ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 187】 例の魚

おれたちは、ローレシアからサマルトリアにやって来るトルネコって野郎の正体が

仮に邪悪な破壊神だったとしても対処できるように、熱心に剣の稽古を続けながら

トルネコが来るのを待っていた。

 

 

ローレシア城に凱旋して国王に即位してからまったく腕を磨く機会のなかった王子も

稽古を続けるうちにめきめきと本来の実力を取り戻し「勝てる!」とおれは思った。

 

勝利を確信した矢先にトルネコと戦うにしても、満足できるような武器がねえし

そもそも謁見の間に重装備で入るのはおかしい」と気づいたときはおれも焦ったぜ。

 

ろくな武器もなく防具はまったくない状況で「どうしよう?」と焦っているうちに

城の入口にいる門番からトルネコの来訪を告げる大きな声が聞こえてきた。

 

 

武器を調達する暇もなくトルネコと対面する羽目になり、謁見の間に向かう途中で

おれは緊張で思わず足がすくんじまった。

 

思わず立ち止まったおれを見て、心配した王子とナナが無言で励ましてくる。

 

2人の姿に「おれたちなら大丈夫!」と自信を取り戻し、おれは謁見の間へと入った。

 

 

謁見の間の中央には、つぶらな丸い2つの瞳をせわしなく動かしながらおれたちを

好奇心いっぱいの目できょろきょろ眺めている太ったおっさんが立っていた。

 

こわばっていた全身の力が一気に抜ける。

 

 

けっ、サイラスの野郎め!

よくも変な手紙を寄こしたな!

 

このおっさんのどこがあやしいんだ?

ただの太ったおっさんじゃねえか!

 


こんな奴が破壊神のわけがねえ!

こいつはただの商人で間違いねえよ!

 


心の中でサイラスに毒づきながらおれたち3人が正面に立つと、トルネコはぺこりと

おじぎして簡単に自己紹介してきた。

 

トルネコデルコンダルに小さな店を持ち魚を売っている商人で、デルコンダルには

ネネという名前の美人の妻と、ポポロという男のガキが1人いるらしい。

 

 

美人の妻がいるなんて信じ難いぜ!

美人って言ったってこいつの妻だからな。

ふんっ! 実物は大したことねえだろ

 

 

おれはトルネコの言葉を軽く受け流していたが、トルネコ「美人で頭も良くて

気立てのいい妻に安心して店をまかせてここへやって来た」と自慢げに言ってくる。

 

 

くそっ、胸糞悪い話だな!

 

おれにとってはくだらねえノロケ話だが、ナナにとっては好印象だったようだ。

 

 

デルコンダルで素敵なご家族と幸せに暮らしているのね。あなたも奥さんをとても

 大切に想っているのね。きっと奥さんも幸せでしょうね。愛妻家って素敵よ」

 

ナナは満足そうに微笑みながら言った。

 

 


「ねえ。せっかくだから、こんな立ち話じゃなくてどこかでゆっくり話そうよ」

 

王子の提案を受けて、おれはトルネコを交えた食事の席を設けることにした。

 


トルネコの正体がわかるまで何となく不安で落ち着かず、何を食っても味がしない...

そんな日々が続いていたせいか、トルネコに会ってホッとした今は妙に空腹を感じる。

 

腹が減ってるのは王子とナナも同じだったようで、トルネコが見せてきた数々の魚を

よだれを流しそうな勢いで見つめていた。

 

 

「自慢の魚をぜひ召し上がれ!」

 

トルネコがそう言ってきたから、おれは旨そうな魚を何匹か見つくろって厨房で

調理してもらうようトルネコに命じた。

 


でっぷり太った丸々とした図体と、いかにも善良そうなつぶらで丸い瞳。

人懐っこそうな顔立ちとしゃべり口調がどことなくサンチョに似ている気がする。

 

おれの意見にナナも賛同し「食事にはサンチョさんも呼んで、本当に2人が似ているか

あたしたちで確かめましょうよ」といたずらっぽく笑いながら言ってきた。

 

 

おれはナナの誘いに乗って、食事会にはサンチョも呼ぶことにした。

サンチョの顔を頭に思い描いていると、以前あいつが言ったある言葉を思い出した。

 

 

「そうだ。ちょうどいいタイミングだからこいつに聞いてみるか」

 

おれは「どの魚がいいかな?」と物色しているトルネコのそばに近づいていった。

 

 

「なぁ、ちょっと聞いていいか?」

 

おれが話しかけると「はいはい、なんでしょう」トルネコはにこやかに応じた。

 

 

おれは話を続けようとしたが、言おうとしたのは口に出すのが少し恥ずかしい言葉だ。

特にナナには聞かれたくねえ。

 

おれは振り向いてナナを見た。

 

 

 

「ティアちゃんはどうしているかしら?」

 

ナナは微笑んで王子に話しかけている。

 

 

