ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 166】 花が咲き誇る中で

王子をサマルトリアへ招く手配をして、おれがナナとサンチョのいる食堂へと戻ると

食堂には王妃の侍女たちが来ていて、気色悪りい言葉でナナに賛辞を送っていた。

 

 

憧れのナナに夢中な女中たちは「ずっとナナ様のお世話をしたい」と言っている。

だが、こいつらは王妃の侍女で、王妃が旅行から帰れば後宮に戻らないといけない。

 

「王妃様が帰られたら、こんな風にナナ様に会えなくなるのね」と嘆く女中の隣で

もう1人がとんでもねえことを言い出した。

 

 

「ナナ様が後宮に来てくれれば、今の仕事を続けたままナナ様にも会えるわよ!」

 

 

ナナが後宮に来るってことは、サマルトリアの皇族の妃になるってことだ。

 

女中たちは、おれとナナの顔を交互に見ながらひそひそと囁きあい「キャーッ」

『なにか』を想像して歓声をあげている。

 

 

ナナもどう対応すればいいか困っていたので、おれはキャッキャしている女中たちに

「無駄話は止めて、さっさとナナを部屋に連れて行けよな」と命じた。

 

 

とんでもねえことを言い出した女中たちを追っ払って、ようやくひと息ついたおれは

サンチョと一緒に飲み直したが、とんでもねえ奴はここにもいた!

 

 

おれが王子を呼ぶため食堂を出た後、サンチョはナナと2人で話し込んだらしい。

 

サンチョがナナに聞いた話だと、今日の午後に謁見の間で起きた「あの事故」のこと

ナナは「驚いただけで、別に不快ではなかった」と言ってたんだとか!?

 

 

ナナの言葉を聞いたサンチョはおれに「ナナと本当にキスしちゃえ!」と言ってきた。

 

 

事故でしちまったキスを嫌がってないんだから、本気のキスも嫌がらないはずだ… と

サンチョは主張するが本当かよ?!

 

事故のキスはしょうがないと思えたとしても、本当におれとキスするとなったらナナは

嫌がるんじゃねえのか?!

 

 

おれはサンチョの言葉をにわかには信じられなかったが、サンチョは自信満々で

「王子殿がサマルトリアに来るまで残された1日がキスの大チャンスだ」と言う。

 

おれはサンチョの前で必死に平静を装いながらも、激しい動悸が続いていた。

 

 

残っていた食事はあらかた食い尽くし、エールも腹がいっぱいになるまで飲んだ。

動悸が続く中で平静を装うのもしんどいし、早く1人になりたかった。

 

「そろそろ寝ようぜ」とさりげなくサンチョに告げて、おれとサンチョは食堂を出た。

 

 

「坊ちゃん、がんばってくださいね。私は陰ながら見守っていますから」

 

おれを自室まで送ると、最後にサンチョはこぶしを握っておれに突きつけてきた。

 

おれはしょうがねえからこぶしを合わせて応じ、サンチョと別れて部屋に入った。

 

 

部屋に入ってベッドに腰を下ろす。

心臓はずっと激しく拍動していた。

 

 

本当にナナとキスするとしたら?

どこで? どんな風に?

 

 

サンチョは「イイ雰囲気をつくってブチューッとやっちゃえ」と言っていたよな。

イイ雰囲気をつくるったって、今のおれは国王代理として城をまかされているからな。

 

 

さすがに今のおれがサマルトリア城をあけてどこかに行くわけにもいかねえし...

... となると、あの場所しかねえか。

 

 

おれはベッドにごろりと倒れ込んだ。

 

 

寝たのか寝てねえのかハッキリしないまま朝を迎え、おれはぼんやりと目を開けた。

 

外はもう明るい。

 

おれは起き上がって裏庭へ向かった。

 

 

裏庭では王妃が育てた花が咲き誇っている。

美しい花が好きなナナがこの光景を見たら、きっと感激するだろうな。

 

「花を見て感激しているナナの肩を抱いて『この花はすべてきみのものだよ』って、

 キスしちゃえばいいのよ」

 

以前、王妃が言っていた言葉を思い出す。

 

 

あのババアの言うとおりにするのは癪だが、サマルトリア城内でキスするのに1番

ふさわしい場所はここしかねえだろう。

 

