ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 158】 いい「ダシ」の息子

おれは「夕食の給仕してもらう」という名目でばあさんを自室に招き、王妃が初めて

王宮に来た日の話を聞いた。

 

 

おれは知らなかったんだが、おふくろの喪が明けたばかりでまだ再婚に消極的だった

親父のために、妃候補として良家の女がたくさん謁見の間に集められたらしい。

 

だが、大臣の強い勧めで仕方なく面会の場を設けただけで、再婚の意思がない親父は

集まった女たちに「今日はどうもありがとう」と素っ気なく花束を渡して帰らせた。

 

 

用意していた人数分の花束が1つ残り、まだ妃の候補者が残っていると知った親父は

「最後の1人は庭で坊ちゃまと遊んでいる」とばあさんに聞き、庭へ向かった。

 

 

最後の見合い相手の女(今の王妃)が約束通り謁見の間に来なかった理由はこれだ。

 

ばあさんが女たちの案内係に任命されたため、ガキだったおれの世話を他の侍女に

頼んでおいたのだが、その侍女が仕事をサボっておれを放ったらかしにしたそうだ。

 

王様に会うために他の女たちと一緒に城に入った女は、たった1人でよちよち歩く

おれのことが気になり、あとをついて行って庭で一緒に泥で遊んでいたのだ。

 

 

親父が庭に来たとき、最後の見合い相手は泥まみれになっておれとはしゃいでいた。

 

面会をすっぽかされ腹を立てていた親父は、女のことを無視して立ち去ろうとしたが

胸に抱きあげたおれが女と一緒につくった「泥のケーキ」を欲しがったらしい。

 

 

おれは遊んだ記憶もねえし、泥のケーキを欲しがったなんて嘘みてえな話だけどな。

 

 

親父が女から泥のケーキを受け取るとおれは手を叩いて大喜びし、笑うおれを見て

泥だらけの女も幸せそうに笑った。

 

 

「息子と遊んで楽しかったなら、明日からも好きな時間に城へ来て遊ぶといい」

 

おれたちが嬉しそうに笑い合うのを見て、親父は女にそう告げた。

 

 

 

「なぁ、話の続きを聞かせてくれよ」

 

おれはワインを持ってきて2人分グラスに注ぎながらばあさんに話の続きを促した。

 

 

「あら、気が利くねえ」

 

ばあさんは喜んでワイングラスを手に取ると、グイッと飲んで再び話し始めた。

 

 

 

翌日、女は城にやって来た。

 

 

「そのときの服装ったらひどいんだよ。旦那様に『子どもと遊べる服で来なさい』

 言われたのは確かだけどさ、野良仕事に行くような格好で来るんだもの」

 

ばあさんはくくくっと笑った。

 

 

野良着のような格好で現れた女は、それから毎日欠かさず弾むように城にやって来て

おれとまた庭で泥遊びをしたり、絵の具でドロドロになりながら絵を描いたり

おれと一緒に歌ったりして遊んでいた。

 

 

「良家のお嬢さんにしては気さくな人でね、私たちにも親しく話しかけてくれるし

 坊ちゃまとは毎日とても仲良く楽しそうに遊んでいるし、いつしか使用人たちは

 みんなあのお嬢さんのことを好きになっていたよ。本当にイイ人だってね」

 

 

おれのおふくろが亡くなってから、光が消えたように暗くなっていたサマルトリア城も

女が来るようになって一気に明るさを取り戻し、おれと女が楽しそう笑い合う声が

いつも城内に響くようになった。

 

 

「でも、旦那様がどういう理由でお嬢さんを城に招くようになったのか。その時点では

 旦那様のお気持ちがわからなかったんだよ。一時的な坊ちゃまの遊び相手なのか、

 未来の王妃様になる予定があるのかがね... なかなかハッキリしなかったんだよ」

 

 

女は良家の令嬢なだけあって、長期間にわたっておれの遊び相手だけさせるというのは

現実的には難しい話だった。

 

皇太子の世話をするのは侍女の中でも地位の高い奴らだけに与えられた特権だったが

所詮は侍女... 使用人だ。この女のような身分の高い者がやることじゃねえ。

 

王妃になるのであれば城に残れるが、親父がこの女を王妃にするつもりがなければ

城に出入りするのは一時的なこと。おれが成長すれば、もう来なくなるだろう。

 

 

