ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 95】照れる男

ラダトームの町を出てルプガナへと向かおうとしていたところで、おれたちは

対岸をわざとらしく目立つようにウロウロしていた竜王のおっさんを発見した。

 

そして、ナナと王子から声をかけられ、おれたちのところまで飛んできたおっさんから

「わしの手下にもステッカーを渡して、仲間にしてやって欲しい」と頼まれた。

 

 

おれは「魔物なんかをおれたちの仲間にするなんて、冗談じゃねえ!」と反対したが

上手く丸め込まれた王子とナナは、おっさんにあっさりステッカーを渡してしまった。

 

 

ステッカーを渡して下等動物のハエや蛇を仲間にしたところで、好きなモンスターを

仲間にできる未来なんてくるわけねえだろ! くそっ! 簡単にそそのかされやがって!

 

さっきのやり取りを思い出すだけで、ムカついて腹わたが煮えくり返る思いがするが

今さらおれがどんなに怒ったところで、『ロトの印のステッカー』はもうすでに

竜王のおっさんの手に渡ってしまったんだから、もはや後の祭りだ。

 

王子とナナはお望みどおり、キツイ腐乱臭のくさった死体と一緒に旅をするがいいさ!

 

 

まぁ、どっちみち過ぎてしまったことだ。いつまでも怒っていてもしょうがねえ。

気を取り直してルプガナに向かおう。

 

おれはルーラを唱えた。

 

 

「極秘情報」だと大司教から聞かされていただけあって、王子とミリアの結婚の話は

ルプガナの町の人々には、まだいっさい伝わっていないようだ。

 

町はいつもどおりの平穏さを保っており、王子が町に入っても注目されることもなく

誰からも何も言われなかった。

 

 

どこかから情報が漏れていて、王子の姿を見てひそひそと噂話をする奴がいたり

おれたちの会話に耳をそばだてる奴がいたり、心ないヤジを飛ばしてくる奴がいたら

厄介だなと思っていたが、どうやらそんな心配をする必要はなさそうだ。

 

普段どおりの穏やかな港町の様子を目にして、おれはすっかり気が楽になった。

 

 

「おまえは、今すぐにでも 愛しいミリア に会いてえかもしれねえけどよ、

 まずはこのまま港に行って、先に船団長に会って来ようぜ。ラダトーム王と

 話したことも伝えなきゃいけねえしよ」

 

町のはずれにある港に向けて歩きながら、おれはからかい口調で王子に声をかけた。

 

 

「いやだな、カイン。ぼくは別に...」

 

王子は自分の顔の前でブンブン手を振りながら、恥ずかしそうに視線をそらした。

 

 

「へへっ。おまえのそんな態度、初めて見るな。もしかして、照れてんのか?」

 

おれが王子の顔をのぞき込もうとすると、王子はおれからプイッと顔をそむけた。

 

 

「ホントよね。あなたのそんな顔、あたしも初めて見る気がするわ。王子ったら

 そんな顔になっちゃうぐらい ミリアのことがだ~い好き なのね!」

 

ナナが反対側から王子の顔をのぞき込むと、王子はナナからも顔をそむけた。

 

 

「やめてくれよ、2人とも。頼むから、そんな風にぼくをからかわないでくれよ」

 

王子は恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむくと、顔を隠すように腕で覆った。

そして、そのままの姿勢でおれたちから逃げるようにズンズンと先に歩きだした。

 

 

へえ、まさかこいつがミリアのことをからかわれて、こんな風に照れるなんてな。

 

 

「うふふ。なーに? 照れるなんてあなたらしくないわよ」

 

ナナが笑いながら王子の後を追った。

 

 

「ははっ。以前は、おまえに女の子の話をしても、おまえはとんちんかんなことしか

 言ってこなかったのにな。王子も、とうとう大人になったってことか」

 

おれも早足になり、1人でどんどん先に進んでいく王子を追いながら言った。

 

 

