ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 157】 パパのお見合い

親父と王妃がテパの村へ旅行に行ったので、おれは4日後にナナがサマルトリア

訪ねてくるように、サンチョに頼んで万全を期した根回しをしておいた。

 

あと4日後までにやるべきことはモルディウスの監視の目を和らげておくことだけだ。

 

2日間、朝からずっと執務室に缶詰め状態で勉強に励んだおれのがんばりが功を奏して

モルディウスがおれの監視役として寄越してきたおっさん兵士は2日目の昼で撤退し

警備は通常の若い訓練兵に交代していた。

 

 

2日目の長い勉強を終え、自室に戻ろうとしていたところ執務室の扉をノックされた。

 

部屋の外には王妃の侍女頭を務めるばあさんが立っていて、ティアのことでおれに

話したいことがあると言ってきた。

 

 

ばあさんを部屋に招き入れ話を聞く。

 

なんと、ティアがどこかの知らねえくそババアに「おまえの母親は2番目の妻だ」

吹きこまれたというではないか!!

 

どこのくそババアだ?!

余計なことすんじゃねーよ!!

 

 

おれはティアに余計なことを言ったくそババアを見つけ出し殴りつけてやりたいと

はらわたが煮えくりかえる思いだった。

 

怒りに震え、ティアをどうやって慰めてやろうかと心が落ち着かないおれとは対照的に

王妃は「知られちゃったのはしょうがない」とケロリと受け流していたらしい。

 

 

さらに「カインはとっさの対処が出来る子だから何も言わなくて大丈夫よ」と言って

おれには話す必要もないと王妃は軽やかに笑っていたというではないか!

 

 

ったく、あの女

肝が据わった大した奴だぜ!

 

おれがつぶやくと、ばあさんは「初めて王宮に来たときからそうだった」と言う。

 

 

そういえば、王妃が初めて王宮に来たときのことは今まで聞いたことがない。

 

おれは当時を思い出してニヤニヤ笑っているばあさんに話を聞くことにした。

 

 

警備兵はいつもの若造に交代したとはいえ、執務室に長居するのは良くねえよな。

 

カーテンをぴっちり閉めて中の様子が見えない状態でいると、あらぬ疑いを招く。

かと言って、カーテンを全開にしてばあさんと話しているのを見せるのも変だろう。

 

 

おれは自室に移動しようと提案した。

 

「ほほほ。だったら私は夕食の準備をして行くよ。坊ちゃまが部屋で食べると言って

 私が給仕しに行ったと言えば、私が部屋に入っても自然に思われるだろう?」

 

ばあさんはにっこり微笑んで言った。

 

 

そいつはいいな。

モルディウスの一味も、さすがにおれの自室まで覗くようなことはしないと思うが

奴らに不信感を抱かせるような事案は極力排除しておいた方がいいだろう。

 

家族全員が出かけているんだから、おれが自室で1人で飯を食うのも自然だし

王妃が不在で暇を持て余したばあさんがおれの給仕をするのも何らおかしくない。

 

 

「それなら飯は多めに持ってきてくれよ。『給仕』というのはただの名目だからよ。

 ばあさんも一緒に食おうぜ」

 

おれはあとで部屋で落ち合う約束をして、ばあさんと別れた。

 

 

執務室を出て自室に戻るまでおれは念のため警備兵を警戒したが、若い兵士は

執務室から出てきたおれには目も向けず、眠そうな顔でぼんやりと立っていた。

 

おれが部屋へ向けて歩いているときには、ふぁぁ〜と大きなあくびをしたほどだ。

 

あくびしたのをおれに見られて兵士はバツの悪そうな顔をしたが、おれが軽く笑って

奴の前を通りすぎると、安心したように小さく一礼して姿勢を正した。

 

 

部屋に戻って待っていると、コンコンとさっきより力強いノックが聞こえた。

 

扉を開けると、ばあさんが食事の載ったワゴンを押しながら部屋に入ってくる。

 

 

「別に給仕なんていらねえからよ、ばあさんも一緒に座って遠慮なく食えよ」

 

