ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作番外編 ⑫】 ティアの大冒険 ~商人~

ローレシア南のほこらへ向かう途中、ティメラウスはあたしを元気づけるために

腕をふるっておにいちゃんから習ったという特製スープをつくってくれたの。

 

おにいちゃんのスープには及ばないけど、懐かしくて美味しいスープを飲んだあたしは

無性におにいちゃんがつくる絶品のお魚料理が食べたくなってしまったのよ。

 

進路変更してローレシアに向かい、王子にもてなしてもらおうかとも思ったんだけど

口うるさいサイラスには会いたくないし、貧乏国ローレシアで出されるお魚料理なんて

おにいちゃんがつくってくれる美味しい料理にはまったく及ばないでしょ?

 

あたしたちはこのまま真っ直ぐ南のほこらに行って、お師匠様に会えたらさっさと

サマルトリアに帰ることにしたの。

 

 

南へと歩き始めてから「やっぱりローレシアでお魚を食べた方が良かったかしら?」

あたしが後悔していると、リオスさんが「魚のにおいがする!」と言い出したの。

 

さらにあたしを見て嬉しそうに「魚がこっちへやって来るぞ!」なんて言うのよ。

 

今朝のクリフトだけじゃなく、リオスさんまでおかしくなっちゃったのかしら?

 

 

「ほら、来たぞ!」とリオスさんが指差す方向から、太ったおじさんがのっしのっしと

こっちに向かって歩いてくるの。

 

 

あのおじさんがお魚?!

 

 

 

「いやぁ、どうもどうも。こんなところで人に会うなんてめずらしいなぁ~」

 

太ったおじさんはあたしたちを見るとにこやかに話しかけてきたわ。

 

 

「ねえ、おじさん。お魚もってる?」

 

あたしが聞くと、おじさんはギョッとした。

 

 

「おじょうちゃん、どうしてわかったんだい? 変なにおいでもしたかい? おかしいな

 魚は腐ってないはずなんだが...」

 

おじさんは荷車に積まれた箱を微かに開けて、中身を確認して首をかしげた。

 

 

「違うわよ。お魚のことは、あたしじゃなくてここにいるリオスさんが言ったの」

 

あたしはリオスさんがお魚のにおいがすると言っておじさんを見つけたことを話した。

 

 

「ほほぉ~。世の中にはこんなに遠くから箱に入った魚のにおいを嗅ぎ分けられる

 特殊能力を持った人がいるんだなぁ。いやぁ、すごいことだ」

 

おじさんは感心したようにリオスさんを上から下まで眺めている。

 

 

「あんたはどこから来たんだ? この先はローレシア南のほこらしかねえだろう?

 カイン殿下の師匠のもとで魔法の修行をしている奴には到底見えねえし...」

 

じろじろ見られたリオスさんは少しムッとして、不審そうにおじさんを眺めまわした。

 

 

「いやはや、失礼しました。私はトルネコと言います。デルコンダルから来ました」

 

トルネコと名乗ったおじさんは、あたしたちにペコリと頭を下げてきたわ。

 

 

デルコンダルデルコンダルからここまでお船に乗って来たの?」

 

あたしが尋ねると、トルネコさんというおじさんはニヤリと笑ったの。

 

 

「ふっふっふ。みなさんご存知ないかもしれませんが、実はこの先にある南のほこらと

 デルコンダルは『旅の扉』でつながってるんですよ! 私は船ではなく旅の扉を使って

 ここまでやって来たんです!」

 

トルネコさんは太った大きな胸をさらに突き出すようにして自慢げに言ってきたわ。

 

 

旅の扉じゃと?!」

 

ティメラウスが驚いた声をあげる。

 

ローレシア南のほこらに旅の扉があって、その扉がデルコンダルとつながってるなんて

あたしはもちろん知らなかったけど、ティメラウスも初めて知ったみたいね。

 

こんなに長くサマルトリアに住んでいるティメラウスでも知らないことがあるのね。

 

 

「知らなくて当然ですよ。南のほこらとデルコンダル旅の扉でつながってましたが、

 ローレシアデルコンダルの国家間の争いがあったことと、ハーゴン軍の侵略もあり

 ほこらに住む魔法使いのおじいさんが『旅の扉』を長らく封印していたんです。

 ハーゴンが倒されて、ローレシアデルコンダルが同盟国になったこともあって

 最近になってようやく封印が解かれ、自由に行き来できるようになったんですよ」

 

トルネコさんが教えてくれた。

 

 

「...... えっと... それで... トルネコさんはローレシアへ来るのに、なぜ魚を持って?」

 

クリフトが不思議そうに尋ねたわ。

 

 

そうよね。長く封印されていた旅の扉が開放されたというのは今の話でわかったけど、

トルネコさんはなぜ、魚なんて持ってローレシア地方に来たのかしら?

