ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 161】 不慮の事故

おれの補佐役を任されたモルディウスにねちねち余計な小言を言われねえように

親父たちが出かけてから、おれは連日のように執務室にこもって国政の勉強を続けた。

 

そして、親父と王妃がテパの村へ旅行に行ってから4日目の朝を迎えた。

 

 

この日は、サマルトリア緑の騎士団の訓練兵たちが休みになる日だ。

おれは顔なじみの兵士にムーンペタへ行ってナナに手紙を渡してもらうよう頼んだ。

 

 

おれは朝から謁見の間に入り、いつもは親父が座る玉座の座り心地を確かめた。

ナナがサマルトリア城にやって来たら、ここで玉座に座って出迎えてやるつもりだ。

 

 

「ちょっと、なにしてんのよ!」

 

玉座に座っているおれを見たら、ナナはきっと驚きの声をあげるに違いない。

ビックリしながらおれを見つめるナナの顔を想像すると自然と笑みがこぼれる。

 

 

「ティアは勇者の泉に行ったぜ。

 おまえがサマルトリアに来たときに、詳しい話を聞かせてやるよ!」

 

おれが兵士に託したこんな手紙を見たら、ナナは「どういうことよ!」と血相を変えて

城に乗り込んでくるに違いない。

 

おれは「ナナが来た」という知らせを玉座の上で今か今かと待ち続けた。

 

 

朝のうちに手紙を受け取って、遅くても昼すぎにはナナはやってくるだろう。

 

...... そう思って手紙を託したのにな。

 

 

昼になるというのにナナはまだ来ない...

 

...... なぜだ?

 

 

もしかしたら訓練兵のあいつがおれからの依頼を無視しやがったか?

 

おれは休日に若い訓練兵が集まってくつろぐ娯楽室に行ってみたが、奴の姿はない。

娯楽室にいた連中に話を聞いても「朝早くから出かけた」と口をそろえて言う。

 

 

ナナに手紙が渡っているのは間違いない。

 

なのに... なぜ来ない?

 

おれは重い足取りで娯楽室から謁見の間に戻り、じりじりした思いで知らせを待った。

 

 

 

「こんな手紙を見ても、誘われてると気づかずに『ふーん』で終わっちゃいません?」

 

サンチョの言葉が脳裏によみがえる。

 

 

あのとき、おれは「ナナなら絶対に来る!」とサンチョに言い返したが、もしかして

サンチョの言い分が正しかったのか?

 

おれの想定は間違っていたのか?

もし、サンチョの言うように本当にナナが来ないなら、朝からずっとそわそわしながら

待っているおれは馬鹿みてえだ......

 

おれは「ナナが来る」と信じて浮かれていた自分を呪いたくなるような気持ちで

ゆっくりと玉座に腰を下ろした。

 

 

その瞬間!

 

「ナナ姫様がいらっしゃいました~!」

 

正門から大きな声が響いてくる。

 

 

心臓が跳ね上がりそうになった。

はやる気持ちを抑え大きく息をつくと、おれはどっしりと玉座に座り直した。

 

 

おれに会いに来たのに門番から『謁見の間』に通されて不審に思ったのだろう。

ナナはおどおどとした表情で中の様子を探るように謁見の間に入ってきた。

 

玉座に座るおれを見てナナは目を丸くする。

 

 

「ちょっと! あんた、なにしてんのよ」

 

ナナは驚いた顔で玉座に駆け寄ってきた。

 

 

ナナが想像通りの反応を見せて、おれもようやく気持ちが落ち着いてきた。

 

 

「へへっ! なにって... おれ様は今、国王の代理としてここで来賓を迎えてんだよ」

 

おれはふんぞり返るように玉座に座り直す。

 

 

「国王の... 代理? どういうことよ? それにティアちゃんが勇者の泉に行ったって?