使用人たちは、明るくて気さくで優しい女がいつか来なくなるんじゃないかと嘆いた。

なんとか王妃になって欲しいと願った。

 

ばあさんは使用人たちから「親父は女をどう思っているのか」探るように頼まれたが

ばあさんが注意深く観察しても、親父の気持ちはよくわからなかったらしい。

 

 

親父は女が城に毎日やって来るのを目にしても、特に気にする素振りは見せなかった。

 

おれと女が楽しそうに笑っている声が親父のいる場所にも響いていたが、喜ぶでもなく

不快そうでもなく淡々としていた。

 

 

歓迎もしないが、拒みもしない。

 

一貫して女に対しては放任で無関心に思えた親父だったが、しばらくするとそんな

親父の態度にも徐々に変化が出てきた。

 

 

ある日、侍女がおれに出すおやつの準備をはじめると、親父は小さな声でぽつりと

「2人分出してやれ」と言い出した。

 

 

侍女が2人分のおやつを持っておれたちのところへ来ると、おれと遊んでいた女は

おれ以上に大はしゃぎで喜んだ。

 

侍女が親父に「お嬢さんは2人分のおやつを大変喜んでいました」と報告すると

「今後、カインに出すおやつは2人分にしろ」と王様からの正式な命令がくだった。

 

 

おやつの1件を境に、親父からは「美味い新茶が手に入ったから飲ませてやれ」だの

「旬の果物が献上されたから、あいつらに食べさせてやってくれ」などと次々に

命じられるようになった。

 

 

親父から贈られてくる数々の食い物の中には、まだ幼いおれには刺激が強すぎて

食えなかったり飲めないものもあった。

 

ばあさんが「これは… 坊ちゃまが召し上がるにはちょっと…」と親父に告げると

親父は「ふんっ。カインが無理でも、もう1人の奴が食えばいいだろう」と言って

そのまま持っていかせた。

 

 

女は親父からの贈り物がどんなものでも、いつも嬉しそうに歓声をあげて喜んでいた。

 

 

毎日たくさんのものが贈られてくるので、女は親父に礼を言いに来るようになった。

 

最初はおれと一緒だったが、おれが昼寝していたりぐずったりして行けないときは

女1人でも親父に会いに行くようになった。

 

 

最初の頃、親父は女が会いに来て礼を述べても、ほとんど表情を変えずに黙っていた。

 

 

だが、何日も経つと

 

「どれが美味かった?」

「何が気に入った?」

 

礼を言う女に親父はぽつりぽつりと尋ねるようになり、女が気に入ったものを率先して

贈るようになっていった。

 

 

「極めつけは服だね」

 

ばあさんはワイングラスをテーブルの上でぐるぐる回しながらふふふっと笑った。

 

 

「坊ちゃまは成長期ですぐに大きくなるからね。身体に合った服を新調する機会が

 すごく多かったんだよ。あるとき、坊ちゃまの服を仕立てる話を聞いた旦那様は

 『カインの服を仕立てるついでに、あいつにも作ってやれ』って言い出したんだよ。

 大人の服を仕立てるついでに赤ん坊の服も一緒に作るってのはまぁ、わかるけどさ。

 赤ん坊の服のついでにお嬢さんの服も作るなんて、私は初めて聞いたわよ」

 

ばあさんはクスクス笑っている。

 

 

親父は「可愛い愛する息子にはなんでも惜しみなく与えてやる」という建前を使い

実際は女への贈り物を続けた。

 

あくまでも「息子にあげるついでに、息子の遊び相手にも与える」という名目で。

 

 

「いつからそうだったのかは不明だけど、旦那様もお嬢さんを気に入ってたんだね。

 大臣たちにあれだけ固辞したこともあって、表向きは素っ気なく見せてたけどね。

 そんな旦那様にとって、坊ちゃまの存在はありがたかったと思うよ。旦那様から

 お嬢さんに対して積極的に行動するのは照れ臭いけど、坊ちゃまを言い訳に使えば

 いろいろしてあげられたもの。坊ちゃまはいい『ダシ』だよね

 

 

「なんだと? おれがダシだと?」

 

おれは抗議の声をあげたが、ばあさんはご機嫌でふふふと笑い続けている。

 

 

ばあさんめ!

ワインで酔ったんだな。

 

まぁ、いっか。

気分も良さそうだし許してやるぜ。

 

 

 

「ところで、親父は王妃を気に入ったみてえだけど、王妃の方はどうだったんだ?

