ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 28】 涙の理由

大きな満月を眺めながら、おれはこれまでのことを思い返していた。

パズルのピースがはまるように、ナナが今まで泣いていた理由がハッキリわかった。

 

最初はサマルトリアでの晩餐会か... いや、さらに前の親父に謁見したときか?

 

もしかしたら、ローレシアに凱旋してオーケストラの演奏を聴きながら泣いたのも

ナナには凱旋する城がないことを嘆いての涙だったのかもしれないが、あのときは

隣で王子がボロ泣きしてるのにつられて泣いたと考えるのが妥当だろう。

 

となると、やっぱり最初にショックを受けたのは親父に謁見したときだろうな。 

謁見したとき、ティアとリーナは親父の口ひげをおもちゃにして遊んでいた。

かつてムーンブルク王は、一人娘のナナを溺愛していたと聞いたことがある。

ナナも幼い頃、ティアやリーナみたいに王様の口ひげで遊んでいたかもしれない。

優しかった親父を思い出し、せつない気持ちになっていたのではないだろうか。

 

 

そして、その後に催された晩餐会。

ナナは、誰よりも警戒心が強いはずのおれが無防備にぐっすりと眠るのを見た。

そんなおれを見た王子は「自分の城」に戻って安心したのだろうねと言った。

「自分の城」を失ったナナは、どんな思いで王子の言葉を聞いたのだろう...。

 

さらにそのとき、だらしなく眠るおれを見て、王妃は「可愛い」と言ったのだ。

おれを見つめ「生意気な子だけど、昔からずっと寝顔だけは可愛いのよね」と。

王妃の言葉には、ずっと変わることのない母親の深い愛情が感じられる。

だから、おれへの愛にあふれた王妃の言葉を聞いてナナは涙くんだのだ。

 

晩餐会が終わった後、ナナは優しかった親父とおふくろのことを思い出しながら

バルコニーで1人、冷たい夜風に吹かれていたのだろう...。 

 

 

そして、サイラスとアルファズルが来て、ナナが柱の陰に隠れて泣いたとき

あのとき、サイラスは親父とおふくろを引き合いに出して、王子を説得した。

 

あいつの親父とおふくろが、いつもどんなにあいつのことを大事に想っているか。

王子が無事に城へ帰って来る日を、あいつの両親はどんなに待ちわびているか。

ずっと待ち続けている2人のために早く帰って来てくれとサイラスは訴えたのだ。

 

誰も帰りを待つ人がいないナナにとっては、耐えられない言葉だったに違いない。

 

 

ローラの門を抜けたところで、あいつの親父とおふくろが待っていたのを知り

ナナが見せた何ともいえない複雑な表情も、今ならハッキリと説明がつく。

 

身体が回復して外出が可能になったら、まず早く息子に会いたいと願った父親。

もともと身体が弱く病身の夫を支えるのも大変なのに同行してやって来た母親。

弱った身体で、それでも王子に会いたい一心で遠くまで迎えに来た両親の姿...。

 

親子3人は感動の再会を喜び合い、笑顔で帰っていった...「自分たちの城」へ。

 

一方、どれだけ待っても、どれだけ願っても、誰も迎えに来てくれないナナ...。

親子で再会を喜び合うことも、「自分たちの城」へ帰ることも出来ないナナ...。

 

ナナは孤独と寂しさに打ちのめされたような気持ちになったに違いない。

 

寂しさを必死でこらえ、3人を笑顔で見送ったナナを想うと胸が痛んだ。

 

 

おれは...... なぜ、もっと、もっと早く気づいてやれなかったのか...。

誰にも胸の内を明かさずに、たった1人でずっと悲しみをこらえていたナナ...。

1人で悲しそうにしている姿を何度も見ていたのに、気づいてやれなかった...。

ナナが悲しむ理由なんて、少し考えればすぐにわかったはずなのに...。

自分のことで頭がいっぱいで、ナナをずっと1人ぼっちにしてしまった...。

 

 

自分があまりにも情けなくて情けなくて... 見上げた月がにじんで見えた。

おれは顔を上にあげたまま、何度もまばたきを繰り返した。

 

 

