サマルトリアを出発して、みんなであたしがつくったお弁当を食べようとしていたら
ガンバってつくった砂糖菓子に毒々しくて醜いアリがかじりついていたの。
ティアの砂糖菓子にかじりつくアイアンアント
せっかくつくったお菓子なのに！！ 台無しにするなんて許せないわ！
あたしの怒りの踏みつけで、憎たらしいアリは簡単に蹴散らしてやったわよ。
醜いアリをやっつけて、無事だったサンドイッチを食べ終えて、あたしたちは再び
勇者の泉へと歩き始めたの。
前に王子と来たときも思ったんだけど、勇者の泉ってサマルトリアから遠いのよね。
ずっと同じような景色が続くし、歩いているうちにつまんなくなってきちゃうのよ。
王子と一緒に来たときは、あまりのつまらなさと、お父様やお母様が恋しくなって
途中で行くのが嫌になって「もうおうちに帰りたい」って泣いちゃったのよね。
ふっ、あの頃は子どもだったわ。
今はもう立派な大人だもん！ ちょっとつまらないぐらいで帰るなんて言わないわよ。
「へえ。おうちに帰りたいと言って泣いた姫さまはさぞ可愛らしかったでしょうね。
... まぁ、今もとても可愛いですけどね...... こ、こほん。今はそのときと比べると、姫さまは
充分に成長されて、とても美しくたくましく輝いて見えますよ。でも、姫さまは
女の子なんですからね、困ったときは遠慮せず、いつでも私を頼ってください。
私・クリフトは、この命にかえても全力で姫さまをお守りしますから！」
あたしの当時の話を聞いたクリフトは、胸に手を当てながらあたしに宣言してきたわ。
勇者の泉に行くのが嫌だって昔は泣いたことがあるって言っただけなのに。
「ふふ、大げさね」
あたしは笑って弾むように歩き続けた。
出発した初日にアリと戦ってから、数日間はなにも起きなかったわ。
朝、起きてからしばらく歩いて、疲れたら休憩して、合間に干し肉とか適当に食べて
また歩いて、日が暮れてきたらひと晩休めそうな場所を探して火を起こすの。
ずっとその繰り返しよ。
勇者の泉に着いてからの毒蛇退治が本当の修行だもの。勇者の泉に行くまでの間は
なにもなくても仕方ないわよね。
夕方、良さそうな場所を見つけたら火を起こして、適当になんか食べて寝るの。
夜通しの火の番は、クリフトとティメラウスとリオスさんが交代でしていたわ。
あたしも共に旅をする仲間だから、本当は番をした方が良いのかもしれないけど、
なんてったって今のあたしは成長期なんだもん！ しっかり寝なきゃダメなのよね。
それに「睡眠不足はお肌の大敵よ！」ってナナおねえちゃんも言ってたもの。
あたしは今をときめく成長期の美しいお姫様なのに、睡眠不足になるなんてダメよ。
あたしがそう言ったら、クリフトは大きくうなずいて「私が全部やります！」って。
結局、あたしがやる予定だった当番も引き受けてやってくれることになったの。
クリフトが火の番になったある夜。
その日は砂地で休むことになったわ。
その前に歩いた林で薪になりそうな木を拾ってきて、火を起こして簡単に食事して
あたしは持ってきたシートを砂の上に敷いて眠ることにしたの。
シートを敷いて毛布にくるまって眠っていると、目の前がぼんやり明るく見えた。
さっき寝たのに、もう朝かしら？
不思議に思って薄っすら目を開けると、外はやっぱりまだ夜で暗いままなのよ。
そのままあたりを見回すと、ひざを曲げた体勢で火のそばに座っているクリフトが
ひざの上に腕を乗せ、腕を枕にしてウトウトしているのが見えた。
あの火が明るく見えたのかしら？
ちょっと違うような....
