ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 129】 幻覚

「国王が旅立つのを見送って、私はムーンブルクに向かいます」と粘るサイラスを、

おれと王子とナナで協力して追い返したまでは良かったが、功労者であるはずのおれに

待っていたのは、人目もはばからずに見せつけてくる王子とミリアの姿だった...

 

 

ミリアしか見えてねえ王子の馬鹿め!

 

ただおれたちに見せつけるだけならまだしも、ミリアが乗る馬車を町の入口まで

追いかけていき、王子を待っている青の騎士団の兵士たちにまで見せつけやがった。

 

 

王子とミリアが大げさに手を振り合って別れを惜しむのを、口を半開きにしたまま

2人の護衛は見つめている。

 

 

くそっ、馬鹿野郎! もし、こいつらが見たものをそのままサイラスに報告したら

おれたちの嘘がバレるじゃねえか!

 

それだけは阻止しねえとな。

 

 

「おいっ!」

 

おれが後ろから兵士たちの肩に腕をまわすと、2人は驚いて飛び上がった。

 

 

「うわぁ、ビックリした!」

「カ、カイン殿下?!」

 

護衛2人の驚いた声を受けて、それまでは王子につられてなんとなく馬車に向かって

手を振っていたナナたちがこちらを見る。

 

 

おれは女たちを無視すると、真剣な表情をつくり青の騎士団の2人に話しかけた。

 

「おまえたちの見ているものは幻だ」

 

 

おれの言葉に2人はきょとんとした。

「なに言ってんだこいつ」と言いたげな視線が、両側からおれの顔に注がれた。

 

 

ナナたち3人も、おれが何をしようとしてるのかわからないようで、ポカンとした顔で

おれと2人の兵士を見ていた。

 

 

「おまえたち、サイラスから『王子は、アルファズルに挨拶してから戻って来る』

 聞かされていたんだろう?」

 

2人のいぶかしげな視線を気にせず淡々と話し続けると、2人はこくりとうなずいた。

 

 

「今のこの状況、おかしいと思わねえか? おまえたちが仕える君主様は、デレデレと

 女の後を追いかけるような、みっともねえ情けねえ王様じゃないだろ?」

 

小さくなっていく馬車に向かって手を振り続ける王子を見ながら言うと、2人は

おれの視線をたどって王子の背中を見て、黙ったまま静かにうなずいた。

 

 

「なぜ、おかしいのか。それは、これが現実ではないからだ。今、おまえたちは

 幻覚を見ているんだ。でも、安心しろ。今からおれが幻覚を解いてやるよ」

 

 

馬車が遠ざかり見えなくなって、王子はようやく照れ臭そうにこちらに向き直った。

 

そのタイミングに合わせ、おれは護衛たちの目の前でパチンと指を打ち鳴らした。

 

 

2人はいきなり目の前で指を鳴らされたことに驚き、ビクンと身体を震わせた。

 

 

「よしっ! 上手く幻覚が解けたぞ。おれたちはアルファズルに挨拶をすませて、今

 ここにやって来た。これが本当の現実だ」

 

青の騎士団の2人は、狐につままれたようなぼんやりとした表情でおれを見ている。

 

 

「え? 幻覚? 本当に?!」

 

護衛はきょろきょろとあたりを見回した。

 

 

「ぼくも信じられないよ。あっ! でもほら、ちょっと王様の顔を見てみなよ!」

 

 

ずっとミリアに夢中だった王子は、おれが青の騎士団の兵士と肩を組んでいるのを見て

なにが起きているのかわからないといった表情で、不思議そうにおれたちを見ている。

 

 

「王様のあの表情。ぼくたちがおかしくなったのを心配してるように見えないか?」

 

「言われてみれば、そうかもしれないな。えっ、ぼくたち本当に幻覚を見てたの?」

 

 

ははっ、こりゃいいな。

王子のとぼけた表情が功を奏したようで、2人は幻覚を素直に信じ始めていた。

 

 

2人は夢から覚めたような驚いた表情で、しきりにあたりを見回している。

 

「ほら、見て。ナナ姫様たちも、ぼくたちのことを不思議そうに見ているよ」

 

「うん、確かに。これってやっぱり、ぼくたちがおかしかったってことなのかな?」

 

ナナたちの表情も相乗効果になって、2人はすっかり幻覚を信じているようだ。

 

 

ははっ、いいぞいいぞ。

ローレシアの奴らは単細胞で助かるぜ!

