自室のベッドで久しぶりにぐっすり眠ったおれは、翌日すがすがしい朝を迎えた。
思い返せば、これまでずっとテントで寝たり雑魚寝したりの日々だったからな。
久しぶりにぐっすり眠れたのは、ただ寝所の質が上がった影響だけだと思うが
もしかしたら「サマルトリアに帰って来た」ことも関係しているのだろうか?
「カインも... 安心してぐっすり眠れる場所があっていいな... うらやましいな...」
満月の夜のナナの寂しげな声がよみがえり、胸がギュッと締めつけられた。
ナナにも「帰る場所」を、安心してぐっすり眠れる場所をおれが必ずつくってやる!
「よし、行くぜ!」 決意を新たに、おれはルーラでデルコンダルへと向かった。
デルコンダルは人であふれかえっていた。
闘技場のあたりには屈強な男たちがたくさん集まっており、デルコンダルの兵士が
男たちのもとを回って、なにやら話しかけては熱心に書き留めていた。
ちょうど武闘大会の受付時期に合わせて来れたようだな。へっ、運がいいぜ。
ざわざわと騒々しい闘技場を抜けておれは城門へ向かい、王様に謁見を求めた。
謁見の間に通されると、デルコンダル王は大臣となにやら話をしていた。
手には細かい文字がびっしりと書かれた紙を何枚も持っている。
「おおっ、よく来た。ちょうどいいところにやって来たな、サマルトリアの王子よ。
こちらに来てこれを見るが良い」
王様に手まねきされて近寄ると、手に持っていた紙を手渡された。
その紙には戦士たちの名前や年齢、出身地などがこと細かく記録されていた。
「デルコンダルからムーンブルクへ送りこむ人材の選定は順調に進んでおるぞ。
その紙に記録されている者は、大臣とわしで厳選した第一弾の合格者たちじゃ。
あとは合格者に『真面目に働きます』という誓約書を書かせれば完璧じゃろ?」
王様には「希望者と面談して直々に人物の選定をして欲しい」と頼みに来た。
もうすでに面談を済ませ、名簿の作成と誓約書の準備までしているとはな。
「デルコンダルから派遣する以上、どんな人物を送るかはわしの責任だからな。
問題を起こすような奴を送るわけにはいかないから、厳しく査定しておいたぞ」
デルコンダル王は玉座にどっしりと座り、得意気にひげを触っている。
「作業を割り当てるにあたっては、どんな特性があるか知っておいた方が良い。
合格者それぞれの能力値を数値化したものがこれじゃ。参考にするといい」
王様は新たな紙を手渡してきた。
そこには腕力の強さや持久力など、能力がひとめでわかるように記録されていた。
「奴らには、各々の務めを果たせば『ムーンブルク復興に貢献した人物』として
史書に名を残せると伝えてある。それを聞き、俄然やる気がみなぎっておるぞ。
望むような働きを見せてくれるはずじゃ。さらに、この件が大評判になってな
応募者が殺到しているのじゃ。いくら体力自慢の奴らでも、ずっと働き続けると
士気が落ちるからな。休息も必要だ。今は交代要員として、第2弾、第3弾の
合格者を選定しているのだ。そなたもここに来る前に闘技場を見てきたじゃろ?
