「ティアが旅から帰って来たら、今度はおれたちがムーンペタに会いに行くから...」
ムーンペタへと帰るナナがサマルトリア城を去る直前におれが放った言葉だ。
おれの言葉を聞いたナナはかすかに微笑み「わかったわ、待ってる」とつぶやいた。
ようやくティアが帰ってきた今、約束を果たすときがやってきたぜ!
おれはティアが城に戻った翌朝、部屋を訪ね「一緒にムーンペタへ行こう」と誘った。
ティアは「いいわね、あたしもナナおねえちゃんやリーナちゃんに会いたいわ」と
すぐに応じるだろうと思っていたが、おれの予想に反して表情を曇らせた。
旅の最中にクリフトとの仲が進展したことを察した王妃のババアが「チョコレート」を
エサにティアを誘ってきたらしい。
クリフトと何があったか正直に話したらチョコレートをやると言われたんだとか…
「お母様にクリフトとのことを話して、話したご褒美にチョコレートをもらうの」
まんまと王妃のエサに釣られ、ニヤニヤしながら話すティアにおれはイラ立つ。
クリフトとのくだらねえ話を聞いてもらう相手は王妃じゃなくてもいいだろうが!
それにチョコレートぐらい、おれが嫌というほど食わせてやるぜ!
おれはティアを強引に引っ張ってムーンペタへ行こうとしたが、ティアは動かない。
どういういきさつがあったのかは知らねえが、ラダトーム王が王妃のためにつくらせた
世界に一つのチョコレートだから、どうしても食べたいんだとティアは言い張る。
あのくそジジイめ!
余計なことすんなよ!
たかがチョコレートごときで今日ナナに会えないなんて、おれも諦めきれずに「先に
ムーンペタへ行こう」としつこく誘い続けると、ティアは「ねぇ、おにいちゃん
どうしてそんなにムーンペタに行きたいの?」と不思議そうに聞いてくる。
おれはぐっと言葉に詰まる。
ナナに会いたいんだ...
... なんて言えるかっ!!
ナナの名前を出すのが気恥ずかしくて、おれはリーナの名前を借りることにした。
「リーナには長らく会ってないから」
「アルファズルから賢者の修行を受けているリーナの成長ぶりが気になるから」
おれはそれらしい理由を述べた。
我ながら完璧な答えだと思ったが、おれの発言を聞いたティアはいきなり怒り出した。
「おにいちゃんは、あたしよりリーナちゃんの方が可愛いのね!」
リーナみてえなガキ相手にヤキモチを妬いたのか、ティアは激しくわめき出す。
「そんなこと言ってねえだろ? くだらないことでヤキモチ妬いて怒るなよ」
おれはティアをなだめようとしたが、1度怒りの火がついた妹はかなり厄介だ。
「そんなに会いたいならおにいちゃん1人でムーンペタに行けばいいじゃない! そして
リーナちゃんにデレデレしてくればいいわ! あたしはお母様と楽しくおしゃべりして
美味しいチョコレート食べるんだから!」
ティアはそれだけ言うと、おれに背を向けて後宮へと一気に走り出した!
腹を立てたティアがまだまだ怒って突っかかってくるだろうと思っていたおれは
すっかり油断しちまってた。
慌ててティアの後を追ったが、逃げ足だけは速いあいつになかなか追いつけない。
「あと1歩!」のところでティアは後宮の入口をすり抜けて行ってしまった。
「ここからは男子禁制です!」と必死におれを止めてきた女中に「悪かったな」と謝り
おれは来た道を引き返すことにする。
さっきの話でティアは「ムーンペタに行くのは明日にしましょう」と言ってた。
しょうがねえ。
明日まで待つしかねえだろう。
まさかリーナに本気でヤキモチ妬いて「もう行かない!」とは言わねえだろうな?
おれの心に不安がよぎる。
今はただ、王妃がなんとかティアをなだめてとりなすのを期待して待つしかねえな...
おれはトボトボと王宮内を歩く。
「ねえ、今日あたりあの赤い花が咲いてるんじゃないかしら? 早く行きましょう!」
以前ナナがウキウキしながらおれの腕を引っ張って走った廊下を今は1人で歩く。
あぁ、会いてえな...
