ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作番外編 ①】 ティアの大冒険 ~旅立ち~

あたしは全身が映る鏡に自分の姿を映した。

鏡の向こうには、戦闘服に身を包んだ勇ましい女武闘家が映っている。

 

ふふっ、今のあたしは成長期よ。

お母様もおにいちゃんもあたしをチビ扱いするけど、あたしも今や立派な武闘家だわ。

 

 

おにいちゃんが買ってきてくれた『身かわしの服』は確かに軽くて動きやすいんだけど

やっぱり可愛くないのよね。

 

出発前、お母様に服を見せながら「可愛くない」と文句を言っていたら、お母様は

袖と裾にリボンをつけてくれたの。

 

 

「うん、少しはマシになったわね」

 

ダサかった服にリボンがついて、ちょっとはお姫さまらしくなった気がするわ。

 

 

あたしはサマルトリアの王女さまだもの。

ダサい服なんて着てられないわよ。

 

 

鏡に映るあたし自身をうっとり見つめていると、部屋の扉をドンドン叩く音がした。

 

 

「だあれぇ?」

 

せっかくイイ気分でいたのを台無しにされちゃったけど、あたしはお姫さまらしく

余裕を見せて優雅に尋ねてみたわ。

 

 

「だあれぇじゃねえよ! 早く出て来い!」

 

おにいちゃんの怒鳴り声がする。

さらに扉を激しくたたく音が続いた。

 

 

「もうっ! うるさいわね」

 

ずっと扉をドンドンたたかれるから、あたしはイライラしながら扉を開けたわよ。

 

扉の前ではおにいちゃんが仁王立ちになって、怖い形相であたしを見おろしている。

 

 

「いい加減にしろよな。もう他の奴らはとっくに準備して正門前で待ってんだぞ!

 この旅の主役はクリフトであって、てめえじゃねえんだ。あまりにも待たせるなら

 おまえのことなんて置いてあいつらに出発させるからな! それにおまえ、出発前に

 親父と王妃に挨拶する約束だろうが! ったく、両親まで待たせる気かよ!」

 

 

あぁっ! 大変!!

 

おにいちゃんの言葉で思い出したわ!

あたし、記念すべき旅立ちの前にお父様とお母様にご挨拶する約束してたんだった!

 

 

あたしは急いで振り返り、部屋の壁にかかっている時計で今の時間を確認した。

約束の時間はとうにすぎている!

 

 

「いっけない。もうこんな時間じゃないの!」

 

あたしは部屋の前で仁王立ちするおにいちゃんを押しのけて、謁見の間に向かった。

 

 

そのまま謁見の間に飛び込んだら、おてんばだって思われちゃうかもしれないわね。

あたしはふぅ~と呼吸を整えてから、王女さまらしく優雅に謁見の間に入った。

 

正面の玉座にお父様が座り、お母様は玉座に手をかけながら立っている。

 

 

「お父様、お母様。ティアが旅立ちの前にお2人にご挨拶に参りましたわ」

 

あたしは2人の前に立つと『身かわしの服』の腰のあたりをつまんでひざを曲げた。

 

 

「はははっ、ずいぶん遅かったな。出発の準備に時間ががかったのか? どうせ鏡の前で

 自分の姿をうっとり見ていたんだろう」

 

お父様がふさふさしたひげに手を当てながら豪快に笑っている。

 

 

あたしが遅刻したもんだから、お母様は怖い顔をしてあたしをにらみつけている。

 

 

だって、しょうがないじゃないの。女の子はいろいろあるでしょ!

