ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 135】 「これは王子の話!」

裏庭で王妃に会って、ナナへの誕生日プレゼントの花について礼を伝えたおれは

王妃がティアからもらった『泡美容』を塗っていることに気づいた。

 

あの美容液を塗ってから、ナナのことがキラキラまぶしく見えて直視できない。

 

親父にベタ惚れの王妃も、親父のことがまぶしくて見れなくなったんじゃねえかと思い

おれは王妃に尋ねてみたが、王妃からは期待通りの答えを得られなかった。

 

 

やっぱりオーウェンに聞くしかねえな。

 

オーウェンの店は、昨日は人だかりが出来て大盛況だったが、明日には落ち着くだろう。

おれは翌日まで待ってから、オーウェンの店に行くことにした。

 

 

翌日、昼近くに出発した。

城を出てオーウェンの店に向けて歩きながら、おれは何と尋ねるかを考えていた。

 

まさか正直に「ナナがキラキラ輝いて見えて直視できない」なんて言えねえからな。

適当な言い訳をつくらないといけねえ。

 

 

歩いているうちに、ちょうど使えそうな奴の顔が脳裏に浮かんできた。

 

言い訳に使う相手として、最初はオルムやレオンも考えたが、もし何らかの手違いで

おれが名前を使ったことが知られたときに、あいつらだとうるせえからな。

 

その点、こいつならバレても「え? ぼく、そんなこと言ったっけ?」で終わるだろう。

今までさんざん世話してやったんだから、たまには役に立ってもらうぜ!

 

 

オーウェンの店は、3日目ともなると美容液を手に店から出てくる奴が数人いる程度で

さすがに人もまばらになっていた。

 

店の前に着き店内を覗くと、巨漢の大男が小さな丸椅子に座っていた。

 

男の尻は椅子からはみ出しているが、男はまったく気にする様子もなく熱心な様子で

オーウェンと話し込んでいる。

 

 

「... ということですよ」

 

オーウェンが微笑みながらなにか言うと、男は恥ずかしそうに身をくねらせた。

 

 

「いやぁ~。そうなのか? そんなこと言われると、なんか照れちゃうなあ...」

 

男は巨漢に似つかわしくないデレデレとした表情で、頭をかきながら照れている。

 

 

「別に病気でもないですし、美容液に悪い成分が入っているわけでもありませんよ。

 どうぞ安心してお使いください」

 

オーウェンが力強く言い切ると、巨漢の男はうなずきながら立ち上がった。

 

 

「言われたことは恥ずかしかったけど、ヤバいものじゃないとわかって良かったよ。

 ありがとな。また頼むぜ」

 

男は顔を赤らめたまま、額に浮いた汗をふきふき店から出てきた。

 

 

「こちらこそ。今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします」

 

オーウェンも一緒に店の前まで出てきて、帰っていく男に深々と頭を下げた。

 

 

顔を上げたオーウェンはおれがいることに気づいて、にこやかな笑みを浮かべた。

 

「先日はありがとうございました。挨拶もせずに帰ってしまい申し訳ありません」

 

 

「そんなことは構わねえよ。サマルトリアでも早く美容液を売りたかったんだろ?

 夜のうちにすぐに帰った甲斐あって、売り上げも上々みたいじゃねえか」

 

おれがニヤリと笑うと、オーウェン「おかげさまで」と優雅に微笑んだ。

 

 

「今日はどうされましたか? 私の店に何か御用でしょうか?」

 

「ああ、ちょっと『泡美容』のことで、あんたに聞きたいことがあってな」

 

「そうでしたか。今はちょうどお客様も引けましたので、どうぞお入りください」

 

 

オーウェンの店に入ると、あの巨漢の男が座ったのとは別の椅子が用意された。

あの大男は汗をたっぷりかいてたからな。別の椅子があって良かったぜ。

 

 

「それで、私に聞きたいこととは?」

 

オーウェンは机の上で手を組んで、おれをじっと見つめてきた。

 

 

「あ... ああ、これは王子から相談された話なんだけどよ。あいつ、泡美容を塗ってから

 ちょっと変らしいんだよ」

 

おれは「おれとナナ」「王子とミリア」に置き換えてこれまでの経緯を話した。

 

 