王子は黙ったまま、今度は小走りになっておれたちから逃げて行く。

 

 

「うふふ。そうよね! 王子もついに『恋しちゃった』ってことね!」

 

駆け足で王子の後を追いかけながら、ナナが楽しそうにはしゃいだ声をあげた。

 

 

普段はむさくるしい男たちの声しかしない港に、ナナの軽やかな声が響いたからか

港で作業をしていた船乗りたちの視線が、一斉にこちらに集まった。

 

 

一緒に船に乗ったこともある男が、おれたちに気づいてぺこりと小さく頭を下げると

港の奥の方へ走っていった。

 

おそらく船団長を呼びに行ったのだろう。

 

 

しばらくすると、港の奥の方から上半身裸の大男がこちらに向かって歩いて来た。

 

「おお〜っ。話を聞いて半信半疑で来たけど、本当にあんたたちだったのか!」

 

ミリアの親父はおれたちの前まで歩いてくると、嬉しそうに握手を求めてきた。

 

 

おれたちは握手を交わし、ここに来る前にラダトーム王と面談した際の話を伝えた。

 

 

「わっはっは。心配いらねえさ。デルコンダル海軍なんて、ルプガナ船団からしたら

 虫けらみてえなもんだ。奴らがおかしなことをやらかしても、あんな弱小の海軍、

 おれたちがあっという間にぶっ潰してやるぜ! おれたちにまかせときな!」

 

おれたちの話を聞いたルプガナ船団長は、天を仰いで豪快に笑った。

 

 

「ああ、頼りにしてるぜ!」

 

船団長はおれの言葉に唇の端を吊り上げて笑うと、「了解!」の意味を込めて

自身の裸の胸をこぶしでポンポン叩いた。

 

 

「ところで、あんたたちがルプガナまで来たのは、おれにこの話をするためだけかい?

 それとも... 他に…?」

 

船団長は探るように王子をチラッと見た。

 

 

おれはそんな船団長を見てニヤリと笑った。

 

「へへっ。おれたち、知ってるぜ」

 

「ええ。あたしたち、王子から話を聞きました。それで、ミリアに直接おめでとうを

 言いたくてルプガナに来たんです」

 

おれとナナの言葉に、ミリアの親父はホッとした様子で笑顔を見せた。

 

 

「そうかそうか。『あの話』はくれぐれも内密にしろって厳しく言われてるからな。

 もしかしたら、あんたたち2人は知らねえんじゃねえかと思ってヒヤヒヤしたぜ。

 おれがうっかり余計なことを言ってバレたりしたら、大目玉を食らうからな。

 2人とも知ってるんなら話は簡単だ。ミリアは母親と一緒に家にいるだろうから

 ぜひ家に行って会ってやってくれ!」

 

 

おれたちはルプガナ船団長に見送られながら、ミリアの家へ向かった。

 

 

港からほど近いミリアの家に着くと、ミリアは家の前でバケツを持って立っていた。

 

 

「お、王子さま!?」

 

ミリアは自分の出した大きな声にハッとなって、口を押えてあたりを見まわした。

 

 

以前、ベラヌール北のほこらから旅の扉に入ってルプガナにたどり着いたときも、

ミリアは今日のように家の前にいた。

 

あのときのミリアは、手にしていたバケツを放り出して、王子に抱きついてきたが

今日は持っていたバケツを静かに足元に置くと、きょろきょろと視線を左右に走らせ

周りを気にしつつゆっくりと近づいてきた。

 

 

おれたちの前まで歩いてきたミリアは、一瞬まぶしそうな瞳で王子を見つめた。

 

 

「王子さま、どうしてこちらへ? それにお2人も一緒に来られたなんて…」

 

ミリアはおどおどと警戒するような視線をおれとナナに投げかけてきた。

 

 

おそらく、サイラスの馬鹿が「婚儀まで会うな!」とか「何もしゃべるな!」などと

ミリアにガミガミ言ったに違いない。

 

