ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 118】 姉妹

ナナへの誕生日プレゼント。

王子には『改良版・ロトの印のステッカー』を出してもらって、盛りあがった大聖堂を

シラケさせてもらうはずだったのに…

 

おれの目論見は大きく外れた。

 

王子はプレゼント選びのためミリアに協力を依頼し、ミリアはナナの好みにピッタリの

美しいドレスをナナにプレゼントした。

 

「せっかくだから」と着替えてきたナナの美しいドレス姿は、大聖堂内の人々を

うっとりさせ、大いに魅了したのだ...

 

 

 

「次は、あたしとリーナちゃんからのプレゼントよ!」

 

ドレスを着て優雅に席に座ったナナに、ティアが抱きつくようにして言った。

 

 

「おいっ! 勝手なこと言うなよ。次はおれの番だぞ!」

 

「まだ咲いていない花」をプレゼントの最後にされるのは困ると、おれが妹たちに

抗議の声をあげると、ティアとリーナはきょとんとした顔でおれを見てきた。

 

 

「なに言ってるの? おにいちゃん。あたし、さっき聞いたじゃない。次はあたしと

 リーナちゃんのプレゼントを渡してもいい? って。あたし、聞いたでしょ?」

 

 

「うん。ティアちゃんは、確かにおにいちゃんに聞いたわ。そして、おにいちゃんも

『いいぜ』って答えていたわ。あたしも、ティアちゃんの横で聞いていたもの...」

 

 

ティアとリーナは抗議するというより、驚き、戸惑った声でおれに言ってきた。

「さっき自分で言ったことを覚えていないの?」と2人の不安げな顔が物語っている。

 

 

さっき、ティアがおれに何度も尋ねていたのは、このことだったのか!

くそっ! よく聞かずに返事しちまったぜ。

 

 

「おい。おまえ、大丈夫なのか? さっきは青い顔をしていたかと思えば、今は赤い顔で

 ぼんやりしちゃってるしよ。どっか具合でも悪いんじゃねえか?」

 

オルムが、親父にでもなったのかというぐらいの優しい口調でおれに尋ねてくる。

 

 

王子とミリア、レオン、オーウェンも同時に心配そうな顔でおれを見てきた。

 

 

ティアがおれに話しかけていたとき、ナナは近くにはいなかったが、今の話を聞き、

不安になったのか、少し首をかしげておれをじっと見つめている。

 

 

ナナのキラキラした瞳に見つめられると、再び頭がボーっとしてきた。

 

 

やめろ。

そんな目でおれを見ないでくれ!

 

 

「悪い悪い、なんともねえよ。ちょっと飲みすぎて、酔っぱらっちまったかな?」

 

おれは呂律のまわらない口調を装って、笑いながら酔っている振りをしてごまかした。

 

 

「大丈夫か、カイン? きみは酔っても陽気になるだけで、どんなにたくさん飲んでも

 いつも意識はしっかりと冴えわたっていると思っていたんだけどな...」

 

せっかくおれがごまかそうとしているのに、王子が横から余計なことを言ってくる。

 

 

くそっ! こいつはこんなときに限って、おれをしっかり者だと褒めてくるんだよな。

褒めて欲しいところではボーっとしてるくせによ! まったく、困ったヤツだぜ!

 

 

「へへへっ。おれのこと、そんな風に褒めてくれるのはありがてえけどよ、王子。

 おれだって、たまには羽目を外して、ベロベロに酔っぱらうこともあるんだぜ~。

 おれのことは、どうだって良いんだよ。ティア、リーナ。悪いな、うっかりしてて。

 次は確かにおまえたちの番だ。さあ、早くナナにプレゼント渡してやれよ~、へへ」

 

 

もう、しょうがねえ。

今さら妹たち相手に「どっちが先にプレゼントを渡すか」で言い争いする気はない。

 

よく聞かずに安請け合いしたおれが悪い。こうなった以上、プレゼントを渡す順番は

こいつらに先を譲るしか選択はなかった。

 

 

