「いい友達になれそうだったハーゴンがあんなことになって、わしが友達と呼べるのは
もうおちびさんたちしかいないんだ...」と寂しそうにつぶやく竜王のおっさんを見て
おれは「おれたち3人があんたの本物の心の友になってやるよ」と約束してやった。
竜王のひまごに「今度は3人で会いに来る」と誓い、リレミトとルーラを駆使して
おれはサマルトリアに帰って来たのだが、城下町の異様な空気に立ち止まった。
普段は、城下町の住民たちやサマルトリアを訪れた奴らで賑やかな町の通りには
各所に緑色の鎧に身を包んだ「サマルトリア緑の騎士団」の兵士が立ち、全体が
物々しい空気に包まれている。
「カイン殿下だ! カイン殿下が帰ってきたよ!」
城下町の入口付近にある民家の窓からおれを見つけたガキが、大声で叫んでくる。
「カイン殿下!!」
城下町の門扉の前で、難しい顔をして兵士たちと語り合っていた重装備の男が
おれのそばに駆け寄ってくる。
おれのもとに急いで走って来たのはサマルトリア緑の騎士団の中隊長であり、次の
騎士団長候補ナンバーワンと呼び声の高い「ライアン」だった。
鎧の色も違うし、装備も重装備ではないですが... (;´∀`)
おれがライアンに「これは何の騒ぎだ?」と尋ねると、ライアンはおどおどしつつ
申し訳なさそうに口を開いた。
竜王のおっさんにつかまえられておれが上空に舞い上がったとき、口をポカンと開けた
マヌケ面でおれを見ていたモルディウスが、おれが飛び去った途端に「カイン殿下が
竜王にさらわれた」と大騒ぎしたらしい。
モルディウスは「カイン殿下が竜王にさらわれたのは、殿下の身を案じることなく
『撤退』と聞いてノコノコ兵を引いたおまえたちのせいだ!」と自分のことは
棚に上げて中隊長たちを責めたようだ。
クソ真面目なライアンは、モルディウスの言葉を真に受けてすっかり落ち込んでいる。
モルディウスの野郎め!
人に厳しく自分に甘い奴だな!
おれが竜王のおっさんに連れ去られたことでモルディウスの馬鹿が責任転嫁して
部下であるライアンがとばっちりで叱られたのは理解できたが、それにしても
城下町の物々しい雰囲気はなんだ?
「おれが竜王のおっさんにさらわれたからって、なんでおまえたちが外にいるんだ?」
おれが尋ねると、中隊長は「えっと... それは...」と言いづらそうに口ごもった。
「なんだよ? 言ってみろよ」
おれが話を促すと、ライアンは「モルディウス卿が『カイン殿下を連れ去った竜王は
カイン殿下を殺した後、サマルトリアへ攻めてくるかもしれないから、おまえたちが
城下町を警備しろ』と私の部隊に命じられまして...」と小さな声で言ってきた。
おれを殺して、おっさんがサマルトリアを攻めてくる?
モルディウス! おれのことを勝手に殺すんじゃねえ!
おれは自分の無責任さを棚に上げて好き勝手に言うモルディウスを怒鳴りつけようと
「モルディウスはどこだ?」とライアンに尋ねると、ライアンは「今頃は城の中で
カイン殿下をどうやって救い出すか、王様と協議中です」などと言ってくる。
あの馬鹿!!
責任転嫁だけじゃねえのか?
親父まで巻き込んで大騒ぎするんじゃねえよ!
モルディウスの馬鹿のせいで、城に戻ったら面倒なことになりそうだとおれが内心
ため息をついていると、城下町からまた大きな声が響いてきた。
「カイン殿下ぁ! カイン殿下は自分を連れ去ったあの
悪い竜をやっつけて帰ってきたんでしょ?」
おれを見つけたガキが叫んでくる。
おれが問いに答える前に、ガキの声を聞いた城下町の連中がガヤガヤと騒ぎだす。
町の声をまとめると「ハーゴンを倒したおれ様なら、竜王のひまごぐらい簡単に
倒せるだろう」というものだった。
へへっ、いいぞ!
「で... 殿下は本当に竜王を?」
驚いた顔でおれに尋ねてくるライアンを見て、おれはこの話に乗ることにした。
「竜王のおっさんを殺してはいないが、2度とサマルトリアの人々を怖がらせないと
おっさんに固く誓わせた」と伝える。
べ... 別に間違ってねえぜ?
竜王のおっさんに「口は災いの元」だとおれ様が教えてやったのは事実だからな!
「カイン殿下は竜を懲らしめたんだ! すごい、すごい、
さすが勇者だね!」
ガキは嬉しそうにはしゃぎ、おれの言葉をすっかり信じ込んだ中隊長のライアンは
「カイン殿下、万歳! サマルトリア、万歳!」と万歳する。
中隊長が万歳を始めたことで、部下の兵士も隊長に続けて万歳し、城下町の奴らも
騎士たちに合わせて万歳する。
拍手と大歓声がおれをつつんだ。
竜王のひまごをいとも簡単に懲らしめたカイン殿下が
サマルトリアに凱旋したってか! へへっ、いいな!
