ナナに思いきって「おまえにも気持ちのままに向かっていきたい相手がいるのか?」と
尋ねてみたおれは、答えを聞き出す前に酔っぱらったオルムとレオンに邪魔をされた。
こいつらはただ邪魔をしに来ただけじゃなく、おれがザハンの海岸でナナのために
徹夜で貝殻を拾い集めていたことや、おれの秘めた想いまで暴露しやがった。
くそっ! 余計なことしやがって!
おれは、ふらふらした足取りで大笑いしながら逃げるオルムとレオンを追いかけた。
おれの方を振り返り、「がっはっはっは」と大笑いしながら走っていたオルムは
左足代わりの樫の棒が滑り、バランスを崩してその場に倒れそうになった。
「おおっと、気をつけろよ」
不意にガルダーが現れて、倒れそうになったオルムをがっしりとした腕で支えた。
ガルダーはオルムをその場に立たせて、大股でおれのところまで歩いてくると
「なあ、ぼうず。飲み足りねえ奴らは、あとは船に戻って飲むことにしてよ、ここは
もう解散にしねえか? たいまつがそろそろ燃えつきちまうぜ」と言ってきた。
ガルダーが指し示すたいまつを見ると、確かに炎はかなり小さくなっていた。
その影響もあってか、さっきよりかなり冷え込んできた気もする。
ガルダーの意見におれはうなずき、この大馬鹿野郎な酔っぱらい、オルムとレオンを
船まで連れて行くようガルダーに頼むと、王子たちのところへ向かった。
王子のそばへ行き「たいまつが燃えつきるから、そろそろ解散にしようぜ」と話すと
王子やそばに控えていたサイラスもうなずいて立ち上がり、後片づけを始めた。
王子と一緒に飲んでいた男たちやミリアも、一緒になって後片づけをしてくれた。
おれたちの様子を見たナナも、いつの間にか近づいて来て後片づけに参加している。
「一途なカインの気持ちを、受け入れてやってくれ~!」
先ほどのレオンの叫び声が脳内でこだまする。ちっ! おれは小さく舌打ちした。
「さっきのは酔っ払いのたわごとだからよ、気にすんなよな」とナナに言うべきか?
いや、いちいちそんなことを言う方がおかしいのか? ここは知らんぷりすべきか?
くそっ! どうすりゃいい? こんなときはナナにどんな顔をすればいいんだよ!
気恥ずかしくてナナの顔が見れなかった。
ナナも同じなのだろうか。おれからはかなり離れたところで片づけ作業をしている。
片づけ作業が終わると、王子と一緒にいた男たちはみんなで船に向かうと言い出した。
酔いつぶれてその場で座り込んだり寝てしまっている奴らも、自分たちが責任を持って
船まで連れて行くから、おれたちは安心してムーンペタに行ってくれと言ってくれた。
なかなか頼れる奴らじゃねえか。王子は本当に良い『仲間』を手に入れたな!
「それじゃあ、カイン。お言葉に甘えてぼくたちはムーンペタに行こうか」
王子は素直におれに声をかけてきたが、ナナのことでなんとなく気分が晴れないおれは
ここで王子をからかってやることにした。
「なあ、本当におれと一緒に泊まるので良いのかよ。ミリアと泊まったらどうだ?」
たいまつはほぼ燃えつきたというのに、ミリアの顔は炎よりも真っ赤になった。
「はははっ」と男たちから笑い声が起きる。
「な、なりません!」
「バ、バカを言うなっ!」
サイラスとルプガナ船団長が、慌てて王子とミリアの間に割って入った。
「ミリアはおれの船室に泊める! 構わないでくれ!」
ルプガナ船団長は力強く娘の腕をつかむと、強引に船の方へと引っ張って歩き出した。
ミリアは親父に引きずられながら、名残惜しそうに王子の方を振り返っている。
ミリアが去って行くのを黙って見届けると、サイラスはずいっとおれの前に進み出て
怖い顔でおれをにらみつけた。
冗談が通じない堅物隊長 (;´∀`)
「おいおい。そんな怖い顔すんなよ、サイラス。ちょっとした冗談だろうが」
「言っていい冗談と悪い冗談がありますぞ、カイン殿下! 隣国の皇太子さまゆえに
私のような立場の者が口をはさむのは大変おこがましいのですが、カイン殿下には
軽口を叩く傾向がございます。カイン殿下もいずれ一国の王になられるのですから
今後もご自身が発する言葉には、くれぐれもお気をつけくださいませ!」
「あ~、はいはい。わかった、わかった。今後は気をつけるよ、サイラス」
「『はい』も『わかった』も1度だけで結構です! 相手に誠意を伝えたいのであれば
言葉を繰り返してはいけません!」
「はいは… あっ … はい」
おれたちのやりとりを聞いて、男たちは笑い声をあげた。自分も身に覚えのある王子は
サイラスの後ろで苦笑いしている。
ひと笑いした後、男たちは周りにいる酔っぱらいたちに声をかけ船に向かって行った。
男たちを見送ったおれたちも、おれのルーラでムーンペタに向かうことにした。
おれの近くに王子、サイラス、青の騎士団の奴らが集まってきた。王子に呼ばれて
ナナは王子の近くには寄ってきたが、相変わらずおれからは少し離れたままだった。
先ほど、おれが王子とミリアをからかって男どもで笑いが起きたときも、後でおれが
サイラスにガミガミ説教を食らっているときも、ナナの反応は薄かったみたいだった。
オルムやレオンがいきなりあんなことを言ったせいで、恥ずかしがってるだけだよな?