花は美しく咲き誇り、舞台は整った。

あとはイイ雰囲気に持ち込むだけだ。

 

 

「この花はすべてきみのものだよ... てか? そんなダセえ言葉、おれ様が言えるかよ!」

 

王妃のババアの言うとおりにしなくても、とりあえずナナをここに連れて来て、あとは

成り行きにまかせればいい。

 

 

おれは自室に戻った後でナナを呼びに行くと、2人で簡単な朝食を済ませた。

 

 

「そうだ。おまえの好きなあの花、今は満開に咲いてるぜ。見に行かねえか?」

 

朝食の後片づけを王妃の侍女たちにまかせ、おれはナナを誘い出した。

 

ナナは嬉しそうに誘いに応じた。

 

 

 

「うわぁ~、すごいわ。たくさんのお花が咲いているのね。なんて美しいのかしら!」

 

裏庭に着くとナナは歓声をあげた。

 

 

「あぁ、実はおまえには言ってなかったけど、ここに咲いている花の世話はすべて

 王妃がやってるんだ。おまえの好きなあの花はムーンブルクの気候には合わねえけど

 他の花ならムーンブルクでも咲くかもしれねえぜ。気に入った花があればあとで

 王妃に頼めば、きっと分けてもらえるだろう。好きなだけ見て回れよ」

 

 

「嬉しいわ。ありがとう、カイン」

 

ナナは弾むような足取りで花に近づく。

 

 

おれはさりげなくナナの隣に立った。

このまま腕を伸ばせばナナの肩に届く。

 

 

「坊ちゃん、がんばってくださいね。私は陰ながら見守っていますから」

ふとサンチョの声が聞こえた気がした。

 

 

ザワザワと胸騒ぎがする。

 

「陰ながら見守る」と言いながら、まさか覗いてんじゃねえだろうな、あいつ!

 

おれはあたりを見まわした。

 

 

見渡す限り、人の姿はない。

しかし神経を研ぎ澄ませると、サンチョかどうかわからねえが人の気配がする。

 

殺気などはまったく感じられないが、がさつで粗野な男の気配があるように思える。

 

 

王子やナナと旅をしていた頃、死角から急に魔物が襲ってくることがよくあった。

 

王子はどれだけ襲われても特になーんも考えずにのんきに歩いているし、ナナは

王子よりはマシだがやはり鈍い。

 

必然的に、おれ様が周囲に神経を張り巡らせて敵を察知する能力を磨いたのだ。

 

戦いの日々から離れ感覚は鈍っているとはいえ、まだナナより察知する能力は高い。

 

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

おれが声をあげると、少し離れたところにある背の高い花がガサガサと揺れた。

 

 

「うげっ! なんでバレたんだ?」

 

「てめえ、おとなしくしろって言ったのに余計な音立てたんじゃねえのか?」

 

「それはおめえだろ?」

 

お互いをひじで突き合いながら、2人の男が花の影から姿を現した。

 

 

昨夜、見張り台で会った男たちだ。

ローレシアに向かう奴を悔しそうに見送った2人が、バツの悪そうな顔で立っている。

 

 

「こんなところで何してる?」

 

おれは2人をにらみつけた。

 

 

「あ... えっと.... おれたち見張りの交代を終えて、ちょうど部屋に戻るところで...」

 

「部屋に向かう途中で、美しい花につられて思わず寄ってみたというか....」

 

2人は額の汗をぬぐいながら言った。

 

 

「.... なぁ、本当のこと言えよ?」

 

おれが脅しを効かせて低い声で言うと、2人はその場でビクンと跳ね上がった。

 

 

「も、申し訳ありません! 部屋に戻る途中に、殿下とナナ様が歩いているのを見かけて

 憧れのナナ様をもっと近くで見たいと... つい、あとをつけてきちゃいました...」

 

2人は深々と頭を下げる。

 

 

「まぁ! 憧れって、あたしが? そんな風に言われると、なんだか照れちゃうわね」

 

ナナがまんざらでもない顔で笑う。

 

 

「ホントに憧れてました!」

「会えて嬉しいです!」

 

ナナの笑顔を見て、2人の兵士も目を輝かせながらニヤニヤ笑っている。

 

 

ちっ!