 

あたしは目でお母様に訴えた。

 

 

「遅れて申し訳ございません。お父様、お母様。初めての遠出で戸惑うことも多くて

 つい時間がかかってしまいましたの」

 

あたしは再び服をつまんでひざを曲げた。

 

 

「まぁ、いいだろう。王妃の話によると、おまえはティメラウスのもとで修行をして

 武術を磨いたそうだな。今回は修行の成果を確かめるため、腕試しに出たいとか?」

 

お父様があたしに尋ねてくる。

 

 

「はい。ティメラウス卿には、武闘家としての素質があるというお言葉をいただき

 腕を磨いてまいりましたの。まだまだ未熟ですが、実力を試す機会があると知り

 修行の旅に出る決意をしましたわ」

 

 

「ふむ。己の資質を知り、長所を伸ばそうとするのは良い心がけだ。外に出ることは

 現在の自分を見つめ直し、世界の広さを知るいい機会になるだろう。自分の才能に

 あぐらをかいて甘んじることなく、これからも変わらず努力を続けるのだぞ」

 

 

「わかりましたわ。お父様」

 

あたしはハキハキと答えてみせたわ。

 

 

「そして、仲間のことは常に敬い、大切にせねばならぬぞ。人間にとって大切なのは

 努力と人の和だからな」

 

お父様が力強い声で言ってきた。

 

 

「はい。旅に出てからも努力を惜しまず、共に旅をする仲間のことは、きちんと敬い

 丁重に扱いたいと存じますわ」

 

 

「うむ、よろしい」

 

 

お父様はいつものように真面目くさった話をあたしにしてきたけど、なんか変ね。

ひげでよく見えないけど、お父様はさっきからずっと笑っているように見えるわ。

 

 

どうしてかしら?

あたしの服が変?

 

あたしは自分の着ている服に視線を向けた。

 

 

「ん? その服、いいではないか。旅にふさわしい服装だし、おまえに似合っているぞ」

 

あたしの心の声が聞こえたのかしら、お父様があたしの格好を褒めてきた。

 

 

「お褒めいただきありがとうございます。お兄様があたしのためにルプガナへ行って

 この服を買って来てくださり、あとでお母様がリボンをつけてくださいましたの」

 

 

「ほほう。そうなのか」と言いながら、お父様はにこやかに微笑みお母様の顔を見た。

お母様は照れたような笑みで応えた。

 

 

「ティアよ。おまえの母も兄も、おまえのために力を尽くしているだろう? おまえは

 たくさんの人に愛され守られているということをいつも心に留め忘れてはならぬぞ。

 それだけわかったのなら、さあ旅立つと良い。道中、気をつけてな」

 

お父様は威厳のある感じで玉座から立ち上がり、隣に立つお母様に手を差し出した。

そしてお父様はお母様と手をつなぐと、あたしのそばへゆっくりと歩いてきた。

 

 

2人は優しい顔であたしを見つめる。

 

 

「行ってまいります」

 

あたしは目の前に立つ両親を前に、また服の裾をつまみひざを曲げて挨拶した。

 

 

こんなとき、男だったら胸に手を当てて一礼するだけで済むのよ。ズルいわ。

優雅に見えるかもしれないけど、ひざを曲げる体勢って結構キツイのよね。

 

あ~ぁ、女って損な生き物だわ。

 

 

あたしがひざの筋肉痛をこらえていると、お母様がゆっくり近づいてきてあたしの肩に

そっと優しく手を置いてきた。

 

 

「気をつけていくのよ。道中で出会う人には、王女らしく礼儀正しく振る舞いなさい。

 無理しないで身体は大事にするのよ」

 

 

あれれ?

あたしの気のせいだと思うけど、お母様の瞳は涙で潤んでいるように見える。

 

 

ヤダ、やめてよ! お母様が泣いたら、あたしまで泣いちゃうじゃない。

 

お母様の顔を見ていたら急に淋しくなって、旅に出るのが嫌になってきた。

 

 

さっきまで「ひざを曲げる挨拶はつらい」などと考えて、気にしないようにしてたのに

お父様とお母様にしばらく会えないかと思うと、鼻の奥がツンとしてくる。

 

 

あたし、行くのやめた。

あんたたちで行ってくれば?

 

今すぐ正門まで向かい、ティメラウスたちにそう言って来ようかしら?

 

 

でも、さっきお父様とお母様に「行ってまいります」と言ったばかりだもん。

そんなわけにいかないわよね。

 

 

「行ってまいります」

 

やっぱりやめたと言ってしまわないように、あたしは再び2人に向かって宣言した。

 

 

「ああ。行っておいで」

「気をつけてね」

 

お父様が大きな手で頭をなでてくれる。

お母様はあたしを優しく抱き締めてきた。

 

 

お父様の温かい大きな手と、お母様の温かくて柔らかい身体があたしから離れると

なんだか急に寒くなったような気がした。

 

 

あたしを見送るため、お父様とお母様は微笑みながらあたしに手を振ってくる。

 

 

お父様! お母様! 本当はもっと甘えていたい。あたし...