「勇者の泉もグランログザー師匠の家も行くのは2回目だからね。今回こそは余裕で

 元気に進んでるんじゃないかなぁ」

 

王子がのんきに答える。

 

 

「ふふ。あなたのその口ぶりだと、最初のときはずいぶんと大変だったみたいね」

 

ナナはいたずらっぽく笑う。

 

 

「うん、まあね。最初は『一緒に行く』って強引についてきたのに、途中まで進んで

『もう帰りたい』と泣き出してね」

 

当時を思い出して王子は苦笑した。

 

 

「今さら戻れないし置いて行くわけにもいかないし、強引に引っ張っていったよ。

 勇者の泉に着いたところでまた『入りたくない』とか言ってごねるかと思ったら

 すんなり洞窟の中についてきてね。たいして怖がる素振りもなく『こんなところで

 転んじゃったらお洗濯しても汚れはとれないわね』なんてケロリと言っててさ。

 ぼくは振り回されっぱなしだったよ」

 

あきれたように苦笑しながら話す王子の言葉にナナは楽し気にクスクス笑う。

 

 

よしっ。この様子なら王子もナナもしばらく2人でティアの話を続けそうだな。

 

おれはトルネコに向き直った。

 

 

「あぁ、待たせて悪かったな。あんたが持ってきた魚の中におれが探してる魚があるか

 教えて欲しいんだ。えっと… そ、その魚の名前というのは… えっと… その… キ、

  キ… キスっていうらしいんだが」

 

顔が一気に紅潮してくる。

 

くそっ、情けねえ!

 

 

「キスですか? ええ、ええ。ここにありますよ。どうです? ほら見てくださいよ!

 これがキスという魚です。淡白な白身魚身はふわふわと柔らかくほんのり甘くて

 とても美味しい魚ですよ。みなさんが食べたいのなら今日はこのキスをメインに

 食事のメニューを決めましょう!」

 

トルネコは愛想良く答えた。

 

 

「へへっ。こんなこと聞くのはアレなんですけど、どうしても気になっちゃうんで

 聞いちゃいますね。カイン殿下はもう『キスの味』ご存じですか?」

 

トルネコが凍ったキスという魚を手に持ちながらニヤニヤしておれに尋ねてくる。

 

 

「あぁ? なに言ってんだ? 食ったことねえんだから知らねえよ。知らねえからこそ、

 おまえにこうして聞いたんだろうが」

 

おれは呆れた声で言った。

 

 

「いえいえ。わたしが言ってるのは魚のことじゃありませんよ。私が聞きたいのは

 こっち… のことですよ」

 

トルネコはニヤニヤしたまま両手の人差し指をちょんちょんとくっつける仕草をした。

 

 

「あ… あぁ、そっちか。ま、まあな…」

 

トルネコの笑い顔が余裕たっぷりに見えて、おれはつい見栄を張ってうなずいた。

 

 

くそっ! サンチョも言ってたけど『キスの味』って一体なんなんだよ?!

おれも柔らけえなとは思ったけど、べべ別に… 特に味なんてしなかったぞ?!

 

あのときはとにかく驚いて一瞬で離れたから味を感じられなかったってことか?

もっと長かったら味がしたのかよ?!

 

おれの心の中は混乱していたが、トルネコは気づいた様子もなく満足げにうなずいた。

 

 

「むほほ、そうですか。いやぁ、若いってイイですなぁ。私ももう少し若かったら…

 おおっと、いかんいかん。こんなこと言ってると知られたらネネに怒られちゃうな」

 

トルネコは自分の頭をこつんと叩いた。

 

 

「まぁ、食事の件はおまえにまかせたぜ。あと、今日の食事の席にはサンチョという

 おっさんも招く予定なんだ。食いしん坊なおっさんだからさ、みんなの食べる分が

 不足しないよう多めに準備してくれよ。必要なら謝礼はたっぷりしてやるからよ。

 おれは今からサンチョを呼びに行くから、宴の用意を進めておいてくれ」

 

おれは適当に話を打ち切った。

 

これ以上、こいつからキスの話を追及されるのは勘弁して欲しいところだぜ!

 

 

おれはティアの話で盛り上がっている王子とナナに「今からサンチョを呼んでくるから

おまえたちはここで待っててくれよ」と声をかけ、謁見の間を出た。

 

 

 

どうやら今日は訓練は休みのようだ。

練兵場は静まりかえっている。

 

一瞬「サンチョも不在では?」と心配になったが、サンチョは軍医待機所の中にいて

カップケーキをほおばっていた。

 

 

  今日もモグモグタイムを満喫中のサンチョさん ( *´艸`)

 

 

「ったく、おまえは見るたびにいつも食ってるか寝てるかのどちらかだよな。ホントに

 仕事してるときがあるのかよ?」

 

おれがからかい口調で笑って待機所に入ると、サンチョはぷぅっと頬をふくらませた。

 

 

