ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 163】 相当マズいダシ

ナナがサマルトリアへ来た日。

ちょっとした事故で唇を重ねてしまったおれたちは気まずい空気になっちまった。

 

この状況を打破しようと、おれはサマルトリア緑の騎士団の軍医待機所へ向かった。

 

 

親父が王妃と知り合って間もない頃、親父は2人きりですごすのが気恥ずかしくて

幼いおれをダシにして3人ですごしつつ仲を深めていったとばあさんに聞いたからだ。

 

天使のように愛くるしいおれとは比べものにならねえが、サンチョみてえな奴でも

多少のダシにはなるはずだからな。

 

 

おれがサンチョに「今晩は3人で一緒に夕飯を食おうぜ」と話を持ち掛けると普段は

とぼけているサンチョが「どうして2人だと気まずいんだ? キスでもしたのか?」

いきなり核心を突いてきた。

 

 

明らかに動揺するおれを見て、おれたちがキスしちまったことを確信したサンチョは

「初めてキスしたときは少し照れ臭いですよね~」とわかったような顔をしながら

自身の思い出を披露し始めた。

 

 

サンチョの話は「16のときに、3つ年上の女からご褒美にキスされた」という

ただの胸糞悪い話だった。

 

ノロケ話にはとにかくイライラさせられたが、その後「あっさりフラれた」と聞いて

おれの気分の悪さも解消された。

 

 

「初めてキスしちゃって気まずいお2人のため、私がダシになりましょう~!」

 

やたら張り切るサンチョに不安はよぎるが、他に頼れる奴はいねえからしょうがない。

 

 

おれはサンチョを連れて謁見の間に戻った。

 

 

おれたちが謁見の間に入ると、ナナは手持ちぶさたな様子で壁にかかった絵画や

骨董品をぼんやりと眺めていた。

 

 

「おう、待たせちまって悪かったな。ちょっと腹が減ってきたからよ、サンチョに

 飯つくってくれと頼みに行ったんだ」

 

おれはさりげなさを装いナナに声をかけた。

 

 

「こんにちは」

 

サンチョはぴょこんと頭を下げる。

 

 

「あら。こんにちは、サンチョさん。あたしがサマルトリアに来たときに何度か

 お会いしてご挨拶したこともあったわよね。カインやティアちゃんからもよく

 あなたの話は聞いているわ。料理がとても上手ですごく頼れるお医者様だって」

 

ナナはにこやかに話しかけた。

 

 

「えへへ、照れるなぁ。私はしがないただの軍医ですし、料理が上手いというのも

 私がただ食いしん坊なだけで…」

 

ナナに褒められて、サンチョは照れたような笑みを浮かべて頭をかいた。

 

 

「おれもこいつを手伝って、サンチョと2人でなんか適当につくってくるよ」

 

おれがナナに声をかけると、ナナは「あたしもなにか手伝うわ!」と言ってきた。

 

 

ナナは客人だから厨房に入れるのは礼に反することだが、こんな誰もいない場所で

1人で待っていてもつまらねえからな。

 

おれはうなずき3人で厨房へと向かった。

 

 

結果的に3人で調理するのは大成功だった。

 

それぞれ役割分担を決めて、ああだこうだ言い合いながら作業を進めていくうちに

おれとナナの間にあった気まずい空気もほぐれ、普段通り話せるようになっていった。

 

 

サンチョをダシにして良かった。

 

このとき、おれはそう思っていた。

 

そう「このとき」は!

 

 

サンチョと話し合い、王宮の堅苦しい宮廷料理は避け、魚の煮つけや骨つき肉など

今日は仲間うちでの気楽な食事にふさわしい簡単なメニューで揃えた。

 

酒もワインやシャンパンではなく、エールをジョッキに注いて飲むことにする。

 

 

出来あがった料理をワゴンに乗せて食堂に運ぶと、おれたちは乾杯のまねごとをして

さっそく3人で食事を始めた。

 

 

「坊ちゃんは王様たちがお出かけになってから、どうすごされていたんです?」

 

サンチョがおれに聞いてくる。

 

 

うん、いいぞ。サンチョ!

いいダシじゃねえか!

