ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 148】 旅立ちの朝に

おれは何度目かの寝返りをして舌打ちした。

 

 

くそっ! なんで眠れねえんだ!

 

ティアとクリフトが勇者の泉とローレシア南のほこらまで行ってくるだけじゃねえか!

2人だけで行くんじゃなく、ティメラウスやリオスまでその旅には同行するんだぞ!

 

しかも、ガキ2人には少しでも敵の攻撃をかわせるように『身かわしの服』を用意して

万が一のときはすぐサマルトリアへ戻れるように『キメラの翼』も渡してやったんだ。

 

これ以上ない好待遇だ。

もう充分なはずだ。

 

それなのに、心がザワザワして眠れねえ。

なにか… なにかものすごく大事なことを、おれは忘れているような気がするのだ。

 

 

あたりが明るくなって来た頃、おれはようやくその「なにか」がわかって飛び起きた!

 

そうだ! あいつらは誰も自力で回復できねえ! 魔法を使える奴が1人もいねえんだ!

それなのに、あいつらは手ぶらで旅に出ようとしてるんだぜ。バカじゃねえのか?!

くそっ! 世話の焼ける奴らだぜ!

 

 

飛び起きたおれはそのまま城を飛び出し『魔法を売る店』の扉をドンドンと叩いた。

 

 

「朝っぱらから何です?」

 

しばらくすると扉が開き、店の主人が不機嫌そうに顔を出した。

 

 

「悪いな、急ぎの用があってよ。まず、聞きたいんだがこの店に適当な袋はあるか?

 出来れば背負って持ち運べるものだとありがたい。あれば3つ譲ってくれ!」

 

おれが声をかけると、主人は眠そうな顔のまま「袋? どっかにあったか?」と言って

店内をゴソゴソ物色し始めた。

 

 

「こんなものでいいかい?」

 

店の主人は紐がついてリュックとして背負えそうな麻袋を3つ持ってきた。

 

 

「いいぜ、上等だ。じゃあ、その袋の中に薬草と毒消し草をありったけ入れてくれ。

 1つは薬草だけが入った袋、もう1つは毒消し草だけ。残りの1つは混ぜてくれ」

 

 

「へ、へぇ...」

 

主人は一瞬ポカーンとしてからうなずくと、袋に薬草と毒消し草を詰め始めた。

 

 

「平和な世になってから薬草と毒消し草を欲しがる人がいるなんてめずらしいっすね。

 ハーゴンの野郎がいた頃はまだちょこちょこ売れてましたが、今は薬草や毒消し草を

 買う人はめったにいなくなりましたよ」

 

作業を始めて少しずつ目も覚めてきたのか、主人は愛想よくおれに話しかけてきた。

 

 

「よその町でも同じようにハーゴンが倒されてからは薬草・毒消し草の売れ行きは

 下がってるだろうけど、ここサマルトリアにはさらにあの店がありますからねぇ...。

 なおさら薬草や毒消し草の類はまったくと言っていいほど売れないんっすよ」

 

店の主人は前方をあごでしゃくった。

 

主人の差す方に目を向けると、小さなバブルスライムの看板が目に入った。

 

 

「ケガの回復も毒消しも、1個の軟膏で全部できちゃうって言うんだからね。しかも

 値段もそんなに高くないってこともあって、完全に商売を奪われちゃいましたよ」

 

主人は鼻にシワを寄せて苦笑いする。

 

 

「あぁ、そうか。そいつは悪かったな。サマルトリア城がハーゴン軍に襲われたとき

 バブルスライムハンターのオーウェンに一緒に戦ってもらってよ、そのお礼として

 サマルトリアで店を出させてやったんだ」

 

オーウェンの店のせいで売り上げが落ちたなんて聞いたら無視するわけにもいかねえ。

おれは簡単に経緯を伝えて謝罪した。

 

 

「いやいや。別に構わないっすよ。薬草や毒消し草は売れなくなったけど、代わりに

 バカ売れしている商品がありますから」

 

店の主人は二ッと笑いながら言った。

 

 

「バカ売れする商品? どれだよ?」

 

おれは店内を見まわした。

この店には薬草・毒消し草の他には、たいまつとキメラの翼ぐらいしかないんだが...

 

 

「へへっ。このキメラの翼です!」

 

主人は上機嫌でキメラの翼を掲げた。

 

 

ムーンブルク城の再興のため、たくさんの男たちがムーンブルクにいるでしょう?

 あの男たちの移動手段としてキメラの翼が最適だってことでね、この店にも定期的に

 大口の注文が入ってくるんですよ!」

 

主人は嬉しそうに笑っている。

 

 

「へぇ、なるほどな」

 

おれがオーウェンに出店させてこの店の売り上げを下げちまったのは事実だが、一方で

ムーンブルク城を再興する案を出したことで、結果的にこの店を救ってやったわけだ。

 

 

なんだよ、やっぱりおれ様って天才なんだな!

