ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 73】ここにしか咲かない花

「ねー! おにいちゃんも行こうよ~」

「おにいちゃんと一緒がいい~!」

 

「ったく! おれは行かねえって言ってんだろ。おまえたち3人で行ってこいよ」

 

朝っぱらからティアとリーナに叩き起こされ、2人に両側から腕を引っ張られながら

おれはこの場を逃げ出す方法を考えていた。

 

 

ティアとリーナがおれを引っ張っていく先には、竜王のおっさんが待ち構えている。

 

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ナナはすでにおっさんの背中にある鞍に座って、おっさんになにか話しかけていた。

 

「おお、おちびさんよ。そなたも早く、早く来るがいい。大空はいいぞ~!」

 

おれたちに気づいた竜王のおっさんは、待ちきれないとばかりに翼を大きく広げた。

 

 

ムーンブルク再建は3日間の作業を終え今後は当番制となり、まずは最初の当番である

ローレシア青の騎士団と、サマルトリア緑の騎士団に引き継がれた。

 

休暇を与えられ、おれは1人であの町へ行く予定だったが、うっかり寝坊してしまい

ティアとリーナにつかまってしまったのだ。

 

ナナ・ティア・リーナは今日、竜王のおっさんと『空中散歩』をするのだそうだ。

 

どこでも好きに行ってくれと思うのだが、ティアとリーナはおれも一緒がいいと言って

おれの腕をつかんで離さない。

 

 

「おまえらだけで好きなように世界中を飛び回れよ。おれには行くところがあるんだ」

 

「あら、それならおにいちゃんの行きたいところへみんなで飛んで行きましょうよ!」

 

くそっ! 上手く逃げれると思ったのにな。

ティアは普段はうるせえだけなのに、こういうときに限ってやけに頭のまわる奴だ。

 

あんなところまでおっさんの背中に乗せられるのは勘弁して欲しいし、それになにより

ナナが一緒にいては計画が台無しになる。

 

 

 

「あっ、あれはなんだ?!」

 

おれは空を見上げて大声を出した。

 

「えっ? なに?」

「どれ? どれ?」

 

ティアとリーナの腕の力が抜けた。

よしっ、今のうちだ!

 

 

おれはティアとリーナの手を振りほどき、後ろへ向かって全速力で駆け出した。

 

「ああ~っ!」

「ひどい! だましたわね!」

 

ティアとリーナが追いかけてくる。

 

「二つの点は一つの点に。星幽界の... ああ、めんどくせえ。頼む! おれを

 あの場所へ連れて行ってくれ! ルーラ!」

 

 

 

虹色の光が薄れると、太陽の光を受けてキラキラ輝く大きな湖が目に飛び込んできた。

やれやれ。急場しのぎで唱えた呪文だったが、どうやら上手くいったようだな。

 

 

おれは湖の横を歩いて町へと向かった。

歩きながら湖のほとりを見ると、色鮮やかな花が咲いているのが目に入った。

 

「ねえ、見て。このあたりの草花はムーンブルクとはまったく違っているわ。でも、

 なんて美しいのかしら!」

 

キラキラした瞳で花を眺めていたナナの姿が脳裏によみがえってくる。

 

おれは咲き誇っている花の1本を手折ると、花を手にベラヌールの町へと入った。

 

 

『水の都ベラヌールは大きな町だ。

さまざまな国の商人、船乗り、戦士たちが闊歩して賑やかに活気づいている。

 

「やめてよ、カイン。きょろきょろするのは。田舎者だと思われるでしょ」

 

町を歩く奴らをきょろきょろ眺めていると、またナナの声がよみがえってくる。

 

おれは苦笑しながらあたりを見まわし、この町の住人と思われる中年女に声をかけた。

 

 

「ねえねえ、おねえさん。ちょっといいかな? 聞きたいことがあるんだけど...」

 

「まぁ! おねえさんってあたしのことかい? 嬉しいねえ、なんでも聞いとくれよ」

おねえさんと呼ばれたのが嬉しかったのか、女は愛想よくおれに笑いかけてきた。

 

おれは手にしていた花を女に見せ、この花について教えてくれねえかと尋ねた。

 

 

「まぁ、あんた。花に興味があるのかい? あたしはあんまり詳しくないんだけど

 ぺルラ婆さんならわかると思うよ」

 

「ぺルラ婆さん?」

 

「この町に長く住んでいる物知りな婆さんさ。良かったら婆さんの家を案内するよ」

 

おれは礼を言い、女についていった。

 

 

女が案内してくれたのは、町のはずれにある小さな木造の家だった。

 

女からここまでの経緯を聞いたぺルラという婆さんは、突然やってきたにもかかわらず

おれをにこやかに出迎えると、部屋の中へと案内してくれた。

 

おれは婆さんに花を見せて、この花について教えてもらいたいんだと言った。

 

「この花はベラヌールでは比較的よく咲いている花だよ。なにを聞きたいんだい?」

 

 

おれは懐から世界地図を取り出した。

 

「もし、種か何かあれば、このあたりでこの花を咲かせることは可能かい?」

 

おれが地図上のムーンブルクを指しながら尋ねると、婆さんは「うーん」と唸った。

 