「ちぇっ、坊ちゃんが見に来るときが悪いんですよ。私は普段はとっても真面目に

 働いてますからね! ひと仕事を終えてたまたまちょっと休憩してるときにばかり

 坊ちゃんが現れるんですよ」

 

サンチョは不機嫌そうな顔でカップケーキにムシャムシャ食らいついている。

 

 

「まぁまぁ、ほんの冗談じゃねえか。そんなぷりぷり怒るなよ。それにそんなもの

 食うのはやめとけ。今からもっと美味いもの食わせてやるんだからよ」

 

おれはサンチョの肩に腕をまわした。

 

 

「もっと美味しいもの? なんです?」

 

サンチョはケーキを詰め込んだ口をモグモグ動かしながら尋ねてくる。

 

 

おれはデルコンダルから商人がやって来たこと、商人・トルネコが美味いと勧める

めずらしい魚を今から食える話をした。

 

 

「おまえが『幻の魚』だと言って食いたがってた例の魚も持ってきたみたいだぜ」

 

おれが言うとサンチョはきょとんとした。

 

 

「うん? 幻の魚…. ですか? はて、そんなこと言いましたっけ、私が?」

 

まったくピンと来てないようだ。

 

 

「なに言ってんだ。ナナと一緒にメシ食ったときにおまえが言ってたんじゃねえか。

 身がふわふわとやわらかくてほんのり甘い幻の魚が食いたいってな」

 

おれが説明してもサンチョは首をかしげる

 

 

「ん〜、なんだったでしょう? 記憶がありませんねぇ。その幻の魚の名前がわかれば

 思い出せるかもしれませんが…」

 

サンチョは名前を教えろと言ってくる。

 

 

くそっ、言えるかよ!

トルネコに言うときだって気恥ずかしくてどもった挙句、顔が熱くなったんだ。

サンチョの前で赤面したら、こいつはおれを小馬鹿にしてからかうに違いない。

 

 

「ねー、坊ちゃん。教えてくださいよ。もうあとちょっとで思い出せそうなんです。

 その魚はなんという名前ですか? 坊ちゃんが大きな声で魚の名前を言ってくれたら

 一発で思い出しますよ!」

 

サンチョが顔を覗き込んでくる。

 

 

サンチョのつぶらな瞳の奥にいたずらっこのような悪だくみが透けて見えた。

 

 

「てめえ! ホントはもうわかってるくせに、すっとぼけておれをからかってるな!」

 

おれはサンチョを突き飛ばした。

 

 

サンチョは「あはははは」と大笑いしながら大玉のようにゴロリと後ろに転がった。

 

 

「わかってんならもう言わねえぞ。おまえも例の魚が食いてえんなら、ヘラヘラと

 転がったまま馬鹿みたいに笑ってねえで、さっさとおれについてこい!」

 

おれは転がったまま豪快に笑い続けるサンチョを置いて待機所を出る。

 

 

「あはは。坊ちゃん、ちょっと待ってくださいよ、私も行きますから。坊ちゃんを

 ドギマギさせちゃう名前の例の魚、私にも食べさせてくださいよ〜!」

 

背後でサンチョが起き上がる気配がしたが、おれは無視して歩き続けた。

 

 

「坊ちゃん、坊ちゃ〜ん! 待ってくださいよ〜。私にもぜひ 甘〜いキッス

 味わせてくださいよ〜、あはは」

 

サンチョは笑いながら追いかけてくる。

 

 

「うるせえ! 黙ってついてこい!」

 

おれは振り向き一喝してから歩き続けた。

 

 

おれの背中に向けてさらに豪快なサンチョの笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

思春期の照れ屋な男の子が「キス」と口に出して言うのは恥ずかしいですよね ( *´艸`)

特に好きな女の子の前で「キスがどうこう...」と話すのは聞かれたくないでしょうね!

 

 

ナナは王子と一緒にティアの話で盛り上がっててカインの方は見てなかったから

なんとかトルネコにはキス(魚)があるか聞けたけど、聞くだけで真っ赤よ ( *´艸`)

 

キスの話を突っ込んで聞いてきそうなトルネコから逃れて、カインはサンチョの元へ。

 

トルネコに聞くだけで顔が熱くなって真っ赤になっちゃうんだから、サンチョには

もっと言いたくない (;´∀`)

 

 

サンチョには魚の名前を言わず『例の魚』でごまかそうとしたけど、カインの魂胆に

気づいたサンチョは「はて? なんでしたっけ? 名前をハッキリ言って」と ( *´艸`)

 

 

サンチョのからかいに気づいたカインは、大玉のようなサンチョを転がし ( *´艸`)

1人で先に宴の席へと向かいます☆

 

 

カインに「キス」と発言させたいおじさん(サンチョ)と、カインのキス体験について

詳しく話を聞きたいおじさん(トルネコ

 

2人のおじさんとの宴は、波乱の予感しかしませんね ( *´艸`)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