翌日にはおれもすっかり回復して、おれたちは予定通りムーンペタへ向かった。
双子の塔が見える例の海岸沿いを通った日は、どんよりとした曇り空だった。
「もうっ!『双子の塔を見たら幸せになれる』って聞いて楽しみにしてたのに!
どうして今日に限って、こんなに天気が悪いのよぉー!」
「うっせえな。日頃の行いが悪いんだよ。これに懲りて少しは反省しろよな」
「ひどいわ、なんであたしだけ。だって、さっきすれ違った旅商人が言ってたのよ。
『先日の満月の夜は奇跡が起こって、夜も双子の塔がハッキリ見えたらしい』って。
夜でも見えたものが、今は昼間なのになんであたしには見えないのよー!」
あの夜におれとナナが見た塔は幻じゃなかったのか。奇跡が起こった夜... ね。
ナナがおれの背中で泣き、2人で双子の塔を見た満月の夜が脳裏によみがえる。
おれはナナを見た。ナナは少し照れた様子で顔を赤らめておれから目をそらした。
「なんであたしだけ...」とギャアギャアうるさいティアをなだめながら先に進むと
ムーンペタの町が近づくにつれて旅人や商人、冒険家など出会う人も増えてきた。
ムーンペタの情報を求めて話しかけると、人々はみんな口をそろえて言った。
「ムーンブルクの王女様が帰ってくると聞いて、町は大いに盛り上がっている」と。
実際、町に着くと想像以上の騒ぎだった。
あふれんばかりの群衆が町の入口に集まり、拍手と大歓声がおれたちを迎えた。
「姫様、おかえりなさい!」
「ハーゴンを倒してくれてありがとう!」
「これから、我々みんなで一緒にムーンブルクを再興させましょう!」
「私たちも姫様の力になります!」
群衆のあちこちから声が上がり、その度に拍手と大歓声がつつみこむ。
ナナはボロボロに泣きながらも、アルファズルに促されて歓声に応えた。
「...... みんな... 本当にどうもありがとう。これからもよろしくね」
「うおぉぉ~!」地響きが起こりそうなほどの大歓声が上がった。
両親は残念ながら亡くなってしまったが、ナナにはこんなたくさんの味方がいる!
おれはこっそり群衆にまぎれると、目の下をサッと手でこすった。
それからは連日、ムーンペタの町では飲めや歌えやのお祭り騒ぎが続いた。
ムーンブルクが落城し、町は避難民があふれて長らく大混乱だったのだ。
苦労した分、王女が帰還して平和が戻ったことで民衆の喜びもひとしおだった。
毎日のどんちゃん騒ぎは楽しかったが、いつまでも遊んでるわけにもいかねえ。
サマルトリアを出るとき、オーウェンは魔法の粉が1カ月で完成すると言っていた。
魔法の粉が出来あがるまでに、デルコンダル王やレオンたちにも会いに行かねえと。
少し名残惜しいが、おれはティアと一緒にサマルトリアへ帰ることにした。
ムーンペタに到着してから数日後の夕方。
夕焼けが町を染める中、おれたちは教会の前で別れのあいさつを交わした。
「アルファズル、くれぐれも2人のことを頼んだぜ。不自由なく生活できるように
いろいろ取り計らってやってくれよな」
「あぁ、まかせておけ。カイン、おまえも自分の役割を果たすのじゃぞ」
「へっ、わかってるよ」
「リーナ。じゃあ、元気でな。アルファズルとおねえちゃんの言うことをよく聞いて
良い子にしてろよ。そして、おねえちゃんのことをちゃんと助けてやるんだぞ」
「うん、大丈夫よ。あたし、ちゃんと良い子にしてるわ。おにいちゃんも元気でね」
ふと視線を感じて横を見ると、ティアがおれを見上げてニヤニヤ笑っている。
「おにいちゃんってダメね。そういうところが本当にお父様にそっくりなのよね。
お父様も、一番大事な言葉を一番伝えなきゃいけない人には言わないんだから。
『男ならハッキリ言葉で伝えないとダメなのよ』ってお母様がいつも嘆いてたわ」
ティアはおれにそう言うと、ナナのそばに駆け寄っていった。
「おねえちゃん。あまりこっちに長居しないで、またサマルトリアに遊びにきてね。
おにいちゃんの大好きなナナおねえちゃんのことは、いつでも大歓迎するわ!」
「えっ?!」
「なっ...!」
絶句するおれとナナを尻目に、ティアは羽が生えたような軽やかな足取りで今度は
リーナのもとへ駆けていくと、リーナの腕をとっていたずらっぽく笑った。