最高の気分だぜ!!
おれは自分を讃える拍手と大歓声を浴びながら、城に向けて悠々と歩き始めた。
「おにいちゃーーん」
城の方から大声がして、妹のティアがこっちに向かって手を振りながら走ってきた。
ティアの後ろからは「ぜぇ、ぜぇ..」と息を切らしながらティメラウスが続き、さらに
背後にはもう走るのをやめてのろのろと歩いてくる大盗賊・リオスの姿も見える。
勢いよく走ってきたティアは、そのままおれの腹にドンと飛び込んでくる。
「無事だったのね! 連れ去られたと聞いて、あたしすごく心配したのよ」
ティアはおれの腹に腕を回し、抱きついたまま顔を上げて顔をのぞき込んでくる。
「バーカ。おれが死ぬわけねえだろ? それにおれをさらったのは竜王のおっさんだ。
あいつがおれになんかするわけねえだろ」
おれはふふんと鼻で笑った。
「そうでしょ! あたしも最初はそう思ったのよ。おにいちゃんを連れ去ったのが
竜王のおじちゃんだと聞いて、あの明るくてみんなに優しい竜王のおじちゃんが
おにいちゃんに悪さするなんて絶対にありえない って言ったのよ。でも
モルディウスが....」
ティアの口からも「モルディウス」の名前が出てきておれは大きくため息をついた。
「ちっ! またかよ? おまえにもまた、あの馬鹿が余計なこと言ったのか?」
おれがあきれた口調で言うと、ティアは不服そうに口をとがらせて大きくうなずいた。
「モルディウスはふんぞり返ってあたしの前にやって来て『サマルトリアを守るため
今から姫の身の安全を確保する』とかなんとかごちゃごちゃ言って、あたしを
部屋に閉じ込めたのよ!」
ティアは抗議の声をあげる。
「はぁ? おまえを部屋に閉じ込めた? なんでだ? サマルトリアを守るためだと?」
意味がわからず、おれは首をかしげた。
「おにいちゃんが竜王のおじちゃんに殺されたら、その後
サマルトリアを継ぐのはあたししかいないからって、部屋に閉じ込めたの!」
ティアはぷんぷんしながら言う。
よっぽどおれに死んで欲しいのかよ、モルディウスめ!
おれは小さく舌打ちする。
「ひどいでしょ? あたしはサマルトリアのお姫さまなのに、部屋に閉じ込められて
部屋の前には門番がいて、ちょっと外に出ようとしたら槍で行く手をふさいで
あたしの邪魔をするのよ。これじゃ、まるで囚人じゃない! 失礼しちゃうわ!」
ティアはかなり立腹してわめいている。
おや? 待てよ?
おれもティアもモルディウスに腹を立てているが、怒りの中身は違わねえか?
おれが腹を立ててるのは、モルディウスの馬鹿野郎が『おれが竜王のおっさんに
殺される』という前提で話してることだ。
ティアもぷんぷん怒っているが、それは自分が閉じ込められたからじゃねえか?
こいつ『おれが殺される』と言われたことには大して怒ってねえよな?
まさか、ティアの野郎!
おれが殺されたら、サマルトリアの後継者は自分だと喜んでるんじゃねえだろうな!
「なぁ、おまえ。モルディウスが『カイン殿下が殺されたら…』と言ったことには
特になんとも思ってねえだろ? おれが死んだら自分が女王になれると、内心では
ほくそ笑んでたんじゃねえか?」
おれがティアをギロリとにらむと、ティアはギクリとした様子で動きを止めた。
「お…おにいちゃんったら。そ、そんなわけないでしょ?
おにいちゃんが殺されるかも… だなんて、ぜ... 絶対
ゆ、許される話じゃないわ! サマルトリアの未来を
考えたからだとしても…そ、そんなこと言うだなんて
も… モルディウスのことは許せないわよね! そ、
そうよ、モルディウスの発言は絶対に許せないわ!」
ティアは顔を真っ赤にして言ってくる。
「グハハハハ。人間というものは図星を突かれると動揺して大きな声を出すものじゃ」
竜王のおっさんにナナが好きだとバレたときのおっさんの言葉が脳裏によみがえる。
「... どうだかな?」
おれは小さく舌打ちしてティアを見下ろす。
けっ、ティアの態度は図星を突かれたときの行動そのままじゃねえかよ!
「ひどいわ、おにいちゃん! おにいちゃんが元気に帰ってきて、あたしはこんなに
喜んでるのに! おにいちゃんが帰って来たと聞いて、あたしはここまで全速力で
走ってきたのよ? おにいちゃんもあたしが走って来るの見てたでしょ?