なんか、変ね…
まぁいいわと目を閉じようとしたとき、再び目の前がぼうっと明るくなった。
「フハハハハ。ついに見つけたぞ、サマルトリアの王女よ！」
大きな声が響いてくる。
うるさくてあたしは耳をふさいだ。
「正当な血統でもないくせに王女の名を語る不届き者め！ 成敗してやる、覚悟しろ！」
しっかり耳をふさいでいるというのに、声はますます大きく響いてくるのよ。
頭の中に直接響いてくるみたいだわ。
「...... た、助けて...」
あたしは起き上がって逃げ出そうとしたけど、恐怖で腰が抜けちゃったのかしら。
脚にまったく力が入らないの。
それでも腕に力を入れてなんとか後ずさりすると、幽霊はあたしをあざ笑うように
ゆっくりこっちに近づいてくる！
「ひ、姫さまぁ！！」
異変に気づいたクリフトが、飛び起きてこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
でも、走ってくるクリフトの姿も… 涙でにじんでよく見えなくなっていった...…
★ 幽霊 １体 ＨＰ １０ 攻撃力 ５ 守備力 ３
まず敵に先手を取られる。今回の戦闘は敵の攻撃から始めること。
なお、ティアは腰を抜かしているため、この戦闘には参加できない。
幽霊はふわふわと飛びながら、あたしの左の鎖骨あたりに体当たりしてきたの。
「痛っ！」
ぶつられたところが、やけどしたみたいに熱くなってじんじんと痛む。
「おのれ！ 姫さまから離れろ！」
走って来たクリフトが銅の剣を振ったけど、幽霊はふわっと浮き上がってかわしたわ。
「くそっ！」
クリフトは悔しそうにつぶやきながらも、まだ動けないままのあたしに目を向けると
幽霊が浮き上がっている隙に、持っていた革の盾をあたしの胸の上にそっと乗せた。
革の盾は重たくて持って動くのは無理だけど、動けない今はありがたいわね。
あたしはなんとか動かせる腕で革の盾を抱き締めて、次の攻撃に備えたの。
幽霊のねらいはあたしみたいね。
クリフトが来てすぐ近くで剣を振るっていても、執拗にあたしをねらってくる。
ただ、あたしが盾を抱いていることで、どこを攻撃するか迷いが出ているのかしら。
クリフトの攻撃をかわしながらも少しはダメージを受けたようで、幽霊の動きも
だんだん鈍ってきた気がするわ。
飛びまわる幽霊は、クリフトの脇をすり抜けて今度はあたしの腕にぶつかってきた！
「あっ！」
敵の動きが鈍っていて油断しちゃった。
腕にじりじりと焼かれるような痛みが走り、あたしは思わず力が緩んでしまったの。
革の盾があたしの腕から離れて、そのままコロコロと地面を転がる。
「フハハハハ、今だ！」
いったん離れた幽霊が、体勢を入れ替えて再びあたしに迫ってくる！！
...... あたしは観念して目をつぶった。
シュッと目の前をなにかが横切る音がする。
幽霊に攻撃されるのを覚悟して、目をギュッとつぶって待っていたんだけど
しばらくしてもなにも起こらないの。
おそるおそる目を開けると、すぐ目の前にいたはずの幽霊がいなくなっているわ。
リオスさんが鮮やかな手さばきで、投げてきた縄をしゅるしゅると回収している。
「へへっ、あっしの投げ縄の腕もまだまだ捨てたもんじゃねえぜ！」
リオスさんはあたしに笑いかけてきた。
まぁ！ リオスさんが投げ縄を使って、あたしを助けてくれたのね！
あたしもリオスさんに微笑みかけた。
笑顔であたしを見るリオスさんの隣で、ティメラウスは真剣な顔でなにかを見ている。
「クリフト、いけっ！」
ティメラウスの声が響く。
ハッとして振り向くと、リオスさんの投げ縄を受けていったん退却した幽霊が再び
あたしに向かってくるところだったのよ。
クリフトはあたしの目の前に立ち、真正面から幽霊と向かい合っている。
