ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 105】口止め料

アルファズルを説得して、ムーンペタの教会でナナの誕生パーティーをおこなう約束を

無事に交わしたおれたちは、リーナを連れてサマルトリアへと帰って来た。

 

王子はローレシアに帰ると思いきや、おれたちと一緒にサマルトリアへ同行してきた。

 

辺鄙な片田舎のローレシアにはキメラの翼すら売っていないから、我がサマルトリア

【魔法を売る店】でキメラの翼を買って、ミリアに会うためルプガナに向かうそうだ。

 

 

 

「おまえも城に寄っていくんだろ?」

 

虹色の光が薄れたところで王子に声をかけると、王子は困ったような表情を見せた。

 

 

「えっと...。ぼくはこの後、ルプガナに行ってミリアと話さなきゃいけないからさ...

 あんまり他の場所で寄り道してのんびりしていると、帰るのも遅くなっちゃうし...」

 

王子はもごもご言い訳している。

 

 

「へんっ! さっきからなにブツブツ言ってんだよ。てめえはローレシアの王様だろ?

 門限が厳しい乙女みてえなこと言ってんじゃねえぞ。おい、もしかしておまえ

 今すぐルプガナに行くつもりなのか?」

 

 

「えっ、ダメかな?」

 

 

「別にダメじゃねえけどよ。今朝、別れたばかりだというのに、またすぐ行くのかよ?

 もう会いたくなってるのか? 一日逢わねば千秋っていうけど、おまえにとっては

 半日逢わねば千秋ってことか?」

 

おれは王子をひじで突いてやった。

 

 

「ち、ちがうよ。もう! ぼくはただ、パーティーの場所も無事に決まったことだし、

 ナナの誕生日のことをミリアにも早く伝えた方がいいと思って...」

 

王子は真っ赤になって、手をばたつかせながら否定してきた。

 

 

「へへっ。おれとおまえの仲だろ? おれの前で言い訳なんてすんなよ。会いたいなら

 素直に会いたいでイイじゃねえか」

 

ちょっとからかうとすぐ真っ赤になる王子がおもしろくて、おれは追い打ちをかけた。

 

 

「も~う。からかうのは止めてくれよ。さっきから言っているとおり、ぼくはただ...」

 

 

「ぼくはただ、今すぐミリアに会いたいだけなんだ~ ってか?」

 

おれは王子の言葉を遮って言ってやった。

 

 

「王子おにいちゃん、ミリアおねえちゃんが好きなの?」

 

いきなり足元で声がして、おれと王子はビックリして飛び上がった。

 

 

見下ろすと、リーナが好奇心いっぱいのキラキラした目で王子を見つめていた。

 

そうだ。おれたち2人じゃなく、リーナもサマルトリアに一緒に連れて来たんだった。

王子をからかうのに夢中で、リーナがいることをすっかり忘れていたぜ。

 

 

「うふふ。あたし、今の話でわかっちゃった! ミリアおねえちゃんが好きなんでしょ、

 王子おにいちゃん?」

 

リーナはニコニコして王子に問いかけた。

 

 

「えっと...。あの... す、好きっていうか、うーん... なんというか...」

 

リーナから素直な瞳で真っすぐに見つめられて、王子は赤面したままうろたえた。

 

 

「うふふ、いいのよ。その態度だけで、答えなくてもわかるわ」

 

リーナは大人びた目で王子を見た。

 

 

王子はおれを見て頭をかいた。

おれはため息をついて王子のそばに近寄ると、こっそりと耳打ちした。

 

「ここでリーナにバレちまったのは、もうしょうがねえよ。リーナには、ただおまえが

 ミリアを好きだと知られただけだし、リーナは騒いだりしねえだろうから諦めろ。

 ただ、ティアに知られると厄介だぞ。あいつはやたら騒ぎ立てるし、おまえたちを

 くっつけようとか言い出して、周りを巻き込んで余計なことをやらかすからな。

 ティアには黙っていてくれと、今のうちにリーナに頼んでおいた方がいいぜ」

 