 

 

 

「ウチは『キメラの翼』で挽回できたけど、あっちの店は商品が軟膏だけじゃこの先

 大変だと思ってたんですけどね、なにやら最近は美容液を新しく開発したとかで

 また一気に盛り返してきましたな。店が繁盛すると相乗効果で他の店の売り上げも

 上がりますからね。あっちの店にも売れ筋商品が出来たことは良いことですよ!」

 

主人はオーウェンの店を見て微笑んだ。

 

 

「へぇ。じゃあ今はお互いにキメラの翼と美容液で売り上げを立てて、おまえらの

 ライバル関係は解消したってことか」

 

おれが尋ねると主人はうなずいた。

 

 

「元々そこまで激しく争ってはいなかったですけどね、今の関係はとても良好ですよ。

 はい、できました!」

 

ずっとしゃべっていたくせにさすがだな。主人はあっという間に3つの袋を用意した。

 

 

「ありがとよ」

 

おれは袋の分も上乗せして金を払い、礼を言って『魔法を売る店』をあとにした。

 

 

 

まだ集合時間よりかなり早い。

 

さすがに誰もいねえだろうと思いながら袋を背負ってぶらぶら歩いて行くと、正門前に

1人の男が立っていた。

 

 

  誰よりも早く来たクリフト

 

 

「なんだ、ずいぶんと早えな!」

 

おれが声をかけると、クリフトはハッとした様子で直立しおれに一礼してきた。

 

 

「おはようございます、カイン殿下。私みたいな身分の低い者が、遅刻してみなさまを

 お待たせするわけにはいきませんから。殿下の方こそ、こんな朝早くからどちらへ?

 そしてその袋は...?」

 

クリフトは不思議そうにおれの背後を見た。

 

 

「けっ! てめえらが誰も魔法を使えねえのが悪いんだよ。世話の焼ける奴らだぜ!」

 

おれは3つの袋を背中から降ろし、クリフトの顔にぐいっと押しつけた。

 

 

「ぐっ! ごほっ、ごほ。ひどく青臭いにおいがします。… なんなんですかこれは?」

 

クリフトは袋を押し除けて咳き込んだ。

 

 

「へっ! おれ様が用意した薬草と毒消し草だ。この袋はてめえら3人で持って行き、

 ティアがケガしたときや、毒を受けてギャアギャア痛がったときに使ってやれ」

 

クリフトは「は、はぁ…」とあいまいにうなずきながら、袋の中身を確かめている。

 

 

「そうだ、ちょうどいい機会だから聞こう。おまえ、本気でティアが好きなのか?」

 

おれが尋ねると、動揺したクリフトは手にしていた袋を地面に落としてうろたえた。

 

 

「あ… あの、姫さまはとても可愛らしく愛らしいお方で魅力的なのは間違いないですが、私のような立場で

 姫さまのような素敵な方に想いを寄せるなんて、とても恐れ多く身分不相応なことでありまして…」

 

クリフトがぶつぶつ言うのをおれは制した。

 

 

「今は2人しかいねえんだから、余計な気は遣うな。おまえの本心を聞かせろよ」

 

おれが真面目な顔になって言うと、それまで1人でごちゃごちゃ言ってたクリフトも

真剣な顔つきになっておれを見た。

 

 

「… は… はい。好意を抱くこと自体おこがましいと思いますが、私は姫さまのことを

 … お慕い申しております」

 

多少の遠慮とためらいを残しつつも、クリフトはキッパリと言い切った。

 

 

「よし、わかった。そう言うならおまえ、ティアのことは命をかけて守りきれよな。

 この薬草や毒消し草はおまえも使って良いから、絶対にティアのことは守ってやれ。

 自分の好きな女が目の前で倒れるのを目撃するほどつらいことはないんだからよ」

 

 

おれとしては「好きな女を痛い目に遭わせるな」とクリフトに伝えたかっただけだが、

言い方がおかしくて誰かさんのことを連想をさせるような言い方になっちまったな。

 

おれは言った後で急に気恥ずかしくなって、クリフトからそっと目をそらした。

顔が紅潮してくるのを感じる。

 

 

「…… えっと… それって……」

 

案の定クリフトは誰かを連想したらしく、もっと詳しく聞きたそうな表情をつくって

おれの横顔を見ながらつぶやいたが、結局のところはなにも追及せずにうなずいた。

 

 

「わかりました。姫さまのことはこの命に替えてでも全力でお守りします!」

 

クリフトが胸に手を当てて深々と一礼するのをおれは横目で見守った。

 

 

 

「あれ? カイン殿下じゃないっすか? なんでこんなところにいるんです?」

 

城の方向から声が聞こえてきた。

振り向くと、ティメラウスとリオスがのんびりとこちらに歩いてくるのが見える。

 

 

「てめえらにこれを渡すためだよ」

 

おれはクリフトが落とした袋を2つ拾い上げ、ティメラウスとリオスに押しつけた。

 

 

「なんです? 薬草ですか?」

 

中身を確かめてティメラウスがつぶやく。

 

 

「おまえたちの武力には期待してるけどよ、魔法はからっきしだろ? ケガや毒のとき

 治療する手立てがねえと思い出して、おれ様が道具屋で買ってきてやったんだぜ。

 ティアの奴は『あたし、こんな青臭い草なんて持つの嫌よ』って言うだろうからよ、

 おまえら3人で持って行ってくれ」

 

用意周到なおれってさすがだよな!

