ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 139】 危険な夜

おれはナナに連れられて「ムーンブルク戦没者の慰霊地」の候補としてアルファズルが

見つけ出した丘の上にやって来た。

 

そこでおれは、王と王妃のことを思い出して1人で涙ぐんでいたナナが我慢しないで

泣けるようにと背中を貸してやった。

 

 

以前、海岸で背中を貸したときと同じように遠慮がちに寄り添ってくるかと思いきや

ナナはおれにピッタリとくっつき、後ろから抱きついてきたではないか!

 

 

手を後ろにまわしてナナを抱きしめ返すことも出来ず、おれはナナにされるがまま

ただじっとしていたが、タイミング悪くここで大きなくしゃみをしてしまった。

 

 

ナナはおれが風邪を引いたら困るから帰ろうと言って、陽気に坂を駆け下りていった。

はしゃいだ様子で弾むように坂を下りていくナナを、おれも走って追いかけた。

 

 

気をつけていたつもりだったが、ナナの楽し気な様子につられて浮かれてしまったのか

おれは坂道を走るうちに勢いづいて止まれなくなり、足がもたつき転びそうになった。

 

大転倒を回避しようと瞬時に反応したところ、おれは目の前にいたナナの腰に

思わず抱きつき、勢いあまって抱きついたままその場に押し倒してしまった。

 

 

「キャー! なにするのよ!」

 

 

バシィッッ!

 

強烈な1発がおれの頬に炸裂した。

 

 

「早くどきなさいよ!」

 

平手打ちだけでおさまらず、ナナはおれを強く突き飛ばして慌てて立ち上がった。

 

 

「いってーな! 思いっきり引っ叩きやがって。わざとじゃねえだろ」

 

おれも頬を押さえながら立ち上がった。

 

 

「ふん、どうだか。最初からそのつもりで走って来たんじゃないの?」

 

 

「はぁ?! 人を変態扱いするなよな!」

 

 

ナナはおれの抗議の声を無視して、頬をふくらませたまま1人で先に進もうとしたが

前を見てふと立ち止まった。

 

 

目の前にはムーンペタの森が見える。

 

明るいうちは何も感じなかったが、鬱蒼と茂った大きな森は夜に見ると迫力があり

闇を感じさせ不気味さを増していた。

 

森を抜ければムーンペタはすぐそこだが、ここを歩いて通るのは怖いのだろう。

 

 

「ふんっ。あたしに許して欲しかったら、さっさとルーラ唱えなさいよね!」

 

ナナはおれのそばに戻ってきて言った。

 

 

「へんっ! 『歩くのは怖いから、どうかルーラを唱えてください。カイン様!』って

 素直に言えば唱えてやってもいいぜ」

 

形勢逆転だ!

おれはここぞとばかり威張ってやった。

 

 

「な、なによ。さっさと唱えなさいよ。あたしに許して欲しくないわけ?」

 

 

「けっ。おまえの方こそ、カイン様を変態扱いしてごめんなさいって謝れよな!」

 

 

「なんであたしが謝るのよ!」

 

 

「へっ、おれは別にいいんだぜ。謝らねえんなら、1人で歩いて帰れよな!」

 

返す言葉に詰まり、ナナは悔しそうにおれの足を思いっきり踏みつけてきた。

 

 

「いってえー!」

 

おれの叫び声に何かの生物が反応したのか、森の木々が一斉にザワザワ大きく揺れた。

 

 

「キャー!!」

 

ナナがおれの腕にしがみついてくる。

 

おれもしばらく警戒したが、おれの声に驚いた鳥たちが飛び立っただけのようだ。

 

 

「ただの鳥だ。怖がることねえよ」

 

おれはナナに声をかけたが、ナナはおれの腕にしがみついたままうつむいている。

 

 

「怖いのか? そんなに怖いんならこのままルーラを唱えるけど、いいか?」

 

ナナの顔をのぞき込むようにして聞くと、ナナはおれの腕をつかんだままうなずいた。

 

 

「二つの点は一つの点に。星幽界の守護者よ、われをかの場所へと導きたまえ。ルーラ!」

 

 

 

呪文の影響による虹色の光が薄れ、ムーンペタの町の明かりと賑わいが目に入ると

ナナはホッとした様子でおれから離れた。

 

 

「あんた、今日はここで泊まっていったら? おばさんもあんたに会いたがってるし

 明日、一緒に会いに行きましょうよ」

 

ナナが声をかけてくる。

それも悪くねえなとおれはうなずき、ナナに続いてムーンペタの町に入った。

 