おれはばあさんを対面に座らせた。

 

 

ばあさんは遠慮なんてすることなく、旺盛な食欲で食いながらさっそく話し出した。

 

 

ばあさんの話はこうだ。

 

 

おれのおふくろの喪が明ける頃から、大臣たちは親父に熱心に再婚を勧め始めた。

 

親父は最初「王妃は生涯ただ1人だけ!」と頑なに固辞して応じなかったようだが、

この件で大臣たちと険悪になるのも良くないからと妃候補に会うことは了承した。

 

 

「それでね、私がお妃様の候補になったお嬢さんたちの世話係に任命されたんだよ」

 

 

「ちょ、ちょっと待て。お嬢さん たち? 妃の候補は1人じゃなかったのか?」

 

おれはばあさんの話をさえぎった。

 

 

今の王妃が妃の候補に選ばれて、そのまますんなり結婚したとばかり思っていた。

他にも妃の候補者がいたのか?

 

 

「旦那様が再婚に消極的だったからね、たくさんのお嬢さんを集めれば1人ぐらいは

 旦那様の気に入る女性もいるんじゃないかってことで、たくさん集められたんだよ」

 

ばあさんはそう言った後ハッとなった。

 

 

「さっきの話だけど、 おじょうちゃまに余計な話を吹き込んだというおばあさんは

 きっとお妃様に選ばれなかったお嬢さんの親族かなにかだろうね。今の奥様より

 名門の家柄のお嬢さんもいたし、目鼻立ちの整った綺麗なお嬢さんもいたもの。

 なんでウチの娘じゃなくあの女が! って恨んでる人はたくさんいたと思うよ」

 

ばあさんは納得したようにうなずく。

 

 

「けっ! くだらねえ人生だな」

 

おれは舌打ちして毒づいた。

 

10年以上も前のことをいまだに根に持って、ガキを傷つけて鬱憤を晴らそうなんて

ホントつまんねえ人生だよな!

 

 

「こっちにはまったく非がないのに、相手に一方的に逆恨みされるんだもん。奥様が

 『放っときましょう』と軽くあしらったのもわかる気がするわね」

 

ばあさんはうなずいて話を続けた。

 


妃候補たちが親父と会う当日、ばあさんは正門を通って城内へとやってきた女たちの

身元を確認して謁見の間へ案内していた。

 

名簿を確認しながら女たちを案内し終えて、1人いないことに気づいたばあさんは

正門にいる門番のところへ行き「まだ1人来ていないの?」と尋ねてみた。

 

門番はきょとんとした顔で「へ? 全員を通しましたが?」と答えたんだとか。

 

 

良家のお嬢さんがサマルトリア城内で行方不明になっただなんて本当なら大問題だし

もしかしたら、お嬢さんを装った女刺客が城にまぎれ込んだかもしれない....

 


最悪の事態を想定して青ざめたばあさんは、すぐにティメラウスを呼んで事情を話し

姿を消した女を探して欲しいと伝えた。

 

 

 名前が出たので画像も出しましょう ( *´艸`) お久しぶりのティメラウス卿

(当時はもっと若いですが... (;'∀'))

 

 

知らせを待つ間、謁見の間へ通した女たちを再び確認しようとばあさんが城内に戻ると

女たちが小さな花束を手にしょんぼりした顔で謁見の間から出てくるのが見えた。

 

出て来た女に話を聞くと、ばあさんが正門に向かった後で親父が謁見の間に入ってきて

「今日はどうもありがとう」と花束を渡してもう帰るように言ってきたらしい。

 

 

「貴女たちが悪いんじゃないわ。王様はまだ前の王妃様のことが忘れられないのよ」

 

ばあさんはがっかりして帰る女たちに慰めの言葉をかけて見送った。

 

 

そして、ばあさんが恐る恐る謁見の間に入ると親父がムスッとした顔で立っていた。

 

 

「これで全員か?」

 

