竜王のおっさんと別れ、竜王の城からサマルトリアへ戻ってきたおれを親父が
いきなり自室に呼び出した理由は「おれに王冠を渡すため」だったようだ。
1年前、サマルトリアがハーゴン軍に包囲された際におれが勇敢に戦い抜いて
サマルトリアを守ったことの褒美として、親父が職人につくらせておいたらしい。
もう1年も経つよな?
なんで今さら褒美を?
褒美で王冠?
親父がなぜ、いきなりおれに王冠なんて渡してきたのかわからずおれは困惑する。
親父から「開けてみろ」と言われ王冠を見たときは、王位を譲られるんじゃねえかと
正直なところ焦ったぜ!
サマルトリアを捨てる気はまったくねえが、おれが王位を継ぐかどうかは別問題だ。
おれは… この先ずっとナナを1人で苦しめたくない...
あいつがたった1人でムーンブルクを背負うことを思うとおれの心は痛むんだ。
もちろんナナにはアルファズルやリーナもいるし、戦火を逃れて無事に生き残った
ムーンブルクの民たちもいれば、ナナを応援するムーンペタの連中もいる。
だが、ナナが女王としてムーンブルク国家のすべてを1人で抱えこむことのないよう
おれがそばにいてやりたい。
おれはナナと同じ王族として生きてきた。
同じ立場で国を想い、同じ立場で国を再建できるのは おれだけだからな!
おれには大っぴらに人には明かしてないが、実はこんな強い気持ちがあるんだ。
だが、ナナの気持ちは?
あいつはおれがそばで補佐することなんて、まったく望んでないかもしれねえ。
「あんたはサマルトリアをしっかり守りなさいよ」なんて一蹴されるかもしれねえ。
ナナから冷たく断られるのが怖くて、おれは「ムーンブルクの復興を担いたい」とは
誰にも言えずにいるんだ。
そんな不安定な気持ちのときに、親父から一方的に王位を譲られたりせずに済んで
おれはひそかに心から安堵した。
「1年前、おまえは勇敢に戦いサマルトリアを守り抜いたし、ハーゴンも討伐した。
王子もローレシア王になったのだから、おまえも国王と同格の王冠をかぶったって
なんの問題もない」
親父の話を聞きながら、おれは親父が渡してきた王冠をまじまじと眺める。
そこで異変に気づいた。
この王冠には、サマルトリアの国章がどこにも彫り込まれていないのだ!
我が国の国章の代わりに『ロトの紋章』が彫り込まれている。
「なぜ、ロトの紋章を?」
おれは親父に真意を尋ねてみたが、親父からは見当違いの答えが返ってくる。
「生みの母親がロトの縁者であるおまえは、ロトの紋章を身につける資格がある」
親父の言葉におれは頭を抱えた。
違う! おれが聞きたいのはそんなことじゃねえ!
なぜ、国章を彫らなかったのかを聞きたいんだよ!
なんで、こんな意味深な王冠をおれに渡すんだ?
親父は何を考えてんだよ?
言葉に出来ない思いを飲み込む。
おれに王冠を渡して満足した親父は、自室に戻るようにとおれに言ってくる。
部屋に戻ったおれは再び王冠を見つめた。
サマルトリアの国章ではなくロトの紋章を彫り込んだのは、おれがサマルトリアを
継がない可能性もあるからだろう。
だが、なぜ親父がそれを知ってる?
ここで王妃の顔が脳裏に浮かんだ。
あのババアはおれの気持ちを知っている。
おれがナナの手助けをするためにムーンブルクに行こうと思ってると、あいつなら
きっと気づいているに違いない。
「サマルトリアはティアにまかせて、あんたはムーンブルク王になっちゃえば?」
王妃に言われたこともあったよな?
そして、あのババアは親父の近くにいる。
「カインはナナ姫のことが好きみたいよ。ナナのサポートをするため、あの子は将来
ムーンブルクに行くかもしれないわ」
親父に話すこともあるだろう。
くそっ、ババアめ!
余計なこと言うなよ!