「姫さまを傷つける奴は、私が絶対に許さない！！」
クリフトが渾身の力で剣を振ると、幽霊の身体は２つに割れて消えていった。
「あと１歩で正当な血統者でない姫に復讐が出来たのに！ うらめしや～」
幽霊の声があたりに響く。
クリフトは幽霊の声をかき消すようにブンブンと空中で剣を振ると振り返って
あたしのそばに駆け寄ってきたわ。
「姫さま、ご無事ですか？！」
クリフトはあたしのそばでしゃがむと、出発前におにいちゃんから渡された袋から
薬草を引っ掴んで取り出した。
薬草をちぎってすりつぶし、腫れている左の鎖骨と腕に押し当ててくる。
「……っ！」
草の汁が沁みて一瞬だけ痛みが走ったけど、次の瞬間には痛みは消えていたわ。
「ちょっと待っていてください」
クリフトはあたしにそう言うと火のそばに戻り、水を手にして走って戻って来た。
「まずいと思いますが、少しだけお召し上がりください。身体のダメージも取れて
動かなかった脚も動くようになると思いますから。どうか我慢してください」
さっきちぎって傷口に押し当てた残りの薬草を、あたしに食べるよう言ってくる。
青臭いし、いかにもまずそうで食べたくなかったけど、しょうがないわよね。
あたしはクリフトが差し出してくる草を、仕方なく口に入れた。
うえっ、苦い... まずい...
クリフトは気の毒そうな顔をしながら、あたしに水を差し出してくる。
あたしは水を飲んで草を流し込んだ。
まずい薬草を我慢して食べたおかげで、身体からだるさは抜けていったようね。
脚にも力が戻ってきたみたいよ。
あたしがその場で立ち上がろうとすると、クリフトが手を貸してくれた。
クリフトの手につかまってあたしが立ち上がったのを見て安心したのかしら。
ティメラウスとリオスさんはお互いの肩を叩きあうと、その場でごろりと横になった。
「申し訳ありません、姫さま。私がうたた寝したばかりに怖い思いをさせました。
こんなお怪我を負わせてしまい.... １人で怖かったでしょう、本当にすみません...」
クリフトはしょんぼりとうなだれた。
「怪我は薬草で治ったし動けるようになったもの、気にすることないわ」
誰にだって失敗はあるわよね。
あたしはお姫さまらしく寛大な心でクリフトを許してあげることにしたの。
「敵もやっつけたことだし、姫さまはもう休まれますか？ 私はこれから朝までずっと
起きてますので、姫さまはどうぞ安心しておやすみください」
クリフトは寝るように言ってきたけど、さっきのオバケの言葉が頭に残っていて
すぐには眠れそうにない…。
「...... 眠れないようなら、火のそばにいらっしゃいますか？ あたたまりますよ」
あたしの気持ちを察したのか、クリフトが火のそばに行こうと誘ってくる。
あたしはこくんとうなずいた。
第２戦めは幽霊戦。
ゲームブックでもティアは幽霊に襲われていましたが、再び狙われました (｡-_-｡)
前サマルトリア王が世継ぎのないまま崩御して、カインパパが即位するにあたって
おそらくはパパの即位に反対する一派との醜い争いがあったんでしょうね (>_<)
（ゲームブックでもぼんやりとほのめかしていますよね。まぁ、ゲームブックでは
語り手が天然王子なので、幽霊の言葉はあまり気にしていませんが (;´∀｀)）
今のサマルトリア王室に恨みを持つ幽霊に襲われて、腰を抜かしちゃったティア (*_*;
うたた寝してたクリフトが飛び起きて応戦するも、幽霊は強くて大苦戦… (; ･`д･´)
「ヤバいとき以外は参戦しない」と言っていたリオスが投げ縄で最大のピンチを
救ってくれて、なんとか勝てました☆
さて、幽霊が怖くて眠れなくなったティア。クリフトと２人語り合いますよ～ (≧∇≦)♡
（やっぱりロマンスも欲しいよね！）
次回もお楽しみに〜 ヾ(*´∀｀*)ﾉ