おれの言葉に王子は何度もうなずいた。

 

 

「リーナ。いい子だから、この話はティアちゃんには内緒にしてくれるかな?」

 

王子はその場に腰を下ろすと、リーナと目線を合わせて頼み込んだ。

 

 

「え~、ティアちゃんには秘密なの? 上手く隠し通せるかしら? 困ったなぁ~」

 

リーナは懇願している王子を見て、からかうように「うふふ」と笑った。

 

 

ははっ。リーナの奴、前は素直で優しい女の子だったのに、どうやらティアからの

悪影響が出ているみてえだな。まぁ、おもしれえからこのまま静観するか。

 

 

おれは、腕を組んで「どうしようかしら?」と言いながら、ゆらゆら左右に揺れて

考えるふりをしているリーナと、しゃがみこんでリーナに手を合わせている王子を

傍観者になって楽しんでいた。

 

 

「ねえ。カインおにいちゃんも、好きな人いるの?」

 

ゆらゆら揺れていたリーナが、急にぴたりを動きを止めておれに聞いてきた。

 

 

「えっ! あ... え...?」

 

リーナの質問はあまりにも突然のことで、おれも激しくうろたえてしまった。

心臓がビクンと跳ね上がり、変なところから汗が噴き出してくる。

 

 

「あー、その様子だと、カインおにいちゃんにも好きな人がいるのね! あたし、

 ティアちゃんから聞いたの、男の子がうろたえたときはあやしいって!」

 

 

ちっ! ティアの奴、まったくろくでもないことばかりリーナに吹き込みやがって!

 

 

リーナの美しい碧色の瞳が、さっきよりもさらにキラキラと輝きを増した。

 

「王子おにいちゃんが好きなのは、ミリアおねえちゃんでしょ? それはわかったわ。

 じゃあ、カインおにいちゃんはいったい誰が好きなの? ねえ、教えて」

 

 

さっきまで王子を手のひらで転がしていたはずなのに、なぜか一気に形勢逆転した。

リーナはどんどんおれに詰め寄ってくる。

 

リーナはおれの足元に立つと、キラキラした大きな瞳でおれを見上げてきた。

 

 

一転してリーナに詰め寄られるおれを、王子はしゃがみこんだまま見ていた。

 

 

「ねえねえ、カインおにいちゃんの好きな人って誰なの? あたしの知ってる人?

 あっ、そうだ! ナナおねえちゃんならわかるかしら? 聞いてみようかなぁ?」

 

 

「いやっ! それだけは…!」

 

いきなりナナの名前が出てきて、思わずおれもリーナの前にしゃがみこんだ。

 

 

リーナは自分を囲むようにしゃがみこんでいるおれと王子を交互に見まわした。

 

「王子おにいちゃんからは、ミリアおねえちゃんを好きなことをティアちゃんには

 内緒にして欲しいって頼まれて、カインおにいちゃんからは、おにいちゃんの

 好きな人をナナおねえちゃんには聞かないで欲しいって頼まれて。こんなにいっぱい

 頼み事されちゃって、あたし、どうすればいいのかしら?」

 

 

「頼むよ、リーナ。黙っていてくれよ。なんでも好きなもの買ってあげるからさ!」

 

 

「そうだそうだ。おれたち、おまえの欲しいものなら、なんでも買ってやるぜ。ほら

 あの『スライムのぬいぐるみ』なんてどうだ? 可愛いぞ」

 

おれは売店の入口に飾られている大きなスライムのぬいぐるみを指差して言った。

 

 サマルトリアの人気商品? みんな大好き「スライムのぬいぐるみ」



 

「うん! わかったわ。スライムのぬいぐるみを買ってくれたら、おにいちゃんたちの

 今の話は内緒にしてあげる」

 

リーナはニコニコしながらうなずいた。

 

 

おれと王子はよろよろと立ち上がると、売店に向かってとぼとぼ歩きだした。

 