ティアが逃げ出さなければ、おれたちはもうムーンペタに降り立っていたはずだ。
「おにいちゃん、ティアちゃん!」
リーナが走っておれに飛びついて来て、リーナの後ろには笑顔のナナがいたはずだ。
それなのに...
くそっ!
おれは寂しさをこらえながら王宮内を歩き回り、行くあてもなく自室に戻った。
おれが暇を持て余したままぼんやりしていると、陽が傾き始めた夕方近くになって
部屋の扉をドンドンと叩く音がした。
扉を開けると、王妃が立っている。
「ふふっ。愚かな息子のために、優しい優しいお母様が助けに来てあげたわよ」
王妃はおれの顔を見てニヤリと笑った。
「へっ、ティアはあんたのところへ行ってすぐにおれの文句を言い出したんだろ?
ずいぶん遅かったじゃねえか?」
おれは内心ホッとしながら毒づいた。
「あら、あんたのことなんて後回しするに決まってるじゃない。あたしはティアと
クリフトが旅の間でどうなったか聞きたかっただけだもの。本当なら2人の話だけ
聞いて終わりにも出来たけど、心優しいお母様は兄妹ゲンカを放っておけなくて
こうして来てあげたんじゃない」
王妃はふんっと胸を張ってくる。
「けっ! それで『心優しいお母様』の働きでティアの機嫌は直ったのか?」
おれは精いっぱい嫌みっぽく言ってやったが、王妃はまったく意に介さない。
「当然でしょ? ティアにはあたしから上手く言っておいたわ。こう言ったの。もし、
あんたが緑の騎士団の練兵場に行こうとして、途中でカインにバッタリ会ったら
なんて言う? って。おにいちゃん相手に正直に『クリフトに会いに行くの』とは
なんだか恥ずかしくて言えないでしょ? カインも同じよ。リーナのことばかり
話したのは、本音を知られるのは恥ずかしいから。あの子が本当に会いたいのは
リーナじゃなく別にいるわってね!」
王妃はおれを見て軽くウインクしてきた。
「ちっ!」
王妃のしたり顔におれは舌打ちする。
「ティアはしばらくきょとんとしてたけど、ムーンペタでリーナ以外に会う人なんて
1人しかいないでしょって言ったら『あぁ、そうなのね』と気づいたわ。それで
『おにいちゃんもナナおねえちゃんに会いたいなら、素直にそう言えばいいのに』と
ニヤニヤ笑ってたわよ。どう? 心優しいお母様の働きは見事でしょ?」
王妃はおれの顔をのぞき込んでくる。
「あー、ハイハイ。心優しいお母様は素晴らしいですよ。それで、ティアはどこだ?
明日にはムーンペタに行けるのか?」
おれはババアの顔を押しのけながら尋ねた。
「それはこれからのあんたの出方次第ね! さぁ、一緒にいきましょ。あんたにも特別な
チョコレートを食べさせてあげるわ」
王妃はおれの腕をつかんで引っ張ってきた。
「あぁ? チョコレート? んなもん、いらねーよ」とおれは反論したが、王妃は構わず
おれを引っ張って歩いて行く。
王妃に連れられて後宮の入口に行くと、ティアが椅子に座っておれたちを待っていた。
「あんたもお座り。このチョコレートはあんたにも関係あるものだからさ」
王妃はおれを強引にティアの隣に座らせると、おれたちに茶を淹れ始めた。
「おれにも関係あるだと?」
おれは首をかしげた。
チョコレートなんてまったく興味はねえが、なぜラダトーム王がサマルトリア王妃に
特別なチョコレートを贈ったかについては確かに気になるところだ。
それに、さっきの王妃の口ぶりだとムーンペタ行きの話は焦らない方が良さそうだ。
おれは黙って王妃の話を聞くことにした。
ラダトーム王・ラルス19世は『ハーゴン軍に攻め込まれてムーンブルク落城』と
知らせを受けた際、ロトの聖地にも関わらずハーゴンを恐れて身を隠した。
おれたちがラダトーム城を訪れた聖ロト祭の最中に姿を現してこれまでの非礼を詫び
