ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 89】兄妹の野望

今後の紋章の保管方法について、親父への報告を終えたおれたちは、上機嫌の親父に

笑顔で見送られながら謁見の間を出た。

 

このまますぐにラダトームに向かっても良かったのだが、今回は別に急ぐ旅でもないし

昨日の寝不足もあったので、今日は休息も兼ねてサマルトリアで1泊することにした。

 

 

「ふふふっ。あんたのお父様が1枚上手だったわね。でも、これからはお父様の前で

 変に構えたりせず、自然体で接することが出来るんだから良かったじゃないの」

 

さっきのおれと親父のやりとりがよっぽどおもしろかったらしく、ナナは謁見の間を

出る前からずっと笑っていた。

 

 

「あの親父のことだからよ、おれの本性がバレたときは『そんな性格ではダメだ』って

 怒ると思っていたんだ。まさか、おれの本当の性格に気づきながら、おれの演技を

 ずっと腹ん中でおもしろがっていたとはな。まったく。してやられたって感じだぜ」

 

おれが頭をかくと、王子も笑った。

 

 

「ぼくは以前、ティアがお父上と話をするところを見たんだけど、まるで別人でね。

 呆気にとられて見ていたんだよ。きみのお父上はいかにも優しいお父さんって態度で

 ティアに接していたけど、実はおもしろがって笑っていたなんてね。意外だったよ」

 

「ティアの演技はおれにも想像つくな。あいつは特に人前に出ると、急に王女様ぶって

 妙に気取った口調になるんだよな。親父が腹を抱えて笑うのもうなずけるぜ」

 

 

おれたちがそんなことを話しながらぶらぶらと城内を歩いていると、廊下の先に

張本人であるティアの姿が見えた。

 

 

ティアはリオスと一緒にいた。

 

2人は廊下の端に設置されたテーブルの上にリンゴを置き、ティアは真剣なまなざしで

そのリンゴに向けて縄のようなものを何度も何度も投げている。

 

2人の背後にはティメラウスもいて、老騎士は優しい表情で2人を見守っていた。

 

 

 画像では怖い顔 (しかも本当はブライ ( *´艸`)) ですが

サマルトリアの心優しき老戦士&カインの剣の師匠・ティメラウス



 

ちっ! ティアの奴。飽きもせず、まだあんなくだらねえことやってんのか。

 

 

「ティアちゃん!」

 

ナナが呼びかけると、ティアはこっちを振り向き、嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。

 

 

「おねえちゃん! 久しぶりね。ティアに会いに来てくれたの?」

 

ティアは笑顔でナナに抱きついていく。

ナナは走って胸に飛び込んできたティアを抱きとめると、頭を優しくなでた。

 

 

「あいかわらず元気そうね、ティアちゃん! えっと... ところで、なにをしていたの?」

 

ナナはティアが手に持っている縄を見て、キョトンとした顔で尋ねた。

 

 

「あたしね、リオスさんの弟子になったの! 今は『投げ縄』を習っているのよ」

 

 

「リオスの弟子だって!?」

 

王子は驚いて目を見開いた。

 

 

「おまえたちからも言ってやってくれよ、お姫様が盗賊になってどうするんだってよ」

 

おれはあきれた表情をして見せた。

 

 

「おねえちゃん、あたし聞いたのよ。リーナちゃんはアルファズルの弟子になって

 聖職者を目指すんでしょう? それを聞いて、あたしもなにかしなきゃって思って」

 

「だからって盗賊を目指すことねえだろ」

 

おれが憮然としてティアに言うと、意外なほど真剣な顔で言い返してきた。

 

 

「違うのよ、おにいちゃん。盗賊になって荒稼ぎしようとか考えているんじゃないの。

 あたし、純粋にリオスさんの弟子になろうって思ったのよ。リオスさんは盗賊だけど

 悪い人じゃないわ。リオスさんの人柄はティメラウスだって認めているのよ」 

 

ティアの後について、リオスとティメラウスもこちらに向かって歩いてきていた。

おれが2人の方に目を向けると、リオスはぺこりと頭を下げた。

 

 

「あっしが盗賊としてお嬢ちゃんに教えているのは、せいぜい『投げ縄』ぐらいで、

 悪いことはいっさい教えてねえ。安心してくださいよ、カイン殿下。投げ縄以外は

 このじいさんと一緒に、ちゃんと『真面目な教育』ってやつをやってますから」

 

ティメラウスも大きくうなずいた。

 

 

「姫様に剣術を教えることは出来ませんが、剣術以外でも教えることはありますから。

 今はリオスと一緒に、姫様に世の中のいろんなことを教えているんですよ。殿下が

 私を『剣の師匠』として認めてくださったように、どうか今回も、このリオスと私が

『姫様の師匠』になることを認めてください。お願いします、殿下」

 

リオスとティメラウスはともに頭を下げた。

 

 

いつの間にかとんでもねえことになっていたようだな。ティアのくだらねえ遊びに

2人はしぶしぶ付き合ってやってるだけだと思っていたが、リオスもティメラウスも

ティアのことを真面目に考えて、2人でティアを『教育』してくれているようだ。

 

「おまえたち2人が真剣にティアを教育してくれるというのなら、もちろん認めるよ。

 手がかかる妹だが、よろしく頼むぜ」

 

おれがそう言うと、3人はホッとした様子で顔を見合わせて笑顔を見せた。

 

 

