ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 165】 とんでもねえ提案

ナナとキスしちまった気まずさを解消するため、サンチョをダシとして招いたのに

余計なことばかり言い続けるサンチョのせいで食事の場はさらに変な空気になった。

 

おれは席を立ち「王子もサマルトリアに呼びたい」という自分の言葉を実行するため

伝令兵をローレシアへ向かわせようと、食堂を出て見晴らし台へ行くことにした。

 

 

途中で王妃の侍女を務める3人組に出くわしたので、ナナが泊まる際の世話を頼むと

3人はサマルトリアで憧れのナナ姫に会えるなんて!」と大はしゃぎしだした。

 

 

記録では「カッコ良く美しい王女」みてえに描かれているけどよ、その実体といえば

口うるさくてすぐに手が出る女だぜ?

 

ナナに会って幻滅しないとイイけどな!

 

おれは心の中で毒づきながら、女中たちと別れて見晴らし台へと向かった。

 

 

ローレシアが遠くに見える東側の見晴らし台に着き事情を話すと、3人の兵士たちは

口をそろえて「我こそがローレシアに行くんだ!」と主張して争い始めた。

 

なぜそんなに行きたがるのか尋ねると、3人とも「王子に会いたい」んだと言う。

 

 

まぁ、確かに王子の剣が破壊神シドーの眉間を刺し貫いてトドメをさしたことに

間違いはねえんだけどよ、あいつはただ力が馬鹿みてえに強いだけで普段はおれが

そばにいないと何にもわかってねえ世間知らずのおぼっちゃまなんだぜ!

 

 

それなのに兵士たちは「王子こそ真の勇者だ」「とにかく憧れる!」と大騒ぎだ。

 

しょうがねえからおれが「王子がこっちに来たら会わせてやるよ」と言ってやると、

ナナもサマルトリアにいると知った3人は「ナナにも会わせてくれ」と言ってくる。

 

どうやらナナも「憧れの女」なんだとか。

 

下手に断るとこいつらはうるさそうだからナナにも会わせることを約束すると、3人は

手を叩いたり抱き合ったりと大喜びだ。

 

 

もちろん誰に憧れるかは人それぞれ自由だけど、なんか釈然としない。

 

おまえたちの目の前にだって、こんなにも立派な勇者様はいるっていうのによ!

 

おれを「憧れだ」と言ったのはクリフトしかいねえんだぜ? おかしいだろうが!

クリフト以外、誰か1人でも「カイン殿下が憧れだ」と言いやがれ! ちくしょう!

 

 

おれがイライラした気持ちのまま食堂へ戻ると、食堂が近づくにつれ女たちの

華やかな笑い声が響いてきた。

 

 

食堂にやって来た王妃の侍女たちがナナと笑いながら立ち話しているようだ。

 

 

「お3人様の記録読んだとき『ナナ姫は紫水晶のような美しい瞳』と書いてあって

 紫水晶のような瞳ってどんな瞳なんだろうってまったく想像もつかなかったけど、

 ナナ様の瞳は本当に紫水晶という表現がピッタリ。透き通ってキラキラ輝いていて

 宝石のように美しいですわ」

 

女中たちは「ナナ様って本当に美人ですよね」「とても綺麗で憧れています」と、

うっとりした瞳でナナを見つめている。

 

 

「そんなに褒められると恥ずかしいわ。あなたたちもとっても可愛らしいわよ」

 

ナナが3人に言うと「ナナ様に可愛いと言われるなんて」「なんだか照れちゃう」

キャッキャとはしゃいでいる。

 

 

ちっ、くだらねえ会話だな。

 

おれは食堂の入口に立っているナナをわざと押しのけるようにして中に入った。

 

 

「なにすんのよ、痛いわね!」

 

おれに押されたナナがさっそく鬼の形相でおれをにらみつけてくる。

 

 

へんっ、おまえの王女様らしからぬ言動をこいつらに見せつけてやるのさ!