行きたくないよ...!

 

 

あたしはもう1度服の裾をつまんで素早くひざを曲げると、唇をギュッと噛みしめて

泣きそうになるのを必死にこらえながら謁見の間をあとにした。

 

 

謁見の間を出ると、こらえていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちてきた。

あたしはとめどなくあふれてくる涙をぬぐいながら、正門へと歩き出した。

 

 

正門へ向かう途中、おにいちゃんが壁にもたれて腕を組みながらあたしを待っていた。

 

 

「へんっ! どうしたんだよ、そんな顔して? パパとママと離れるのが淋しくなって

 やっぱり行かないとでも言うつもりか?」

 

おにいちゃんが涙目のあたしを見て、からかうように笑いながら言ってきた。

 

 

「違うわよ。出発前に両親の顔を見て、ちょっとセンチメートルになっただけよ!」

 

あたしは瞳に溜まった涙を吹き飛ばすように、顔を大きく振りながら言った。

 

 

「あのな、それを言うならセンチメンタルだろ。勉強をがんばるとか言ってたのに

 このお姫さまは、今までいったいなにを学んできたんだよ?」

 

おにいちゃんは穏やかに笑ったまま、あたしの髪をクシャっとしてきた。

 

 

いつもの口の悪いおにいちゃんなのに。

なんだか今日は優しく感じる...

 

 

また瞳が潤みそうになる。

優しく髪をなでられているうちに「ねえ、おにいちゃんも一緒に行きましょうよ」

思わず言いたくなってきた。

 

 

でも、ダメ!

おにいちゃんが一緒に来たら、魔物の方から逃げ出しちゃって腕試しにはならない。

 

ティメラウスも言ってたもの。

 

「お2人が存分に戦いを学べるように、よほどのことが起きない限り私とリオスは

 戦闘に参加しませんから」って。

 

 

そう、これはあたしの修行の旅よ!

 

 

「大丈夫よ、おにいちゃん。あたし、行くわ!」

 

精いっぱい強がっていうと、おにいちゃんはあたしを見つめてうなずいた。

 

 

「つらかったら我慢しないで帰って来ればいいからよ。いつでも帰って来れるように

 キメラの翼も渡したんだからな。おれはここで待ってるから、おまえは気負わずに

 楽な気持ちで行ってこい」

 

おにいちゃんはあたしの頭をポンポンとたたいた後、あたしをくるっと反転させて

優しく背中を押してきた。

 

 

「あたし、修行して強くなって帰って来るわ! まかせといて! 行ってきます」

 

あたしは振り返らずに背中を向けたままおにいちゃんに力強く宣言すると、そのまま

返事も聞かずに駆けだした。

 

 

だって、これ以上おにいちゃんの顔を見たりおにいちゃんの声を聞いたりしたら

あたし、本気で泣いちゃいそうだもん。

 

 

 

走り続けて正門前に行くと、クリフト・ティメラウス・リオスさんが待っていた。

 

3人とも肩から変な袋を提げている。

 

 

「その袋、なに?」

 

近づいてクリフトの持っている袋のにおいをクンクン嗅いでみると、青臭い。

 

 

「なにこれ、臭い!」

 

あたしは鼻をつまんで離れた。

 

 

「はははっ。カイン殿下のおっしゃるとおりですな。この袋の中身は薬草ですぞ」

 

ティメラウスが楽しそうに笑いながら、袋を高く掲げてブンブン振ってきた。

青臭い匂いが漂ってくる。

 

 

  薬草がパンパンに詰まった袋を振り回すティメラウス先生 ( *´艸`)

 

 

 

「あっしのは毒消し草っす」

 

リオスさんも笑って袋を掲げた。

 

 

「そして私のこの袋には、薬草と毒消し草が半分ずつ入っています」

 

クリフトが言ってきた。

 

 

「なんなのよ、もう! そんなに草ばかり持ってどうするつもりなの?」

 

青臭くってやってられないわ!