これから厳しく審査して、合格者を随時ムーンブルクへ送り込むことにしよう。
... おおっと、すまんすまん。ついつい調子に乗って1人で話しすぎたようじゃ。
そなたもわしに話があるのじゃろ? なんじゃ? 遠慮なく申すがいいぞ」
「...... いや、言いたかったことは今すべて閣下に言われてしまいました」
おれはデルコンダル王にムーンブルクへ送る人物査定を依頼しに来た件を説明した。
まさか能力を見定め、名簿の作成や誓約書の準備までしているとは... と告げると
王様は胸を張り、満足そうに笑った。
「はっはっはっは。わしはなにも武力だけでこの地位を得たわけではないからな。
いくら強くても、力があるだけで頭がカラッポの奴では国をまとめてはいけん。
一国の王として臣下の信頼を得て君臨するにはここが大事なんじゃ、ここが!」
デルコンダル王は自分の頭を人さし指でつつきながら誇らしげに笑っている。
「そうじゃ。噂で聞いたが、ローレシアの王子も国王に即位するそうじゃな。
あいつにもわしのような賢さを身につけるよう言っておいてくれ。はっはっは」
「ははっ。王子にも【偉大なるデルコンダル王】を見習うよう伝えておきますよ」
「まあ見習ったところで、わしの域に達するには相当な時間がかかるだろうがな。
とにかく、ムーンブルクへ派遣する人選はすべてわしにまかせておけばよい。
そなたも忙しいのであろう?他に用がないのであれば、もう下がって良いぞ」
「はっ。では、失礼いたします」
おれはデルコンダル王の高笑いを背中で聞きながら謁見の間を後にした。
何も言わなくても入念な準備を済ませておいてくれるのは確かにありがたい。
だが、くそっ! なんとなく気分が悪い。
城を出てひと息ついたところで、ガルダーのことを聞き忘れていたと気づいた。
ガルダーが来ているか確かめたかったが、また王様のもとへ戻るのは気が乗らない。
「大事なことを聞き忘れるなんて、賢そうに見えるがそなたもまだまだじゃのう」
そう言って馬鹿にされるのがオチだ。
おれはもらった名簿をパラパラと眺めたが、ガルダーの名前は見つからなかった。
闘技場にいる男たちの間をひと通り見て回ったが、やはりガルダーの姿はない。
おれは近くにいる男に聞いてみた。
「ガルダー? ああ、昨年の大会で優勝した奴か。そいつなら、さっき見かけたぜ」
「なにっ?! 今ここに来てるのか?」
「ああ。ちょっと待ってくれよ。おーい! ガルダーって奴はどこいった?」
「その男なら、もう城を出てったぞ。おれに『今年は武闘大会はないのか?』って
聞くからよ『今年は中止だぞ』って答えたら『ふん!』って怒って行っちまった。
ついさっきのことだから、今すぐに追いかければ追いつくんじゃねえかな」
「わかった、ありがとよ!」
おれは急いで城門から出てあたりを見回したが、ガルダーらしき男の姿はなかった。
門番の兵士にガルダーの特徴を話して、そんな男を見てないか聞いてみると
「その男なら、さっきキメラの翼を放り投げて飛んで行きましたよ」と言われた。
くそっ! またすれ違いかよ。
となると、もうデルコンダルに用はねえ。
おれは次の目的地に向けルーラを唱えた。
タヌキ親父・デルコンダル王との第2戦はカインの完敗でした (´;ω;`)
カン○タの子孫とも言われているデルコンダル王のイメージ(私の偏見... (;´∀`))
・力の強い者がとにかく好き
・名声・名誉にこだわる
・したたかな策略家
ロトの子孫たちのハーゴン討伐が史書に記され、後世まで語り継がれるにあたって
同じ時代を生きるデルコンダル王も「功績を残したい」と思うはずですよね。
(実際に前回はカインもその点を攻めて、王様を攻略しましたよね ↓↓)
【創作 ④】 カインの計画 - ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!
前回は、まだ青二才のカインに説得される形で武闘大会の中止に応じた。
だが、王自らが主体となってムーンブルク再興に貢献したと史書に名を残したい。
... となると、自分に不利な状況は避けて事前に先手を打ってくると読みました。
デルコンダルは王様だけじゃなく家臣もなかなかのクセ者ぞろいですからね (;´∀`)
デルコンダル王には完敗するわ、ガルダーはまたタッチの差で逃しちゃうわで
踏んだり蹴ったりのカイン (´;ω;`)
再興までまだまだ先は長い! 気を取り直して、次行ってみよーヾ(*´∀`*)ノ
さて、次はどこへ行くんでしょう?
続きもお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