おれは急いで後宮へ向かった。
後宮に到着すると、なんだかいつもと空気感が違うような気がする。
なんだか落ち着かない雰囲気で、侍女たちが集まってザワザワと話し合っていた。
「カイン殿下、おかえりでしたか!」
いつも入口で王妃との取り次ぎをしてくれる女中がおれを見つけて駆け寄ってくる。
「なにかあったのか? 王妃は?」
おれが尋ねると侍女は困った顔になる。
「え... えっとぉ… お、王妃様はちょっと... えっと… お、お出かけになりました」
侍女はためらいながら言ってくる。
「出かけた? どこ行ったんだ?」
おれが尋ねると、女中はますます困った顔になって気まずそうに黙り込んだ。
「行き先は聞いてねえのか? 侍女が一緒に行ったんだろ? 侍女はここを出るときに
なにも言ってなかったのか?」
おれの言葉に女中はしばらく黙り込んでいたが、意を決したように話し始めた。
「お、王妃様は... 中年の兵士と2人で お出かけになりました!」
思いがけない言葉におれは驚く。
王妃が中年の兵士と?
駆け落ちか?
へっ、やるじゃねえか!
普段は後宮にいるババアのくせに、いつの間にそんな相手と知り合ったんだ?
「ちょ、ちょっと! そんな言い方をしたら誤解を招くわよ!」
とがめるような声と共に、見覚えのある背の高い女がこちらに走ってきた。
この女は親父と王妃がテパの村へ旅行に行ったとき、王宮の仕事を手伝いに来ていた
王妃の側近の侍女だ。
「お久しぶりでございます、カイン殿下。ご無事に戻られて良かったですわ」
侍女はおれを見て穏やかに微笑む。
「王妃はどこへ行ったんだ? 中年の兵士ってなんのことだ? 説明してくれよ」
おれの言葉に女中は話し始めた。
ちっ!
モルディウスの大馬鹿野郎め! 後宮にまでやって来て「カイン殿下が竜王に殺されて
殿下を殺した竜王がサマルトリアに攻め込んでくる」と言って騒いだらしい。
あの馬鹿野郎は「王妃様を守るため」と言って後宮の出入口を封鎖したそうだ。
王妃は「カインが死ぬわけないでしょ!」と抗議したが、モルディウスは聞き入れず
封鎖した後宮の出入口に兵士を配備した。
「その警備兵の中に、ティア姫さまと親しくしている若い兵士がいたんですよ」
ティア姫さまと親しい兵士と言えばこの人ですね ( *´艸`)
王妃はクリフトを呼び寄せた。
「あなた、ここはいいからすぐティアのところに行ってあげなさい。あの子もきっと
モルディウスに『姫の身を守るため』とか言われて閉じ込められているんでしょ?」
王妃はクリフトに今すぐティアの部屋へ行くように促したが、クリフトは「いえ。
中隊長のライアン様に命じられて、ここに派遣されたので、私が勝手に持ち場を
離れるわけには...」とためらった。
「ふんっ! ライアンだか、ライオンだか知らないけど、その人がそんなに偉いわけ?
あんた、ライアン様の命令がすべてで、あたしの言葉は無視するっていうの?」
王妃はムスッとして言った。
「い... いえ、決してそんなことは...」
王妃の脅しにクリフトはまごつく。
「母親ってね、自分のことより子どものことを1番大事に想うものよ。非常事態で
竜王が攻めてくるっていうときに、愛する娘のことを心配するのは当然でしょ?