 

町の入口を入ってすぐそばにある宿屋に何気なく目を向けると、ナナが言ってきた。

 

「宿屋でゆっくりくつろぎたいって言うならそれでもいいけど、どこでもいいんなら

 教会で泊まれば? あんた1人ぐらい泊まれるし、リーナちゃんも喜ぶわ」

 

 

「別に寝られりゃどこでもいいさ。じゃあ、久しぶりにリーナの顔を見に行くか」

 

おれはナナと一緒に教会へ向かった。

 

 

教会に入ると、ちょうどアルファズルとリーナが夕食の支度をしているところだった。

 

 

「おにいちゃん!」

 

おれがナナと一緒に来たのを見て、リーナが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

 

おれがしゃがんで駆け寄ってきたリーナを抱きとめ頭をなでている間に、ナナが

アルファズルにおれが今晩ここに泊まる旨を伝えている。

 

 

アルファズルは静かにうなずくと、リーナに皿をもう1枚用意するよう伝えた。

 

 

「酒はないし質素なもので贅沢も出来んが、良かったらおまえも一緒に食事していけ。

 もし足りなければ、あとで酒場へ行って好きなだけ食べればいいのだから」

 

アルファズルの誘いに乗って、おれはここで一緒に飯を食うことにした。

 

 

「はい、おにいちゃん。どうぞ」

 

リーナがにっこり笑って、スープをよそった皿をおれに手渡してくれる。

 

 

「ありがとよ、リーナ」

 

おれが皿を受け取ると、おれの顔を近くで見たリーナは驚きの声を上げた。

 

 

「おにいちゃん! ここ、どうしたの? 真っ赤になって腫れてて痛そう...」

 

リーナは心配そうにおれの腫れあがった頬を優しくなでてくれた。

 

 

何があったかリーナには言えねえからな。適当にごまかすことにするか。

 

「ああ、これか? さっき、凶暴な猫 に引っ叩かれたんだよ。....... いてっ!」

 

ナナがテーブル下でおれの足を蹴ってくる。

 

 

「ええ~! おにいちゃんのほっぺたを叩くだなんて、ひどい猫がいるのね」

 

おれの言葉をそのまま信じたリーナは、素直に同情の声をあげた。

 

 

「そうだろ~。かわいそうだよな」

 

おれはリーナに気づかれないように、ナナにベーッと舌を出してやった。

 

 

「ふんっ。猫だって何もしないのに叩かないわよ。どうせ悪いことしたんでしょ!」

 

ナナはおれをにらみつけてくる。

 

 

「たとえ悪いことしたとしても、すぐに手を出すのは良くないよな。リーナ」

 

 

「そうね。暴力はいけないことだって、アルファズル先生からも言われてるわ」

 

リーナはおれの言葉にうんうんとうなずく。

 

 

ナナが悔しそうにまた蹴りを入れてきたが、おれは事前に予測してさっとかわした。

 

 

「あっ、そうだ! おにいちゃん。あたしね、スライムのぬいぐるみ大事にしているの。

 いつも一緒におねんねしてるのよ」

 

リーナは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

  雑な扱いをされたこともあるけど、今は大事にされているよ☆

 

 

「そうか。あのぬいぐるみ、一緒に寝るぐらい気に入ってくれたなら良かったぜ」

 

おれも笑ってリーナの頭をなでた。

 

 

「スライムのぬいぐるみ、あんたと王子でリーナちゃんにプレゼントしたんですって?

 なんで急にプレゼントなんてしたの? それも2人からって。なんか変じゃない?」

 

ナナが不思議そうに首をかしげながら言うので、おれはギクリとした。

 

 

あのスライムのぬいぐるみは、王子がミリアを好きだとあちこちで言いふらさないため

あと、おれの好きな人をナナに聞くのはやめてもらうための口止め料で買ったものだ。

 

なぜ買ったのかを追及されるのは困る!