 

 

「私の説明不足で申し訳ありません。簡単に、自己紹介をさせてもらいましょうか。

 私はデルコンダルに住んでいる商人・トルネコ。妻と1人息子がいて、もともとは

 デルコンダルの城下町で、妻と小さな店で商いをしていました。デルコンダルでは

 闘技大会が開かれていましたからね、大会に出る人たちに向けて地元の名産品を

 売っていたんですよ、でも...」

 

トルネコさんは少し表情を曇らせた。

 

 

ムーンブルク城の再建をするということで闘技大会は中止になり、店の売り上げは

 どんどん下がってきました。平和な世になって、デルコンダルを観光で訪れる人は

 増えたんですけどね、闘技大会に出る男たちと比べて食べる量が圧倒的に少ない。

 このままでは店を続けられないとなって、新たな道を模索し始めたわけです」

 

 

「ふむ。それで、旅の扉を使ってローレシア地方で商売しようと思いついたわけか」

 

ティメラウスの言葉にトルネコさんは微笑みながら大きくうなずいた。

 

 

デルコンダルの店は妻にまかせて、新たな販路を開拓しようとしました。ただ、

 今まで売っていたものをローレシアでも売ればいいと安易に考えていたんですが

 簡単な話ではなかったんですよ...」

 

話が長くなりそうだからと、トルネコさんは近くの木陰にあたしたちを案内した。

 

あたしたちを木陰に座らせると、トルネコさんは荷車の中からお茶を取り出して配り

自分も木の根元にドカッと腰を下ろして、お茶を飲みながら再び話し始めたの。

 

 

トルネコさんの話によると、デルコンダルで獲れるお魚はこのあたりでは見かけない

珍しいものばかりだから、ローレシアでも売れることは間違いなかったんだけど

持ってくるのが大変だったんですって。

 

 

旅の扉での時空の変化に耐えられないのか、獲れたての魚を生きたまま積んできても

 扉を抜けると魚が弱ってるんです」

 

すっかり弱っちゃったお魚は、南のほこらからローレシア城へ歩いて行くまでの間に

すべて死んでしまって、城に着いたときには強烈な腐敗臭を放っていたそうよ。

 

 

「死んだ魚をすべて廃棄して、このままでは商売にならないとしょんぼりしながら

 旅の扉をくぐろうとしていたとき、ほこらに住んでいる魔法使いのおじいさんが

 私に声をかけて来てくれたんです」

 

 

トルネコさんはグランログザー師匠にこれまでのことをすべて話したんですって。

話を聞いたお師匠様は「なんとか力になってやろう」と言ってくれたそうよ。

 

 

「その結果がコレです!」

 

トルネコさんはにっこり笑って、あたしたちの前で勢いよく木の箱を開けたの。

 

箱の中の氷が勢いよくあふれ出てきたわ。

 

 

「これはっ! 限られた優秀な魔法使いしか唱えられないという冷凍系の魔法では?」

 

クリフトが興奮した様子で言った。

 

 

「ほほう。おにいさん、ずいぶん魔法に詳しいんだね。そのとおり! おじいさんは

 氷結呪文を唱えて魚を凍らせてくれたんですよ。これでローレシアだけでなく

 リリザの町やサマルトリアまで新鮮なまま持ち運ぶことも可能になりましたよ!」

 

 

太古から伝わる氷の魔法は、おにいちゃんも「いつか覚えたい」と言っていたわね。

アルファズルが海底洞窟から噴き出すマグマを凍らせたのを見て感動したんですって。

 

そんな大昔の魔法は今ではアルファズルぐらいしか唱えられないと思っていたけど

お師匠様も使えるのね、さすがだわ。

 

 

「ここで会ったのもなにかのご縁。良かったらこの魚、食べてみませんか?」

 

トルネコさんがニコニコしながら凍った魚の数々をあたしたちに見せてくれたの。

 

 

確かに見たことないお魚ばかりよ。

つやつやしてて美味しそうだわ。

 

「このお魚すごいわね!」

 

あたしは1番まるまるとして色鮮やかなお魚を指さして思わず叫んじゃったわ。

だってこんなに綺麗なお魚、生まれて初めて見るんだもの!

 

 

「おじょうちゃん、お目が高いね! この魚はただ見た目が良いだけじゃないんだよ!