 あんたが行けって言ったの? もうっ、いったいなにがどうなってんのよ?」

 

玉座の前をふさぐように立ったナナは、おれの肩をつかんで矢継ぎ早に質問してきた。

 

 

「まぁ、落ち着けよ。ちゃんと順を追って話してやるから、とりあえず座れよ」

 

おれは王妃が座る玉座を指さした。

 

 

「えっ! ... い、いいの?」

 

ナナは戸惑いの視線を向ける。

 

 

「へっ、今はおれが国王の代理だって言ってんだろ? 問題ねえから座れよ」

 

おれがあごでしゃくると、ナナはおどおどしながらもおれの隣に腰を下ろした。

 

 

おれはこれまでの経緯を話す。

 

まずはティアがティメラウスに「武闘家の素質がある」と言われたのが事の発端だ。

ティアはすっかりその気になって、武闘家になるための稽古を始めた。

 

ちょうどそのとき、サマルトリア緑の騎士団に新しくクリフトという少年が入った。

クリフトは勇者の泉に行って身を清めてくることになり、その話を聞いたティアが

「クリフトの護衛」「武闘家としての腕試し」と称してついて行くことになった。

 

さすがに2人だと危ねえから、ティメラウスとリオスがその旅に同行することになり

ティアたち4人がいなくなると、にぎやかなサマルトリア城は静かになった。

 

王妃は初めて娘と離れ離れになったことを寂しがり、親父は2人での旅行を提案した。

「めったに行けないような場所に行きたい」という王妃の希望を受け入れて、2人は

テパの村へ旅行に行くことになり、2人の旅行中はおれが国王の代理を任された。

 

 

「...... ってわけだ」

 

おれが話し終えるとナナは「そうだったのね」と言い、安堵の表情を浮かべた。

 

 

「ティアちゃんが武闘家になるための稽古をしていることも知らなかったのよ。急に

 勇者の泉に行ったなんて聞かされたんだもん、ビックリしたわ。サマルトリアでは

 古来から勇者の泉で身を清めるならわしがあるってあたしも聞いたことあったけど、

 ティアちゃんは女の子なのに関係なく行かされるものなのかしらって思ってね」

 

話を聞いて緊張がほぐれたのか、ナナはふぅ~と息を吐いて背もたれに寄りかかった。

 

 

「ところでよ、どうだ? 玉座に座るおれってなかなかサマになってるだろ?」

 

おれはナナに向けて胸を張ってみせた。

 

 

「ふふっ。う~ん... そうねえ...」

 

ナナは立ちあがると、あごに手を当てていたずらっぽい視線でおれを観察してくる。

 

 

「ちょっと威厳が足りない感じね」

 

ナナは楽しそうにふふふっと笑う。

 

 

「なんだと?! おまえ、王子には『似合ってるわよ』って言ってたじゃねえか!

 おれと王子のなにが違うんだよ」

 

おれはカチンときて立ち上がった。

 

 

「王子は身体がたくましいでしょ? あんたのお父様もそう。体格が立派じゃないと

 玉座は似合わないんじゃないかしら?」

 

ナナはおれの身体を眺めまわしてくる。

 

 

「なんだよ、おれが貧弱だって言いてえのか? おれはおまえをずっとおぶったまま

 泳いだり敵と戦ったこともあるんだぜ?」

 

貧弱みたいに言われたら黙っちゃいられねえ! おれはむきになって反論した。

 

 

「え? そんなことあった?」

 

ナナはきょとんとした顔をする。

 

 

「あぁ。王子が商人... に化けた妖術師のくそ野郎にだまされて、海に沈没船の財宝を

 探しに行ったことがあっただろ?」

 

 

「リーナちゃんのお父さんの船よね?」

 

ナナも思い出したようにうなずく。

 

 

「あのとき、水中で溺れて死..... 気絶したおまえを背負って、クラーゴンやマーマンと

 戦い、その後おれはおまえを背負って船縁をよじ登り、王子と合流したんだよ」

 