 

おれは心の中で舌を出してやった。

 

 

「坊ちゃん、王子殿をサマルトリアに呼ぶ算段は上手くいきましたか?」

 

奥のテーブルに座ったサンチョが残った骨つき肉にかぶりつきながら聞いてくる。

 

 

「あぁ。急いで呼び寄せることもねえと思ってな、ゆっくり向かわせることにしたぜ。

 大した用もねえのに、夜中に急に伝令兵が来るのも変だろ? 伝令兵には明日の朝に

 ローレシアに着くようにして向かってもらうことにした。だから、王子が来るのは

 早くて明日の夕方か、まぁ明後日になるんじゃねえかなと思ってる」

 

おれがそう言うとナナもうなずいた。

 

 

「じゃあ、ナナ様は少なくとも2日以上はサマルトリアにいらっしゃるんですね!」

 

女中が弾んだ声で言ってくる。

 

 

「そういうことになるわね。あなたたちにも迷惑かけちゃうけどよろしくね」

 

ナナが答えると「迷惑だなんてとんでもない!」と女中たちは首を横に振った。

 

 

「ナナ様はこれからもずっとずーーっとサマルトリアに居てくださっていいんですよ。

 ムーンペタの教会よりもお城の方がすごしやすいんじゃないかしら? もしナナ様が

 サマルトリアにずっといらっしゃるなら、私たちが喜んでお世話します!」

 

1人がナナの手をつかんで言った。

 

 

「馬鹿ねえ。今は良いけど、王妃様が帰って来られたら私たちは後宮に戻らなくちゃ」

 

背の高い女中がたしなめるように言う。

 

 

「そうよねぇ... 王妃様はお優しくてお仕えするのは楽しいんだけど、後宮に戻ったら

 こんな風に王宮に来てナナ様にお会いできなくなるのはとても残念だわ...」

 

小柄な女中がしょんぼりと肩を落とした。

 

 

「そうだ! 私、良いこと思いついちゃった! 私たちが王宮に来るんじゃなくて、

 ナナ様に後宮に来てもらえば良いのよ」

 

女中が大きな声で叫んだ。

 

 

「ホント馬鹿よねえ、あんた。後宮ってのは誰でも入れる場所じゃないのよ。王族の

 お妃さましか入れない場所....」

 

背の高い女中があきれたように言いながら、途中でいきなりハッとなって言葉を止め

おれの顔をチラッと見た。

 

 

背の高い女につられておれの顔を見た他の2人の女中も同様にハッとした表情になり

3人の女中はおれとナナの顔を交互にチラチラ見ながら、ひそひそ何かささやき合い

「きゃーー、ヤダァ〜!」などと頬を赤らめながら嬌声をあげている。

 

 

話の内容は聞こえないが、こいつらの顔を見れば何を言われているか容易にわかる。

 

ナナも察しているのだろう。居心地悪そうにうつむき加減で押し黙っている。

 

 

「私たちからは大それたことは何も言えませんが、もしこの先ナナ様がサマルトリア

 後宮にいらっしゃることがあれば、私はとにかく大歓迎します!」

 

「私はいつか後宮で王妃様とナナ様のお2人にお仕えしたいです!」

 

「えっと.... じゃあ私は... そうだ! ナナ様の赤ちゃんのお世話がしたいです!」

 

最後の女中の発言に「もう! あんた、気が早いわよ」なんて言いながら女中たちは

肩をつつき合ってはしゃいでいる。

 

 

女中たちの発言を聞いて、ナナはどう返事したらいいか困っているようだ。

 

 

「おい! 話はそのへんにして、そろそろナナを客室に案内してやってくれ」

 

おれは助け船を出してやった。

 

 

「あっ、そうだわ。こんなところで立たせたままで申し訳ございません、ナナ様。

 すぐお部屋にご案内いたします」

 

背の高い女中はキリッと表情を変えて、すばやく廊下に出るとナナを促した。

 

 

「ええ、ありがとう。カイン、サンチョさん、ごちそうさま。おやすみなさい」

 

ナナは振り返っておれたちにひと声かけると、女中に続いて食堂を出て行く。

 

 

「おやすみなさ〜い、ナナ様」

 