 

おれはサンチョのダシとしての働きに満足しながら、3日間の勉強について話した。

 

 

サマルトリアハーゴン軍を見事に撃退してから驚異的な回復ぶりを見せたんだぜ。

 今は資産も潤沢にあり、ムーンブルク復興のために恒久的な支援が出来そうだ」

 

おれがエールを飲みながら言うと、ナナはおれを見つめ照れたような笑みを見せながら

小さく「ありがとう」とつぶやいた。

 

 

「まぁ、我がサマルトリアハーゴン軍に包囲されて長く籠城作戦を取っていたときは

 かなり困窮していたけどな。それでも今のローレシアよりは裕福だったと思うぜ」

 

おれが笑いながら言うと、サンチョも「イヒヒ」といやらしい顔をして笑った。

 

 

「もうっ! カインったら、ひどいわね。そんなこと言ったら王子に悪いわよ」

 

ナナは口ではおれを責めるようなことを言いながらも、顔はニヤニヤ笑っている。

 

 

「あぁ、久しぶりに王子に会いてえな〜」

 

おれがジョッキを片手につぶやくと、ナナも「そうね」と言ってうなずいた。

 

 

「そうだ、王子もこっちに呼んでみるか? 今はサイラスがムーンブルクの当番を終え

 ローレシアに戻っているはずだから、サイラスに城をまかせれば、王子も数日なら

 こっちに来れるんじゃねえかな?」

 

おれの提案にナナも「いいわね!」とはしゃいだ声を上げ、うんうんとうなずいた。

 

 

  国王がお出かけの際は、わたくしがローレシアをお守りします

 

 

 

「良いんじゃないですか? 久しぶりにここで3人で会うっていうのも素敵ですよね」

 

サンチョも同意してくる。

 

 

「おれが玉座に座る姿を見たら、王子はきっとおれの勇姿を褒めてくれると思うぜ。

 誰かさんと違ってな!」

 

おれが嫌味たっぷりに言うと、ナナはぷーっと頬をふくらませてむくれた。

 

 

「ははは。坊ちゃんの言いっぷりだと、ナナ様は坊ちゃんを褒めなかったんですね」

 

サンチョがおれたちを交互に見て笑う。

 

 

「あぁ、ナナは『体格が立派じゃないと玉座は似合わない』なんて言ってきやがってよ

 おれは自分が貧弱だって言われたみたいに思えてすっかり頭にきて.…..」

 

話しながらあのときのことを思い出す。

 

 

頭にきたおれはナナを抱え上げて、ナナは「もう下ろしてよ」と暴れ出して…

 

そして… おれたちは……

 

 

顔がかぁっと熱くなる。

おれは熱くなった頬を冷やすため、冷たいエールのジョッキを頬に押し当てた。

 

 

「ん? なんです? 貧弱だと言われて坊ちゃんはその後どうしたんですか?」

 

サンチョがのんきに聞いてくる。

 

 

「まぁ、イイじゃねえか。その後はおれが貧弱そうに見えても実際は力があることを

 ナナに証明してやったんだよ」

 

おれは適当にごまかした。

 

 

「どうやって証明したんです?」

 

サンチョはなおも聞いてくる。

 

 

くそっ、サンチョめ!

おれたちに何があったか知ってるくせに、しつこく絡んでくるんじゃねえよ!

 

 

「細かいことはどうでもいいだろ!」

 

おれがピシャリと言い切ると、サンチョは不満げに頰をふくらませた。

 

 

「ちぇっ、ケチだなぁ。そこまで言ったんなら最後までしっかり話してくださいよ。

 そうだ! 坊ちゃんが言わないんなら、ナナ様が代わりに教えてくださいよ」

 

くそっ、サンチョは引き下がらない。

 

 

「えっ! あ、あたし?」

 

ナナは頬を赤らめて困惑する。

 

 

「ええ、坊ちゃんはどうやって力があることを証明したんですか?」

 

 

「えっと… そ、その……」

 

ナナは顔を真っ赤にしている。

 

 

「サンチョ、気をつけろよな。ちょっと ダシがマズい んじゃねえか」

 

「余計な詮索はやめろよ」という意味を込めて、おれはサンチョをたしなめた。

 

 

「へっ? ダシがマズいですか?」

 

サンチョはきょとんとした顔で、おれが食べていた魚の煮つけに手を伸ばす。

 

 

「う〜ん? いい味だと思いますけど」

 

サンチョは首をかしげた。

 

 

サンチョの野郎!

おれの意図がわかってねえのか?

 

わざととぼけているのか?

それとも本気で気づいてないのか?

 

まさか? てめえ

これっぽっちのエールで酔ったのか?

 

 

サンチョの腹の中が読めない。

 

 

「どう思います? ナナ様。この煮つけのダシ、そんなにマズいですか?」

 

サンチョは首をひねりながらナナに尋ね、ナナに魚の味見をさせている。

 

 

「ううん。いいダシが出ていると思うわ。このお魚、とっても美味しいわよ」

 

ナナがサンチョに答えると、サンチョは満足そうな顔でおれを見た。

 

 

やべえ。

こいつ、本気でわかってねえぞ!

 

隠語が通じねえなら、どうやって「余計なこと言うな」と伝えるべきか…?