さすがに「溺れて死んだ」とは言えねえからな。おれはとっさに言い換えた。

 

 

「あのときはあたしたちがリーナちゃんのお父さんを捜して、王子は偽商人の依頼で

 船の財宝を引き上げるからって言って別行動していたのよね。それは覚えているわ。

 でも、あたしがあんたに背負われたってホント? 気絶してたから覚えてないわよ。

 あんた、あたしが覚えてないからって適当にでっち上げてるんじゃない?」

 

ナナは小馬鹿にしたように笑った。

 

 

「なんだと?! 見てろよ!」

 

嘘つき呼ばわりされて完全に頭に来た。

 

 

おれはナナの肩と膝の裏に腕をまわし、ナナをひょいっと抱えあげた。

 

 

「へんっ! どうだ!」

 

おれは腕に抱えたナナを見る。

 

 

ナナは真っ赤な顔をして、驚いたように目を見開いて硬直していた。

 

腕に抱いたナナの顔が思っていたよりもすぐ近くにあって、おれは思わずうろたえた。

かぁっと顔が紅潮して、全身から一気に汗が噴き出してくる。

 

 

「もう、わかったから下ろして!」

 

おれと目が合ったナナはさらに顔を赤くして、足をばたつかせて下ろせと訴えた。

 

 

「うわっ、バカ! 暴れるんじゃねえ!」

 

手にも汗がにじんでいてただでさえ滑るっていうのに、ここでさらにナナにバタバタ

暴れられるのはかなわねえ!

 

手が滑ってナナを床に落としそうになる。

それだけはなんとしても避けねえと!

 

 

おれは上体を出来るだけ曲げ、腕を限界まで伸ばしてナナを落とさないよう努めた。

足はしょうがないとしても、頭を床に打ちつけないように守ってやらねえとな!

 

限界ギリギリまで支えたおかげで、ナナの頭はぶつけることなく床の上に下ろした。

だが、おれ自身は体勢を崩して倒れ込む。

 

 

このまま倒れたらナナに頭突きする!

おれはとっさにあごを突き出して頭突きを回避し、そのままナナの上に倒れ込んだ。

 

 

頭突きを回避できたのは良かったが、口は「なにか」にぶつかった!

 

 

「!!!」

 

おれは慌てて床に手をついて身体を起こすと、すぐにナナから離れた。

心臓が激しく拍動している。

 

 

ナナもすぐ起き上がっておれから離れた。

 

横目でチラッとナナの様子を見ると、ビックリした顔をして唇に手を当てている。

 

 

「.... ぉ、お、おまえが悪いんだぞ! ... ぃ、い、いきなり暴れたりするんだからよ!」

 

おれは声を張り上げた。動揺のあまり、声が上ずっているのが自分でもわかる。

 

 

「.... な、なによ、あれぐらいのことで。ちょっと足を動かしただけじゃない。王子は

 あたしを抱えたまま空を飛んでもへっちゃらでビクともしなかったわよ!」

 

ナナが言い返してくる。

 

 

ナナの言葉はおれの心にぐさりと刺さった。

 

そうだ。王子はナナを抱えたまま空を飛んだり、片腕で引き上げたりして平気だった。

おれはちょっと足をバタつかせただけで落っことしそうになるなんてよ、情けねえ...