ミリアがすごくキラキラ光輝いて見えて、まぶしくて直視できないらしいぜ。

美容液を塗ってから最初にミリアを見たときは、女神と見間違うほどだったらしいぜ。

 

 

「王子に異変が起きたのは、おまえにもらった『泡美容』を塗ってからだと言うからよ

 オーウェンにはおれが代わりに聞いてきてやるって王子と約束したんだよ」

 

おれがそう言うと、オーウェンはこぶしをあごに当てて首を傾げた。

 

 

「王子様が... う~ん、それは変ですね」

 

オーウェンの口から「変だ」という言葉が出たことで、おれは勢いづいた。

 

 

「そうだろ? 変だよな! 美容液を塗ってから、人の顔が光輝いて見えるなんてよ。

 絶対におかしいぜ!」

 

おれは身を乗り出してオーウェンに言ったが、オーウェンは静かにおれを制した。

 

 

「いえ、私がおかしいと言ったのは『王子様が』そうなったという件です」

 

 

「ん? どういうことだ?」

 

 

オーウェンはおれを見て微笑んだ。

 

 

「ちょうど昨日の午後あたり… からでしょうか。同じようなことをおっしゃるお客様が

 店にやって来るようになりました。中にはムーンペタから来られた方もいましたね。

 男女問わず、みなさま同じことをおっしゃるんです。『この美容液はおかしい』と。

 詳しく話を聞くと、先ほど殿下がおっしゃられたのと同じく、美容液を塗ってから

 特定の方だけキラキラして見える。これは美容液じゃなく『惚れ薬』じゃないかと

 文句を言ってくる方もいましたね」

 

確かに、1人だけ綺麗に見えるんだから『惚れ薬』と言いたくなるのもよくわかる。

 

 

「うん、それで?」

 

おれは話の続きを促した。

 

 

「苦情を言うみなさまに、どのようなお相手が輝いて見えるのかお話を伺ったところ

 ある共通点がありました。その共通点を元に、この『泡美容』という美容液が持つ

 新たな効能が見えてきたんです」

 

 

「共通点? 新たな効能?」

 

疑問ばかりが湧いて話がよく見えない。

 

 

「みなさまに共通していたのは『お相手に素直になれない』点でした。

 さっきいらっしゃったあの大柄の男性も『奥様が綺麗に見える』とのことでしたが

 大切な大切な奥様なのに、意地を張ってきつく当たってしまっていたようでした。

 本当はとても愛しているのに、つい意地悪をしてしまう、照れや恥ずかしさ出て

 素直に言えない、反対に憎まれ口をたたいてしまう... そんな心の歪みがあると

 お相手が光輝いて見えるようです」

 

 

心臓が激しく高鳴るのを感じた。

おれはオーウェンに気づかれないようにゆっくり息を吐き出し、ほてりを鎮めた。

 

 

「みなさまのお話を聞いてわかったんです。当初、この『泡美容』は肌細胞に出来た

 小さな傷を修復して毒を解毒する効果があると思っていたんですが、どうやら

 それだけではなく、心に出来た傷も修復し、心に蓄積された毒を解毒して消す

 効能もあることが判明しました」

 

オーウェンはおれを見ると、嬉しそうに二ッと白い歯を見せて笑った。

 

 

「えっと... 心の傷や毒が治るから、相手が輝いて見えるってことか?」

 

 

「ええ、まさにそうです。美容液を塗ってから見えるお相手の姿は、自分の心が

 本来見ているお相手の姿。キラキラ輝いて美しいのは、心がそう感じているから。

 お相手がまるで女神様のように見えるのは、心の中では

 深く深~くその女性のことを愛しているんでしょう!」

 

 

全身がカァ~っと一気に熱くなり、額からどっと汗が噴き出してくる。

顔が赤くなるのが自分でもわかった。

 

おれは鼻から深呼吸を何度も繰り返し、不自然にならないように額の汗をぬぐった。

 

 

「おや? 暑いですか?」

 

さりげなくやったつもりなのに、オーウェンが目ざとく見つけて声をかけてくる。

 

 

「あ... ああ、ちょっとだけな。でも、別に気にしなくて良いぜ。おれは暑がりなんだ」

 

おれは適当なことを言ってごまかした。

 

 

「そうですか。では、話を続けますが『泡美容』の効能が、心の傷や毒を治して

 本来の心が見ている姿を見せるものだとしたら、王子様のお話は変ですよね?

