呪文と紋章の管理について王子と話し合うため、ローレシアを訪ねたおれとナナは
城下町を元気に走り回っていた子どもたちにつかまり、城へと連れて来られた。
「ローレシアに住む子どもたちの推薦があって、王様にも謁見できる」
この状況を保つため、子どもたちの連れとして謁見の間へと案内されるおれたちを
ローレシアの兵士たちはおどろきとまどいながらオロオロして見守っていた。
「お、おともだちのみなさんを謁見の間へとご案内いたしまーす」という兵士の声は
王子のもとにも届いていたのだろう。
王子は先に部屋へ入り、玉座の前に立って子どもたちが入ってくるのを待っていた。
おれとナナが子どもたちと一緒に謁見の間へ入っていくと、王子は目を見開いた。
「カッ」
おれを見て驚き、思わず名前を呼ぼうとした王子をおれは鋭い視線で制した。
王子は視線の意味を理解したようだ。
おれから目をそらし、ひざを曲げて子どもたちと視線を合わせると笑顔を見せた。
「王様、こんにちは」
「王様、ご機嫌いかが?」
少女たちの声に「こんにちは」「元気だよ、ありがとう」とにこやかに応じている。
「王様! このおにいちゃんたちもね、王様の仲間なんだよ!」
「そうだよ! おにいちゃんたちが王様に会いたいって言うから、ぼくたちがここまで
2人を連れてきてあげたんだ」
少年たちが少女と王子の間に割って入った。
「おにいちゃん、おねえちゃん。早く王様にステッカーを見せてごあいさつしなよ。
ステッカーを見せれば王様はちゃんと話を聞いてくれるからさ! さあ、早く!!」
子どもたちの中でもとりわけ元気な少年が、おれとナナを見て大きな声で促してきた。
おれとナナ、王子の3人は子どもたちに気づかれないようサッと視線を交わし合った。
お互いのやるべきことを確認し終えて、おれはステッカーを手に取りひざまずいた。
ナナがおれの隣に来て、手を前に組みながらひざを曲げて腰をかがめた。
「サマルトリアのカインとムーンブルクのナナ、ローレシア王にご相談したい件があり
こうして参上いたしました。こちらは我ら2人が王様の仲間であることの証です」
おれはビシッと言い切ると、ロトの印のステッカーを王子に向けて差し出した。
「お、おう。こ、これはロトの印のステッカーではないか。す、するときみたち2人は
ぼくの仲間なんだな。さあ、堅苦しい挨拶は抜きにして、な... 何でも話すがいいぞ」
王子はしどろもどろになって言った。
ばかやろうっ! なんて下手くそな演技なんだ。おれ様を見習ってちゃんとやれよな!
王子の下手くそすぎる演技に笑いがこみあげたが、ここで笑ってしまっては台無しだ。
おれは王子の言葉に感激している様子を装って深々と頭を下げ、笑いをこらえた。
おれの隣にいるナナの脚が激しく震えているのは、ひざを曲げた体勢がキツイから
… という理由ではないだろう。
「2人とも、良かったじゃない! 王様が話を聞いてくれるって!」
「早く王様にお礼を言わなきゃ!」
少女たちがはしゃいだ声で、早く王子にお礼を言うようにと促してくる。
ナナの足が伸びてきて、そのつま先がおれのすねのあたりを蹴ってきた。
笑いをこらえつつ「次はおまえの番だろ?」とおれはひじでナナを突きかえした。
「あ、あ… ありっがとうごっざいますぅ!」
長い沈黙の後、極度の緊張もあったのかナナが素っ頓狂な声をあげた。
おいっ、どこから声出してんだよ!
思わず吹き出しそうになって、おれは慌てて下を向き鼻と口を押えた。
息が苦しくて全身が激しく震え、頭に血がのぼり、目には涙がにじんだ。
「おねえちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。王様はとっても優しい人だから。
おにいちゃんもこんなに震えて...。もしかして感激して泣いているの?」
おれのそばにいる少女が心配そうな声で、うつむくおれの背中を優しくなでてくれた。
泣いていると思われたのは都合がいい。
おれは右腕を目に当て、鼻をすする振りをしながら「うんうん」とうなずいた。
「さあ、おにいちゃん立って。泣かなくても大丈夫よ、涙をふいて。おねえちゃんも
楽な姿勢になっていいのよ」
もう1人の少女もそばにやって来て、おれの腕に手を添えて立たせてくれた。
涙をぬぐう振りをしながらナナの様子をうかがうと、おれと同じように少女の手を借り
その場に立たせてもらったナナは、真っ赤な顔をしておれをにらみつけていた。
ひええ。おっかねえ~!
おれは再び右腕を目に当て、このまま泣いているふりを続けることにした。
「みんな、おにいちゃんたちを連れてきてくれてありがとう。ぼくはこれから2人と
大事なお話をするから、みんなはまた明日にでも遊びに来てくれるかい?」
いち早く落ち着きを取り戻したらしい王子が、子どもたちに優しく話しかけた。
「ええ、わかったわ」
「王様、また明日ね!」
「おにいちゃんたち、ちゃんと王様にお話しするんだよ!」
「2人とも、ガンバってね!」
子どもたちは口々に声をあげると、おれの背中をポンポンと叩いてきた。
おれは右腕を目に当てたままで、何度も「うんうん」とうなずいた。
「王様、おにいちゃん、おねえちゃん、バイバーイ!」
元気な声と共に、子どもたちがそろって謁見の間から出て行く気配がする。
今、ここで王子やナナの顔を見たら、こらえきれずに笑っちまうかもしれねえ。
あと少しだ。子どもたちが城を出るまでは、絶対に笑ってはならねえんだ!
右腕の隙間から王子とナナが子どもたちに笑顔で手を振るのを見ながら、おれは
左手でバイバイをして、子どもたちが出て行く最後まで泣きまねを続けていた。
「絶対に笑ってはいけないローレシア城」
笑いの刺客は王子とナナでした ( *´艸`)
「王様に謁見するための仲介が出来た」と子どもたちに思ってもらえるように、
他国からきた旅人とローレシア王が初めて対面するという演技をした3人。
3人の中ではカインが1番上手に演じられましたが、でもズルいですよね ( *´艸`)
最初の謁見のごあいさつぐらいなら、誰でもうまくできますからね。
それに都合よく「泣いている」と思われてからは、見たり話したりしなくて済むように
ずっと腕を目に当てて泣いたふりを続けていますからね、本当にズルい男ですヽ(`Д´)ノ
ナナが怒るのも当然ですよね!
私としては、王子のひどすぎる演技の後、ガンバってお礼の言葉を言ったナナを
褒めてあげたいですね☆(それがさらなる笑いを生み出したんですけどね ( *´艸`))
書いているうちにどんどん話が逸れてしまって「そう言えば、カインとナナは何しに
ローレシアへやって来たんだっけ (;´∀`)?」と一瞬わからなくなりましたが
子どもたちも満足して帰ってくれたので、これからようやく話が進みますよ~♪
「呪文を保管する場所はローレシアが良い」となぜカインは言っているのか?
長きにわたる(?)疑問が、次回ようやく明らかになりますよ (^_-)-☆
次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