ティアとリーナは、依然として心配そうな顔でオロオロしながらおれを見ていたが、

おれが酔った演技をしながらへらへら笑って声をかけると、2人は素直にうなずいた。

 

 

「じゃあ、あたしたちから渡すわね」

 

ティアはそう言うと、バスケットの中からなにやら筒のようなものを取り出した。

 

 

それは、厚手の紙をくるくると巻いたもので、真ん中には赤いリボンが結ばれていた。

 

「はいっ、おねえちゃん。これが、あたしたちからのプレゼントよ」

 

「おねえちゃん、喜んでくれるかなぁ?」

 

ティアとリーナが笑顔で筒を差し出した。

 

 

「あなたたち2人がくれるものなら、あたしはどんなものでも大喜びよ」

 

ナナはニコニコしながら筒を受け取った。

 

 

「開けるわね」とナナが言うと、ティアとリーナは「うんっ」と大きくうなずいた。

 

 

リボンをほどき、巻かれていた紙を広げ直して「うわぁ~!」とナナは歓声をあげた。

 

 

ナナの歓声を聞いたムーンペタの住民がナナの後ろにまわり、背後からのぞき込んだ。

 

 

「あらまぁ! なんて可愛らしいの」

 

ナナの背後から覗いたおばさんも歓声をあげ、その声を受けて近くにいた奴らも

我先にとナナの背後にまわろうとした。

 

 

「おい、おまえらだけズルいぞ! 姫様、その紙に何があるのか、おれたちみんなに

 見えるようにしてくれよ!」

 

少し離れたところから男が声をかけた。

 

 

ナナは微笑んでうなずくと、その場で立ち上がり、紙を広げて頭の上に大きく掲げた。

 

「わぁっ!」と歓声が起きた。

 

 

ティアとリーナのプレゼントは

 

「笑顔のナナ・ティア・リーナを描いた似顔絵」だった。

 

 

真ん中にナナ、両端をティアとリーナが囲み、3人が楽しそうに笑っている絵。

 

ところどころ勢い余ってはみ出しているが、3人の頬はバラ色に塗られていて、

瞳はみんなキラキラと輝いていた。

 

3人が笑う周りには、花や星が無数に描かれて、絵全体がキラキラと輝いている。

 

 

ガキが描く絵だ。

決して上手くはない。

 

ただ、こいつら2人が、ナナのために一生懸命に描いたことは伝わってくる。

 

 

おねえちゃんの喜ぶ顔が見たい!

おねえちゃん、大好き!

 

描かれた絵から、ティアとリーナのナナに対する想いがあふれてくるようだ。

 

絵を見ているだけで心があたたかくなり、自然と優しい気持ちになってくる。

 

 

王妃がどうして何も手伝わず、ティアとリーナを放っておいたのか。

2人の様子を見に行った後、どうしてあんなに満足そうに笑っていたのか。

 

おれは今になってようやく理解した。

 

 

この絵は、ガキが2人だけで一生懸命に描いたからこそ良いんだ。

大人が余計なおせっかいで手を貸したりしたら、この絵の良さは半減してしまう。

 

 

ガキ2人では大したことは出来ないと思った、過去のおれを呪いたい気分だ。

 

ガキにだって出来ることはある。

いや、ガキだからこそ出来ることがある。

 

 

ガキは技術も能力も大人には及ばない分、一生懸命に心をこめることが出来るんだ。

 

ティアとリーナが描いた下手くそな絵には、2人の真心がこもっていた。

見る者すべてをあたたかくて優しい気持ちにさせる力が、この絵には確かにあった。

 

 

くそっ! おれの完敗だ。

 

 

 

「おねえちゃん、喜んでくれた?」

 

リーナが絵を掲げているナナの足元に立ち、ナナを見上げながら尋ねた。

 

 

「ええ、もちろんよ。とってもとっても嬉しいわ。ありがとう! リーナちゃん」

 

ナナは絵を大事そうにテーブルの上に置くと、しゃがんでリーナを抱きしめた。

 

 