 

 

おれがサンチョの扱いを考えていると、サンチョの方が先に口を開いた。

 

 

「そうそう、魚といえばお2人ともご存じですか? とても美味しい魚があるんです」

 

サンチョが目を輝かせて話してくる。

 

 

サマルトリア近海では獲れないみたいで、私はまだ1度も食べたことないんですよ。

 お2人は世界中を旅してきたから、どこかで食べたことあるんじゃないかなぁ?」

 

さっきしつこく絡んだことなんてすっかり忘れてサンチョはウキウキしている。

 

 

まぁ、話題を変えたのはありがてえ。

ここは話に乗ってやろう。

 

 

「ほう、なんという魚だ?」

 

おれたちがしてきたのは普通の旅行とは違ってハーゴン討伐の旅だ。各地の名産品を

食った記憶は少ないが、どこかで口にしてる可能性もあるかもしれねえ。

 

 

「『キス』という魚です!」

 

 

 

「キッ?!」

 

おれは絶句した。

 

 

「ぐっ、けほっけほっ」

 

サンチョの話を聞きながらエールを飲もうとしていたナナがむせて咳き込んでいる。

 

 

サンチョ!!

てめえ、どういうつもりだ?!

 

 

「ふわふわと柔らかくてほんのり甘く、とても美味しいそうですよ。どうですか?

 坊ちゃんはキスを知ってますか?」

 

サンチョは悪びれた様子もなく聞いてくる。

 

 

「しし知らねーよ、バカ!」

 

おれは冷たく吐き捨てた。

 

 

「あぁ、そうですかぁ。それは残念です。じゃあ、ナナ様はご存じですか? とても

 柔らかくて甘いキス」

 

 

「あああたし、ししし知らないわ…」

 

ナナは顔を真っ赤にして小さくつぶやくと、そのままそっぽを向いた。

 

 

「そうかぁ、それは残念だなぁ。1度でいいから是非とも味わってみたいですよね~

 甘くて柔らかいキス」

 

 

 

もう我慢の限界だ!

 

 

「サンチョ!!」

 

おれは大声を出して立ち上がった。

 

 

サンチョはぽかんとしておれを見る。

ナナも驚いた顔で振り返った。

 

 

おれはサンチョを怒鳴りつけてやりたい気持ちでいっぱいだったが、サンチョはただ

自分が今まで食ったことない美味いと評判の魚についておれたちに聞いただけだ。

 

その魚の名前がちょっと変だからって、ここで怒るのはひどく場違いな気がした。

 

 

「えっと…。王子をサマルトリアに呼ぶためにおれは今から伝令の手配をしてくるよ。

 おまえたちは適当に食ってろよな」

 

勢いよく立ち上がってしまい引っ込みもつかないので、おれがそう言って歩き出すと

サンチョは笑顔で「は〜い、行ってらっしゃ~い」とのんきに手を振ってきた。

 

 

「ねえねえ、ナナ様。良かったらこれ食べてみてくださいよ。私の自信作なんです」

 

サンチョはおれの言動をまったく気にする素振りもなく上機嫌でニコニコしながら

ナナに芋のサラダを勧めている。

 

 

「まぁ、自信作と言うだけあってとても美味しそうね。ありがとう。食べてみるわ」

 

ナナもにこやかに応じている。

 

 

サンチョとナナを2人だけにするのは気が引けたが、2人ともにこやかに話し合い

変な空気にはなってねえみたいだな。

 

 

… こいつらのことはもう放っておこう。

 

おれは足早に食堂をあとにした。

 

 

 

 

狙ってるの?

わざとなの?

天然なの?

酔ってるの?

しらふなの?

 

何を考えているかよくわからないサンチョに翻弄されるカインとナナ ( *´艸`)

 

 

最初こそ、みんなで和気あいあいと調理実習して和やかな良い雰囲気になりましたが

食事を始めてからは...ね (;´∀`)

 

 

キスしちゃったことを知ってるくせに「謁見の間に2人でいたときなにがあった?」

しつこく聞き出そうとし、挙句の果てに魚の「キス」を話題にするなんてね ( *´艸`)

 

 

あの『不慮の事故』から話題が移り「しつこく聞かれるのを回避できた」と安堵して

喜んで魚の話題に乗っかったカインにとって、サンチョからいきなり発せられた

「キス」という名前は衝撃的だったでしょう(文字も最大にしましたよ ( *´艸`))

 

 

「甘くて柔らかいキスを知っているか?」とナナに聞くなんて、もし令和の時代なら

サンチョはセクハラおやじ認定」されちゃうところですが ( *´艸`)、

カインたちがいるのは令和ではないので、ただカインとナナが激しく動揺するだけで

サンチョは怒られることもなく終了~!

 

 

カインは微妙な雰囲気の食堂を抜け出すため、伝令の手配をして王子をサマルトリア

呼び寄せることを決めました☆

 

 

次回は王子の登場か?!

 

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