「この花はね、丈夫ではあるんだけど、寒さを好む花でもあるんだよね。おまえさんが

 咲かせたいというこの土地は、気候が1年を通して温暖なところだろう? だとすれば

 ここで咲かせるのは難しいだろうね」

 

 

確かにおれたちがベラヌールに到着してこの花を見たのは、翌日には初雪が降るほどの

寒い季節のことだった。

 

ベラヌールに到着した翌日、静かに降り積もった雪で町は白銀の世界に変わっていた。

 

「この世界に、あたしたちが最初の一歩を踏み出したのよ」

 

新雪に足跡をつけてはしゃぎまわるナナを思い出して、思わず顔がにやけた。

 

 

おおっと、いかんいかん。今は婆さんとの話に集中しないと。

 

 

ぺルラ婆さんが言うように、この花が寒い時期を好んで咲く花ならば、ムーンブルク

育てるのは難しいかもしれない。ムーンブルクは年中温暖な地域だからな。

 

ナナが美しいと感動していたこの花を、ムーンブルク城の周りに咲かせてやりたい。

そんな思いでここまでやって来たんだが…。くそっ、このまま無駄足になるのか!

 

 

「うーん。地図を見る限り、このムーンブルク? っていうところでは難しいけど

 この場所なら上手く管理すれば咲かせることが出来るかもしれないね」

 

ガッカリしたおれをあわれんだのか、ぺルラ婆さんが慰めるように声をかけてきた。

 

この場所なら... と婆さんが指した場所を見ると、そこは サマルトリア だった。

 

 

「婆さん! 本当か? ここなら咲かせられるのか?」

 

急に目を輝かせ勢い込んだおれに驚きつつも、ぺルラ婆さんはしっかりうなずいた。

 

 

「季節は逆転するけどね、ここは比較的ベラヌールと気候が似ていると思うんだよ。

 あとは豊かな水があれば根づくと思うんだけど、水に関しては大丈夫かい?」

 

ベラヌールのような大きな湖はないが、サマルトリアも自然豊かな土地柄だ。

 

少し離れてはいるが、城の付近には『勇者の泉』もあり、教会の清めの水と有事の際の

水源として、常に勇者の泉の水はサマルトリア城の地下と教会に保管されている。

 

おれがそう話すと、ぺルラ婆さんは満足そうに何度もうなずいた。

 

 

「水の確保が出来るのであれば、このサマルトリアで花を咲かせることは可能だよ。

 おまえさんが欲しいと言うのなら、種を分けてあげるよ。園芸に詳しい人に頼んで

 植えてもらうといいさ」

 

婆さんは立ち上がると、背後にある戸棚から麻で出来た小さな袋を取り出した。

袋の中を見ると、黒くて小さな種が10粒ほど入っているのが見えた。

 

「婆さん、ありがとよ」

 

帰り際におれが声をかけると

 

「無事に綺麗な花が咲いて、おまえさんの愛しい想い人が

 喜んでくれるのを願うよ!」

 

ぺルラ婆さんはおれを見てニヤリと笑った。

 

 

 

カインがやって来たのはベラヌールでした!

 

ルプガナではどんな花が咲くの?」とミリアに尋ねていたナナ。

そのナナの言葉を聞いて、ベラヌールでは初めて見る花に感動していたことを思い出し

ナナの好きな花をムーンブルクでも咲かせてやりたいと思ったという流れです (*´ω`*)

 

「ナナの好きな花をムーンブルクでも...!」と、ティアやリーナを振り切って ( *´艸`)

ベラヌールへとやって来たカイン。

 

ことあるごとに「ベラヌールに来たときのナナ」を思い出して、懐かしさに浸ったり

思い出し笑いをしています ( *´艸`)

 

好きな人と一緒に行った場所をのちに1人で訪れると「あのとき、あの人は...」なんて

相手の言動をついつい思い出しちゃいますよね!(恋するカインが可愛い ( *´艸`)♡)

 

 

今は多様性の社会なので、純粋に「花が好き!」という男の子もいるだろうけど、

(男女の区別なく、みんなが好きなものを素直に好きと言える社会は素敵です♡)

このゲームブックが発売された1989年あたりを考えると、花に興味がある男の子は

めずらしかったでしょうね。

 

当時は「花に興味を示す=女の子のため」という図式が成り立っていたでしょう。

「この花を他の場所でも咲かせたい! 好きな女の子のために!」というカインの想いは

ぺルラ婆さんにもバレバレでしたね ( *´艸`)

 

ちなみに「ぺルラ」という名前は、ドラクエシリーズのキャラから拝借しました。

ゲームでは「肝っ玉母さん」みたいなキャラでしたが、あの「人の良さ」をそのままに

年を取った可愛いおばあちゃんの姿を想像して読んでもらえると嬉しいです (*´ω`*)

 

 

ナナが感動していた美しい花☆

ムーンブルクでは気候が合わなくて育てることは難しそうだけど、サマルトリアなら

咲かせられそうですヾ(*´∀`*)ノ

 

無事に種をもらったので、サマルトリアに帰って綺麗な花を咲かせましょう♪

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