「本当はね、おねえちゃんをもっともっと美人に描きたかったのよ。だけど、あたし

 あまり絵が得意じゃないから…。ごめんなさいね、上手く描けなかったの...」

 

ティアがしょんぼりして言った。

 

 

「ううん、そんなことない! とってもとっても上手よ。こんな美人に描いてもらえて

 あたしは本当に嬉しい! ティアちゃんとリーナちゃんもとっても可愛く描けているし

 これは本当に最高の絵だわ!」

 

ナナは左腕を伸ばしてティアを抱き寄せた。

 

 

「ほんとっ!?」

 

ティアは嬉しそうにナナに抱きついた。

 

 

「ええ、本当よ。ティアちゃん、リーナちゃん。2人ともありがとう、大好きよ」

 

ナナはティアとリーナを両側に抱きしめた。

そして、3人は頬をくっつけると、幸せそうに「うふふ」と笑った。

 

 

「あら、この絵にそっくりだよ」

 

おばさんが絵を見ながら微笑んだ。

 

 

「こうして見ていると、あなたたちって本物の姉妹みたいだねぇ」

 

別のおばさんにも言われ、ティアとリーナは嬉しそうに笑うと、ナナにますます

ぎゅーっと抱きついた。

 

 

「本当に姉妹みたいね。あたしは1人っ子だから、あなたたちが羨ましいわ」

 

少し寂しそうにミリアがつぶやいた。

 

 

「なに言ってるのよ、ミリア。そんなこと言わないで。あたしたちもこれから

 姉妹のように仲良くしましょうよ」

 

ナナの言葉にティアとリーナもうなずく。

 

 

「ねえ、ティアちゃん! 今度はミリアおねえちゃんと4人の絵を描こうよ」

 

 

「うん、それはいいわね。でも、ミリアおねえちゃんは、王子おにいちゃんと

 一緒の絵の方が嬉しいんじゃない?」

 

ティアがからかうようにミリアに言った。

 

 

「うふふ。ええ、きっとそうね」

 

ナナが笑いながらティアに同意する。

 

 

「もうっ! いやだわ。ナナもティアちゃんも、意地悪なんだから!」

 

ミリアが顔を真っ赤にして照れている。

 

 

「ほらね、ティアちゃん、リーナちゃん。ミリアは否定しないわよ。あなたたち

 今度はこの2人の絵を描いてあげて」

 

 

「やだ~。もう、恥ずかしい~」

 

照れて顔を隠すミリアの隣で、王子も恥ずかしそうにしながら頭をかいている。

 

 

「あははー」「いいぞー」と、ムーンペタの住民たちから囃し立てる声がして

大聖堂内は和やかな空気に包まれた。

 

 

ナナ、ティア、リーナ。

そして、王子とミリアが楽しそうに笑うのを、おれはただぼんやりと眺めていた。

 

 

 

もう、どうでもいい...

この勝負、おれに勝ち目はない...

 

 

 

前回、ティアがカインに何かを「いいの?」と尋ね、カインはナナに見惚れながら

適当に「いいぜ」と答えますが、ティアが尋ねたのはプレゼントの順番でした (*_*;

(もっとちゃんと聞いてから返事するべきだったね、カイン (´;ω;`))

 

適当に「いいぜ」と言ったがために、プレゼントを渡す順番が大トリになったうえに、

さっきの話を聞いていなかったのか?と、みんなから心配される事態に... (T_T)

 

仕方なく、プレゼントを渡す順番を妹たちに譲りますが、妹たちが出してきたのは

「心をこめて描いた、自分たちとナナの3人の似顔絵」

 

下手だけど一生懸命に描かれた絵は、見たすべての人々をほっこりさせ、大聖堂は

和やかな空気に包まれました (*´ω`*)

 

 

可愛いプレゼントにみんながニコニコと笑う中、この勝負の「完敗」を確信して

カインはぼんやりしちゃっています (T_T)

 

意気消沈のカインですが、果たしてここから奇跡の大逆転はあるのでしょうか?

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