しばらくすると、ナナは腕を解いてそっと静かにおれから離れていった。

振り返って見ると、ナナは立ちあがり両手で目に残る涙をぬぐっていた。

 

おれも立ちあがり、ナナと向き合った。

まだ少しうるんだ瞳が、ふりそそぐ月明かりを受けてキラキラと輝いている。

 

ナナの瞳が海へと向けられたのを見て、おれもナナの視線をたどって海を見た。

さっきは幻覚かと思ったが、やっぱり海のかなたに双子の塔が見える気がする。

 

「もう大丈夫よ。... ありがとう」

双子の塔からおれへと視線を移して、ナナは少し照れくさそうに微笑んだ。

 

 

「ナナ。これからは1人で抱え込まずに、些細なことでも何でもおれに言えよな。

 おまえが1人で悲しむことのないように、おれがそばにいるんだからよ」

 

おれがそう言うと、ナナは一瞬うろたえた様子でおれからサッと目をそらした。

 

だが、すぐにおれを見て言い返してきた。

 

「な、なによ。1人で悩んで抱え込むのは、あんただって一緒じゃないのよ。

 あんたも1人でいろいろ考え込んじゃって、あたしが王子のことを嫌ってるとか

 おれが王子の結婚を壊してやるとか、わけのわからないことを言ってたわよね。

 あんたこそ1人で悩むのはやめて、これからは何でもあたしに言いなさいよ。

 どんなことでも、ナナおねえさまが相談に乗ってあげるわよ」

 

「へっ、なにが『ナナおねえさま』だよ。ババアの間違いじゃねえのか?」

 

「なんですってぇ!」

 

バシッ

ナナは思いっきりおれの肩を叩いた。

 

 

いってえ~。...... これだけ力が出せるなら、もうすっかり立ち直ったな。

 

「いってえな。さっきまでメソメソ泣いてたくせによ、とんでもねえ馬鹿力だな。

 もう帰ろうぜ。おれは眠てえんだよ」

 

「そうね、あたしも帰って少し眠りたいわ。じゃあ、帰りましょう」

 

 

おれとナナはテントに向かって、月明かりで輝く道を並んで歩き始めた。

 

 

 

読者のみなさまは、早い段階からナナの涙の理由をわかっていたと思いますが

ここでカインと一緒に答え合わせする回を設けてみました~ (;´∀`)

 

「せっかく着飾ったのに、おれが寝ちゃったから寂しくなって泣いた」とか

「王子へのかなわぬ恋に苦しんで泣いてる」とか迷走しっぱなしだったカインが

ナナから直接言ってもらうことによって、ようやくナナの涙の理由を知りました。

自分の勘違いを恥じて、ひそかに目を潤ませて泣いていますよ ( *´艸`)

 

でも、ただ「悔んで終わり」にならないのがカインの良いところ (*´ω`*)

 

以前は顔を赤らめずに「泣きたいときは背中ぐらい貸してやる」と言えたので

今回は「おまえが1人で悲しむことのないように、おれがそばにいる」という

決めゼリフを顔を赤らめずにサラッと言っちゃいました~ (≧▽≦)

 

カインのド直球のセリフは、ナナの心にもズギューンと響いてますよ~ (*´ω`*)

 

ただ、ここまではすごくイイ感じなのに長続きしないんですよね~。

照れ隠しで意地をはっちゃうナナと、すぐに茶化しちゃうカインですから (;´∀`)

 こんなことを繰り返してるんだから、そりゃなかなか進展しませんよね (´;ω;`)

 

ちなみに、2人が立ちあがって向き合ったときに、ナナが目線を海に向けて『双子の塔』を見たのは

「もしかしたら塔が見えるのに気づいてないかも」と思ったナナが、カインと一緒に双子の塔を見たくて

わざとおこなった行為なんですが、カインはナナの想いには気づいてないようですね... (´;ω;`)

でも、ジンクスどおりに「2人で一緒に『双子の塔』を見た」ので良しとしましょうヾ(*´∀`*)ノ

 

さて、背中を貸してほんの少しだけ距離の縮まったカインとナナ。

なかなか発展しない2人の関係はこれからどうなっていくんでしょうか?

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