 煮てヨシ、焼いてヨシ。身がぎっしりつまっていてとろけるような旨さだよ」

 

トルネコさんが嬉しそうに笑う。

 

 

あたしはそのお魚を買うことにしたの。

本当は30Gだけど、トルネコさんは20Gでいいって値引きしてくれたのよ。

 

 

「へへっ、トルネコさんよ、あんた運のいい奴だな。おじょうちゃんに気に入られれば

 あんたの未来は明るいだろうぜ!」

 

リオスさんがニヤニヤと笑う。

 

話の意味がわからないみたいで、きょとんとした顔であたしを見るトルネコさん。

 

 

ティメラウスとリオスさんから目で合図されて、クリフトが1歩前に進み出たの。

 

「こちらにいらっしゃるのは、サマルトリアの王女・ティア姫さまですよ!」

 

クリフトが誇らしげに言うから、あたしも微笑みごきげんようと軽くひざを曲げて

優雅にあいさつしてあげたわ。

 

 

トルネコさんが目を丸くする。

 

「なんと! まさかここでサマルトリアの王女さまににお会いできるとは! 先ほどから

 普通の女の子とは違うなと感じていたんですが、高貴なお姫さまだったんですね!」

 

 

「けっ。あんたも調子がいいな。さっきまではそんな様子みせてなかったじゃねえか」

 

リオスさんがトルネコさんをからかうようにニヤニヤ笑って言った。

 

 

「いえいえ、本当に思ってましたって!」

 

トルネコさんは慌てて首を横に振る。

 

 

「ホントかぁ~?」

 

リオスさんが追い打ちをかける隣で、ティメラウスも「ほほほっ」と笑っている。

 

 

「嫌だなぁ、みなさん。私はそんなお調子者じゃないですよ。あ、そうだそうだ。

 これは大きな魚がまったく売れなかったとき、とりあえずお試しで食べてもらおうと

 持ってきた魚なんですがね、これも脂がのっていてまぁ旨いんですよ。軽くあぶって

 塩を振るだけでもう絶品ですよ。記念すべきお客さん第1号になってくれたお礼に

 王女さまにさし上げましょう! どうぞ今後ともごひいきに。よろしくお願いします」

 

トルネコさんはいそいそと荷車から別の木箱を出して中から細長いお魚を取り出すと、

袋に入れてあたしに手渡してきたの。

 

 

「ふふふ。こんなお魚がもらえるなら、トルネコさんがあたしのこと本当はどんな風に

 思ってたかなんてどうでもいいわよ。ありがとう、トルネコさん。もし、これらの

 お魚が美味しかったら、あたしがサマルトリア大々的に宣伝してあげるわね」

 

あたしはウインクして受け取ったわ。

 

 

「いやぁ、ありがたい。正直なところ、サマルトリアまで行っても売れるか心配で

 ローレシアで売れれば御の字だと半ばあきらめていたんです。サマルトリアでも

 売れるとなれば、世界中で商売したいという私の夢が一気に広がりますよ」

 

トルネコさんは大きなお腹をゆすりながら天を仰いで豪快に笑った。

 

 

あたしたちはまるまるとした綺麗なお魚1匹と、おまけの細長いお魚5匹を受け取って

これからローレシア城に向かうというトルネコさんを見送ったの。

 

トルネコさんは「幸先いいなぁ」とご機嫌で荷車を引きながら歩いて行ったわ。

 

 

 

「姫さま、すぐ召しあがりますか?」

 

クリフトが当然のことを聞いてくる。

 

 

もう、クリフトはホント鈍いわね!

 

あたしが「当たり前でしょ」というより先に、リオスさんが「当然だろ」と答えたわ。

ティメラウスなんて、あたしに聞くよりも先に火おこしをしているわよ。

 

 

細長いお魚はさっき「塩焼きがいい」と勧められたから焼くことにして、綺麗なお魚は

煮つけにすることにしたわ。

 

 

パチパチと火のはぜる音と共に、美味しそうないいにおいがあたりに漂っている。

 

 

お魚が焼きあがるのに注目していたあたしたちは、不穏な影が近づいていることに

このときはまだ気づいてなかったの...

 

 

 

こちらの世界のトルネコデルコンダルの魚屋さん」になりましたヾ(*´∀`*)ノ

トルネコが着ている縦縞の服も、なんか魚屋さんみたいだし ( *´艸`))

 

 

そして、デルコンダルから旅の扉をくぐって弱った魚をローレシアまで運ぶ方法として

グランログザー師匠の冷凍系の魔法を使うことにしました (^_-)-☆

 

ゲームブック本編ではアルファズルだけが唱えていた冷凍系魔法ですが、カインの

魔法の師匠なんだから、グランログザー師匠もきっと自在に使えますよね (・∀・)ノ

 

 

さて、新鮮なまま凍った魚を調理して出来あがりを楽しみに待つティアたちですが

背後からは不穏な影が... (;゚Д゚)

 

近づく不穏な影の正体は??

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