 

 

「けっ、なんだよ。悪かったな。どうせおれは貧弱ですよ、だ」

 

おれはぷいっとナナに背を向けた。

 

 

心は王子に負けた悔しさでいっぱいだった。

 

 

カサカサと微かに衣擦れの音がしたかと思うと、ナナがおれの目の前に現われた。

 

 

「そんなことないわよ....。気を悪くしたのね、ごめんなさい。あんたが貧弱だなんて

 あたし、これっぽっちも思ってないわ。あたしを軽々と抱えあげたのは事実だもの。

 勝手に下ろしてって暴れたあたしが悪かったのよ。本当にごめんなさい....」

 

ナナはおれの右手を両手で握ってきた。おれを見上げる瞳に涙がにじんでいる。

 

 

おれはナナの顔を見ないようにして、ゆっくりとナナの手を離していった。

 

くそっ、指先が震えている。

 

 

「別に気にしてねえよ。それより... 床に落ちて怪我はなかったか?」

 

「あたしは平気よ。カインは?」

 

ナナに聞かれ「なんともねえよ」と腕をまわそうとして肩に激しい痛みを感じた。

 

 

「痛て!」

 

思わず叫んで肩を押さえる。どうやら腕を限界まで伸ばしたときに痛めたようだ。

 

 

おれが叫ぶのを聞いた瞬間、ナナは素早くベホマの呪文を唱えた。

肩が温かくなり痛みが引いていく。

 

 

「へっ。おまえってさ、癒しの呪文を唱える素早さはさすがだよな」

 

おれは痛みが引いて自由に動くようになった肩を回し、からかい口調で言った。

 

 

「どうせあたしは傷なおし屋さんよ」

 

ナナはペーッと舌を出してくる。

 

 

おれは笑ってナナの顔を見たが、舌を見るついでに唇も見てしまった。

顔が熱くなり心臓が早鐘のように鳴り出して、おれは慌てて視線をそらした。

 

 

ついつい相手の唇を見てしまうのは、おれだけじゃなくナナも同じようだ。

 

ペーッと舌を出したナナの視線がおれの顔をとらえ、そこから目線は下に降りて

口のあたりをさまよい、恥ずかしそうに慌てて逸らされるのが目の端に映る。

 

 

くそっ! 気まずいぜ。

こんなとき、どうすりゃいいんだ?

 

おれたちはそのまましばらく黙り込んでいたが、おれはふとあることを思い出した。

 

 

「なぁ、ちょっとここで待っててくれよ」

 

ナナにひと声かけると、おれは立ち上がり急いで謁見の間を飛び出した。

 

 

 

 

私が子どもの頃に読んでいた少女マンガではこんな展開がよくありました (・∀・)☆

 

転んだ拍子にチュ♡

振り向いた瞬間にチュ♡

 

そんなに上手く唇が重なる~? と思いつつ、私もベタな展開に乗りました ( *´艸`)

 

 

お姫さま抱っこから落っことして顔が重なるのはかなり無理がありそうだったので

足は諦めて頭を守るのに全力を尽くした結果、顔が重なったことにしましたよ (^_-)-☆

 

 

ちなみに余談ですが、お姫さま抱っこをするきっかけになったカインの話。

 

私は王子が「リーナのお父さんを捜す」「商人の積み荷を引き上げる」かの分岐で

「商人...」を選ぶと『ナナの遺体を背負ったカインと合流』になると思っていましたが

ゲームブックを読み返すと「商人の積み荷」を選んだとしても、カイン&ナナと途中で

合流する機会は何度もあるんですね☆

 

合流するチャンスを逃しながら ( *´艸`)、王子が1人で最後まで生き残ったときにだけ

『ナナの遺体を背負ったカインと合流』になりました(記憶力って曖昧よね... (;´∀`))

 

なので、カインがナナの遺体を背負いながらクラーゴンたちと戦い、ナナを背負って

船縁をよじ登り王子と合流するのは、かなりのレアケースになるんですが ( *´艸`)

レアケースが起きたと想定しないと話が始まらないので、このまま進めました (;´∀`)

 

 

さて。不慮の事故でチュウしちゃって、なんだか気まずい様子のカインとナナ (;´∀`)

 

カインは「あること」を思い出して部屋を飛び出していきましたが、果たしてカインは

なにを思い出したんでしょう?

 

 

 

次回もお楽しみに〜 ヾ(*´∀`*)ノ