 

 

「おまえたち、初めて幻覚を見てショックかもしれねえけどよ、幻覚については

 おれがしっかり解いてやったからな。もう大丈夫だぜ、安心しろよ!」

 

おれが堂々を胸を叩くと、青の騎士団の兵士2人はおれに向かって頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます、カイン殿下!」

「幻覚が解けて本当に良かった! あなたのおかげです!」

 

 

「へへっ、いいってことよ」

 

単純な馬鹿が相手だとちょろいもんだ。

おれは得意げに鼻の下をこすった。

 

そんなおれたちを、王子とナナたち3人は相変わらずきょとんとした顔で眺めている。

 

 

幻覚が解けたと聞いて安心したのか、護衛の2人はいそいそと出発の準備を始めた。

 

長旅に備え馬に水を飲ませたいと、2人は『出会いの酒場』に水をもらいに行った。

 

 

護衛2人が離れると、ナナはおれの服の袖をグイッと引っ張ってきた。

 

「ちょっと、なんなのよ。いきなり幻覚だとか言い出して、なんの意味があるの?」

 

 

隣で王子も不思議そうな顔をしている。

 

 

「へっ、てめえのせいだろ!」

 

おれはのんきな王子の頭を叩いた。

 

 

「えっ、ぼく?」

 

 

「おまえがミリアの後を追っかけて、あんな情熱的な別れを誰彼構わず見せつけてよ

 あいつらが見たまま『王様は女の後を追っかけてた』ってサイラスに報告したら

 どうするつもりなんだよ? 今後、サイラスは逐一おれたちのことを疑ってかかるし、

 相手がミリアだって知られたら、ミリアはますますサイラスに目つけられるぜ!」

 

おれの言葉に王子とナナはハッとなった。

 

 

「そうよね。あたしたちが嘘をついて、サイラスを追い返したと知られたら大変よ」

 

 

「そうか。それできみは幻覚だと...」

 

おれの考えをようやく理解した王子は、申し訳なさそうにつぶやいた。

 

 

「ふ〜。幻覚って言い張るのは無理があるかと思ったけどな、苦肉の策ってやつだけど

 今のところは大丈夫そうだな」

 

おれは幻覚をすっかり信じた様子の2人の兵士の顔を思い浮かべてうなずいた。

 

 

「確かにあの2人、あんたの幻覚っていう話を信じた感じはあるわよね。でも、もし

 2人が『ぼくたち、王子が少女を追いかけている幻覚を見ました』とサイラスに

 報告したらどうするの? あの2人は素直そうだし...。そうなったら大変よ」

 

ナナの鋭い指摘に、おれと王子とナナは顔を見合わせて黙り込んだ。

 

 

 

「王様が女を追いかける幻覚を見たけど、カイン殿下が幻覚を解いてくれた」

護衛たち2人からそう聞かされたサイラスが何を思うか…

 

  みなさんで私をだましましたね!

 

 

確かにやべえな。

王子がミリアを追いかけたことだけじゃなく、おれが「これは幻覚だ」と言ったことも

サイラスには絶対に知られちゃいけねえ。

 

となると…

あの2人に幻覚の話をさせないためには…

 

 

護衛2人は『出会いの酒場』でもらった水の入った桶を手にこちらへ歩いてくる。

 

う〜む、どうしたものかと考えていると、ナナがおれたちの前に1歩進み出た。

 

 

「あたしにまかせて」

 

ナナはピシャリと言うと、馬に水を与えている護衛たちにゆっくり近づいていった。

 

 

「カインから聞いたわよ。あなたたち、幻覚を見たんですって? 解けて良かったわね。

 ねぇ、あなたたち。悪いことは言わないから、幻覚のことは今すぐに忘れて。絶対に

 誰にも言わない方が良いわよ」

 

ナナに深刻そうに話しかけられて、護衛たち2人はまごつきおどおどしている。

 

 

「えっ、幻覚のことは、誰にも言わない方が良いんですか?」

 

1人が小さな声でナナに尋ねた。

 

 