あたしは鼻をつまんだまま、手であおいで青臭さを吹き飛ばそうとした。

 

 

「私たちがここで待っているときに、カイン殿下がいらっしゃいました。私たちには

 魔法を使える者がいないので、体力の回復や毒消しには薬草と毒消し草が必須だと

 この袋を持たせてくれたんです」

 

クリフトが袋について説明する。

 

 

「だからって、こんなにいっぱい詰め込むことないじゃない。臭くてたまらないわ」

 

あたしは手であおぎ続けながら言った。

 

 

「はははっ。ティア様は『草なんて持つのは嫌!』と文句を言うだろうと想定して

 カイン様は我々3人にだけ、この袋を持たせたんですよ。さすがはカイン殿下!

 妹君のことをよくわかっていらっしゃる。想像したとおりの反応ですな、姫さま!」

 

ティメラウスは豪快に笑い出した。

つられてクリフトとリオスさんも笑う。

 

 

さっきまで「妹想いの優しいおにいちゃんと離れるのは寂しい」と泣きそうだったのに

涙はどこかに吹き飛んでいった。

 

 

「なによ、まるであたしが単純な奴みたいじゃないの。

 もう! みんなであたしのこと馬鹿にして!」

 

あたしはすっかり頭にきて、ぷりぷりしながら城下町へと歩き出した。

 

 

「姫さま! サマルトリアの城下町といえど、お1人では危険です。お待ちください」

 

クリフトがあたしを追って走ってくる。

 

 

「うるさいわね! それにそんな青臭い袋を持ってあたしに近寄らないでちょうだい!」

 

あたしがピシャッと言い切ると、クリフトは「そんなぁ~」と情けない声をあげた。

 

 

後ろからついてきたティメラウスとリオスさんがガックリと肩を落とすクリフトを

ポンポン叩いてなぐさめるのを横目に、あたしはズンズン先へと歩き続けた。

 

 

 

 

「旅立ち」と言いながら、まだサマルトリアを出ていませんが... (;´∀`)

(話がちっとも進まないのは通常営業なのでご了承ください m(_ _)m)

 

 

ゲームブックで王子がティアと会ったとき「ティアは12歳になる」と言っていたので

現在のティアは13~14歳。

 

親離れしつつあるけど、まだ甘えたい年頃(特に可愛がられて育ったお姫さまだから)

 

今回は旅立ちの前に、両親やおにいちゃんに挨拶をして「センチメートル」になる

ティアを描いてみましたよ~ ( *´艸`)

 

 

ここでちょっと余談ですが、パパがティアを見ながらずっと笑っていた理由はコチラ

 

【創作 88】化けの皮 - ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

 

お父様の前で上品ぶって気取った演技をするティアがおもしろかったんですね ( *´艸`)

 

 

優しく頭をなでてくれるパパ、優しく抱き締めてくれるママ、いつでも帰って来いと

送り出してくれるおにいちゃん

 

家族のあたたかいぬくもりに旅立つ淋しさを感じて泣きながらも「行くのやめた」

ワガママを言わないで前へ進むところにティアの成長ぶりが見えますね (^_-)-☆

 

 

個人的には「壁にもたれて腕を組みながら妹を待っている」カインおにいちゃんが

かなりの大好物です(絶対に絵になるカッコよさだと思うんですよ~ (≧∇≦)♡)

 

 

そんな「涙の旅立ち」になるはずが、袋のせいで「怒りの旅立ち」に ( *´艸`)

 

魔法が使えないパーティでの旅が不安になった心配症なカインおにいちゃん ( *´艸`)

薬草と毒消し草をパンパンに詰めた袋をクリフト・ティメラウス・リオスに渡します。

 

カインがティアに袋を渡さなかったのは「臭いからヤダ」と嫌がると想定したから。

 

そして想定どおりに嫌がったことを笑われて、さっきまでの涙はどこへやら。

ぷんぷんでの出発です ( *´艸`)

 

 

スタートから波乱含みの大冒険 (;´∀`)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