ねぇ、おにいちゃん。あたしを信じて」
ティアはおれの腰に腕を回し、小首をかしげ甘えるような視線でおれを見上げてくる。
ちっ、しょうがねえか…
「おれが死んだら、自分が女王になれると思ったんじゃねえか?」と聞いたときの
激しい動揺っぷりはあやしいが、おれが帰って来たと聞いて、こいつがここまで
急いで走ってきたのは事実だからな。
まぁ、許してやるか…
「それで? おまえはどうやって外へ出たんだ? 閉じ込められたんだろ?」
おれはティアに尋ねた。
「モルディウスの手下に部屋に閉じ込められる前に、お父様に話しておいたのよ。
おにいちゃんを連れ去った竜はとても優しいおじちゃんであたしやリーナちゃんを
空中散歩に連れて行ってくれた竜だから、おにいちゃんに悪さなんてしないって。
お父様も『それはわかっておる。ただ、城下町で堂々と皇太子がさらわれた以上
知らんぷりは出来ない。城の奴らをなだめるためにもしばらく我慢してくれ』と
あたしを説得してきたの。だから仕方なく部屋に入って、どうやって外に出ようか
1人で必死に考えたのよ、ふふふ」
ティアはおれを見上げて言ってくる。
「で、どうしたんだよ?」
おれはイライラしながら尋ねた。
妹のもったいぶった話し方が鼻につくぜ!
「うふふっ、あたしってやっぱり天才よね! 1人じゃダメでも、サマルトリア最強の
護衛をつければ、外に出られるわって気づいたのよ! だって、お父様はあたしを
部屋に閉じ込めておきたいわけじゃないんだもの。あたしが外に出る口実さえあれば
すぐに出してくれるって思ったの!」
ティアはふふんと得意気に鼻を鳴らす。
「あぁ、それでこいつが...」
おれは追いついてきてティアの背後に立つティメラウスに目を向ける。
ティメラウスは苦笑いして会釈してきた。
「『ティメラウスを護衛につけるから、とりあえず部屋からは出して』ってお願いして
お父様が許可してくれて、部屋の外までは出られるようになったのよ。それで
おにいちゃんがさらわれたときどんな状況だったのか話を聞きたくて、城門にいる
門番に会いに行こうとしてたの。そしたら、馬に乗った兵士が来て『カイン殿下が
無事に戻られました』って言うから、あたし急いでここまで走って来たのよ」
ティアはえへんと胸を張った。
そういえば、おれが帰ったのを見つけて、中隊長のライアンが城下町の門扉から
駆け寄って来たとき、門扉にいた別の兵士が近くの男に命令を出し、その若い男は
馬に乗って急いで城へと戻って行った。
ティアが城門に向かう途中で会ったというのが、その兵士なんだろう。
ということは...
今頃は親父たちにもおれが無事に帰ってきたという連絡は入ってるんだろうな。
おれが竜王に殺されたら... とあらゆる場で吹聴してきたモルディウスの馬鹿野郎は
おれが傷ひとつなく無事に帰ってきたと聞いてどんな顔をしたんだろうな!
親父の前でせいぜい恥をかくがいいぜ! 大馬鹿野郎め!
「おにいちゃんが帰って来たと聞いたら、お父様はきっと迎えの者を寄越すわよ。
変な奴が迎えに来る前に帰ろうよ!」
ティアがおれの腕をつかんでくる。
おれが殺される前提で王様に進言し、恥をかいたモルディウスの大馬鹿野郎が
汚名返上のため「私がカイン殿下をお迎えにまいります」と言い出す可能性は高い。
てめえの頭ん中で何度もおれを勝手に死なせたくせに
汚名返上なんて簡単にはさせてやらねえぞ!!
ティアの言うとおり、あの馬鹿に慇懃無礼な態度でうやうやしく出迎えられる前に
さっさと帰ってやった方が良さそうだな。
「そうだな。とっとと帰ろうぜ」
おれはティアやティメラウスと一緒に城へと向かって歩き始めた。
まだ城に戻れてない… (;´∀`)
城に戻る前のひと悶着でした~☆
「皇太子がさらわれて命の保証はない」となれば、姫君の命を守ろうとするのは
臣下としては間違った判断じゃないけど、連れ去ったのは竜王のおっさん ( *´艸`)
ここで『後継者問題』を持ち出して騒ぐのはモルディウスの早合点ですよね〜 (;´∀`)
安全を守るためと部屋に閉じ込められたけど、ティメラウスを護衛につけることで
部屋を抜け出してきたティア (^_-)-☆
(壁を蹴破らないところは、どこかの姫さまとはちょっと違います ( *´艸`))
ここからはちょっと余談ですが…
ティアがモルディウスの失言をなんとも思ってないと察して「おれが殺されたら
自分が女王になれると思ったんだろ!」とティアに詰め寄るカイン。図星を突かれて
ギクリとしたティアが「おにいちゃん、あたしを信じて♡」とカインに抱きついて
甘えるように上目遣いで見上げできたら「しょうがねえなぁ」と許しちゃうのは
チョロい ですよね ( *´艸`)
ナナにワガママ放題されても、可愛い顔で見つめられ「カイン、あたしを信じて♡」と
上目遣いで甘えるように言われたら「しょうがねえなぁ」となんでも許しちゃって
ナナの思いのまま尻に敷かれちゃう、カインの未来が見えるようですね ( *´艸`)
さて「カインが無事に帰ってきた」という連絡は王様の耳にも届いていると思うので
次回は親子の対面でしょうか?
次回もお楽しみに〜ヾ(*´∀`*)ノ