サンチョが骨つき肉を両手に持ったままナナに手を振っている。

 

おれもナナに向けて軽く手をあげた。

 

 

「殿下たちも、お食事が終わりましたらそのままお部屋にお戻りください。あとで

 ここは私たちが片づけますので」

 

他の2人の女中はおれとサンチョに頭を下げて、足早に食堂を出て行った。

 

 

 

「サンチョ、おまえ酔ってねえのか?」

 

2人になっておれはサンチョに尋ねた。

 

食堂に戻って来てからサンチョの言動を見ていても酔ってるようには見えねえ。

 

 

「私? 酔ってませんよ。これっぽっちのエールで酔うほど私は子どもじゃないです」

 

サンチョは胸を張って言いながら、手に持っている骨つき肉に豪快にかぶりついた。

 

 

 私は立派な大人ですから! 酔ってもないし、元気いっぱいです

 

 

 

「でもよ......」

 

おれが反論するよりも早く、サンチョは口を挟んできた。

 

 

「なかなか刺激的な『いいダシ』だったでしょ? 自分では満足の出来ですよ!」

 

サンチョは口をもぐもぐさせながら、えへんと再び胸を張った。

 

 

「あの言動はわざとってことか?」

 

「ええ。昼間に何があったか尋ねたり魚のキスの話をして、ナナ様に坊ちゃんとの

 キスを思い出させてドキドキさせるというのが私のねらいでした!」

 

「へへへっ」とサンチョは上機嫌だ。

 

 

「なら、先におれに言っておけよな! いきなり暴走し出すから酔ってんじゃねえかと

 心配になったんだぜ?」

 

おれはこぶしを軽く握って、サンチョのでこをコツンと小突いた。

 

 

「そうですよ! ナナ様を動揺させるのが目的なのに坊ちゃんの方が落ち着かなくて...

 坊ちゃんには事前にいいダシになりますって言ってあったのになんでナナ様よりも

 坊ちゃんが動揺するんだ? と私は坊ちゃんを見ながらハラハラしちゃいましたよ」

 

自分のことは棚に上げてサンチョが頬をふくらませながら抗議してきたので、おれは

「事前になにも言ってないおまえが悪い」と再びサンチョの頭を小突いてやった。

 

 

「あの程度で動揺する坊ちゃんが悪い」「変なことばかり言うてめえの方が悪い」

お互い「相手が悪い」と小突き合っているうちに、だんだんおかしくなってきた。

 

おれたちはしばらく笑い合った。

 

 

「ふふふ。坊ちゃんに事前に言ってなかった罰として、イイことを教えましょう」

 

骨つき肉を食ったサンチョはエールをグイッと飲み、豪快にげっぷしながら言った。

 

 

「坊ちゃんがここを出てから、私はナナ様と2人でお話ししました。ナナ様は私に

 恥ずかしそうにしながらも謁見の間で何があったか話してくれましたよ」

 

おれが驚いてサンチョを見ると、サンチョは余裕の表情でふふんと笑った。

 

 

「ナナ様は『カインは何か言ってた?』と気にしていました。どうやら坊ちゃんが

 キスしちゃったことを不快に思ったんじゃないかと気にしているようでしたので

『ナナ様とキスして嫌がる男なんていませんよ』と言っておきました。ついでに

『ナナ様は嫌じゃなかったんですか?』と聞いておきましたよ」

 

サンチョはそこまで言うと再びエールを飲もうとジョッキに口をつけたが、おれは

手を伸ばしてサンチョの襟をつかんだ。

 

 

「それで? 聞かれたナナは何と答えたんだ?」

 

襟を引っ張って続きを促すと、サンチョは「... 坊ちゃん、苦しい...」とうめいた。

 

 

「ああ、悪りい悪りい」

 

おれが手を離すと、サンチョは喉をさすりながら「ふーっ」と大きく息を吐いた。

 

 

「ナナ様は『あたしも今日のことは不快だなんて思ってないわ』と言ってましたよ!  

 『ちょっとビックリしちゃっただけで、別に嫌だとは思わなかったわ』ですってよ!

