ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 ⑲】 柱の陰で…

ある日、作業を終えて城に戻ると2人の男がおれたちを待っていた。

 

「殿下! お待ちしておりました」

おれたちの姿に気づいたサイラスが駆け寄って来て王子の前でひざまずく。

サイラスの後ろにはアルファズルが立っているのが見えた。

 

「殿下、お遊びはこのへんにして、そろそろローレシアにお戻りくださいませ。

 即位の礼の準備もありますし、殿下が不在のままですといろいろ困るのです。

 それに、わが君も王妃様も殿下のお帰りを首を長くして待っております」

 

「突然やって来て、急にそんなこと言われたって、ぼくだって困るよ! サイラス。

 それに、ぼくたちは決して遊んでたわけじゃない。毒の沼地を再生させるために

 みんなで魔法の粉をつくっていた。ムーンブルクのために働いてたんだぞ!」

王子は「お遊び」という言葉にムッとした表情を見せ、強い口調で反論すると

ひざまずいたまま王子を見据え一歩も引かないサイラスをギロリとにらんだ。  


険しい目でにらみ合う2人の横を通り、アルファズルはナナの前に立った。

「ナナ、リーナ。ムーンペタの教会に、おまえたち用の部屋を用意したよ。

 ムーンペタに戻る時期は、おまえたちで好きなように決めればいいが

 とりあえず部屋が用意できたという連絡だけはしておこうと思ってね」

 

ナナとリーナは、アルファズルからの突然の言葉に、お互い顔を見合わせた。

 

サマルトリアで5人ですごす日々が当たり前になっていたので、おれたちは

2人の突然の来訪に激しく動揺していた。全員が不安げな表情を浮かべている。

 

ティアが「あたしたち、離れ離れになるの?」と小さな声でおれに聞いてきた。

 

おれたちが困惑した表情で固まる中、王子とサイラスは言い争いを続けていた。

 

「粉末づくりを途中で投げ出すなんて出来ないよ!」という王子の主張を聞いて

サイラスは現在の状況確認のため、オーウェンのもとへ家臣を走らせた。

 

「青の騎士団長が王子を迎えに来ている」と家臣から話を聞いたオーウェン

「殿下はどうぞローレシアへお帰りくださいませ。作業はとても順調に進んでおり

 あとの工程は私1人でも大丈夫ですから、ご心配なく」と返事したという。

その答えに満足したサイラスは、情に訴えて王子を落としにかかった。

 

「殿下、どうかお父上とお母上のお気持ちもわかって差し上げてください。

 お二人は殿下の自主性を優先されていますが、内心は寂しがっておられます。

 殿下はご存じないかもしれませんが、王妃様は殿下が平穏無事にすごせるよう

 毎朝かかさず大聖堂で熱心に祈りを捧げておられるのですよ。親というものは

 深く深く子供を愛し、いつも子供のことを一番大切に想っているものです。

 いつも殿下を案じているお二人のためにも、ローレシアへお戻りください」

 

さすがはサイラスだ。王子の攻めどころがよくわかっている。

 

「突然やって来てすぐに帰れなんて無礼だぞ! サイラス」と息巻いていた王子は

サイラスの言葉を聞くとシュンとなり、こくんとうなずいた。

 

「わかったよ、サイラス。ただ、ぼくは『ローラの門』の補修を請け負っている。

 ローレシアに戻る前に、最後にローラの門を視察したいんだ。いいだろ?」

 

「私は殿下をすぐにローレシアへお連れすると固く決意してここまで来ました。

 ローラの門はまた見に来ることにして、まずはローレシアへ帰りましょう」

 

王子をローレシアに帰すことしか頭がないサイラスは考えを曲げる気はなさそうだ。

2人は再び厳しい表情のまま押し黙った。張りつめたような静寂があたりを包んだ。

 

「サイラス殿。王子に『国王と王妃の気持ちを考えろ』と申すのならば、そなたも

 王子の言い分を聞くのが筋というもの。それに王子が請け負った事案に関しては、

 ローレシアの国事として全面的に補佐するのがそなたの仕事であろう」

 

アルファズルが2人の間に割って入った。

 

「では、こうしてはどうだ? 我々もそなたたちと一緒にローラの門へ向かおう。

 ローラの門での視察を終えたら、そなたたちはすぐにローレシアへ帰るが良い。

 我々はそのままムーンペタへ向かう。こうすれば単なる視察だけで終わらず、

 ムーンブルク王女の護衛という名目も果たせるぞ。それでどうじゃな?」

 

アルファズルはナナとリーナの方に向き直って言った。

ムーンペタの部屋は何も手を加えていないのだ。着いたらムーンペタに滞在して

 部屋の模様替えなどをしても良いし、ここでの暮らしが気に入ったのであれば

 またサマルトリアに戻るが良い。もちろん、ローレシアに行っても構わないし

 他の町に行きたければ行ってくれば良い。しばらくは自由にすごすがいいぞ。

 ムーンブルクの再興に着手するには、まだいろいろと下準備が必要だからな」

 

アルファズルはちらっとおれに目配せしてきた。おれも小さくうなずいた。

 

結局、おれたちはアルファズルの案に従うことになった。

おれとティアも一緒に城を出て、ナナたちをムーンペタまで送ることにした。

 

「視察を終えたらすぐにローレシアへ戻るのですよ。寄り道は許しません」

 

「はいはい、わかったよ」

 

「はい、は一度だけだと殿下には以前から何度もお伝えしているでしょう。

 はいはい、と2回言うのは相手に投げやりな印象を与え失礼になるのですよ」

 

「あ~。わかった、わかった」

 

「わかった、も一度で結構です! 殿下には言葉遣いの再教育が必要ですな」

 

「はいは...あっ、はい」

 

王子とサイラスの相変わらずのやりとりにみんなが苦笑していた。

 

そんな中、おれはナナの姿が見当たらないことに気づいた。

おれはみんなに見つからないようにそっとその場を離れ、ナナを探した。

 

 

ナナは近くの柱の陰に隠れていた。

背中を向けていたが、うつむいて手で顔を覆い小さく震えているのが見えた。

 

 

... 見てはいけないものを見た気がして、おれはナナの元から静かに立ち去った。

 

 

ここまでの時間経過をたどると、凱旋帰国をした翌日にローレシアを出発。

サマルトリアまで遊びながら10日間かけて歩き、サマルトリアに着いてからは

2週間ほど粉づくりをして現在に至る。

 

ローレシアを出て、間もなく1カ月。

サイラスが「そろそろ帰って来い!」と迎えに来るのもしょうがないです (;´∀`)

 

そして、粉づくりを始めてからずっとキラキラした優しい笑顔を見せられて

「晩餐会の後で悲しそうにしていたのは、おれが寝ちゃって寂しかったんだろ?

 へへっ、可愛い奴だぜ (`▽´)ノ♡」なんてイイ気分で浮かれていたカインは

ナナが隠れてこっそり1人で泣いているのを見つけてしまいます (´;ω;`)

 

ナナが悲しそうにしていたのは「おれが寝てしまって寂しかったから」なんて

バカげた理由じゃなく、おれとは無関係のなにか別の理由がある。

浮かれた考えは一瞬で崩れさり、カイン自身も大ショック (´;ω;`)

 

幸せな妄想が打ち砕かれてしまったカインは、これからどうなるのでしょうか?

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