 あいつは見合いをすっぽかしたんだろ? それほど気持ちはなかったんじゃねえか?」

 

おれはご機嫌なばあさんに尋ねた。

 

 

ばあさんは笑いながら人差し指を立てて、おれの前で何度も横に振った。

 

 

「奥様は初めて旦那様を見た瞬間に、もうひとめぼれしてたらしいよ。坊ちゃまに

 よく似た面差しの精悍なお顔も、たくましい身体つきも、坊ちゃまを抱き上げて

 微笑みかけた優しいまなざしも、すべてに心がときめいたんだってさ。そして

 奥様が差し出した泥のケーキを、旦那様が黙って受け取ってくれたたときはもう

 天にも昇る気持ちだったらしいよ」

 

ばあさんは楽しそうに笑う。

 

 

本当は女のことを無視する気だったのに、おれが泥のケーキを欲しがったから親父は

渋々受け取っただけなのにな。

 

王妃にとってはそれっぽっちのことが惚れてしまうほど嬉しかったってわけか。

 

 

「カインに作るついでだから」と言い訳して服を仕立ててやった後も、親父はおれを

「ダシ」に女に贈り物を続け、礼を言いに来た女と会話を交わすことを続けた。

 

 

2人の会話がだんだん増えてくるにつれて、親父は「カインが喜ぶから」と言って

女を夕食の席に招いて3人で食事をとったり「カインが行きたがっている」と言って

3人で城の外に出かけるようになった。

 

 

へんっ! おれがガキでろくに口もきけねえからって、いいように使ってくれたよな!

親父め、おれを本当にダシにしやがって!

 


この頃になると、使用人たちも「あの人が王妃様に?」と期待するようになっていた。

 

女に贈り物が贈られるたび、女が王様にお礼のあいさつに出向くたび、使用人たちは

ウキウキした様子で2人を眺めていた。

 

 

ばあさんは色めき立つ使用人をいさめた。

 

「変に騒いで旦那様がへそを曲げては大変よ。2人のことは成り行きにまかせて、

 私たちは静かに見守りましょう」と。

 

 

だが、ばあさんも内心では期待していた。

 

明るくて気さくで誰にでも優しく、なによりおれとここまで打ち解けて仲良くなれる

女が王妃になってくれたら、サマルトリアはこれからますます発展していくだろうと

ばあさんには確信があったからだ。

 


ただ、親しくなってきたとはいえ親父の女に対する態度はまだ「おれと3人で食事」

「おれと3人で外出」「おれにあげるついでの贈り物」の域を出ていなかった。

 

明らかな目に見える進展がない限り、過度に期待するのは時期尚早だと考えていた。

 

 

ばあさんたち使用人は、ヤキモキしながらも静かに王様と女の進展を見守っていた。

 

そして、我慢して待っていた甲斐あって、ついに「そのとき」がやってきた!

 

 

 

 

前回終わりで「2人はどうやって恋に発展したのか?」みたいなことを書きながら

パパがいつ恋したのかわからない... (;'∀')

 

おそらく徐々に… でしょうね (*´ω`*)

弾むように軽やかに城へとやって来る姿、カインと接するときの笑顔、聞こえてくる

楽しそうな笑い声… 愛する妻を亡くして凍てついていたパパの心をゆっくりゆっくりと

あたためていったんでしょうね (≧∇≦)♡

(知らんけど ( *´艸`))

 

 

そして、恋に落ちたパパからのなんとも不器用なアプローチ (;´∀`)

 

大臣たちに「妃なんて娶らん!」と言っちゃった手前、恥ずかしかったかな ( *´艸`)?

『息子の遊び役』として招いたのに、心惹かれちゃって照れ臭かったのかな ( *´艸`)?

 

 

「カインのついでだもん!」と言い張って、毎日せっせと贈り物をするパパ (*´ω`*)

「だって一緒だとカインが喜ぶんだもん!」と言ってデートに誘うパパ (*´ω`*)

 

アピールのためカインを「ダシ」に使う、パパの不器用さが可愛いですね☆

(そして、パパのこの不器用さはしっかりと息子に受け継がれているような... (;´∀`))

 

 

さて、なかなかハッキリした進展がなくて使用人たちをヤキモキさせるパパの恋。

ようやく動きがあるみたいですよ (^_-)-☆

 

何が起きるんでしょうか?

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