ハーゴン軍に対し宣戦布告をしたが、実際にはロトの子孫であるおれたち3人が
勇敢に戦い続ける中、ラダトーム王としては『ルプガナ・アレフガルド連合軍』を
結成するだけに留まったことを国王はずっと心苦しく思っていたのだという。
その後、サマルトリア城がハーゴン軍に包囲された際はルプガナとの連合軍で援護し
ハーゴン軍の撤退に成功したため、親父は救援に来てくれたデルコンダル軍と
ルプガナ・アレフガルド連合軍に対し丁重に礼を述べて御礼の品を届けさせた。
このこともラダトーム王を恐縮させた。
「予は何もしてないのに…」「本来、礼を言うべきなのは予の方だ」と思いつつも
サマルトリア王からの御礼の品を断るなんてとても出来ないし、大した理由も無しに
サマルトリア王へ贈り物を渡すのも変だ。
そこでラダトーム王は「腕の良い職人がラダトームにいるから、甘いものが好きな
サマルトリア王妃にも是非とも味わって欲しくて」という名目でサマルトリアへ
贈り物をすることにした。
中身も気を張らない菓子にすることで、王妃も気兼ねなく受け取れるものを狙った。
サマルトリア王妃にチョコレートを贈ることで「予は何もしていないのに...」という
悶々とした気持ちを払拭し、ラダトーム王も気が晴れたそうだ。
「だからね、あたしがチョコレートをもらったのはあんたたちのおかげなの」
王妃はおれを見て微笑んだ。
「本当なら、これはあんたと王子とナナに渡すものなんだけど、あんたも王子もきっと
チョコレートなんて要らないでしょ?だから、この残りのチョコレートを持って
明日2人でナナに渡して来なさい。ね、それでいいわよね、ティア?」
王妃がティアに尋ねると、ティアはチラッと横目でおれを見た。
「あたしがさっきお母様に言った条件をおにいちゃんが叶えてくれるならいいわよ」
ティアはツンツンしながらつぶやく。
おれが「条件ってなんだ?」と王妃に視線を向けると王妃は楽しそうに笑った。
「条件は2つよ。1つめは簡単ね。今から一緒に緑の騎士団の練兵場へ行くこと」
王妃の言葉にティアはカアッと顔を赤らめ、恥ずかしそうにおれから顔をそむける。
おい… ホントかよ.....
ただクリフトを従えていい気分になってるだけかと思いきや、この様子だとどうやら
ティアもクリフトを気に入ったらしい…
マジか… こいつ…
おれはティアの横顔を見つめた。
どうやらティアもクリフトに惚れちゃったみたいですね (*´ω`*)♡
「ティアが1人で練兵場に行くのは恥ずかしいんだって。それにモルディウスがいたら
『姫がこんなところになにしに来た』とか言われちゃうでしょ? だから、あんたが
ティアと一緒に行ってあげて、モルディウスの話し相手をしてやって欲しいのよ」
王妃は1人だけ妙に楽しそうな様子で、赤面するティアをチラチラ見ながら話す。
「あ、あたしは… クリフトが真面目に稽古してるか監視したいだけよ! ほ、ほらっ
勇者の泉だって1人じゃ危ないからあたしがついて行ってあげたぐらいだもの!」
おれの視線を感じたのか、ティアは真っ赤な顔で必死に言い訳してくる。
「ふふっ。あんたたちって、こういうところは本当によく似た兄妹よね!」
王妃は1人で余裕の笑みを見せた。
モルディウスの話し相手なんて勘弁して欲しいが、ここで断ればティアはまた拗ねて
ムーンペタ行きが難しくなるだろう。
「わかった。一緒に行って、あのめんどくせえおっさんの話し相手になってやるよ。
それで条件の2つめはなんだ?」
2つの条件をクリアできればムーンペタに行けるんだからな。さっさと教えろよ。
「2つめは『ティア姫さまのための』特別なチョコレートをつくってもらうことよ!
