... テントからナナの姿が消えていた。
おれはティアやリーナを起こさないよう静かにテントを閉めて、あたりを見回した。
落ち着け。ナナはちょっと外の空気を吸いに出ただけかもしれねえんだ。
大丈夫だ。きっとすぐに何食わぬ顔で戻ってくるに決まってる。
必死で自分に言い聞かせるが、心臓は早鐘のようにドクンドクンと打ち続けている。
おれは大きく深呼吸した。
はやる気持ちを抑え、5分ほど待ってみたが、ナナが戻ってくる気配はなかった。
おれはふぅーっと大きく息を吐き出すと、もう一度テントを開けて中に入った。
音を立てないように静かにかがんで、いつもナナが寝てる場所にそっと触れてみる。
… 冷たい。
その冷たさは、ナナの不在が長時間にわたることを示していた。
気がつくとおれは走り出していた。
不安な気持ちが目に見えない原動力となり、おれを突き動かしていた。
まずはローラの門へと向かった。
ナナは王子たちを追いかけて、ローレシアに向かったのでは... と考えたからだ。
さっきの王子との別れはあまりにも急で、別れのあいさつもあっさりしすぎていた。
夜になって「もっと伝えたいことがあったのに」と思ったとしても不思議ではない。
野営地からほど近いため、ローラの門にはすぐに到着した。
昼間はさほど気にならないが、夜になると洞窟の暗さがひと際よく目立った。
どこまでも深くて暗い闇がぽっかりと口を開けているように見えて、総毛立つ。
おれでさえ恐怖で鳥肌が立つような洞窟に、女が夜中に1人で入るだろうか?
いや、恐怖よりも王子に会いたい気持ちが勝っていれば入れるかもしれねえぞ。
おれは、手に持っていた「たいまつ」に火をつけると慎重に洞窟内に入った。
ローラの門はまっすぐな一本道だ。入口に足を踏み入れれば、遥か先まで見渡せる。
洞窟内は真っ暗で、遠くまでどんなに目を凝らしてもかすかな明かり一つ見えない。
「ナナー!」道の奥に向けて叫んでみたが、自分の声が反響するだけだった。
明かりもなく物音もまったくしないが、それでも万が一ということもある。
おれは呼吸を整えると気を静め、耳を澄まし、人の気配があるかを入念に探った。
いつ魔物に襲われるかわからない旅を続けていくうちに、感覚は鋭敏になった。
鋭い感性とは無縁の王子、素質はあるが暴走しがちで危なっかしいナナに代わって
おれは自分たち以外の気配を察する感覚を磨き続け、旅の終盤には生き物が発する
ほんのわずかな呼吸音や体温を感じとれるようになっていた。
だが今、神経を研ぎ澄ませて探っても、洞窟内には虫1匹の気配すらなかった。
真っ暗な洞窟の中に1人でたたずんでいると、気がおかしくなりそうだ。
おれは早々にローラの門から退却した。
「王子を追いかけていなくなった」という前提が間違っているのだろうか?
間違っているとしたら、ナナがどこに向かったのかさっぱり見当がつかねえ。
ローラの門から外に出ると、おれはあたりかまわず闇雲に走った。
不安と焦燥感がマグマのように湧きあがってきて、じっとしていられなかった。
途中で、岩か何かの突起につまずいた。とっさに受け身をとってケガはなかったが
転んだはずみで、手にしていた「たいまつ」をどこかへ放り投げてしまった。
「たいまつ」はどうやら海に落ちたらしく、近くでじゅうっという音が聞こえた。
空には大きな満月が浮かんでいて、月明かりだけでもある程度は見渡せる。
おれは立ち上がり、服についた土埃を手で払うと再び走り始めた。
...... どれぐらい走り続けただろう。
おれは汗だくだった。膝がガクガクして、ハアハアと荒い呼吸を繰り返していた。
ナナの姿は見つからない。
現段階でのおれの魔力では、生き物の発するかすかな気配を察することは出来ても
それを発する人物や動物の特定が出来るまでには至っていない。
騒ぎにしたくなくて1人で探しに来たが、このまま無意味に走り続けるより
アルファズルを起こし、魔法の力で探してもらった方がいいかもしれない。
諦めてテントへと引き返そうとしたとき、ふっと前方の海が目に入った。
穏やかな海の水面が、満月の月光を受けてキラキラと光輝いている。
このあたりは「よく晴れて空気が澄んだ日には海のかなたに双子の塔が見える」と
評判になり、ムーンペタの町人や旅人、行商人たちに人気の海岸だ。
「男女が2人で双子の塔を見ると永遠に結ばれる♡ 」とか言われているらしい。
実際のドラゴンの角はボロボロで、ロマンスのかけらもねえんだけどな。
双子の塔にもバカみてえな言い伝えにも興味はねえが、海が持つ不思議な引力に
引き寄せられるように、なぜかおれはふらふらと海岸へ向かって歩き始めていた。
ずっと走り続けた疲れと眠気とで、おれの意識はぼんやりとしていた。
うつろに半分閉じかけていたおれの目は、海岸に近づくと一気に覚醒した。
一瞬にして全身の毛穴が開き、熱い血液が身体中を駆け巡る感覚があった。
海岸に人影が見える!
海からのゆるやかな風を受けて、紫色の髪がさらさらとなびいていた!
疲労で足がパンパンに腫れて、さっきまでもう絶対に走れないと思っていたのに
無意識のうちにおれはその人影に向かって全速力で走っていた。
走りながら背中に向けて大声で叫んだ。
「ナナーッ!」
「カ、カイン!?」
振り向いた人影が驚いた声をあげる。
間違いない、ナナだ!
… ようやく、見つけた!
当初は、今回のうちにカインがナナを見つけ出して2人が語り合う予定でしたが
迷走カインが尺を使いすぎたので (;´∀`)、語らいは次回に延期しますm(_ _)m
ゲームでは、ローレシアの王子がサマルトリアの王子を探して歩き回った挙げ句
リリザで寄り道しているサマル王子に「いやー、さがしましたよ」と言われますが
今回はサマルトリアの王子がムーンブルクの王女を探して走り回りました (*´ω`*)
ゲームでローレシアの王子とすれ違うサマルトリアの王子は余裕がありますが
今、ムーンブルクの王女を探すサマルトリアの王子は大パニックです ( *´艸`)
ナナがローレシアまで歩いて行こうとしてると思ってローラの門へ向かうとか
(いくらナナがルーラを使えなくても、さすがにキメラの翼を使うでしょうよ)
『レミーラ』が使えるのに、わざわざ「たいまつ」に火をつけて洞窟に入るとか
真っ暗闇で物音一つしないのに、それでもナナがいるかも? って思っちゃうとか
洞窟を出てからも「たいまつ」をずっと持ったままで走ってて転んじゃうとか
カイン王子は気が動転して、わけのわからない行動をとっちゃってます ( *´艸`)
今回カインに「いやー、さがしましたよ」を体験させましたが、のん気なタイトルと
シリアスな展開がチグハグですね... (;´∀`)
長い時間あちこち走り回って、ようやく海辺でナナを発見したカイン。
次回は、この創作物語のハイライトになるのではないでしょうか (≧▽≦) ?!
続きもお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