 

おれは舌打ちした。

 

 

ナナをここに連れてくることで頭がいっぱいで、おれ様としたことがこんな奴らに

尾行されたというのにまったく気づかなかったのもムカつくし、鼻の下を伸ばした

兵士たちのニヤケ顔にもムカつくし、ナナがデレデレしているのにもムカつくぜ!

 

 

おれは男たちのそばに向かうと、2人の肩に腕を回し顔を近づけてささやいた。

 

「てめえら、わかってるだろうな。調子に乗ってると、王子に会わせねえぞ!」

 

 

「ひっ!」「ひえっ!」

 

おれの脅しに男たちは息を飲んだ。

 

 

「え、えっと… おれたちはそろそろ部屋に戻ります。ナナ様、ごきげんよう

 

「またお会い出来るよう願っています」

 

2人は慌てた様子でナナに頭を下げた。

 

 

「そう? もう帰っちゃうの? 残念ね。また今度、ゆっくり会いましょうね」

 

ナナは微笑んでひらひらと手を振る。

 

 

男たちは再びおれに向かって深々と頭を下げると、逃げるように去って行った。

 

 

くそっ、とんだ邪魔が入ったな!

 

おれは気を取り直してナナに声をかけた。

 

 

「どうだ? ベラヌールのあの花以外で、他に気に入った花はあったか?」

 

おれの問いかけると、ナナは嬉しそうに目を輝かせてうなずいた。

 

 

「たくさんあって困っちゃうぐらいよ。王妃様はお花を育てるのがとても上手よね。

 昨日、あの子たちに王妃様の話もたくさん聞いたのよ。あんたとティアちゃんを

 本当に愛していて可愛がってる様子が伝わってきて微笑ましかったわ」

 

ナナは穏やかに微笑んだが、表情に少し翳りが出たのをおれは見逃さなかった。

 

 

王妃の話をしているうちに、自分のおふくろのことを思い出したに違いない。

 

 

「大丈夫か?」

 

おれが静かな声で問いかけるとナナは小さく唇を噛み、瞳が微かに潤んだ。

 

 

「泣きたいときは無理しないで素直に泣けよ」

 

おれの言葉を聞いて、ナナの瞳にはさらに涙がどんどんたまっていく。

 

 

おれはゆっくりナナに近づくと、そっと優しくナナの両肩に触れてみた。

 

ナナは嫌がる様子もなく、潤んだ真っ赤な瞳がおれをまっすぐ見つめてくる。

 

 

そのまま肩をつかんでおれの方にゆっくり引き寄せナナを抱き締めようとすると...

 

 

 

「キャアア!」という悲鳴と共に、ドシンと大きな音があたりに響いた。

声のした方を見ると、王妃の侍女たち3人が折り重なるように地面に倒れている。

 

 

ちっ! おまえらもかよ!

 

おれは小さくため息をついた。

 

泣きそうになっていたナナは、驚きポカンとした顔で女たちを見つめている。

驚いた拍子に涙も引っ込んだようだ。

 

 

「あ、あは… あはははは」

 

「嫌だわ、転んじゃった」

 

「ちょっと、あんた重いわよ」

 

女中たちは気まずそうに立ち上がった。

 

 

「こんなところでどうしたの?」

 

ナナが微かに顔を赤らめ、指先で目の端に浮いた涙をぬぐいながら3人に尋ねた。

 

 

「あの… えっと… カイン殿下とナナ様がお花を見に行くと聞いて、満開のお花と

 ナナ様が一緒に居るのってどんなに美しいだろうと思って、見てみたくて...」

 

「美しいお姫さまと美しいお花って絵になるだろうな~って思って」

 

「決して覗こうとしたわけでは...」

 

最後に発言した小柄な女中の言葉に他の2人の女中は「バカッ」と大声で叫んで

慌てて女中の口を押さえる。

 

 

ナナはクスクスと笑っていた。

 

 

「… で? もうナナと花は見たのか?」

 

おれが軽くにらみながら言うと、3人はおれを見てうんうんと大きくうなずいた。

 

 

「とても綺麗なお花と美しいナナ様を見ることが出来て、私たちとても満足です」

 