これも簡単でしょ? だって、おにいちゃんが言ったんだもの。ラダトーム王とは
仲良しだから、おれがティアのためのチョコレートをつくるよう頼んでやるって」
ティアは目を輝かせておれを見てきた。
「あぁ? ラダトーム王とは別に仲良くなんかねえよ。ただ、面識があるってだけだ。
それにおまえ、今の王妃の話を聞いてただろ? 王妃のためにつくらせたってのは
ラダトーム王のただの言い訳にすぎねえ。それなのに、今度は王女のためにつくれと
言って来いだと? 冗談じゃねえぞ」
あのじいさんとは何度か話したことはあるが、あくまでも政治的な話しかしてねえ。
妹のためにチョコレートをつくってくれと国王に頼みに行くだなんて.... 恥だぜ!
「なによ! おにいちゃんの嘘つき! 今朝はラダトーム王にいくらでも頼んでやるって
あたしに言ってたじゃない!」
.... これはマズい。いったん機嫌が直ったように見えていたティアがまた怒り出した。
「待て! 確認させろ。おれが今からおまえと練兵場へ行って、あとはラダトーム王に
おまえのための特別なチョコレートをつくってもらうよう頼めば、おまえは明日
ムーンペタへ行くんだな?」
おれは慌ててティアに尋ねた。
「もちろん、2つの条件を叶えてくれるなら一緒に行くって言ったでしょ? あたしは
サマルトリアの素敵なお姫さまだもの。約束は守るし、嘘なんかつかないわよ」
ティアはフンッと鼻を鳴らした。
「よし、わかった。それで手を打とう。おれは今からおまえと練兵場へ行き、明日
おまえとムーンペタへ行った後にラダトーム王に会って、おまえのための特別な
チョコレートをつくるよう頼んでやる! どうだ? これでいいんだな?」
ムーンペタに行くためならしょうがねえ。おれはやけくそ気味に返事した。
「いいわよ。じゃあ、さっそく練兵場へ行きましょう! 急がないと陽が暮れちゃうわ」
おれの返事を聞いたティアは勢い良く立ち上がると、おれの腕を引っ張ってきた。
「ちょっと待てよ。おれはまだ立ってねえんだぞ。そんなに引っ張られたら転ぶだろ」
おれはティアに抗議したが、ティアは「早く、早く!」とおれを引っ張る。
おれは転がるように立ち上がると、ティアにぐいぐい引っ張られるまま歩き出した。
「ふふふ。ねぇ! あんたたち2人とも、あたしに感謝しなさいよ~」
ティアに引きずられて連れていかれるおれに王妃が背後から楽しげに声をかけた。
かなり絞り出して書いた話 (;´∀`)
兄妹がくだらないことでモメてると知った王妃が仲裁に入ってくれましたヾ(*´∀`*)ノ
(興味津々で首を突っ込み面白がりながらも)結局は息子と娘の恋を応援してくれる
王妃はいいママですよね (*´ω`*)
ティアが一緒にムーンペタへ行くためにカインに出した条件は2つ☆
・ 一緒にサマルトリア緑の騎士団の練兵場へ行って、モルディウスからゴチャゴチャ
言われないように、モルディウスの話し相手になってあたしのこと守ってよね!
・ ラダトーム王に頼んで『ティア姫さまの』チョコレートをつくってもらってよね!
クリフトに会いたいけど、1人で会いに行くのは恥ずかしいティア (/ω\*)
別の世界線にいる姫さまとクリフトは、クリフトの押しが弱すぎることもあって
姫さまの反応はイマイチですが、こちらの世界線のクリフトは要所要所でポイントを
しっかり稼いだこともあり、姫さまのハートをガッチリつかんだようですね (≧∇≦)♡
モルディウスの話し相手になるのも、ラダトーム王に「チョコレートつくって」と
頼みに行くのも、正直どっちも勘弁して欲しいカインだけど ( *´艸`)
ムーンペタへ行く(= ナナに会う!)ためなら受けるしかない ( *´艸`)
ということで、ティアの条件をのんで「ムーンペタ行き」を確保しました (^_-)-☆
まずは練兵場ですね! モルディウスからティアを守ってあげましょうヾ(*´∀`*)ノ
(このままだとムーンペタへ行く話を書くのはいつになることやら... (;'∀'))
次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