おれはふふんと鼻を鳴らした。

 

 

「まぁ、確かに。おじょうちゃんは草なんて持つのは嫌がりそうっすよね。それで

 あっしらで3等分したってのはわかりましたが、だからってこんなにもいっぱい。

 カイン殿下。あんた、これから新たに草屋でも始めるつもりですかい?」

 

リオスはニヤニヤと笑っている。

 

 

「まぁまぁ。リオスよ、殿下をからかうでないぞ。旅に出れば、我々でもちょっとした

 ケガをしたり毒にあたることもある。充分な備えがあってありがたいではないか」

 

ティメラウスが間に割って入ってきた。

 

 

「あん? てめえらの分はねえぞ?」

 

おれが答えると、ティメラウスもリオスも驚いたように目を大きく見開いた。

 

 

「道中で遭遇するとしても、ねずみやアリぐらいしかいねえんだからよ、おまえらが

 ケガすることもねえだろ? それにおまえらは前に出て戦うこともねえんだからな。

 そもそも必要ねえだろうが」

 

おれはペッと地面につばを吐いた。

 

 

「いやいや、殿下。薬草も毒消し草もこんなに山ほどあるんだから、あっしらだって

 ちょっとぐらいは使っても良いでしょうよ? あっしらがおじょうちゃんの代わりに

 こうやって持って行ってあげるんっすから。薬草はまだしも、毒を喰らったときは

 せめて毒消し草は欲しいっすよ〜」

 

リオスがおれにすり寄ってきた。

 

 

けっ! リオスめ。さっきは「草屋にでもなるつもりか」とおれを馬鹿にしてきたくせに

「いっさい使うな」と言ったとたんに態度を急変させやがってよ!

 

 

「このへんの奴らの毒を喰らったって大したことねえだろ。つばつけときゃ治るさ」

 

おれはシッシッと近寄ってきたリオスを追い払い、相手にしなかった。

 

 

「あの… お取り込み中のところ申し訳ありません。姫さまがまだ来られていませんが

 見に行かなくて大丈夫でしょうか? なにかあったのではないかと心配で…」

 

クリフトが遠慮がちに声をかけてきた。

 

 

「へっ。てめえはまだわかってねえな。ティアが時間どおりに来るわけねえだろ?

 あと1時間で来れば御の字だぜ。『女の子はいろいろ大変なんだ』とか言われて、

 相当待たされるんだから覚悟しろよな」

 

おれの言葉に心当たりがあるのか、ティメラウスとリオスが苦笑いしている。

 

 

「いや、待てよ?」

 

おれは時計を見て不意に思い出した。

 

 

ティアの奴、城を出る前に親父と王妃に会って挨拶するって言ってなかったか?

あのバカ、そんな約束はすっかり忘れてのんきにしてるに違いない!

 

くそっ! 世話の焼ける奴だ!

 

 

「てめえらはここで待ってろよな」

 

おれは袋を背負って立っている3人に言い残すと、城内に向けて駆け出した。

 

 

 

 

『ティアの大冒険』は、ティアが自分の部屋で身かわしの服を着て鏡を見ているときに

カインが部屋の扉をドンドン叩いて怒鳴り込んでくるところから始まりましたが、

カインおにいちゃんは妹より遥かに朝早くから動いていたみたいですね (^_-)-☆

 

 

今回の話。

個人的にはカインとクリフトが2人だけで話す場面がお気に入りです (*´ω`*)

 

カインの前で「ティアが好き」と素直に認めるクリフト。クリフトの真剣な恋心を聞き

「自分の好きな女が目の前で倒れるのは何よりもつらいんだぞ」と伝えるカイン。

 

カインの言葉を受けて「その好きな女ってナナのことだよね?」と勘づきながらも、

カインを問いたださずに「ティアを守る」と宣言するクリフト☆

 

お互いに本気で好きな女の子がいる恋する少年たちが、少ない言葉でお互いの気持ちを

わかり合うところが良いですよね~☆(... 安定の自画自賛中 ( *´艸`))

 

 

さて、カインはティアが旅立つ前に王様や王妃と会う約束していたことを思い出して

ティアの部屋に向かいました。

 

次回は「ティアの大冒険」の始まりを思い出しつつ、読んでいただけると嬉しいです♪

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