「満足したので仕事に戻ります」

 

「お2人はどうぞごゆっくり」

 

女中たちは口々に言うと、おれとナナに軽く一礼してそそくさと走って行った。

 

 

「うふふ。さっきの兵士たちといい、あの子たちといい、サマルトリアには明るくて

 楽しい子たちがたくさんいてにぎやかね。これも皇太子さまの影響かしら?」

 

ナナはおれを見て楽しそうに微笑んだ。

 

 

おれもナナに合わせて軽口をたたこうとしたが、ふと思い直した。

 

「あの女中の話じゃねえけど、もしおまえがサマルトリアを気に入ったなら、このまま

 サマルトリアにずっといてもいいんだぞ。教会より城の方が暮らしやすいっていう

 あいつらの言葉も一理あるとおれも思うぜ。おまえがここに住みたいと思うのなら

 後宮とか王宮とかくだらねえことは気にせず、好きに暮らして構わねえよ。まぁ、

 おまえがムーンペタを気に入っているなら住み続ければいいと思う。おれはただ

 おまえが幸せならそれでいいから」

 

おれは真剣な口調で言った。

 

 

「..... あ、ありがとう、カイン。これからどうするかはゆっくり考えてみるわ」

 

ナナは先ほどよりもさらに顔を赤らめ、はにかんだ笑みを見せた。

 

 

さっきは肩に触れておれの元に引き寄せようとしてもナナには抵抗されなかった。

まだチャンスはあるはずだ!

 

おれはゆっくりナナに近づいていき、再びナナの肩に手を伸ばそうとした。

 

 

そのとき…

 

 

「てめえら、抜けがけするなんてズルいぞ!」

「バカ! デカい声出すなよ。気づかれるだろ」

「そうだぜ、気をつけろよ。カイン殿下を怒らせたら、おれたち王子様に会わせてもらえなくなるんだぜ?」

「へっ、おれは会ってきたからいいもーん」

「くっそぉ。この裏切者め! ホント憎たらしい奴だよな、おまえって奴は!」

「だからデカい声出すなって!」

「おまえの声の方がデカいだろ!」

 

本人たちは声を抑えてるつもりらしいが、ガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。

 

 

くそっ、うるせえ奴らだな。

追っ払ったのに戻って来やがったのか?!

 

 

ナナは聞こえてくる声に耳をすませながら、面白そうにクスクスと笑っている。

 

 

キスする雰囲気じゃなくなっちまった...

 

ちくしょう!

完全にキスの場所を間違えたぜ!

 

 

おれは何度目かのため息をついた。

 

 

 

 

 

綺麗な花がたくさん咲く中でキスしよう!


カインがそう考えたのは確かにロマンティックで良かったんだけど、キスのお相手は

「みんなの憧れのナナ姫」ですから (;´∀`)


誰でも自由に覗ける野外でチューしようとしたのはカインの大誤算でしたね (;´∀`)

 

 

ただ、今回のカインはがんばった (≧∇≦)♡

 

綺麗な花を見てうっとりするナナに寄り添ってさりげなく肩を抱こうとしたのも◎

 

ママを思い出して寂しくなったナナの一瞬の表情の変化を見逃さず「大丈夫か?」

気遣いの言葉をかけて「泣きたいなら素直に泣けよ」と言ったのも花丸◎

 

「好きな場所でのびのび暮らせよ。おれはおまえが幸せならそれでいいから」という

言葉をかけたのも花丸◎

 


キスの場所さえ間違えなければ

 

ナナの肩を抱き寄せてチュウ♡

泣いているナナを抱き締めてチュウ♡

ナナの幸せを願ってハグしてチュウ♡

 

いずれも叶ったんじゃないかな (*´ω`*)

 

場所選びを間違えたせいで、いまだに未達成なのが悔やまれますね... ( ノД`)

 


さて、せっかくのイイ雰囲気をぶち壊されちゃいましたが、ローレシアへ派遣した

3人の中で1番うるさい兵士がもう戻ってきたみたいですよ (^_-)-☆

 

キスがお預けになってがっくりしているカインですが、ここは気を取り直して

王子の様子を聞いてみましょう☆

 

 

 


次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