後宮は親父以外の男は立ち入り禁止だ。
おれは侍女に「王妃を呼んでくれ」と頼み、入口の近くで待っていた。
入口のそばには、後宮を訪ねてきた人をもてなすために王妃が用意させた
茶器がセットされた小さな丸テーブルと、小さな椅子が置かれていた。
その椅子に座って10分ほど待つと、王妃が侍女と一緒にゆっくりと歩いてきた。
さっき起きたばかりなのか、目は半開きで眠そうな顔をしている。
「昨日はお腹がふくれたとたん、赤ん坊みたいにグーグー寝ちゃったかと思ったら
今朝はこんな朝っぱらから呼び出しかい。まったく、あんたって子は。
もう17になったというのに、いくつになっても落ち着きのない子だねえ~」
王妃はやれやれといった感じでおれの隣の椅子に腰かけた。
公的な場所や親父の前では、優雅で上品な淑女として、しとやかに振舞っているが
普段、おれと接するときの王妃は、すぐに手が出るし態度はがさつで口も悪い。
昔、自分の出生の秘密を知り、今後どんな顔をして王妃に接したらいいのかと戸惑う
おれを見たときも、王妃はそれまでといっさい変わらない態度でおれの隣に立った。
「血が繋がってるとか繋がってないとか、くだらないことはどうだっていいんだよ。
誰が何と言おうと、あんたは間違いなくあたしの息子なんだからね!」
王妃はそう言うと、まだ幼かったおれの小さな背中をパンッと叩いた。
その手の力強さとあたたかさは、おれの記憶の中に今でもハッキリ残っている。
ガキのころから、いつもおれには遠慮なくありのままで接してくれる王妃だから
おれも遠慮なく好き勝手なことが言える。
「年寄りは早起きだっていうじゃねえか。別に問題ねえだろ」
王妃はおれの隣に座ると、デカい口を開けて「ふああ~あ」とあくびをした。
「寝不足は美容の最大の敵なんだよ。皺が増えたらあんたのせいだからね」
口では文句を言いながら、王妃はテーブルにある茶器でおれに茶を淹れてくれる。
王妃は茶を淹れる才能だけはあるのか、おれはここで飲む茶が世界一うまいと思う。
「で、こんな朝早くからなんの用だい?」
王妃はおれに茶を差し出しながら尋ねた。
「昨日、晩餐会のときにナナとしゃべってたんだろ。なんの話してたんだよ」
「ふふっ。そんなことかい。大丈夫、あんたの気持ちはバラしてないから安心しな」
「んぐっ!」おれは飲みかけていた茶を吹き出し、激しくむせた。
「ゴホッ、ゴホッ。バ、ババア! て、てめえ、なに言ってやがる」
王妃はむせて咳き込むおれの背中をバシバシと叩きながら、鼻で笑った。
「ふふん。母親をなめんじゃないよ。あんたの気持ちなんて全部お見通しだよ。
だ~い好きなナナのことが気になって気になって、夜も眠れなかったんだね」
「ババア、もうろくしてんのか? おれはナナのことなんてなんとも思ってねえよ」
「そうかい。じゃあ、いいこと教えてあげようと思ったんだけどいらないんだね」
「なんだよ、いいことって。聞いてやるから言ってみろよ」
「ふっふっふ。昨日、あたしはあんたたち3人の様子を見ててわかったんだよ。
ナナはね、王子のことは友達、まあ【大切な仲間】ぐらいにしか思ってないね。
でも、あんたには気があるよ。間違いない。あとはあんたのがんばり次第だね」
「おい、ババア。適当なこと言うんじゃねえぞ。なにを根拠に言ってんだよ」
「根拠なんてないよ。ただの女の勘。でもね、あたしの勘は良く当たるんだ。
あんたさえしっかりやれば、ナナのハートはあんたのものさ」
王妃は手を伸ばすと、おれの心臓のあたりをツンツンと人さし指でつついた。
「ナナのハートは...」王妃の言葉を反芻してぼんやりしたが、すぐに我に返った。
「おい、ババア。おれはこんなことを話すために来たんじゃねえんだ。
昨日、晩餐会であんたがナナとなにを話したかって聞いてんだよ」
「あたしがせっかくいいこと教えてあげたのに。ホント、つまんない子だねえ~。
話したのはあんたことだよ。『カインがどんな子供だったのか知りたい』って
ナナが言うから、この子は昔から口だけは達者で、いつもうまいこと言っては
訓練中の若い兵士を誘い出し、外で泥んこになって遊んで、帰ったらこてんと
寝ちゃって、朝まで起きないような子だった...そんな話をしただけだよ」
「本当かよ。それ以外に余計なこと言ったんじゃねえのか?」
「あたしがあんたの不利になる話をするわけないだろ。ナナってば可愛いんだよ。
あんたがバカみたいにグーグー寝てるのを愛おしそうに優しく見つめているから
『生意気だけど、子供の頃から寝顔だけは無邪気で可愛いんだよね』って言ったら
あの子はその言葉にうなずきながら、うるうると目を潤ませていたんだからね」
なにっ?! ナナが、おれの寝顔を見ながら目を潤ませてただと? いったいなぜだ?
おれの無邪気な寝顔が、涙ぐむほど可愛くて愛おしかったってことか!
いや、やめろ。今はこんな冗談を言ってる場合じゃねえんだ。
でも、どういうことだ? なんで泣くんだよ? ますます、わけわかんねえ...。
困惑するおれの顔を見て、王妃は面白そうにニヤニヤ笑っている。
「まあ、精いっぱい悩むといいわ、若者よ。悩むのは若者の特権だからね。
とにかく、あんたも大事なときに寝てないで、しっかりがんばりなさいよね!
ナナのことモノにしたら、今度は2人で会いに来なよ。歓迎するからさ」
王妃は立ち上がり、おれの肩を叩いた。
「ふあ~あ、眠い。部屋に戻って、朝食の時間までもう少し寝るわ。じゃあね」
「おい、待てよ。わけわかんねえこと言って勝手に帰るんじゃねえよ」
王妃はおれに背を向けて、手をひらひらさせながら去って行く。
王妃に会って、ますます謎が深まった。
ちくしょう、来るんじゃなかったぜ。
サマルトリア王に謁見したときも王妃のことはチラッと書きましたが
【創作 ⑬】 王と王妃 - ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!
昔からカインのことが可愛くて可愛くてしょうがないカインママ (*´ω`*)
かなりイイ感じに書けたかな~と思います(←自画自賛(2回目))
カインの口の悪さと、ティアのおしゃまなところは母親ゆずり ( *´艸`)
「父上には内緒だよ!」って3人で悪いこといっぱいしてきた感じですね ( *´艸`)
こんな王妃だから、カインは「か弱くておとなしいタイプ」の女の子より
「口では文句を言いながらも根は優しい」女の子に惹かれちゃうんですね ( *´艸`)
(「情けないわね」と言いつつ、船酔いの介抱をしてくれる...みたいな (*´ω`*))
王妃から思わぬ恋バナ(しかも両想い♡)をぶっ込まれ、大混乱のカイン ( *´艸`)
冷静さを完全に失って、これからどんどん迷走しますよ~ ( *´艸`)(←予告)
では、次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