 

 

「リーナがイイ子だから、王子と一緒に買ってやっただけさ、特に理由なんてねえよ。

 ところで、アルファズル。おれ、今日はナナとあの丘に行ってきたんだよ」

 

おれはとっさに話題を変えた。

 

 

「あの丘ってなあに?」

 

リーナが無邪気に聞いてくる。

 

 

ムーンブルクで亡くなった人たちのお墓をつくる場所のことよ」

 

さっき思いっきり泣いて気持ちも落ち着いたのか、ナナがさらりと答えた。

 

 

「あの場所、おまえはどう思った?」

 

アルファズルがおれに聞いてくる。

 

 

「いいと思うぜ。ムーンブルクからもムーンペタからも近いし、頂上は広々として

 土地も水平で荒れてないからな。少し整地すれば綺麗な場所になるだろうよ。ただ

 ムーンペタから登る道は問題だな。ちょっと勾配がきついだろ」

 

おれの言葉にアルファズルも同意してきた。

 

 

「うむ、おまえの言うとおりだ。ムーンブルク側からは、なだらかな傾斜が続くから

 歩いて登るにも問題はないし、馬や馬車に乗っても丘の上に登れるだろう。だが

 ムーンペタ側は改善の余地があるな。せめて楽に登れるようにしないと...」

 

 

「おれたちは若いからいいけど、あんたはジジイだから、歩くのも難儀するよな」

 

 

おれがからかうと、アルファズルは片方の唇の端を吊り上げて笑った。

 

「おまえは相変わらずだな。でも、確かに。老人や子どもには登りづらい坂だ」

 

 

「階段をつくるなどの整備が必要よね」

 

ナナが身を乗り出して言ってくる。

 

 

ムーンブルクに来ている連中にお願いすれば、ムーンブルク再興作業の一環として

 階段をつくるぐらいのこと、あいつらも快くやってくれると思うぜ。でも、おれは

 あの丘に階段をつくるのは別の奴らに頼むのが良いんじゃねえかと思ってるんだよ」

 

おれはふと妙案を思いついた。

 

 

「ほう、別の連中とは?」

 

 

「へへっ、ムーンペタの町の奴らさ!」

 

 

ムーンペタの人たち?」

 

 

驚くナナの声に満足して、おれは得意げに鼻の下をこすった。

 

 

ムーンブルクから避難してきてここに住んでいる奴らはもちろん、昔からここに

 住んでいる奴らにとっても、ムーンブルクは縁の深い場所だろ? ムーンブルク

 戦没者の慰霊地となれば、ここの奴らにとって思い入れの強い場所になるはずだ」

 

 

「ほほう。思い入れの強い場所を自分たちで整備させるということか、なるほど」

 

アルファズルは腕を組み、感心したように大きくうなずいている。

 

 

「いいわね。あたし、ときどきこの町の人に言われるのよ。ムーンブルクの再興は

 あんたや王子、デルコンダル王が中心になって人を集めてやってくれてるけど、

 自分たちもムーンブルクのために力になりたいんだって。だから、もしなにか

 自分たちにも出来ることがあれば、いつでも声をかけてくれって!」

 

ナナは目を輝かせている。

 

 

「うむ。この町の者たちに声をかけてみるのも良いかもしれないな」

 

アルファズルも賛同した。

 

 

「あたしもお手伝いする!」

 

リーナが元気よく言って、ナナは嬉しそうにリーナの頭を優しくなでてやった。

 

 

おれは慰霊地のことで満足そうに笑うナナとリーナの顔を見て安堵した。

 

 

これで、凶暴な猫の話も、スライムのぬいぐるみの話も蒸し返すことはないだろう。

 

 

おれはホッと一安心して、残っていたパンを手に取り思いっきりかじりついた。

 

 

 

 

当初、この話を考えたときは

 

ナナに誘われて教会に泊まることになったカインが、スライムのぬいぐるみのことで

ナナに突っ込まれタジタジになる話 (;'∀')

 

こんな内容にしようと思って、タイトルも「危険な夕食会」にしていたんですが

 

ムーンペタに帰るまでの流れで「カインがナナを...♡」な展開になったので (/ω\*)

タイトルは「危険な夜」(← いろんな意味で)に変更しました ( *´艸`)♡

 

 

カインがナナを草原で押し倒してしまう「危険な夜 (≧∇≦)♡」に加えて

ナナに引っ叩かれて腫れたほっぺたをリーナに心配されて「凶暴な猫」とごまかし、

(当初の予定どおり)スライムのぬいぐるみのことでナナに突っ込まれてごまかし、

さまざまな危険を回避する内容になったので、良いタイトルになったなと思います☆

(安定の自画自賛 ( *´艸`))

 

 

とっさに話題を変えたとはいえ、慰霊地の整備はムーンペタの人たちに頼むことで

話がまとまり、結果オーライ☆

 

楽しい夕食会になりました♪

 

 

さて、ここから先もノープラン… (;'∀')

次回は、おばさん(ムーンペタの母ちゃん)やトンヌラ君が登場するのでしょうか?

 

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