「ぼく、前にも同じようなことがあって。そのときも口止め料としてティアちゃんに

 スライムのぬいぐるみを買ってあげたんだ。まさか、また買う羽目になるなんて...」

 

売店に向かって並んで歩きながら、王子がぽつりとつぶやいた。

 

 

話を聞くと、身分を隠して旅に出てサマルトリアに到着したとき、ティアから

ローレシアの王子だとバラすと脅され、スライムのぬいぐるみを買わされたらしい。

 

 

「ティアならいかにもやりかねないと思うが、まさかリーナにまで、ぬいぐるみを

 買わされる羽目になるとはな」

 

「うん。女の子って怖いね…」

 

足がどんどん重くなる。すぐ近くにあるはずの売店が今はやたらと遠くに感じた。

 

 

「今さらだけどよ。おまえ、すぐにルプガナに行く気だったんなら、ムーンペタ

 道具屋でキメラの翼を買って行けば良かったんじゃねえか? ナナに見つかるリスクは

 高くなるけどさ、こんなもの買う羽目になるぐらいならそうすれば良かったんだよ」

 

 

「もう、そういうことは早く言ってくれよ。あのときはナナに見つからないように

 急いでキメラの翼を買いに行くことしか頭になかったからさ...」

 

 

「おれ、サマルトリアに行くのでいいか? っておまえに確認しただろうが」

 

 

「あの確認に重要な意味があっただなんて、思ってなかったんだよ」

 

 

「おれはすぐにルプガナに行くつもりだなんて思ってねえからよ、休める場所として

 おまえは今晩サマルトリアに泊まるんだと思ってたんだ。こうなっちまったなら、

 おれの想定どおり、今日はおれのところで休んでいけよ。おまえも疲れただろ?」

 

 

「うん、そうさせてもらうよ。もう、ルプガナに行く気力も失せちゃった...」

 

 

ポツポツしゃべりながら、重い足取りで歩くうちにようやく売店にたどり着いた。

売店に着いたおれたちは、10Gを半分ずつ払ってスライムのぬいぐるみを買った。

 

 

買ったぬいぐるみを手に、ニコニコしながらおれたちを待つリーナのもとへ戻る。

 

スライムのつぶらな瞳としまりのない口元を見ていると、ムカムカと怒りが湧いた。

おれはリーナに手渡す前に、ぬいぐるみのスライムの顔を思いっきり殴ってやった。

 

 

 

 

【悲報】あんなに可愛かったリーナちゃんが、ティアのように...

 

 

サマルトリアに戻ったらサクッと話を進めようと思っていたんですが、前回の終わりで

王子もサマルトリアに同行する流れになり、「王子・カイン・リーナ」というなんだか

めずらしい3人組で行動することになったので、脱線しちゃいました ( *´艸`)

 

 

「好きな人」の話は(特にこのぐらいの年齢の)女の子の大好物ですからね☆

「好きな人バラす」と脅して、口止め料として欲しいものを買ってもらう ( *´艸`)

好奇心旺盛でおませな女の子なら、いかにもやりそうですよね~ ( *´艸`)

 

 

カインは怒りにまかせてぬいぐるみのスライムの顔を思いっきりパンチしているけど、

王子に比べたらマシだよね... (;´∀`)

 

王子はぬいぐるみを買わされるのは2回目な上に、前回は旅の序盤の極貧なときに

(装備もまだ貧弱なのに)10Gという手痛い出費があったわけだからね (´;ω;`)

 

今回は、ぬいぐるみ代は王子とカインで折半だし、もう2人とも貧しくないわけだし...

まぁ、それでも「あの可愛いリーナちゃんに脅されてぬいぐるみを買わされる」なんて

カインと王子がいつも以上にガックリしちゃう気持ちはよくわかるよ… ( *´艸`)

 

 

すぐにルプガナに行くのは諦めて、今日はサマルトリアで休むことを決めた王子。

またひと波乱あるかも(フラグ?)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