あなたにはあたしを守るよりも、まずは愛する娘を守って欲しいのよ。あなたも
あたしの気持ちがわかるなら、今すぐティアのところへ行ってちょうだい!」
王妃は泣きマネをして訴える。
「はっ、かしこまりました! 私は今すぐ姫さまの元へ
まいります! 全力で姫さまをお守りします!」
クリフトは大きな声で返事すると、一目散にティアの部屋へと走って行く。
「うふふ、あんなに全速力で走るなんて。『命令には背けない』なんて言いながらも
あの子、やっぱり本当はティアのところへ行きたかったのね」
王妃は小さくなっていくクリフトの後姿を眺めながら楽しそうに笑った。
「こんなところに閉じ込められて退屈だけど、クリフトとティアを会わせてあげたから
まぁ、しょうがないわね。日向ぼっこでもしつつ状況が変わるのを待ちましょう」
王妃はウーンと大きく伸びをする。
そして、王妃が出入口付近の庭に咲く花の手入れをしながら時間をつぶしていると
クリフトがしょんぼりした様子でとぼとぼと後宮の出入口に戻ってきた。
「あら、どうしたの? ティアは?」
ティアと喧嘩でもして追い返されたのかと思いつつ、王妃はクリフトに尋ねる。
「姫さまはティメラウス卿を護衛につけて、先ほどお部屋から出られたそうです。
まだお部屋を出てからあまり時間が経ってないとのことだったので、姫さまは
お部屋の近くにいらっしゃるんじゃないかと、私もあちこち探してみたんですが…
どこにもお姿が見えなかったので、私はこちらに戻ってきました...」
ティアに会えなかったクリフトは、意気消沈しながら言った。
「まぁ、あの子ったら。ただ部屋の中でブーブー文句を言うだけかと思ってたのに
なかなかやるじゃないの! ねえ、クリフト! ライアンだっけ? ライオンだっけ?
あなたの上司って強いの? ティメラウスには敵わないとしても、モルディウスとは
対等に戦えるぐらい強いのかしら?」
ガッカリしているクリフトとは対照的に、王妃は目を輝かせてクリフトに尋ねた。
「ライアン様はとても勇敢で、剣術も素晴らしいですよ。人柄も真面目で温厚で
次の騎士団長候補と言われています。ティメラウス様にはさすがに劣りますが
サマルトリアでも1、2を争うぐらいの剣の腕前はあると思いますよ。… なんて
まだ入ったばかりの若造の私が申し上げるのは非常におこがましいですが…」
クリフトはティアがいないのに上機嫌になった王妃を怪訝そうに見ながら答える。
「ねぇ、ここにライアンを連れてきてよ」
王妃はウキウキしながら言った。
「え? ライアン様をここに? いったいどうして? ま、まさか王妃様、ライアン様と
モルディウス卿を戦わせるおつもりですか? い、いくら王妃様のご命令であっても
そのようなことは出来かねます…」
クリフトはオロオロする。
「ねぇあんた、さっきから1人でなにをぶつぶつ言ってるのよ。あたしがライアンと
モルディウスを戦わせるわけないでしょ? 2人を戦わせてどっちが勝っても負けても
あたしにとってはおもしろくもなんともないわ! ねぇ、悪いようにはしないから
ライアンをここに連れてきて!」
王妃はピシャリと言い切った。
「はっ、今すぐ連れてまいります」
王妃の気迫に押されクリフトはペコリと一礼すると、後宮から1番近い門を抜けて
城下町の方へと走って行った。
少し待っていると、クリフトと一緒に重装備の兵士が息を切らせて走ってくる。
「お、王妃様! ハァ… ハァ… 今ほどライアン様にお聞きしたんですが… ハァ…
カ、カイン殿下が無事に戻って来られたそうです!」
ゼィゼィと苦しそうに呼吸しながら、クリフトが興奮した様子で言ってくる。
「ヒィ… ヒィ。おまえはまだ軽装だから良いが、私はこんな鎧を着てるんだぞ。
おまえに『早く、早く』と急かされて、こんなに長く走らされて疲れたわい」
クリフトの後ろから走って来た中年の兵士はもっと苦しそうで、膝に手をついて
うつむきながら大きく息を吐いた。
「あなたがライアンね!」
王妃は嬉しそうにライアンに近づく。
苦しそうにしていたライアンは顔を上げて王妃を見ると、直立不動になった。
「はいっ、王妃様。私がライアンです」
懸命に息を整えてライアンが答えた。
「うふふ。ねぇ、あなたって強いんでしょ? もし、あたしの護衛をしてちょうだいと
命じたら、引き受けてくださる?」
王妃はニコニコしてライアンに尋ねる。
「はっ! 王妃様のご命令とあれば、このライアン、喜んでお引き受けいたします!