なんだか照れ臭くなって、おれの顔をちゃんと見れないだけだよな? それとも……?
背中に冷たいものが走った。
もしかしたら…
ナナはおれのことを好きじゃなくて、おれの気持ちを迷惑に感じているのでは?
「ん、カイン? どうしたんだい? 暗い顔でぼんやりして。具合でも悪いのか?」
王子が心配そうな表情で、おれの顔をのぞき込んでくる。
「ああ、なんでもねえよ。ちょっと疲れただけさ。それよりみんな、準備はいいか?」
平静を装って、おれは周りの奴らに声をかけた。サイラスや騎士団の奴らがうなずく。
もう、ナナの顔は見れなかった…
「二つの点は一つの点に。星幽界の守護者よ、われをかの場所へと導きたまえ。ルーラ!」
思春期にありがちなヤツですね ( *´艸`)
「○○くんは☆☆ちゃんが好き♡」みたいな噂が立っちゃって、なんだか恥ずかしくて
お互いに相手を避けちゃう… みたいな。
恥ずかしくて避けているのを変に勘違いして「自分は嫌われてるのかも?」なんて
1人で勝手に不安になっちゃうのも、思春期あるあるですよね~ ( *´艸`)
最初にゲームブックを読んだ小学生の頃、ハーゴン城でのカインの幻覚を読んで初めて
「えーっ! カインってナナのこと好きだったんだ~ Σ(・ω・ノ)ノ!」と気づいた私。
幼い小学生にとって、カインの気持ちはわかりづらかったですよね~☆
カインと同じ17歳ぐらいのときに、ナナの立場になりながらフラットな気持ちで
読み直したけど、やっぱりカインの気持ちはわかりづらいな~と感じました (~_~;)
私は「ナナもカインが好き!」という説を強く推しているんですが
【雑談】 ナナの乙女心を検証する - ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!
ラダトームでの「背中ぐらい貸してやる」からカインを意識するようになったとして
カインが自分のことをどう思っているかを想像して読んでみても、難しいんですよね。
私がナナだったとしたら...
「背中ぐらい貸してやる」と言ってくれたし、誕生日には綺麗な貝殻をくれたし
サマルトリアに単身で帰るときは王子に「ナナのこと守ってやれ」と言ってくれたし
ある程度の好意はあると思う!
でも、友達止まりなのかな...?
特別な気持ちがあるのかな...?
仲間としての好意なのか、1人の女性としての好意なのか、自分しか女がいないから
比べる相手もいないし、カインもからかってばかりでよくわからない (´;ω;`)
関係をハッキリさせようとして気まずくなっちゃうのも嫌だし、今も少なからず好意は
持ってくれてるみたいだから、今のままで… ずっとこのままそばにいられたら良いな♡
こんな気持ちになったと思います(久しぶりに乙女要素を出してみた (*ノ>ᴗ<)テヘッ)
そんな相手が「実は、ずっと一途に自分のことを想っていた... かも?」となったら
嬉しいけど、すぐには信じられない(だって言っているのは酔っぱらいだし (;´∀`))
「酔っぱらいのたわごとだ。本心じゃない」カインにそう言われたらどうしよう...
本人からなにも言われていないのに、期待して喜んじゃってもいいのかな?
もし、酔っぱらいが言った冗談を本気にして、あたしが喜んでいるのを見たら
カインはどう思うのかしら? あぁ... あたし、どんな顔でカインを見ればいいの?
今回のシーンでは、ナナの戸惑う乙女心を感じてもらえたら嬉しいです (*´ω`*)
「まだ続くんかい!」というツッコミもチラホラ聞こえてきそうですが (;´∀`)
ムーンブルク再建の夜は、もうしばらく続きますよ~☆
次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