 坊ちゃん! これは世紀の大チャンスですよ!」

 

サンチョはエールを飲み干すと、興奮した様子で逆におれの肩をつかんできた。

 

 

「大チャンス? なんのことだ?」

 

サンチョが美味そうにエールを飲むのを見ていると、おれも飲みたくなってきた。

 

おれはサンチョの手を振り払うと、テーブルにあった自分とサンチョの空のジョッキに

エールを注ぎ足した。

 

 

「なんのチャンスだ? って... もうっ。王妃様が嘆いてましたが、坊ちゃんって本当に

 恋愛に関しては疎いんですね」

 

サンチョはやれやれと肩をすくめながら、おれが注いで渡したエールに口をつける。

 

 

エールを飲んでサンチョは口を開いた。

 

「イイですか? 言いますよ? 坊ちゃんがナナ様と本当のキスをする

 大チャンスです!」

 

 

 

ブフーーーッ!!

 

おれはサンチョに続けて飲もうとしてたエールを豪快に吹き出した。

 

 

こ、こいつ、正気か?

急になに言いだすんだ?

 

 

「だって、考えてもみてくださいよ。ナナ様も坊ちゃんと不意打ちでキスしたことは

 不快じゃないって言ったんですから! 坊ちゃんとのキスが不快じゃないってことは

 本気でキスしちゃっても良いってことですよ!」

 

サンチョは再びおれの両肩をガシッとつかんで、前後にブンブンと振ってきた。

 

つられておれの頭も前後に揺れる。

 

 

そうなのか?

そうなるのか?

 

事故で不意にキスしちまったことに関しては「しょうがない」と思ったってだけで、

キス自体は嫌なんじゃねえのか?

 

それとも… ナナはおれとキスしちまっても良いと本当に本気で思ってるのか?

 

サンチョの言い分を信じて良いのか?

だって、サンチョだぞ?

 

おれが「ダシになれ」と言ったら「私を食べる気か?」と言ってきた男だぞ?

こんなとんちんかんな男の言い分を信じて本当に大丈夫だろうか?

 

 

「先ほどの話だと、王子殿がサマルトリアに来るのは早くても明日の夕方。おそらく

 明後日になるってことでしたよね? ということは丸1日チャンスがあります!

 明日、イイ雰囲気をつくってナナ様とブチューッとしちゃってくださいよ」

 

サンチョはおれに向かってキスするように唇を突き出しながら言ってきた。

 

 

「気持ち悪りい顔すんな!」

 

おれはいつもどおりのなんでもないふりを装ってサンチョの顔を手で押しのけたが

心臓は早鐘のように鳴り続けていた。

 

 

 

 

 

今回のタイトル「とんでもねえ提案」

2つありましたがわかりましたか?

 

1つめは(さすがにハッキリとは言わなかったけど)女中3人組からの提案

 

「ナナを後宮に入れて」(=「カインの妃にして」 (*´ω`*))

 

これは女中たちに「ナナを部屋に連れていけ」と命じることで聞き流せました (^_-)-☆

 

 

2つめはさらにとんでもねえ提案 ( *´艸`)

 

ナナとキスしちゃえ!

 

 

「ちょっとした事故でカインと唇を重ねちゃったのは別に嫌じゃなかったわ」

ナナがそう言ったから「これはイケる!」と判断したサンチョ ( *´艸`)

 

 

王子が来るまでの間に「キスしちゃえ!」とカインを焚きつけます ( *´艸`)

 

「本当かよ?」と疑心暗鬼のカインですが、サンチョの言い分もアリなのかと思うと

ドキドキが止まりません ( *´艸`)

 

 

ちょっと余談ですが、今回のサンチョの判断は当たっているように思えますね (*´ω`*)

事故でキスして「嫌じゃない」ってことは、事故じゃないキスもアリでしょう♡

 

 

さて、王子がサマルトリアに来る(予定)まで残された時間は1日。

カインはサンチョの言葉を信じてナナと 本気のキス が出来るでしょうか (*ノωノ)?

 

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