「あたしもね、ただ遊んで暮らしているわけじゃないの。おにいちゃんたちのおかげで

 せっかくこんなに平和な世の中になったんだもの。あたしだって、みんなのために

 なにか出来るようになりたいのよ。まぁ、これからどんなにガンバったところで

 あたしの将来は『王様の妹』にしかなれないかもしれないけど...」

 

ティアはしょんぼりした声を出した。

 

 

「えっ、なんだよ? ティア、おまえ本当は『女王』になりたいのか?!」

 

おれが驚いて声をあげると、ティアは恥ずかしそうにプイッと顔をそむけた。

 

 

「べ、別にあたし、女王様になって威張りたいとか言ってるわけじゃないのよ。ただ

 おにいちゃんもおねえちゃんも王様の子どもで、将来は王様や女王様になるのに

 あたしは『王様の妹』にしかなれないんだなって思ったら、ちょっとね…」

 

 

へえ! ティアがまさか内心では、女王になりたいと思っていたなんてな。

遊んで暮らせればそれでいいとしか思ってねえだろうというのは間違いだったか。

 

 

「ティア。もし、おまえが本気で「女王になりたい」と思うのなら、おれは将来

『女王の兄』になってもいいぜ」

 

おれのこの言葉には、ティアだけじゃなくその場にいた全員が仰天した。

 

 

「こんなことを言ったからって、おれが皇太子の立場を捨てるとか、王位継承権を

 放棄するってわけじゃねえよ。おれだってこの国のことは真剣に考えているからな。

 ただ、おれが男だからとか、ティアより年上だからっていう理由だけで、勝手に

 王位継承が決まっちまうのも違うんじゃねえかっておれは思うんだ。ローレシア

 ムーンブルクは王位継承者が1人だから選択の余地はねえけどよ、サマルトリア

 おれとティア、両者に王位に就く権利が与えられているとおれは思うんだよ」

 

全員がおれの言葉に静かに耳を傾けている。

 

 

「ティアがおれよりもこの国を大切に想い、この国に住む人を大切に想えるのであれば

 おれは王位継承権を譲ってもいいと思っている。おれとティアの2人が、ある意味

 ライバルになって、それぞれが切磋琢磨して国のために働いたら、サマルトリア

 ますます発展するだろうって思っているんだ。もちろんこの先、おれとティアの

 どっちが王位に就いても、おれたちはお互いに支え合うって約束しようぜ!」

 

おれがティアにウインクして見せると、ティアは嬉しそうに大きくうなずいた。

 

 

「ティアちゃん。もし、あなたが女王様になるなら、あたしも全面的に応援するわよ」

 

「カインとティア、将来どっちが王位に就いたとしても、サマルトリアはもっともっと

 立派な国になるよ、きっとね」

 

ナナと王子は、本当の妹を見るような優しい目をしてティアを見つめた。

 

 

「姫様。本気で女王様になりたいのなら、今よりもっとお勉強をガンバるのですぞ!」

 

ティメラウスがティアに発破をかけた。

 

 

みんながティアに激励の言葉をかけている中、おれは1人で別のことを考えていた。

 

 

ティアが女王になりたがっているとは意外だったが、おれにとっては好都合だ。

 

おれには誰にも明かしていない野望があるからな。そして、その野望を果たすためには

おれは自由の身である必要がある。

 

 

ずっと前からその野望は持っていたが、おれがサマルトリアの皇太子』である以上、

野望は果たせないと思っていた。

 

だが、ティアが王位を継ぐのであれば、野望を果たせる可能性も出てきたってことだ。

 

 

まぁ、その野望については、おれ1人の力だけではどうにもならねえんだけどな...。

 

 

ぼんやり考えながら、おれの視線は無意識のうちに『ともに野望を果たせる相手』

向けられていた。

 

 

そのとき、ふと視線を感じた。

まんじゅうを潰したような顔、細い目だが鋭い眼光がおれをとらえていた。

 

 

まさか、気づかれたか?

 

リオスはじっとおれを見つめると、すべてを察したかのようにニンマリと笑った。

 

 

 

今回の話。カインの野望というか、『作者の野望』というべきか... (;´∀`)

 

創作物語を書く上で、「こうなったらイイな♡」と思う展開ってありますよね!

その展開に持っていくためには、カインが「皇太子さま」なのは都合が悪いのよね~。

 

私がどんな展開を期待しているかは、「ここまで読んでくれば、いちいち書かなくても

わかるでしょ♡」ってことで割愛 ( *´艸`)

 

 

私の望む展開に持っていくため「ティアには『女王様になりたい』という野望がある」

ってことにしました ( *´艸`)

 

 

でも、実際に「王子もカインもナナも、将来は1国の王になる」と決められていたら

ティアの性格なら「なによ、あたしだって!」となってもおかしくないと思うので

話の流れとしてはイイ感じに書けたかな~と思っています(自画自賛 ( *´艸`))

 

 

カインは意外なティアの野望を聞いて内心では歓喜しながらも、ここは賢く冷静に

「おれとティアがライバルとして切磋琢磨すれば、サマルトリアはもっと良くなる。

 そのうえで、ティアが望むなら王位継承権を譲ってもいい」なんて上手いこと言って

ティアが王位に就くのもアリだと周囲に思わせることに成功しましたヾ(*´∀`*)ノ

 

自分の野望は巧みに隠しつつ、みんなの気持ちを上手に誘導したカイン☆

でも、あいつにはバレたようですね ( *´艸`)

 

 

すべてを察してニンマリ笑うリオスですが、ティアの言う通り「悪い人ではない」ので

大丈夫でしょう! ... たぶん... ね (;´∀`)

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