリした気分でサンチョの肩を叩いて慰めた。

 

 

「あれ? ところで私はなんでこんな話を始めたんでしたっけ? あぁ、そうだそうだ。

 坊ちゃんが初めてナナ様とキスしちゃって、照れ臭いってところからでしたね」

 

サンチョは気を取り直したようで、おれを見て再びニヤニヤと笑い出した。

 

 

「うるせえ! おれらのはただの事故だって言ってんだろ? それで、どうなんだよ?

 3人分の飯つくってくれるのか?」

 

薄気味悪い顔でおれを眺めるサンチョをコツンと小突きながらおれは尋ねた。

 

 

「ええ、すべてこのサンチョにおまかせください! 美味しい夕食をつくるのに加えて

 私は いいダシ となって、坊ちゃんとナナ様の仲を取り持ってあげましょう!」

 

サンチョはこぶしで自分の胸を叩いた。

 

 

妙に張り切って自信満々なサンチョの様子に、一抹の不安がよぎったのは事実だが

かと言ってこれからずっと長い時間ナナと2人きりでいる気まずさを思えば、たとえ

こんな奴でもいてくれた方が助かる。

 

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

おれはサンチョを促し謁見の間へ戻った。

 

 

 

 

謁見の間を飛び出したカイン。

思い出したのは「坊ちゃまはいいダシだ」というばあさんの言葉でした~ (≧∇≦)♪

 

(他に人がいないのもあって)カインがダシとして頼ったのはサンチョ (・∀・)☆

 

普段はとぼけたおじさんなのに、妙なところでやけに鋭いサンチョはカインの顔を見て

「もしかしてキスした?」とズバリ指摘して、カインをドギマギさせます ( *´艸`)

 

 

「あぁ、初めてキスしたときって恥ずかしいよね〜」とわかったようなことを言われ

自身の初キスをドヤ顔で語られ、サンチョのペースに振り回されるカイン (;´∀`)

 

 

ちなみにサンチョのファーストキスは(よくありがちな少女漫画の影響も受けつつ)

なんとなく適当に考えました ( *´艸`)

 

私の中でサンチョのお相手は、年下や同級生ではなく年上の綺麗なおねえさんに

リードされて「可愛いわね」と言われてチュッとされるイメージよ ( *´艸`)

そして主導権は常におねえさんで、あっさりフラれちゃうイメージよ… (;'∀'))

 

 

サンチョをダシにして大丈夫か不安ですが(他にダシになりそうな奴はいないので)

仕方なくカインはサンチョを引き連れてナナのもとへ戻ります (;´∀`)

 

 

さて、サンチョはカインとナナの「いいダシ」になってくれるのでしょうか?

 

 

 

 

次回もお楽しみに〜ヾ(*´∀`*)ノ