そして護衛を引き受けたからには、王妃様のことは命をかけてお守りいたします!」
ライアンはキビキビ答えて一礼した。
「まぁ! 噂どおり、あなたって真面目な人なのね。気に入ったわ! じゃあ、さっそく
あたしについて来てちょうだい」
王妃は満面の笑みでライアンを従え、そのまま後宮から外へと出ようとする。
「お、王妃様。お待ちください! 先ほども申し上げましたが、カイン殿下が無事
お城に戻られたのですよ? 殿下の様子を見に行かなくてよろしいのですか?」
クリフトが慌てて止めに入る。
「カイン? あの子が竜王に殺されるなんてありえないって、あたしは最初からずっと
言ってたわよ。カインが竜王のひまごと一緒にどこかに行ったからって、どこかの
誰かさんがなんでか知らないけど勝手に大騒ぎしてるだけで、あたしはずーーっと
カインはなんの問題もなく、そのうちふらっと帰ってくるってわかってたわ」
王妃はクリフトの言葉を鼻で笑い、ライアンを引き連れどんどん進んでいく。
「し、しかし… モルディウス卿に『後宮で王妃様をお守りしろ』と命じられてるのに
出て行かれては困るのですが…」
クリフトは必死に食い下がる。
「ふんっ、モルディウスの命令なんてどうでもいいわよ。ティアはティメラウスを
護衛につけて、晴れて自由の身になったわけでしょう? あたしも同じように
ライアンを護衛につけたんだから、自由にしてもいいじゃない。それとも、何?
クリフト。あんた、ティメラウスなら信頼できるけど、ライアンが護衛だったら
不安だとでも言いたいわけ?」
王妃の言葉を聞いたライアンが、クリフトを鋭い視線でギロリとにらむ。
「い、いえ! 滅相もございません! ライアン様なら立派な護衛になられるかと…」
クリフトはブンブンと首を振った。
「じゃあ、なんの問題もないわよね! うふふ。さぁ、行きましょう! ライアン」
王妃は嬉しそうにライアンにウインクすると、弾むような足取りで歩いて行く。
「はっ、王妃様!」
ライアンは胸に手を当てて一礼すると、王妃のすぐ後に続いて歩いて行った。
「… ということで、王妃様は中年の兵士と一緒にお出かけになってしまったんです。
王妃様が勝手に後宮から出てしまったことで、ここに残った他の兵士や私たちが
罰を受けるのではないかと案じておりましたが、カイン殿下が無事に戻ったから
騒動後に起きたことはすべて不問にすると、王様がおっしゃってくれたようです」
「王妃様がどこかへ行ってしまったのに、この状況って喜んでいいのかしら?」と
王妃の侍女はおれを見て苦笑いする。
おれも同じ表情を返した。
苦笑いしか出来ねえよな!
ちっ、あのババアめ! 余計な悪知恵ばかり働いて、ろくなことしねえんだからな!
ホント困った奴だぜ...
おれは小さく舌打ちした。
「カイン殿下が竜王にさらわれた! 殺されるかも?」
例の騒動のとき、後宮ではいったい何が起きていたのかを書いてみました (・∀・)ノ
ティアがティメラウスを護衛につけて自由に出歩くのなら、あたしだって有能な
護衛をつけたら自由にしていいわよね♪
そんな王妃の野望を叶えるのに、ピッタリの護衛が見つかりましたよ (^_-)-☆
ゲームでのライアンはどちらかというと真面目キャラでしたが、こちらの世界線の
ライアンは アホ設定 なので ( *´艸`)
「カイン殿下が無事に帰国したのだから、殿下の様子を見に行けば?」と言う
(まともな)クリフトとは対照的に、ライアンは「王妃様のご命令とあらば、この
ライアン、どこでもお供します」となんの疑問も持たずに王妃と一緒にどこかへ
行っちゃいましたよ (;´∀`)
まぁ、竜王のおっさんが襲いにくることもないので大丈夫でしょうけど ( *´艸`)
(前にも書いたけど)
モルディウスとライアンが騎士団長と中隊長を務める、サマルトリアの行く末は
ホントに大丈夫なのでしょうか (;´∀`)
唯一の救いとして、ティメラウスとクリフトはまだまともなので、ティメラウスには
是非とも長生きしてもらって、サマルトリアの未来を守って欲しいですね (・∀・)ノ
さて。自由になれると言って、ライアンとウキウキ出かけてしまった王妃 (;´∀`)
どこへ行ったんでしょう?
次回もお楽しみに〜ヾ(*´∀`*)ノ