 

 

おれは鼻の下をこすって言った。

 

「へへっ。そんなに心配するなよ、ミリア。おれたちはもう知ってるからよ!」

 

 

ナナはミリアに優しい笑顔で微笑みかけた。

 

「そうよ、ミリア。安心して。あたしたち、王子から2人の話は聞いているわ。

 今日は、あなたにおめでとうを言いたくて、みんなでここまでやって来たのよ」

 

 

おれたちの言葉を聞いて安心したのだろう。ミリアの顔がパッと明るく輝いた。

 

「まぁ! そうだったんですね」

 

 

「ええ。ここであらためて言うわね。 結婚おめでとう! ミリア!

 

 

「ありがとうございます、王女さま」

 

ミリアはナナにぺこりと頭を下げた。

 

 

「あら、いやだ。やめてちょうだい。ミリア、あなたはいずれ王妃様になるのよ。

 あたしの前でそんなかしこまることないわ。あたしのことも、これからは遠慮なく

 ナナって呼んでちょうだい」

 

 

「あっ、はい。… じゃなくて! う、うん。 あ、ありがとう… ナナ

 

ナナとミリアは微笑みあった。

 

 

ナナがおれの脇腹をつついてきた。

おれと目が合ったナナは、そのまま視線をミリアに移してなにかを促してきた。

 

 

「えっと... 結婚おめでとう、ミリア。これからもよろしくな。今後はおれに対しても

 変に気を遣ったりしないで、なんでも気軽に話しかけてくれよ。そしてもちろん

 これからはおれのことも、遠慮なくカインって呼んでくれよな!」

 

ナナが脇腹をつついてきた意図を察して、おれも笑顔でミリアに話しかけた。

 

 

「えっ! ... ええ、わかったわ。これからもよろしくね。… カ、カイン…」

 

ミリアはおれを見て少し顔を赤らめると、はにかみながら笑いかけてきた。

 

 

おれのことを殿下だの坊ちゃんだのと呼ぶのはサマルトリアの一部の奴らだけで、

1歩でも城の外に出れば、おれはみんなから「カイン」と呼ばれていた。

 

 

自分の名前を呼ばれるのは慣れているつもりだったが、ミリアの鈴のような可愛い

コロコロとした声で恥ずかしそうに呼ばれると、急になんだか照れ臭くなった。

 

 

「… お、おう。よろしく...」

 

なんだか気恥ずかしくて、照れ隠しに頭をかいていると、脇腹に激痛が走った。

 

 

ナナが先ほどつついてきた同じ場所を、今度は力強くつまみ上げていた。

 

 

「いってえー!」

 

おれは思わず飛び上がった。

 

 

 

 

もっと話が先に進んでから区切る予定だったんですが、そうすると長くなりすぎるので

ここでいったん区切ります☆

 

照れる男① の王子、照れる男② のカイン。2人の「照れる男」の話でした~ ( *´艸`)

 

 

照れる男① に対しては、にやにやと楽しそうに笑いながらからかっていたナナも

照れる男② にはヤキモチ全開 ( *´艸`)

 

自分はいつも「カイン」って呼んでいても別に無反応なのに、ミリアにちょっと

名前を呼ばれただけで照れていたら、そりゃあナナもヤキモチ焼くよね~ ( *´艸`)

 

 

そして、おそらくはミリア本人と両親しか知らない『王子とミリアの結婚』の話。

 

秘密がバレないかとヒヤヒヤしているルプガナ船団長とミリアの様子を見ただけでも

サイラスがどれだけ口うるさくネチネチ言っていったかわかりますよね~ (;´∀`)

ルプガナにティアを連れて来なくて本当に良かったわ ( *´艸`))

 

 

ミリアに可愛い声で名前を呼ばれて照れるカインと、カインにヤキモチを妬くナナ。

脇腹を思いっきりつねる制裁に出たナナに、カインはどう対抗するでしょう ( *´艸`)?

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