「ねえ、リーナちゃん。知ってる? おにいちゃんが熱を出したとき、おねえちゃんに
看病してもらってたでしょ? おにいちゃんったらね、あの日の夜、おねえちゃんと
2人っきりなのをいいことに、おねえちゃんに抱きつこうとしてたのよ! あたし、
それを見て確信したわ。おにいちゃんはおねえちゃんのことが好きなんだって!」
「え~っ! 知らなかった~。おにいちゃんはおねえちゃんが好きなんだ~! うふふ」
「おいっ、ティア! てめえ、いい加減なことばっか言ってんじゃねえぞ!」
「うそじゃないわよ。あたし、この目で見たんだから。外でお肉を食べてるときに
おにいちゃんがおねえちゃんに後ろから抱きつこうとしていたの。ちょうどそこに
あたしたちが現れて、おにいちゃんは慌てて飛び退いたのよ! 大慌てで飛び退く
おにいちゃんの姿、あたしこの目でハッキリと見たわ。あたしたちが来なかったら
絶対にあのままおねえちゃんに抱きついてたわよ! 間違いないわ!」
くそっ! あのときティアに見られてたか。
「ちょっと、カイン。どういうことよ!」
ナナがおっかない顔で詰め寄ってくる。
「別に抱きつこうとなんてしてねえよ。ちょっと触ろうとしただけだろ」
つい勢いで言い返してから「しまった!」と思ったが、もう遅かった。
バッチーン
ひさしぶりにナナのキッツ~イ平手打ちがおれの頬を直撃した。
「病人だからって優しくしてあげたのに、あんた何してんのよ! エッチなんだから。
リーナちゃん、もう行きましょ!」
ナナはリーナの手を引いて、おれに背を向けて教会の中へと歩いていく。
「あっ、おねえちゃん、リーナちゃん。ちょっと待ってよ。おにいちゃん、今日は
もう遅いからここに泊まって、明日の朝に帰りましょ。じゃあ、また明日ね!」
おれの返事も聞かず、ティアはナナとリーナを追って教会の中へ行ってしまった。
「……」
「ここに泊まるのなら、聖堂の奥に簡易ベッドがあるからそれを使うといい」
おれたちの一連のやりとりを無表情で聞いていたアルファズルが教会へと向かう。
「.........……」
頬を押さえて無言で立ち尽くすおれを見て、アルファズルは入口前で振り向いた。
「わかっていると思うが、教会に酒は置いてないからな。酒が飲みたいのであれば
【出会いの酒場】に飲みに行くといいぞ」
アルファズルはそれだけ言い残すと、静かに向き直って教会の中へと消えていく。
「おいっ! 酒が飲みたいだろって、アルファズル! そりゃどういう意味だよ!」
おれの叫び声が1人ぼっちの夕暮れの町に空しく響いた。
ちくしょう! なんなんだよ。確かにヤケ酒でも飲まなきゃやってられねえぜ!
(ちょっとテンポアップして)「ムーンペタに到着~カインたち帰国まで」の回。
ここのやりとり(特に最後の方)は書いていてすごく楽しかったです (≧▽≦)
カインとティアがサマルトリアへ帰るときは、ティアが場を引っ掻きまわそうと
ぼんやり考えていましたが、想定より良く書けたな~(自画自賛3回目 ( *´艸`))
私のお気に入りは、王子が泣いてても「へっ (`▽´)ノ」と笑ってるカインなのに
ナナが泣くと、とたんに自分も隠れてこっそり目の下をぬぐうところ ( *´艸`)
「誰が誰を好きか ♡」というネタが大好物のちょっとおマセな妹たち ( *´艸`)
(小学校高学年ぐらいの女子って、だいたいこんな感じですよね~ ( *´艸`))
「ちょっと触る」ぐらいイイじゃねえかと、つい口を滑らせるカイン ( *´艸`)
(これはその人のキャラや親密さで判断がわかれるところですね~ (;´∀`))
あと、相変わらずのアルファズル ( *´艸`)
単に「教会には酒を置いてない」という伝達だけなのか、一連のやりとりを見て
カインをからかうつもりで言っているのか。無表情でまったく読めません (;´∀`)
真意を探らせず、カインの呼びかけにも応じず、静かに立ち去る姿はさすがです。
大賢者様の風格が漂ってますね ( *´艸`)
うまく書けた~! と自画自賛していますが
実は、ここからどう話をつなげるか決めてませ~ん!(← ぶっちゃけた (;´∀`))
今から頭フル回転で絞り出します!
続きもお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