 王子様がミリアさんを大切に想っているのは、誰の目にも明らかですからねぇ。

 自分の気持ちに正直な場合、美容液を塗っても変化は起きないはずなんですけど...。

 う~ん、この話は本当に『王子様のお話』なんでしょうか?」

 

オーウェンはじっとおれを見てくる。

 

 

そう言えば、サマルトリア城が悪魔神官デヌス率いるドラゴン部隊に包囲されたとき

こいつは遥かに離れたリリザの町近くの高台から、敵の数を言い当てたことがある。

 

こいつの眼には高い能力があるのは知っているが、それは遠くを見る能力だよな?

まさか、人の心まで見透かさねえよな?

 

 

オーウェンからの視線に身体は硬直したが、ここで引くわけにもいかねえ!

 

 

「ああ、間違いねえ。王子がおれに言ったんだぜ。『ミリアが輝いて見える』ってな。

 あいつ『ぼくはおかしくなったんだろうか?』って不安そうだったからよ、直接

 おまえに話を聞きに来て『変だ』って言われたら、さぞかしショックだろうと思って

 おれが代わりに行って聞いてきてやるって王子と約束したんだからな!」

 

ここは言い切るしかねえ! おれはオーウェンを軽くにらみながら言った。

 

 

オーウェンはしばらく黙っておれの顔を見ていたが、やがて口元を緩めて微笑んだ。

 

「わかりました。カイン殿下はお友達想いですね。どうぞ王子様に伝えてください。

 ミリアさんが女神様のように美しく輝いて見えるのは、王子様がそれだけ深く

 深ぁ~くミリアさんを愛している証拠ですから。何の心配もいりませんよ。今後も

 ご自分の心に正直になって、ずっとミリアさんのことを大切に愛し続けてください。

 ご自分の気持ちを隠さずに素直に認めれば、お相手がまぶしく光輝いて見えるのも

 徐々に改善されますよ、と」

 

 

「ああ、わかった。伝えるよ。あと、王子はおれを信頼して相談してくれたんだからよ

 この話は...」

 

 

「ええ、わかっています。大切な『お友達の話』ですからね。他言無用。

 このことは王子様はもちろん、他の誰にも言いませんのでご安心ください」

 

オーウェンは胸に手を当ててうなずいた。

 

 

「ありがとな。さてと、話も終わったことだしそろそろ帰るぜ」

 

とっとと退散しようと思ったが、動揺が尾を引いていて脚が微かに震えている。

 

 

落ち着け! あと少し、あと少しだ。この店を出るまで平静を保てればおれの勝ちだ!

おれは勢いよく立ち上がった。

 

 

よし、あとは悠然と店の外に出るだけだ。

 

「ありがとよ、じゃあな」

 

オーウェンに軽く手を上げて、おれは店の外に向けて歩き出した。

 

 

右手と右足、左手と左足が同時に動く。

 

なんか変な気もしたが、今さら修正もきかねえ。ええい、このまま突き進むぞ!

おれは手足を大きく動かして、店の外へとズンズン歩いて行った。

 

 

 

「友達から聞いたんだけど...」「これは友達の話なんだけどさ...」などと言いながら

自分の恋愛相談するのは(特に思春期の若者には)よくあることですよね~ ( *´艸`)

 

 

「ナナがキラキラ輝いてまぶしくて見れない」なんて絶対に誰にも言えないカインも

「王子から聞いたんだけどさ~」オーウェンに相談を持ち掛けました ( *´艸`)

 

 

「これはあくまでも王子の話!」と言い切るつもりだったのに、オーウェンから

「相手が輝いて見えるのは、隠していても心の底では深く愛している証拠」と言われ

カインは激しく動揺 (;´∀`)

 

 

遠くまで見渡せる視力を持つオーウェンに見つめられて、もうタジタジです (;'∀')

(これだけあからさまに激しく動揺してたら、オーウェンみたいな視力がなくても

 簡単に見抜けますけどね ( *´艸`))

 

 

それでもガンバって「これは王子の話だから!」と貫き通して、自然体を装って

店を立ち去ろうとしますが、極度の緊張から手と足が一緒に出ていますよ ( *´艸`)

 

 

オーウェンを前に動揺しまくる可愛いカインを楽しんでもらえたら嬉しいです (*´ω`*)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