「ええ。幻覚はただの幻、夢なのよ。それを『こんなものを見た』と人に話して

 大ごとにしたら、夢と現実の境界があいまいになってしまってね。そのうちに

 いったいなにが現実で、なにが夢なのか、だんだんわからなくなってしまうのよ」

 

ナナの言葉を聞きながら、護衛の2人はブルッとその場で身震いをした。

 

 

「人に話しているうちに、夢と現実がわからなくなっちゃうなんて...」

「ぼく、そんなの嫌だよ...」

 

2人はオロオロと顔を見合わせている。

 

 

「大丈夫。誰かに話すと夢と現実があいまいになるから、何も話さなければ良いのよ。

 何も話さなければ、恐れるようなことは何も起きないわ。だから、今日のことは、

 ただおかしな夢を見ただけだと思って。すぐに忘れた方が賢明よ、ね!」

 

ナナが2人にウインクすると、2人の兵士はうんうんと何度も大きくうなずいた。

 

 

「ありがとうございます、ナナ様。今日のことは誰にも言いません!」

「夢だと思ってすぐに忘れます!」

 

 

2人の答えを聞きナナはにっこり微笑んだ。

満足そうにこちらに戻ってくるナナに、兵士2人がペコペコと頭を下げている。

 

 

ホント、こいつらが馬鹿で良かったよな。

おれは吹き出しそうになるのをこらえた。

 

 

護衛の2人は馬に水を飲ませ終わると、空になった桶を持って再び宿屋へ向かった。

 

 

「ナナ、知らなかったよ。幻覚って誰にも話さずに、すぐに忘れた方が良いんだね」

 

ニコニコしながら弾むように戻って来たナナに、王子が感心した様子で声をかけた。

 

 

どうやら馬鹿はここにもいたらしいな。

まぁ、王子は単細胞ばかりが集まったローレシアの国王だからな。

 

 

「えっ、なに言ってんのよ。こんなの、ただの口から出まかせに決まってるじゃない。

 幻覚を人に話したらどうなるかなんて、あたし、知ったこっちゃないわよ」

 

ナナはケロリとして言った。

 

 

「なんだって?! きみは適当なことを言って、青の騎士団の2人をだましたのか?」

 

王子が驚いて抗議の声をあげると、ナナは王子をギロリと鋭い眼でにらんだ。

 

 

「なによ。あたしが出まかせ言ったのも、全部あなたのためでしょ? なんか文句ある?」

 

ナナの眼からは殺気が伝わってくる。

 

 

「...... いえ、ありません...」

 

バギでもくらうのが怖くなったのか、王子は即座に小さくなって否定した。

 

 

ははっ、すったもんだもあったが、とりあえずはこれで一件落着だな。

 

 

 

 

自分で書いていながら「なんの話よ!」と思わずツッコミが入った今回の話 ( *´艸`)

 

 

王子がミリアを追いかけたとサイラスに知られないため、護衛たちをそそのかそうと

カインが思いついたのが「幻覚」

 

「今、おまえらが見たものはすべて幻だ~」と言い張って、収めようとしましたが

ナナから「幻を見たと報告されちゃったらどうする?」と指摘されて... (;´Д`)

 

 

「幻覚を見た」と2人に言わせない方法はすぐに思い浮かばなかったカインですが

今度はナナが思いつき「幻を人に話しているうちに、頭おかしくなっちゃうわよ」

脅してもらって ( *´艸`)、なんとか2人をそそのかし、事なきを得ましたヾ(*´∀`*)ノ

 

 

すべては、ローレシア青の騎士団の兵士たちが単細胞だから出来たこと ( *´艸`)

 

単細胞たちの親分である王子もやっぱり単細胞で、ナナの言葉をすっかり信じ込み

「だまされた!」とお怒りの様子でしたが、ナナのひとにらみで意気消沈 ( *´艸`)

 

ナナを怒らせるとバギが飛んできますからね(場合によってはイオナズンも (;´∀`))

 

 

とにかく(かなり無理くり感もありますが)カインとナナの連係で王子のやらかしは

不問に終わりそうです (^_-)-☆

 

 

さて、帰る帰ると言いつつ、なかなか帰らない王子とカイン(+ティア)... (;´∀`)

いい加減に帰りましょう ( *´艸`)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