王妃の話でますます混乱したおれは、考えを整理するため城外を歩いていた。
「おにいちゃ~ん!」
「おにいちゃ~ん!」
聞き慣れた声に振り向くと、ティアとリーナが城下町から元気よく走ってくる。
後ろにはナナがいて、2人に続いてこっちに向かって歩いてきていた。
「おにいちゃん! 今日からは大事なお仕事が始まるわよ!」
走って来たティアがおれの腕をつかんでブンブン振りながら息を弾ませて言った。
「みんなでお薬をいっぱいつくるのよ!」
ティアから少し遅れてやって来たリーナが、反対の腕をつかんでブンブン振る。
仕事? 薬? いったいなんのことだ?
ティアとリーナが、それぞれ自分勝手なペースでおれの腕をブンブン振るから
引っ張られて上体がフラフラする。
後ろから歩いてきたナナは、ヨロヨロしているおれを見てふふっと笑った。
「あなたたち、そんなに振ったらおにいちゃんの腕が取れちゃうわよ!」
ナナは楽しそうにはしゃいだ声を出すと、おれを見てにっこり笑った。
「おはよう、カイン」
昨夜の寂しそうな顔から一転して、ナナは輝くような明るい表情を見せた。
「ナナはあんたに気があるよ、間違いない」... 唐突に王妃の言葉が脳内で響く。
「あ、ああ......。ゴホッ、ゴホン。うん...お、お、おはよう。ゴホン」
ナナの笑顔を真っすぐ見ることができず、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
おれは咳ばらいでその場をごまかしつつ、サッとナナから目をそらした。
なにやらすごく嬉しいことがあったらしい。ナナはおれの変な態度は気にせず
ニコニコと笑ったままで、ティアとリーナが言うことについて説明してくれた。
ナナたちはオーウェンに会い、毒の沼地の再生方法について聞いたのだそうだ。
オーウェンが言うには
泡粘膏にどくけし草のすりつぶしたものを混ぜ、なめらかになるまでよくこねて
裏ごししたものを天日に干して乾燥させると、淡い緑色の粉末ができる。
その粉を毒の沼地にまんべんなくたっぷりとまいて、10日間放置する。
10日たったら沼地をしっかりと耕し、また上から粉をまいて10日間放置する。
あとは毒性の強さに応じて、耕す ⇒ 粉をまく ⇒ 寝かせるを繰り返す。
こうして無毒化できたら、植物の栽培に適した肥沃な土を混ぜて耕し2週間置く。
2週間置いたあとは、普通に整地して植物を植えれば良いのだそうだ。
沼地の無毒化には、泡粘膏とどくけし草を混ぜて出来る粉末が必要不可欠だが
在庫が残りわずかなため、みんなでつくろうという話になったのだという。
「そんな魔法の粉ができるだなんて素敵でしょ。ムーンブルクを再生する粉は
自分で作りたいわ。朝食を食べ終えたら、みんなで作業に入りましょうよ!」
ナナの声は弾んでいて、落ち込んだ様子はみじんも感じさせなかった。
ナナはティアやリーナと手をつなぎ、跳ねるように軽快に城へ走って行くと
親父や王妃が同席した朝食の場でも、高揚した様子でみんなに同じ話をした。
そして王子にも「朝食が終わったら、一緒に作業しましょうね ♪」と誘った。
ナナは旅行に出る前の子供のように、終始ウキウキとはしゃいでいた。
朝食後、ナナ・ティア・リーナに急かされながらオーウェンの店に向かった。
おれたちは、待っていたオーウェンに店の裏手にある作業場を案内してもらい
作業についての手ほどきを受けた。
その日からおれたちは、来る日も来る日も、オーウェンの店の裏にある作業場で
どくけし草をすりつぶし、泡粘膏に混ぜてこねまわし、裏ごしする作業を続けた。
単調な作業の繰り返しだったが、仲間たちと一緒に働けるためつらくはなかった。
ナナは作業だけでなく、茶を淹れてくれたり、簡単な軽食を用意してくれたり
みんなの中心になってよく働いていた。
あの夜に見た悲しげな表情は、寝ぼけていたおれが見た幻だったのかと思うぐらい
その後のナナはいつも明るく元気いっぱいで、毎日楽しそうにすごしていた。
おれに向ける笑顔はいつも穏やかで優しくて、太陽みたいにキラキラ輝いていた。
平穏な日々が続く中、頭の中で王妃が言った言葉を何度も反芻しているうちに
おれには妙な考えが芽生え始めていた。
晩餐会のとき、寝てるおれを見つめながら涙ぐんでいたというナナ。
あの夜ナナが1人で悲しそうにしていたのは、きっとおれが寝てしまったたせいだ。
ナナは美しく正装した姿を見て、おれが何を言うか楽しみにしてたんだろう。
だが、おれは感想を言うこともなく、ろくに話もしないうちに眠ってしまった。
「せっかく綺麗にしたのに…」とナナはさぞかしガッカリしたにちがいない。
おれが寝たことは気にしないようにしていたが、王子と一緒におれの話をして
王妃にガキの頃のおれの話を聞いたりしているうちに、おれが寝ていることが
悔しくて寂しくてたまらなくなり、涙ぐんでしまったのではないだろうか。
おれとほとんど話もできないまま終わってしまった晩餐会にショックを受けて
ナナは夜風に吹かれながら、おれのことを想いせつなさをかみしめていた。
そこに当の想い人であるおれが突然あらわれたため、動揺して慌てて逃げ出した。
いくらなんでも都合が良すぎる、そんなことあるわけないとわかっていたが
どれだけ考えても他に理由がわからないため、おれはその妄想にすがった。
妄想にいたる根拠が、王妃の『女の勘』というのがどうにも心許なかったが
数日間、おれは自分が考え出したひとときの幸せに身をゆだねていた。
…だが、数日後。
おれのバカげたくだらねえ妄想を打ち砕くような出来事が起きた。
毒の沼地を再生させる粉は「花咲かじいさん」からヒントを得ました (*´ω`*)
悲しげな顔をしたナナのことが心配で心配で、夜も眠れなかったカインですが
別人のように元気になり、カインに対していつもキラキラした笑顔を向けてくれる
ナナを見ているうちに、『勘違い妄想ヤロー』になりましたよ (;´∀`)
「ったく! おれが寝ちゃって寂しかったんだろ。可愛い奴め (`▽´)ノ」って。
確かに、王子とも王妃ともカインの話をしていたし、ナナがカインの寝顔を見て
涙ぐんだのも事実なので「おれのせいで泣いたんだな、可愛いぜ ( *´艸`*)♡」と
思っても仕方ないですが、すっかり浮かれポンチになっちゃってます (;´∀`)
相思相愛の予感に心躍る幸せな日々をすごすカインですが、作者がいじわるなので
そんなトントン拍子にハッピー♪ とはいかないみたいですね... (´;ω;`)
さて、幸せな妄想を打ち砕く出来事って…何があったのでしょうか?
次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