親父が聞いてくるので「いえ... まだもう1人」とばあさんが恐縮して返事をすると

さらに不機嫌になった親父は「わしを待たせるとはいい度胸の女だな」と吐き捨てた。

 

 

「.... ちょっと... 呼んできます」

 

いたたまれなくなったばあさんは、謁見の間を出て廊下をあてどなく歩き回った。

 

 

1人の女が行方不明になったことを正直に親父に話すべきかばあさんが迷っていると、

若い兵士が近寄ってきて「探していた女が見つかった」と小声で言ってきた。

 

 

「まぁ、良かった。早く連れてきて!」

 

ばあさんが歓喜の声をあげると、若い兵士は「それが... その...」と口ごもっている。

 


「なんだい? 連れて来れないの? その女はどこにいるんだい? 案内しておくれよ」

 

ばあさんは早口で言いながら、若い兵士の案内でその女のもとへと向かった。

 

 

兵士が案内したのは正門のわきにある庭。

 

そこで女はまだガキだったおれと泥だらけになって遊んでいたらしい。

 

 

「おれと? 一緒に泥遊びしてただと? まさか、それが今の王妃なのか?」

 

おれはまったく記憶にない。

 

 

「そうなんだよ。いつもは坊ちゃまは私と遊んでたんだけどね、その日は無理だから

 別の侍女に坊ちゃまのお世話を頼んであったんだ。でも、その侍女はやる気がなくて

 知らんぷりしたらしいんだよ」

 

侍女に放ったらかしにされたおれは、1人で正門の横をよちよち歩いていたらしい。

ちょうど門番からは死角になる場所だ。

 

 

行方不明の女.... 今の王妃はよちよち歩きながら正門を出て庭へ向かうおれについていき

一緒に泥遊びをしていたんだという。

 

 

「見つかったのは良かったけど、どうしようかと思ってね。せっかくの美しいドレスも

 泥まみれになっているし、綺麗にお化粧したはずの顔も泥だらけになってたからね。

 そんな汚い状態で謁見の間に通していいものか、旦那様に会わせていいものかと

 大いに悩まされたわよ」

 

王妃の泥まみれでひどい有様を思い出したのか、ばあさんはクスクス笑っている。

 

 

「で、結局どうしたんだ?」

 

おれは話の続きを促した。

 

 

ばあさんは自分では判断がつかず、謁見の間に戻って親父に正直に話すことにした。

 

 

「お見合いに来た最後の女性は、坊ちゃまと一緒に遊んでいます」

 

ばあさんが伝えると、親父は片方の眉をピクリと吊り上げて「カインと?」と言った。

 

 

「ふん、面白い。どんな女か見てやろう」

 

親父は残っていた最後の花束を床に投げ捨てると、ばあさんと一緒に庭へと向かった。

 

 

王様が来たというのに、女は遊びに夢中でまったく気づかないまま「きゃあきゃあ」

楽しそうにはしゃぎ声をあげていた。

 

ガキのおれが泥だらけの手で顔やドレスを触ろうと、キャッキャと笑っていたらしい。

 

 

そのうち、おれの方が親父に気づいた。

 


「あーー、ぱぁーーー!」

 

親父に向かって手を伸ばすおれを見ると、親父は表情を和らげておれを抱き上げた。

 


そこで初めて親父に気づいた女は、驚いた顔でぴょこんと頭を下げた。

 

 

親父は女を完全に無視して、おれに笑顔を見せながらその場を立ち去ろうとしたが

おれは親父から顔をそむけ下を指差した。

 

 

「あぅーーー、あぅぅーー!」

 

まだハッキリしゃべれないおれが、何かを指で示しながら必死に訴えている。

 

 

「ん? なんだ、カイン?」

 

親父が指差す方に視線を向ける。

 

 

そのとき、泥だらけの女は勢いよく立ち上がり、板の上に乗った泥の塊を持ち上げた。

 

 

「どうぞ! 坊ちゃんと一緒につくったケーキです!」

 

女は泥で汚れた顔のまま、満面の笑みで親父に泥の塊を差し出した。

 

 

 

「あのとき私は本当に腰を抜かすかと思ったよ。ただでさえ機嫌の悪い旦那様に向けて

 泥の塊を渡そうとするんだもの」

 

ばあさんは楽しそうに笑った。

 

 

親父は面食らい無言で立ち尽くしていたが、親父の胸に抱かれたおれは身を乗り出して

懸命に泥の塊に手を伸ばした。

 

 

「カイン、これが欲しいのか?」

 

親父がおれに聞くと、おれは「あぅーー、あぃぃーー!」と言って泥を指差した。

 

 

親父が女から泥が乗った板を受け取ると、おれは「キャハァーー!」と歓声をあげて

ニコニコ笑いながら手を叩いて喜んだ。

 

 

笑うおれを見て、女も幸せそうに笑った。

 

 

親父は泥の乗った板を手に持ち、しばらく笑っているおれと女を交互に見つめていた。

 

 

「息子と遊んで楽しかったか?」

 

親父が静かな声で女に尋ねる。

 

 

「ハイッ! とっても!」

 

泥だらけの女はハキハキした声で返事すると、おれを見つめてにっこり微笑んだ。

 

 

「…… 楽しかったなら、明日からも好きなときに城に来て息子と自由に遊ぶといい。

 おいっ、彼女が明日から自由に城に出入り出来るように手配してやってくれ」

 

親父はばあさんに入城許可証の発行を依頼すると、片手には泥が乗った板を持ち

もう片手でおれを抱き城内に戻ろうとした。

 

 

少し歩いて親父は立ち止まり、振り向いて泥だらけの女の全身をゆっくりと眺めた。

 

 

「子どもと遊ぶんだから、明日からはそれにふさわしい服装で来なさい」

 

親父は無表情のまま小さな声で言うと、再び城内に向かって歩き始めた。

 

 

「ハイッ、ありがとうございます! 明日からもよろしくお願いします!!」

 

女は去っていく親父の背中に向けて大きな声で返事すると、ぺこりと頭を下げた。

 

 

…… これが親父と王妃の出会いだった。

 

 

 

 

 

カインパパのお見合い話 (・∀・)

パパは前王妃(カインママ)をまだ愛しているので、まったく乗り気では無いご様子...

 

王妃が他のお嬢さんと同じように着飾ったドレス姿で謁見の間に向かっていたら

王様から「どうもありがとう」と花束を渡されて帰らされていたでしょうねぇ (~_~;)

 

 

小さな「タラレバ」で人生は大きく変わるものですが、ばあさんがお嬢さんたちの

案内係にならずいつも通りカインと遊んでいたら...? ばあさんが代理を頼んだ侍女が

カインの世話をサボらなかったら...? 運命は変わっていたかもしれませんね (^_-)-☆

 

 

さらに、最後の見合い相手がカインと遊んでいると聞いて、王様は残っていた花束を

床に投げつけましたからね ( *´艸`)

 

自分との面会をすっぽかして子どもと遊んでいるなんて、当初はお礼の花束すら渡さず

追い返すつもりだったんでしょう (*_*;

 

 

実際に女を完全に無視してカインを抱きあげて立ち去ろうとしましたもんね Σ(゚д゚lll)

 

カインが「泥のケーキ」を欲しがらなかったら、どうなっていたことか... (;´Д`)

(ここでもタラレバ ( *´艸`))

 

 

女が手ぶらで帰らされずに翌日からも自由に入城できるようになったのは、本当に

2人で楽しく遊んでいたことがわかる泥のケーキ」「カインの笑顔」のおかげ♡

 

 

カインパパと王妃の「恋のキューピットはカインしかいない!」と思っていたので

強引ですがこんな出会いにしました♪

 

 

さて、翌日から城に自由に出入りしてカインと遊ぶことは許可してもらいましたが

王様と泥だらけの女はこの先どうやって恋に発展していくのでしょうか (≧∇≦)♡

 

 

 

 

次回もお楽しみに~ヾ(*´∀`*)ノ